妄想最終処分場 -18ページ目

妄想最終処分場

好きなジャンルの二次創作ブログです。
現在はス/キ/ビメインです。
ちょいちょい過去活動ジャンルも投入予定。

*出版者様、作者様とは一切関係ございません。
*禁:無断転載、二次加工、二次利用

ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D                   10  11  12



真夏の海のA・B・C…D -13-



「……おーい、キョーコちゃーん」


「…へ?あっ…はいっ!」


女性客の言葉からこの前の蓮の告白を思い出していたキョーコは、自分を呼ぶ声で我に返った。声の主を探して視線をホールに彷徨わせると、そこにはキョーコに向かって手を振る社がいた。


「あ、いらっしゃいませ」

「混んでるね。今日はやめといたほうがいいかな?」


盛況な店内を見回して、社が苦笑した。来店した客の案内を見逃していたキョーコは慌てて店内に目を配る。


「カウンターで良ければ、ご案内できますけど」

「じゃ、そこで。どうせ一人だからカウンターの方がお店にもいいでしょ」


空いていたのはカウンターの一番隅の席。

いつも蓮が座る席だ。一番奥まっていて壁に近くで狭いその席は好んで座る人は少ない。


「ご注文はお決まりですか?」


社を席に案内しながらキョーコはオーダーを取る。

常連の社はメニュー票を見るまでもなくほとんどのメニューを把握している。いつも即決で決まったメニューの中からすぐに注文を出すので普通なら失礼にあたるオーダー確認も全く問題はない。


「限定カレーまだある?」

「はい、ギリギリ」

「じゃ、それ!大盛りで」


社はニヤリと笑い、そのオーダーにキョーコは苦笑いした。


キョーコに案内されたのはカウンター隅の席。

壁際でやや狭い席なのだが、なぜかそこだけ他のカウンター席と椅子が異なる。社が不思議に思っていると、キョーコが注文の品を持ってやってきた。


「どうぞ。最後の一皿でした」

「これかぁー、蓮をノックアウトしたのは」


大盛り限定カレーをみて社はニヤニヤと笑い、キョーコもその様子につられた。


「ふふっ、でも敦賀さんにお出だししたのはこれよりもうちょっと多くて、とんかつ付きだったんです」


良かれと思ったサービスだったのだろう。目の前の大盛カレーより更に多く、とんかつが乗ったカレーを想像し社はまたしても噴き出した。


「アイツ、頑張ったんだなぁ~…」

「だって、食べるんだろうなって思ったんです」

「あのガタイ見ればそうだよね。それに関しては見栄を張ったアイツが悪い」


こんなに美味しいのに、と満面の笑みで社はカレーを頬張る。


「なんか変な感じです。いつも敦賀さんが座る席で、敦賀さんが無理して食べたメニューを社さんが食べてるなんて」

「……ほへ?」


咀嚼中の口で返事をするのは無作法と分かりつつも、キョーコの漏らした内容に社は思わず声を上げた。


「ここ、昨日蓮が座ってたの?」

「昨日というか、いつも・・・なんですけど。なぜだかあの大きな体で他のゆったりした席が空いてる時間でもこんな隅っこに座るんですよね」


窮屈なのに…と不思議そうなキョーコとは裏腹に、社は今自分の座っている席について考える。

店の一番隅で広角に店内を見渡せる。きっと店内をせわしなく動き回るキョーコを見失うことはないだろう。しかもカウンターなので、店員のキョーコがカウンター越しに接してくれれば距離も近い。

そしてここだけ椅子が違うのは、きっとここによく座る人間が少しでも窮屈な思いをしないようにとキョーコが用意した物なんだろうと思い至り、合点がいった。


「昨日は大丈夫だった?結局最後、いつものようにキョーコちゃんの怒り声が聞こえて怒って帰って行っちゃったから、俺ちょっと蓮と二人きりにしたこと悪かったかなって思ってさ」


社は慎重に探りを入れる。

蓮のことは応援してりたい気持ちが無いわけではないが、キョーコが迷惑ならむしろ蓮の方を制止すべきと思っていたのだが…。


昨日、足早に去って行ったキョーコの背中を見送って、残された蓮に小言をくれてやろうと救護室に入れば蓮の方は今まで見たこともないような緩み切った破顔だった。そんな蓮の表情に、社は小言の一つも言えないままビーチの監視に戻ったのだった。


「まぁ…最後はいつもの調子でからかってきたので怒っちゃいましたけど」

「けど?」

「私、敦賀さんの事…思い込みで見ていたかもしれないってちょっと思いまして…」


マイナスでスタートした蓮の評価がどうも昨日の何かしらで少しは浮上した事実に、社は目を丸くした。


「………なんですか、社さん」


思わずニマニマと緩む社の口元に、キョーコが怪訝な目を向けた。


「いやね、蓮はいい奴っていうか俺は弟分みたいな感じで信頼してるんだけどさ」

「はぁ」

「キョーコちゃんへの態度はちょっとネジが何本か吹っ飛んでていかがなもんかとも思うけど…」


そう言う事ならお兄ちゃんもサポートに回ってもいいのかなぁ~とどこか嬉しそうにつぶやく社に、キョーコはますます訳が分からないという顔をした。


「ひとまず!キョーコちゃんは蓮の事、そこまで毛嫌いするほどじゃないってことでいい?」

「毛嫌いって…。人をからかうのは止めて欲しいですけど」


キョーコはキョーコで『からかう』と自分で言っておきながら、昨日の蓮の言葉を反芻し少し居心地が悪い。からかってはいない、本気だと言ってきた蓮の言葉に、少なくとも嘘が無かったように感じたのだから。


「受け付けない、無理って感じじゃないならいいんだ」

「……」


先ほど考え込んだのと似たようなニュアンスの言葉を社から投げかけられてキョーコは止まってしまった。


「それなら望みはあるってことでしょ?」


セクハラはほどほどにしないと本気で嫌われるって釘刺しとくから!と社は綺麗に大盛りカレーを平らげて去って行った。




「……………どういうことよ。私は二度と恋なんてしないの」


ランチタイムの盛りを過ぎて、キョーコは皿を洗いながらひとり呟く。


蓮のことを誤解していたかもしれないと思ったのは事実。

なびかない自分をからかって反応を楽しんでいる悪い男だと思っていた。>顔のイイ男はアイツみたいに甘い言葉で誘いをかけた女がホイホイ言うことを聞くから利用して楽しんでるだけだって。


でも、自分の作ったものを美味しいと言ってくれた。

無理をしてでも、食べてくれて。

その事実を見つかって情けない顔をして不貞腐れて。

あんなに真剣な顔で………


人を表面で見ていたのは自分の方かもしれない。


けれど


「それは人として誤解してたのに気付いただけなのよ」


時刻は昼の遅い時間。

お客の疎らになった店内の時計を見上げ、キョーコはもうすぐやってくるだろう相手を思ってため息をついた。


~~~~

また話の矛先がズレていってる…。

軌道修正可能かなぁ???

独り言的叫びです…。

愚痴的要素が含まれます。不快な思いをされた方がいたらゴメンナサイ!



さてと、本日は寝落ち&別作業にてお話の更新は難しそうです、ごめんなさい~!!

こんなことに時間を取られてるなら連載書けよ…って感も否めないのですが、どうにも頭がそっちに行ってしまいまして…。

すっきり片が付くか、すっきり頭の中を切り替えるかしないとお話書くモードには移行できなさそうです。

どうなってんだよー、私の頭!!!




夏に入ってから実はちょいちょいブログ内のご案内を整理しています。

二次創作自体は大昔齧っていた身ですが、ネット上は初、スキビ二次は読みから書き散らかしリバイバル。

二次創作に関しての注意点やマナー(特にネットの性質)もあいまいな部分が多いまま突っ走ってきており、自分の知らぬところでご迷惑なり、常識無いなーと思われても仕方なかったんじゃないか?って思うところがここまで来てやっと出てきまして・・・。

アメーバブログの手軽さ上、二次創作のHPであれば皆さんきちっと表記している注意書きなり前置きなりが無い状態でブログ形式で二次創作をアップしていたのが現状です。

読みから書き手に移行する方も多いですし、私もそうだし、分からないところはちゃんと確認せぬまま前ならえな部分があったのは確かなんです。

利便性・手軽さ、交流のはかりやすさなどアメーバの利点もありますし、自分でHPを立ち上げられるくらいのネット・PC知識もないもので、

何とかアメーバ内で自分でできる範囲で二次創作サイトとしての体裁を整えてみようと悪戦苦闘中というのが現状でしょうか?

(サイドバーの活用すら危ういというこのパソコン操作のダメっぷりを見ればわかるかと思いますが…。素敵バナーをお持ちのサイト様が多いのにそれすらどうやって張ればいいのか調べてみても理解できないんですよ…orz。こういうの詳しくて二次見せてもOKなリアル友人が欲しい今日この頃)


アメーバはいろんな所から出入りできるせいもあって、お知らせとか見て欲しい部分をスルーして記事にたどり着いてしまうのが今一番頭が痛いところ。

ただ読んでいただくだけならそれでもいいのかもしれませんけどね…。難しいところです。


二次創作・ネチケットについてはまだまだ勉強中の身です。後になって気づかされたことや教えていただいたことが増えてくれば、その都度修正していきたいと思っています。

気になった点があった方は気軽に教えていただけると嬉しいです。



さて、呟きでチョイ愚痴ってしまいましたが…

現在の悩みどころはアメンバー申請です。


そもそも申請自体そんなにたくさんないですし、アメンバー申請については案内の文面をちょいちょい更新して記事トップにあげることで見ていただけるかなぁって思っていたので・・・

こういうことをブログで書くこと自体おこがましいって感覚もあり、前に1回この手の内容をつぶやきに書いた位であんまり言いたかないのですが・・・。


申請案内自体が私の場合かなりキツイ&くどい表現をしているのではっきり言って申請案内を読んでいただいている方は、申請を通るメッセを作成していただけると思っています。(っていうかちょっと自信なかったら怖くて申請できないような文面ですし…)


幸い?なのか読者様のマナーがいいのか?メッセージなしというのは以前に比べて格段に減りました。

が・・・

申請案内を読まずにアメンバー申請&メッセをしているとしか思えない申請がこの夏続いてまして色々考えちゃったんですよね・・・。


これは私の方の案内不足が原因かな、と。

現状私がしているご案内は以下のモノ。


・アメンバー申請ボタンを押したときに表示されるメッセージにブログ内の『アメンバー申請について』を読んでくださいと表記。

・メッセージボードに『アメンバー申請について』の記事へのリンク

・目次内にも同様の『アメンバー申請について』への記事リンクを追加

・メッセージボードの『初めての方へ』の初期案内の記事内にもアメンバー申請について説明のリンク追加

・定期的に『アメンバー申請について』の記事を更新。(承認拒否の方への注意喚起用)



今後の対策?案?


①私の場合承認の方にメッセを返していますが、むしろ逆の方がいい?

拒否の方にメッセした方が気づいてもらえるとは思うけど、別にアメンバーになってくれってこっちがお願いしてる訳でもないしなぁ…。拒否されたら何が足りなかったか自分で気づいて欲しいし、そこは『成人』が条件だから外せないかぁ・・・


②自分のストレス軽減のためにアメンバー申請受付停止・休止…

読みたいって思ってくれる人(がいるなら)には悪いかなぁ……。

そもそも対応不能なくらいたくさん申請がある訳でもないし、二次創作の限定記事沢山ではないし。


③諦めて割り切る

…は繰り返ししてるんですよね。すんなり承認できない申請が続くと悩み、そのうち、ま、案内も出してるし自分の気持ちのままでいいよね!って割り切る。

いままた悩む時期に入っただけともいう・・・。



根本的に!

アメンバー申請の案内を読んでもらえてないことが原因だと思うんですよ。(読んだ上であのメッセなら今後もずっとNGだしね←鬼)

『アメンバーになる』のボタンを『アメンバー申請について』の記事の最後にしかない状態にできればベスト!ですかね?


『アメンバーになる』ボタンを押す

『アメンバー申請について』の記事に飛ぶ

記事の最後に『アメンバーになる』の元々の申請画面へ飛ぶ


これが出来ればベスト!?・・・とまでは考え付いたのですが

何せアメブロのカスタマイズすら危うい私。対策されているマスター様のところを参考に覗きまわってみたのですが…ブログサイドバーでのプロフィール画面の加工とか設定ってどうやるの・・・!?

ヘルプを見ても理解できず・・・orz


『アメンバーになる』ボタンだけ非表示にするとか、このボタンを『アメンバー申請について』記事にリンクするってのは現実的に可能そうなんですが(というかそう言う加工をされてるサイト様があるので)私ののーたりんオツムでは何がどうなっているのか理解できません!!!



その他別角度からでもなんでもいいので、アドバイスいただける方がいたらご意見伺いたいです~。

ただしちょっとでも高度な単語が混ざると、パソコンにはじめてさわるジーさんにパソコン教えている様なイライラする事態を引き起こしそうな自分がコワイのですが…。



そんなわけでお話カタカタするどころでなく、悶々としていた今日の夜でした・・・。

自分でも不毛だと思いますよ、ええ。

ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D                   10  11



真夏の海のA・B・C…D -12-



今日も今日とて賑わうホテルのプライベートビーチ。

昼前の繁忙タイムにキョーコは忙しく厨房とホールを行き来しつつも、どこか上の空でいた。


「ね、イイ男いた?」

「そうね~、ビーチのスタッフとか、ホテルのスタッフはレベル高いと思うけど…」

「あ~…、仕事のヒトだとなかなか…ね。このビーチレベル高いけど有料だけあって変に浮ついたあからさまなナンパが無くていいけど、出会いが欲しい時はちょっと残念よね」

「マナーが良すぎると、こっちからの逆ナンもちょっとやりづらいしねー」


きゃいきゃいと賑やかな会話が聞こえてきて、その内容にキョーコは顔を顰めた。チラリと視線を向ければ、店内で寛ぐ女性ばかりの4人グループ。


「さっき見かけたグループなんてどう?超イケメンじゃないけど、そこそこじゃない?」

「あー…、いい体してたよね?どっかの実業団グループだったりして」

「うーん、私見る分にはいいけどあんまマッチョとか無精ひげとかとかちょっとね…」

「えー?イイじゃん。無精ヒゲだってワイルドで似合ってれば!」

「見る分にカッコいい人はいいけど、なんていうか…自分の彼氏とか相手には生理的に無理!」

「生理的って…ヒゲが駄目なら剃ってもらえばいいじゃん。ヒゲ無くてもイケメンはイケメンでしょー」

「無理なもんは無理!いくらカッコよくてもさ。なんか、ザワザワするっていうか、鳥肌が立つっていうか…とにかく受けつけないの!」


周囲を憚らず盛り上がるガールズトーク。

その内容に、キョーコはぴたりと手を止めてしまった。


その会話内容に思い出したのは先日の告白。


『好きなんだ』


世の女性を甘いマスクと言葉で弄ぶ女の敵と思っていた、自分の命の恩人。

いつもだるまやで見せる異なる真剣な表情や、神々しい微笑…それすら蓮の女遊びの手管なんだろうかと考えては見るものの、そうではないと否定したいキョーコがいた。


あんな風は真剣な愛の告白なんてものが自分の身に降りかかるなんて思ってもみなかった。



「…私は二度と恋なんて愚かなことはしないと心に決めてるんです。だから…」

「待って。返事は…今は要らない」


キョーコの唇をなぞった親指で、蓮は再度唇の中央を軽く抑える。

先の言葉が十分返事なんじゃ?とキョーコは思ったが蓮は蓮なりの解釈をしているようだ。


「ってことは、今好きな人や付き合ってる人はいないって事だよね?」

「あの…」


確かにそれは事実だ。二度と恋なんてしないんだから。

キョーコは今だけでなくこれから、一生そのつもりだ。


「ひとつ聞いてもいい?」


キョーコの頬に触れていた手が離れて、空気がキョーコの頬を撫でた。夏の熱い空気にもかかわらず、蓮の手が離れた瞬間、僅かにひんやりと感じた気がしたのは蓮の手が熱かったから。


「俺の事、生理的に受け付けないとか…そういうことある?」

「……へ?」


ちょっとだけ怯んだように視線を彷徨わせた蓮から出た言葉に、キョーコは目を丸くした。

まるで脈絡が掴めず、戸惑うしかない。必死にその意味を考えていると、キョーコは自分の手に熱を感じそれにまた気を取られる。

頬から離れた蓮の手が、自分の手を取っていたのだ。


「…あ、あの?」


意味が分からず、キョーコは自分の手を取る蓮を見つめる。

蓮はキョーコの指先から手首へ、手首から肩へと、肩からキョーコの顔へと視線を巡らせた。そこには戸惑ったキョーコの表情。


「……敦賀さん?」


自分を映したキョーコの瞳に、蓮は抑えがきかなかった。


「抱きしめても、いい?」

「なっ…!」


キョーコの返事を待たずして、蓮が掴んだキョーコの手を引いた。そんなに強い力でなかったが、不意をつかれてバランスを崩したキョーコは蓮の方に倒れ込む。当然のように蓮の腕はキョーコを受け止めて、ぎゅっと抱きしめられる。

触れられた手のひら以上に熱い蓮の腕の中。


「つつつ、敦賀さん!なななな、なにを…っ!」


突然の抱擁に慌てたキョーコの声が大きくなる。

腕の中のキョーコの感触に蓮の表情は崩れきっているのだが、抱きしめられているキョーコには蓮の顔は見えない。


「キョーコちゃん?おい、蓮!まさかお前…!」


キョーコの声を聞きつけたのか、救護室のドア越しに社の声が飛んでくる。

その声に蓮は苦笑し、すぐさまキョーコを解放した。

不意をつかれたキョーコは蓮から離れてから事の事態を飲み込んだようで、いつものだるまやでの応酬の時ようにかーっと耳まで赤くなってわなわなと震えはじめていた。


「うん、今はこれで十分」

「な…なっ……なっ……」


一度腕の中に収めたキョーコの感触を確かめる様に、自分の腕を見て満足気ににっこり笑った蓮。


一体何が、十分なのか。


キョーコは思わず片手を振り上げたがその様子すらニコニコ笑って受け入れ態勢の蓮に、以前同じように平手をお見舞いしようとしてどうなったのかを思い出して慌てて手を引っ込めた。


「…俺のここは君のモノだからね。いつだって待ってるよ?」


にやりと、艶のある色を含んで持ち上がった蓮の唇を撫でたのは、さっきキョーコの唇に触れていた蓮の親指。その親指の腹をチラリと蓮の舌先が舐める。

振り上げた手を引っ込めたキョーコが、何を思い出したか気づいた蓮はいつもの調子で。


だからキョーコもいつもの調子で


「知りません!」


と言い捨ててその場から身を翻した。



~~~~~~~~~~

セクハラ蓮さん・・・orz

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これまでの話

真夏の海のA・B・C…D                   10


真夏の海のA・B・C…D -11-




いつもなんてことない日常会話のように甘い言葉を囁く。


隠しもしない好意はあからさま過ぎて信用できない。


本物よりもぎらぎらと目立つ、まるでイミテーションのよう。





「…よくないですよ、そういうの」

「え?」


こんな時に…不意打ちのように真剣な表情で、そして自然で柔らかな笑顔を垣間見せる蓮。

キョーコは自分の言わんとしていることを全く汲み取れていない蓮にため息を漏らした。


「敦賀さんのルックスでそんな風に女の子に接するの、誤解を与えます」

「誤解?なんの?」


キョーコの突然の言い分に蓮は首をかしげ、見えなくなったキョーコの表情を覗き込む。


「…っ!ち、近いですっ!」

「ぶっ…」


突然至近距離に近づいた蓮の美貌に、キョーコは思わず両手で蓮の顔面を押しのけた。


「いつもの調子で甘すぎる言葉を吐いたり、それでいてそんな風に笑うなんて本当に遊び人ですね。そんなに女の子を翻弄するのが楽しいですか?」

「…………それって」

「私をからかうのもいい加減にしてください」


少し赤みが差したキョーコの頬に、蓮の口元が緩む。いつもの怒って真っ赤になる表情とは違った色合いに、期待する心が騒ぎ出そうとしていた。


しかし、毎度のことながら繰り返されるキョーコの『からかう』という言葉。


「誤解…じゃ、ないんだけど?」


まいったなと、蓮は頭を掻いた。


「ましてやからかってもいない」

「………」


空振りフルスイングばかりのキョーコのバットに、ボールが当たる衝撃を伝えるチャンスを予感して自然と喜びがにじみ出てしまう。


「…でもそう思って、最上さんは『翻弄』されてくれたの?」

「だから、そういうのが…っ!」


蓮の言い様に、キョーコはかっとなって隠すために伏せた顔を上げてキッと蓮を睨みつける。


「…うん」


睨みあげたキョーコの視線と見下ろす蓮の視線が絡む。

蓮は心底困ったようで、でもどこか嬉しそうな…複雑な表情をしていた。


「俺は出会ってからずっと、君に好きだとアピールしてきたつもりなんだけど?」


蓮はキョーコへの恋心を隠すことなどした覚えはない。

これだけ『好きだ』と言葉と態度で示してきたつもりだったのに、キョーコはそれらを『からかい』と受け止めているのだ。


「だからっ、そういうところが信用できないって言ってるんです」


そういうところと言われても蓮には全くわからない。


「最上さんは、俺が君に想いを寄せていることを分かってないの?」

「あんなに軽々しく、毎日セクハラまがいな発言を連発されても信用できません!そもそもより取り見取りな敦賀さんが何で私なのか理解できないし!甘い言葉になびかなかった私にムキになってるとしか…」


好きな相手に好きだと伝えて、言葉を言葉通りに受け取ってもらえない場合はどうすればいいんだろうか?

蓮は思案しながらキョーコに語りかけた。


「人を好きになるのに、納得できる理由がなければダメなの?」

「敦賀さんは大体から言って、最初っから……」

「最初にキスしちゃったから、信用してくれないの?」

「………!!」


言葉を濁したのにストレートに返してきた蓮に、キョーコは額にきゅっと皺を寄せて蓮から視線を外す。小首を傾げて僅かに悲しげな…まるで哀願する子犬のような表情に、キョーコは心の中で卑怯だわとつぶやいた。


一方蓮は、そうは言われてもキョーコを初めて見たときの感覚を忘れられない。

後から行き過ぎた行動だったかとちらりとは思ったが、後悔など全くしなかった。自分の全身が、本能が彼女しかいないと自分に訴えかけ、その衝動に抗う術などなかったのだから。


「……質問ばかりでごめんね」


そう思っていたら、ふと、まるで揚げ足取りのようにキョーコの訴えに疑問で返していた自分に蓮は気が付いた。改めて、ちゃんと伝えなくては…。


「一目惚れなんだ。理由なんて俺にもわからない。でも、自分の中の何かが君じゃなきゃ嫌だって訴えてる」

「そんな一目惚れなんて…信じられません」

「一目惚れって言葉が存在していること自体、そういうことが現実にあるってことじゃない?」


蓮の言い分にキョーコは押し黙った。


「俺って人間が、本能的に最上さんを求めてるんだ。どうか信じて」


懇願するように蓮はキョーコの手を取り、外された視線をつなぎ直す。そこには戸惑うように揺れるキョーコの瞳があった。


「君を見た瞬間から、君に触れたくてたまらなかった」

「だからって、あんな…」

「正直なところ、あとで自分でも驚いた。躊躇うとかそんな考えなんて浮かびもしなかったんだ」


蓮の手が、遠慮がちにキョーコの頬を包む。

キョーコが嫌がるそぶりを見せないことをいいことに、カサついた親指が唇を撫でた。


「君をもっと知りたくて、近づきたくて。少しずつ知れば知るほど、もっと惹かれていってる」


蓮の切れ長の瞳が映った自分の姿が、細められた瞳の中でわずかに歪んだのをキョーコは見ていた。




「好きなんだ」


ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D                 



真夏の海のA・B・C…D -10-




「最上さん、どうして…」


ここにいるはずのないキョーコに蓮は驚きの色を隠せなかった。

キョーコに対してはいつも一方通行。

自分がキョーコに向かうのが常で、キョーコの方から蓮に会いに来るなんて今まで一度もなかった。普段であるならもろ手を挙げて喜ぶところであるが、蓮の気持ちは複雑だ。

もちろんどんな理由であれキョーコの方から自分に会いに来るという行動自体は喜ばしい。

しかしながら、先ほどキョーコから提供された『お礼』によって無様な状態となった自分の姿を、当の本人に晒すのは抵抗があった。


善意や好意…少なくとも感謝という肯定的な感情から発生するお礼を受け取った者が、そのお礼によってダメージを負った姿を目撃してしまったら…。

常識的な感覚を持ち合わせているキョーコは申し訳ない気持ちを覚えるだろう。


しかしその実、蓮の内側に喜びも湧き起こる。

人としての常識・礼儀だとキョーコは言っており、自己満足や義務感からの行動だったとしても蓮にとっては大きな進歩だ。


「あの…」


蓮の問いかけに、キョーコはなんと切り出してよいのか迷うように口ごもる。その表情は決して明るい笑顔ではないため、蓮は自分の状態を正確に見抜かれてる危機感に襲われた。


「もしかして、さっきの社さんとの話…聞いてた?」

「え?さっきの…?」

「えっと…」


食べすぎで寝込んだ云々を聞かれてなかったのはいいが、キョーコに聞き返され蓮は返事に詰まった。


「お店を出るときに敦賀さんの様子がいつもと違ったのでちょっと気になって」


蓮が逡巡しているとキョーコの方が口を開いた。

「もしかして私のお礼が迷惑だったのかな、と」


おずおずと話し始めた内容に、キョーコが別方向で解釈しようとしているのに蓮は慌てた。


「そんな迷惑なんてどうして…」

「その…カレーがお嫌いだったとか?好みも聞かずに出しちゃいましたし、お出ししたのが苦手な食べ物だったらお礼どころか迷惑だったかなと思って」

「そんなことない!とても美味しかったし、俺は嬉しかった」

「じゃあ…」


自分の感じた違和感の正体は一体何だったんだろうか?疑問が解消されないキョーコの表情は曇ったままだ。

キョーコから更なる追及が出る前に、蓮は話の矛先を変えようと先手を打った。笑顔を浮かべキョーコを覗き込んだ。


「『いつもと違う』なんて、そんなに俺のことを見てくれてたんだ。嬉しいよ」

「なっ……!」


いつもの調子の蓮にキョーコがむっとした表情をのぞかせる。


「しかも気にして会いに来てくれるなんて、ちょっとは期待してもいい?」


蓮はにっこり笑いかけてキョーコの手にさりげなく自分の手を伸ばす。

口説き体制に入れば反発するように返ってくるキョーコの反応は簡単に予測できる。なかなか色よい返事はもらえないが、キョーコとの軽妙なじゃれ合いを心地よく感じている面もある。


でも口にしたのは蓮の本音だった。

思っている以上にキョーコが自分のことを見ている事実に胸が弾む。


「……大声出して社さん呼びますよ?」


煙に巻こうとした蓮に眉をしかめ、キョーコはじりっと一歩蓮から身を引いた。


「ひどいな、まだ何もしてないのに」

「何かされてからじゃ遅すぎます!」


ごめんと苦笑し蓮は伸ばした手を引っ込めた。いろいろ悟られたくないことはあるのだが、思いがけず手に入れたキョーコとの時間も惜しい。


そんな蓮の様子に、キョーコはきゅっと唇を噛んだ。


「………なんだかんだ言って、敦賀さん常にそうやって…。私をからかって楽しむのもいい加減にしてください」


どうするべきか考えあぐねていた蓮は、冷やかなキョーコの声にはっとした。

まじまじとキョーコを見ればその表情は静かな怒りを湛えていた。そんな表情さえ、蓮は怖いほど綺麗だ頭の片隅で呟く。


「私が……」


キョーコの唇が震えた。


「…私がバカみたいじゃないですか!助けてもらったお礼をちゃんとできずにいたのも敦賀さんのそんな態度のせいだし、遅すぎるお礼に常識なかったなって反省だってしてたし、ようやくお礼を言えたと思ったらなんか敦賀さんに迷惑だったみたいだし、心配になって身に来たのにこんな風にはぐらかすし!あなたの言葉なんて、なに一つとっても信用ならない!!」


一気に吐き出すように連なった怒りの言い分。

蓮は先ほどのわずかに温まった胸の内に一気に冷水を浴びせかけられたようだった。


「……………ごめん」

「謝るってことは私の言ってること認めるんですね!もう、知りません!二度と…!!」


発せられそうになった完全拒否の言葉に、蓮は慌ててキョーコの手を掴んだ。


「待って!!」


掴まれた手首の熱と切羽詰った蓮の表情に、怒りにまかせて畳みかけようとしたキョーコは動きを止めた。

目に入ったのはいつもニコニコと笑って甘い言葉しか吐かない蓮のいつにない縋るような表情。傷つけられたのは自分の方のはずなのに、キョーコは自分が蓮を傷つけたかのような罪悪感に見舞われる。


「ごめん。謝るから…」

「……どうせ口先だけでしょ…」

「そう思われても仕方ないかもしれないけど、言い訳だけでもさせて」


いつにない蓮の様子に、キョーコはダメと思っても小さく頷いてしまった。







「一体どうやったらその体を維持できるんですか……」


キョーコの信用を得るために、蓮は男のプライドを捨てた。


「体が資本のお仕事なんですよ!?しかも人命を守る職業の人が、自分の健康をおろそかにするなんて!」


予想通りキョーコは蓮の食生活に呆れ、ぶつぶつと何事かを呟いている。


「いやでも、お礼は嬉しかったし、美味しかったんだよ?ただ量が…」

「適量を超えているならそう言ってください!変な見栄張って無理して食べてられた食べ物がかわいそうです!」


おかしいわ、この体を維持するのにどう考えたって計算が合わない!一体どういう構造をしてるのかしら・・・と、キョーコは蓮の頭から足先まで視線を走らせてはブツブツと呟いている。


「だって、残すなんてできやしない。俺のために最上さんが作ったものなんだから」

「…っ、敦賀さんのためじゃありません!お客さんのために作ってるんです!…って、え?」


妙なところで自分の都合のいい解釈している蓮に釘を刺しつつ、キョーコははたと気が付いた。


「敦賀さん、だるまやのカレー食べたことありました?どうしてあれが私が作ったって…?」


キョーコが担当しているのは限定カレーであって通常メニューのカレーは女将の仕事だ。 限定カレーはキョーコが仕込める量も少ないのでいつも午前の早い時間に完売となる。

昼の遅い時間に来店する蓮が目にしたことはないはずだし、通常メニューのカレーと比較して気づくにしてもキョーコは蓮がコーヒー以外を注文しているところを見たことはない。


「社さんに聞いたんだ。最上さんが作る限定メニューがあるって。出されたのが社さんに聞いてた特徴のカレーだったから…」


キョーコ特製限定カレーはカレーに合わせてサフランライスを使っている。以前念願かなって食べることができたと社がその美味しさについて自慢していたのを覚えていたのだ。

蓮はキョーコに出会ってから、キョーコに関することは細かなことでも聞き漏らさずに記憶していた。それはもうストーカー並みに。

蓮の脳内に記憶されているキョーコのデータは膨大なモノになってはいるが、そんなことをキョーコは知る由もない。


「食べてみたかったのは本当だよ?量の問題もあったし俺の行く時間にはいつも売り切れだし…」

「本当ですか?」

「最上さんが作ったものだから。だから残すなんてできなかった。こんな体たらくになっちゃったけど、とても美味しかった。ありがとう」


甘やかな笑顔で美味しいと言われ、自分の作ったものだから残せなかったという言葉が嬉しくないわけがない。

こっちが赤面してしまうような蓮の表情に、キョーコは熱の上がりそうな頬を誤魔化すように俯いた。

どうも謝られてからの蓮はいつもの軽い調子とは少し違うような気がして、キョーコは戸惑いを感じ始めていた。


~~~~~

ぬあ~!!順調に伸びてます。予定のところまでたどり着かない!!

蓮さん、ちょっとはキョコさんのマジ怒りに触れればいいと思うよ…

ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D               



真夏の海のA・B・C…D -9-



幸いトラブルもなく平和な本日のビーチ。

巡回から戻った社は、詰所のテントの中を覗き込んではウロウロする小さな背中を見つる。

その後ろ姿に、社は見覚えがあった。


「あれ、どうしたの?キョーコちゃん」

「あっ、社さん」


テントの前にいたのは同僚の一方的なアプローチを受けている女性。

海の家だるまやの味を愛する顧客の一人である社は、蓮がキョーコを救助する以前からキョーコとは顔なじみだった。客と店員の間柄だがお互いの名前を知り気軽に会話を交わす程度には。

明るくて働き者のキョーコに好感は持っているがもちろん男女のソレではない。妹を見守る兄の様な気分…それが社にとっては一番適切な言葉だろう。

知った顔の社を見つけ、キョーコはほっとした表情を見せた。


「こんなとこに来るなんて、蓮に見つかったら大変だよ?」


いつもアイツがごめんね、と社はキョーコに苦笑する。

蓮の猛烈なアプローチは周知の事実だ。キョーコに一目惚れした同僚は、純情そうで天然乙女なイメージのキョーコに対して攻略方法の選択を完全に誤っている、と社は常々そう思っていた。

キョーコが顔を真っ赤にして怒る仕草すら可愛いと、休憩が終わると惚気てくる蓮にそれは迷惑している反応だよなぁと思うが、言ってみたところで何の解決策にもならないので放置している。


蓮のルックスであれば、あんな風に熱烈アプローチなんか受けたら悪い気はせず受け入れてしまう女性がほとんどだろうに、怒って否定してくるなんてきっと望みはないんだろう。

そもそも出会いがキョーコにとっては最悪だったはずだと社は思っていた。

なにせ社は蓮に続いて救助現場に駆けつけ、事の一部始終を目撃していたのだから。


もちろん同僚として長年付き合いのある蓮のことは信用しているし、年下の蓮を弟のように感じ親しみも持っている。

かといって、社自身も初めて知ったキョーコに執着する蓮の感覚や行動に、積極的に応援してやる気にはなれないでいた。同じく妹の様な親しみを持っているキョーコが嫌がっているのならばなおさらだ。


勤務時間内とはいえ、前科のある蓮が自分のテリトリーにのこのこ現れたキョーコをただでおく訳が無い。社はキョーコがここに来た要件を素早く聞きだし、この場から一刻も早く遠ざけることがベストだろうと結論をはじき出した。


「もしかして俺に用?テントの奥に蓮がいるからちょっと離れたところで用件聞こうか?」

「いえ。あの…私、敦賀さんに用があって…」


わざわざ気をつかってかけた言葉に対し予想外のキョーコのセリフに社は目を見開いた。


「え!?蓮に?」


迷惑がりこそすれ、キョーコの方から蓮に会いに来るなんてどういうことか。


…もしかして忘れ物届けに来た?

…にしては、キョーコちゃんお店のエプロンしてないし。

…って、お店のエプロンしてないからお店の用事じゃない?

…って事はキョーコちゃんが『個人的に』蓮に用があるって事?

…もしかして堪忍袋の緒が切れて殴り込み!?

…でもキョーコちゃんから会いに来たってだけでアイツ舞いあがっちゃうよなぁ?

…あれ?そもそもキョーコちゃんから怒りのオーラは感じないけど、じゃあ一体……


「社さん?」


混乱から首をひねって動きを止めた社に、キョーコも小首を傾げて不思議そうに社を見ていた。

その小動物的な仕草に、社は別の意味で眩暈がした。

キョーコのこういった天然な仕草は可愛いと思う。しかし自分に対して狼だと分かりきっている男に、しかも普段その攻めっぷりに引き気味なくせにこんな時に会いに来るなんて!


「キョーコちゃん、無防備すぎるよ…」

「えっ?」

「蓮に襲われても、これじゃ蓮ばかりを責められないな」

「あの……敦賀さん、テントの奥にいるんですか?」

「キョーコちゃん!お兄さんは可愛い妹がむざむざと狼に食べられるなんて黙ってみてられません!お願いだからもうちょっと女の子の自覚をもって!」


同僚の社からも『狼』と揶揄される蓮に、キョーコはやっぱり女の子をからかって楽しむ悪い男なんだとチラリと思いつつ、どうも違う方向に転がりそうな話に慌てて本題にもどった。


「あの…私、敦賀さんに用があってきたんですけど…」

「…え?」


動きの止まった社は、数秒後にようやくキョーコに向き直った。


「どうして?」


社にはお店に関する用事以外ににキョーコが蓮に会いに来る要素を見つけられない。そんな社に、キョーコは自分が事に来た用件を何の疑問を持たずに話したのだった。







「蓮、起きれるか?」

「………ん、…はい…」


蓮は救護室のベッド上で社の呼びかけで目を覚ました。どうやら、横になって眠り込んでいたようだ。まだ胃部のムカつきは残っているものの、戻った直後よりはマシになっていた。


「すみません。休ませてもらって…」


救護室に入ってきた社を見て蓮はベッドから体を起こした。時計を目をやり休憩から戻ってきて1時間半ほど経過していることを確認し、申し訳なさそうに謝罪を口にした。


「いんや~、今日はいたって平和!お前が一人寝込んでてたって大したことないさ」


てっきり体調管理について小言が来るかと思っていた蓮は、どこか楽しむように笑いをかみ殺した社の声音に引っ掛かりを感じた。


「いや~、蓮君の体調不良がただの食べ過ぎだったなんてねぇ」

「………」


揶揄する色合いが多分に含まれた社のセリフに蓮はぎくりと強張った。視線の合った社の表情はおもちゃを見つけた子供のそれと同じだ。


「だるまやでキョーコちゃんからカレーをご馳走になったんだって?」

「………」

「そーだよなぁ~、好きな子からどうぞ!何て言われた出されたもの残すなんてできないよなぁ」

「社さん…どこでそれを…」


う~ふ~ふ~と、含み笑いの止まらない社に蓮は正直この場を逃げ出したくなった。


「ん?本人に聞いたから」

「え!?」


社の休憩時間は蓮より前。今仕事中の社がこの短時間にキョーコと接触している事実に蓮はまだ働かない頭で状況を推測する。


「ま、後はちゃんと自分で事情を説明するんだな」

「…?」


社が何を言わんとしているのか蓮にはすぐには理解できなかった。


「分かっちゃいるとは思うけど、最初みたいに襲うなよ?一応席は外してやるけど、救護室の前の詰所にはいるからな!」


ニヤリと笑った社は、救護室の出入り口を親指を立てて指し示した。その動作で社の体で見えなかった救護室の入り口に遠慮がちに顔をのぞかせたキョーコを見つけ、蓮は目を見開いた。


「キョーコちゃん、蓮に変な事されそうになったらすぐに大声出すんだよ?」

「社さん、俺をなんだと思って…」

「うるさい。前科持ちが文句言うな」


いつだって会いたいキョーコだけれど、今この状態では素直に会えたことを喜べない。


口元にニマニマと笑みを浮かべたままの社が出て行ったあと、蓮は入口にたたずむキョーコを前にどうしてよいか分からずに視線を彷徨わせた。



~~~~~~~

おかしい・・・。キョコさんに見つかる蓮さんを書く予定が、うっかりヤッシーを書いてて楽しくなってしまった・・・。

この回なくても大丈夫なんだけどなぁ。蛇足のお話でスイマセン・・・。









ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D             



真夏の海のA・B・C…D -8-



「お前さ、どうしたの?」


社は怪訝な顔を隠せなかった。

昼休憩は日課となっただるまや詣をし、意中の彼女との時間を一方的に堪能してきたはずの同僚。

なかなかアタックは実を結ばずにいるようだがそれでも同じ空間で同じ時間を過ごしてきただけで休憩から戻るといつも上機嫌のはずの男が、今日は少し顔色が悪い。

ここを出掛ける時は浮足立っていて、蓮の後ろ姿に思わずスキップしている様な心象風景すら見えてしまったというのに。


「俺の知らない1時間の間に何があったんだ?」

「…………」


社の質問に蓮は口元を押え無言。本当にどうしたんだと社は首を傾げる。


「気分悪いのか?まさか熱中症じゃないよな?お前あまり飲み食いしないから…」


熱を上げるのはキョーコだけで十分だ。

ほれ飲め、と社が差し出したスポーツ飲料のペットボトルに蓮はチラリと視線だけを動かした。


「……勘弁して下さい。今は水すら入る隙間はありません…」

「………は?」


情けなくも絞り出されたのはそんなセリフで。

ビーチを見渡せるテント型のライフセーバーの詰所の椅子に、蓮はぐったりと座り込み微動だにしない。


「隙間って……何か食べてきたのか?」


お前が?自主的に?と社の追及が飛ぶ。


人間の基本的な欲求である食欲が、この男の場合壊滅的に壊れているのはライフセーバー仲間の中では周知の事実だった。

こんな体格なのに恐ろしく燃費のいい体。いや、燃費がいい所ではない、何を材料に生命活動をしているか分からない。

小食以前に食事に何も感じていないようでこの仕事上水分はそれなりに摂取するものの、食事は一緒に誘わなければ食事自体を忘れているし、食べてもダイエット中の女子かと思うほど極少量だし、口を酸っぱくして何か食べろと命令されることも日常で、たまに自発的に何か摂取していると思えば何とかinゼリーとか栄養補助食品が主で、栄養のバランスという言葉すら知らないんじゃないかと思うほど。


そんな蓮が休憩時間に自主的に食事を取るなんて、社には信じられなかった。

休憩時間に蓮がキョーコに会いにだるまやに行っても、商売の邪魔にならないよう注文はするのだが、大抵コーヒーやお茶など飲み物だけなのも知っている。


「……食べましたけど、なにか?」

「どういうことだ?」


社は追及の手を緩めなかったが、蓮は椅子にもたれた姿勢を保てずるずると沈み込む。


「……スイマセン、横になっててもいいですか……」

「え…!?」


本気で具合の悪そうな蓮の様子に、社は慌てて奥の救護用ベッドに蓮を押し込めた。







キョーコはだるまやの厨房の洗い場で食器を洗いながら思案していた。


「……お礼がお店の商品なんて、ちょっとせこかったかしら?」


ぽつりとキョーコの口からこぼれた言葉。

手の中の皿は先ほどの大盛りのカレーライスがのっていたものだ。その皿についた泡を洗い流しながら、その中身を胃袋におさめた人の様子をキョーコは思い返す。


ちゃんとお礼を言ってなかった不義理な自分に遅ればせながら気が付いたキョーコ。区切りをつけなくちゃと思ったけれど、今までの態度にどういっていいか分からなくて、消えモノの食べ物であれば迷惑にならないだろうと思い食事をお礼とすることを思いついたのだ。

ライフセーバーという肉体労働に加えて、ただでさえ体格のいい蓮の体。ビーチでの仕事上、すぐにでも救助に飛び込めるようハーフパンツ丈の水着にロゴの入ったパーカーやTシャツ姿の蓮の筋肉美は遠目でも明らかで、毎日何かしらトレーニングでもしない限りあの肉体は保てないだろう。

蓮の同僚のライフセーバーも何人か休憩時間にだるまやで食事をとることがあり、その気持ち良いくらいの食べっぷりに肉体労働の男性の食欲はすごいんだなぁとキョーコは感心していたのだ。

そうなれば自然と蓮も沢山食べるんだろうなと思い至り、だるまやの大盛りメニューより更に盛ったカレーにとんかつまでつけて、メニューにない『スペシャル大盛りカツカレー』を振る舞ったのだ。


しかもカレーは午前中に完売してしまう限定カレー。

この限定カレーは実はキョーコの担当なのだ。昨年のバイト中にまかないでキョーコが作った時に女将さんに絶賛され、キョーコの負担にならない量でということで始まった限定メニューだったのだ。今年場所をLMEホテルのビーチに移ったことで整備の行き届いた厨房と仕入れルート、そして凝り性のキョーコの性格から去年よりグレードアップしだるまやのメニューに仲間入りした。

そんなキョーコ特製限定カレーは午前中売り切れの人気商品となっていた。お店のメニューではあるがイチからすべてキョーコに任されている限定メニュー。おこがましいという考えからキョーコはわざわざ口にはしなかったが、お礼の品をこれにしたのはそういった理由。

いつも午後にくる蓮がそのカレーが限定カレーか否か気づいたかは分からないけれど・・・。


お礼の品と指し示したカレーを見つめて、蓮はしばし無言だった。

その様子にキョーコが僅かに首を傾げはじめると、蓮ははっとしたようにキョーコに目をやり先ほど見せた柔らかい表情で『ありがとう』と言って手を付け始めた。

がっついて食べる訳でもなく、行儀よくスプーンを口に運ぶ蓮。

『ごちそうさま、美味しかった』と店内で仕事をこなすキョーコに声をかけてきた時はすでに蓮の休憩時間が終わろうとしている時間だった。

量が多いとはいえ男性にしては食べるのはゆっくりだなとは思ったが、綺麗に平らげられた皿と美味しかったとかけられた言葉にキョーコは自然と笑顔になっていた。


しかし、だ。

いつもの様子といくつか異なった点があったことにキョーコは気が付いた。

今までなら名残惜しいとか、キョーコが断ると分かっていながら仕事が終わったら送らせて?など更なる口説き文句が飛んでくるのだが、今日はそれだけであっさりと引き下がった蓮を思い出し、キョーコは更に疑問を深める。


「もしかして、カレー嫌いだったとか…?」


そういえば店を出ていく後ろ姿が、心なしかいつもと違ったような…?

いつも後ろ髪引かれる様子できゅーんと鳴いて耳の垂れたワンコよろしくキョーコを見つめ、渋々と言った感じで引き下がっていくのだが、今日はなんとなく違うような気がした。


あれだけ自分をからかいとはいえ口説いてきている蓮なのだ。万が一嫌いなものを出されたとしても突っ返すなんてことはしないだろう。


「…やだ、お礼のつもりだったのにかえって迷惑だったらお礼も何もないじゃない…!」


洗い場に控えていた食器をすべて水切り籠の上に伏せたキョーコは、そっと店内を見まわした。

昼食時はとうに過ぎて、でも夕方の繁忙時間にはまだかからないこの時間。店内に客はおらず、女将がテーブルをテーブルを拭いて店内を整えていた。


「女将さん、ちょっと出てきてもいいですか?」


まだ営業時間だが客のいない間は自由に休んでいいと言われている。

いつ次の客が来るかは分からないが、この分ならもうしばらくは客足は途絶えるだろうとビーチの様子を眺めてキョーコは思っていた。


「ああ、キョーコちゃん今日は上がってもう上がって良いよ」

「え…でも…」

「今日はお昼忙しかったからね。思いの外品物が出ちゃってもうちょっとで早じまいにしようかってあの人と相談しててね」


仕入れを見誤ったこっちのミスなんだけど、たまの事だからゆっくり休んだり遊んだりしておいでと女将はキョーコに手を振った。



~~~~~~

ううう、想定した1話を書くのに2~3話使ってますね。

まずい傾向だ・・・・これはまた伸びるな・・・。(1話分が短いので仕方ないのですが)

アメーバニュースを読んでぽっと出てきた思いつきSS…未満なモノ





「なっ………!なにこれ!?」


キョーコはその記事を見ながら素っ頓狂な声を上げた。


「冷やしたことなんてないし!しかも42度以上の高温もって…!かなり熱いお風呂に入らな限りこんな温度むりじゃないの!」


そこを丸出しにするような破廉恥な薄着なんてしたことないし!学校が終われば和装の仲居姿できっちりカバーして、仕事して動いてたから絶対手冷えたりなんかしないし!


「小さいサイズ!?私がキツイサイズなんてそもそも売ってないわよ!バカにしてるの!?」


むしろ必要性を感じずに、見かねた女将さんに売り場に引きずられていって、恥ずかしい思いをして採寸されて、サイズ表を見てもっと恥ずかしい思いをしたんだから……っ!!!


「…おかしいわ。私に当てはまる事が何もない…っ!!」


キョーコは頭を抱える。この記事に言われているように良くないと言われていることなんてしてきた覚えなんてなにもない。


「コーヒー3杯以上?コーヒーなんてもともと飲まないし、どっちかっていうとお茶派だし…」


コーヒーなんてそうそう自分で購入して飲むこともない。

最近コーヒーを飲んだのって………


「はっ……!!まさか・・・・っ!!!」


最近コーヒーを飲んだといえば某高級マンション最上階の某先輩(※恋人と表現できないキョコさんw)のお宅に伺った時………!!!






「最上さん、コーヒーしかないんだけどそれでいい?」


(や、やっぱり!!)


夕食を依頼されて、一緒にとったその後。

食後のお茶に声をかけてきた蓮にキョーコは固まった。


「つつつ、敦賀さんはないよりあった方がイイタイプじゃないんですね!!??」

「はっ?」

「ヒドイ!ひどすぎるぅ~!そんな悪魔の飲み物を気にしてる私に勧めるなんて~~~!!」

「ええっ!?」



キョーコの突然の言動におろおろする蓮の姿がそこにあった。





・・・オチすらねぇ。

該当ニュース↓

http://news.ameba.jp/20130819-194/

ニュースみてキョコさんがこれ見たらどうなるかなんとなく妄想したのをカタカタしてみましたが面白くも何もないものになりましたね。

どうも不調だ・・・




ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D           



真夏の海のA・B・C…D -7-



いつものように休憩時間に海の家『だるまや』に足を運んだ蓮は、いつもとは違う光景を目にしていた。


店の前で仁王立ちで自分を迎えるキョーコ。

いつもなら蓮の姿を見つけると子ウサギのようにぴょんと跳ね、渋い顔をしたり、あわよくば逃れようと店の奥に引っ込んだり、視線を彷徨させて不自然に他の客に話しかけたり、諦めたようにため息を漏らしたり。

やってきた己を真っ直ぐ視線をそらさずに見ているなんて蓮にとっては初めてで、思わず顔が綻ぶ。


たとえそれが眉間にしわを寄せて、口を一文字に引締め何かを覚悟したような…笑顔とは程遠く、傍から見たら決して歓迎されているとは思えない表情であっても、だ。


「嬉しいな、出迎えてくれるなんて。とうとう俺が好きだって自覚してくれた?」

「………これが好きな人を出向かる乙女の顔に見えますか?」


相変らず方向の間違った蓮のセリフに、キョーコは自分の顔を指差して唸るように呟いた。


「うん、とってもかわいい」

「敦賀さんは目が悪いんじゃなくて頭が悪いんですね」


君の表情ならどんな表情でも可愛いのに…と首をひねる蓮に、キョーコはますます眉間の縦皺を深くする。が、溜息一つでキョーコは気を取り直し口を開いた。


「敦賀さん、昼食はお済みですか?」

「いや、まだだけど?」


むしろいつも食べやしないんだけど、と蓮は一人心の中で呟く。

でもそのことを口にしなかったのは、なんとなく叱られるか呆れられるかする予感がしたからだ。すっかりキョーコ観察が日課となった蓮は、海の家という飲食店で働くキョーコが食や健康に対して普通以上の感覚を持ち合わせているのを知っている。


『暑いからってあっさりした物ばかりじゃ元気でないですよ?』

『ちゃんとお野菜も食べてます?大将の焼きそばは野菜たっぷりなので良かったらいかがです?』

『もうっ、昼間から飲みすぎですよ!一度お味噌汁いかがですか?シジミのお味噌汁って肝臓にいいんですよ』


キョーコはなじみの客に対して、失礼にならない範囲で色々と世話を焼いている。

食事に関する知識の薄い蓮にも、客商売というフィルターを加味してもそれが客の体調に配慮し健康を意識した食の提案であることは見て取れた。


叱られてもいいから自分の食への意識の低さを晒せばキョーコが他の客に対するように世話を焼いてくれるだろうか?そんなことをチラリと考えるが、そこは恋する男。

構われるのは嬉しいが、不用意に情けない自分を晒したくないというプライドが邪魔をする。


普通の昼休みを過ぎた昼食をとるにはやや遅いこの時間。

キョーコは蓮の仕事が交代制で昼休憩の時間にいつも来るのを知っていた。

しかしいつも来店してはドリンクしか頼まないので、蓮が昼食を済ませてから来店してるのか掴みきれずにいたのだ。蓮の回答にキョーコはほっとした表情を見せ、蓮はそんなキョーコの表情をニコニコとしながら見つめていた。


今の蓮にとって休憩時間いっぱいキョーコの近くにいることの方が最優先事項。

もともと興味のない食事に時間を取られるより、キョーコの居るだるまやで過ごすことに意味があるのだ。だるまやで飲み物を注文し、キョーコを口説きつつ接客に忙しければキョーコをひたすら観察して過ごす。

最初は口説き文句に過剰反応し否定を繰り返して接客中に向けられる蓮の視線に居心地悪そうにしていたキョーコも、すっかり慣れてきたのか最近は蓮の言葉を受け流し、常に注がれる視線すら気にしなくなってきていた。


それがいいのか悪いのか…蓮は思い切り邪険にされなくなった事実は嬉しいのだが意識されていないようでそれはそれでさみしい。それでキョーコの気を引くためにことさら周囲に聞かせる様にキョーコにちょっかいを出しているのが現状だ。


そんな中で予想外のキョーコのお出迎え。

そして意図は掴めないが、自分に対して注文以外の質問を投げかけてくるのも初めてだ。

いつものことろへどうぞ、と促して店の奥に引っ込んだキョーコの言葉を蓮は反芻する。店内を動くキョーコが一番見やすいからと、好んで座る席を『いつものところ』と指し示されたのだ。


(…もう、どうしてくれよう)


案内された席が脚が詰まって窮屈ないつもの丸椅子でなく、少し背の高い椅子に変わっていたことに気づいて恋する男は緩みそうになる表情を隠すかのように無表情になっていた。






ほどなくして、キョーコの様子を思い返していた蓮の目の前に『ドン!』という重量のある衝撃とともに何かが置かれた。その衝撃に蓮は顔を上げる。


「……どうぞ」


どうやらそれは食べ物を乗せた皿のようで、食欲を刺激するスパイシーな良い香りがその皿から漂ってくる。


「これは…?」


自分のところに料理をサーブしにくるキョーコを見逃したことを後悔しつつ、蓮は疑問の言葉を口にした。

まだ何も注文していないにも関わらず自分の目の前に置かれた料理。蓮はキョーコと皿を驚いた顔をして交互に見比べた。

キョーコは蓮の隣の椅子にすとんと座って、少し困ったような申し訳ないような…複雑な表情で視線を彷徨わせていた。


「人として、最低限の礼はしておかなきゃ……と、思いまして」


少し硬いキョーコの声。

カウンター席はあまりゆったりとはしていなくて、客席の間隔は適度に狭い。体格のいい蓮の長い脚と、隣の席に座った。きちんと合わせられたキョーコの両膝が触れあいそうな距離。蓮は思わず膝の上でにぎにぎと蠢くキョーコの拳に手を伸ばしたい誘惑に駆られる。


「あの…その…」


膝の上の拳の動きと同じように、もごもごと言い淀むキョーコ。

その手を掴まえたい誘惑をキョーコの話を聞くために押さえつけて、蓮はキョーコが何を言わんとしているのか考える。

さんざんアプローチを邪険にされ、嫌がる風のキョーコが自分に対して『礼』というのに嬉しさはあっても疑問も隠し切れない。


不思議そうな表情で自分を見る蓮に、キョーコは思い切った様子で口を開いた。


「…この前はっ!助けていただいて、ありがとうございましたっ!!」


言葉と同時にぺこりと頭を下げてたキョーコ。

近い距離に、蓮の膝をキョーコの柔らかな前髪がふわりと撫でた。


「……え?」


(う……そうよね…もう何日も経っているし。今更すぎるわ)


予想だにしてなかったといった蓮の反応に、キョーコは蓮の表情を見れないままそう思った。


「い……いくら敦賀さんが、あんなことをして、連日嫌がらせのように私をからかいに来ているからって…。命を助けてもらったお礼を、私一言も言ってなくて…そのことに、昨日まで気づかないままでいたなんて…」


スイマセン、非常識でした!と頭を下げたまま一気にまくし立てたキョーコに、蓮はぽかんとしたままだった。


「……呆れました?」


蓮の反応がそれ以上得られず、キョーコは恐る恐る顔を上げて蓮の顔を見る。


「あのっ!敦賀さんがこうして私を連日からかいにくるのは正直めいわ…え、いや、ちょっと困るというかなんというか…。でもそれにかまけて、ちゃんとお礼言ってなかった自分が恥ずかしいというか…」


じっと自分を見つめたままの蓮の表情が動かないことに、キョーコは後ろめたくなったが後にも引けず、視線を再び彷徨わせながらつらつらと口にしていた。


「………いや」


しばらくの沈黙の後、蓮が口を開いた。


「当たり前のことをしただけだから…」


いや当たり前の事だけではなかったような…とチラリとツッコミがキョーコの頭の端を掠めたが蓮の表情が変化した瞬間、キョーコは固まってしまった。


キョーコの瞳に映ったのは、神の寵児というにふさわしい、光り輝く様な神々しいまでの蓮の微笑。

もともと美形で注目を集める蓮の容姿で、こんな表情を向けられたら普通の女性ならひとたまりもない。


「でもお礼なら……キス、がいいな」


蓮の手が固まったキョーコの顎を捉えて、神々しい表情がふっと色めいた微笑に変化した。

至近距離での神々スマイルから、何故だか飛び出た次のセリフがソレ。


そういった方向に鈍いキョーコですら赤面フリーズする蓮の表情だったのに、その内容にキョーコは我に返り、顎にかかった蓮の手を振り払って噛みついた。


「おおおお、お礼を要求するって、どどどどういうことですかっ!?」

「………残念」


振り払われた手を引っ込めていつもの笑顔でクスリと笑った蓮に、キョーコはまたしてもからかわれたと憤慨する。


「お礼はそのカレーです!もちろん私のオゴリですのでどーぞ召し上がってください!」


蓮の前に置かれたのはカレーの皿。

キョーコに指差されて、蓮は改めて目の前に置かれた料理に目を向けた。


「あれだけ体を動かすお仕事ですもんね!お腹も減るでしょう?大盛りサービスは私の気持ちです」


言葉はまだちょっと怒った風ではあったが、僅かにはにかんだような微笑を含んだキョーコの表情。


「……………」


蓮は目の前に鎮座したキョーコサービス『大盛りカレー』とキョーコを交互に見つめ、しばし沈黙した。

ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D         



真夏の海のA・B・C…D -6-



日も落ちてビーチの遊泳時間も終わった夕刻、店の片づけを終えたキョーコはLMEホテルに向かって歩いていた。

遊泳時間が終わったとはいえ、ホテルからビーチに向かって夜の海の散策を楽しむ客はチラホラとおりホテルのロビーはある程度の人でにぎわっている。


「ねぇねぇ、君!」


ホテルの入り口で急に声をかけられたキョーコは、聞き覚えのない声と思いつつも足を止めた。


「はい?どうかされました?」


バイト帰りなのも手伝って道でも聞かれるかと思ったキョーコは営業スマイルでだった。振り返った先には見知らぬ男性2人。


「ここの周辺やさ、ホテルの中でもいいんだけど美味しいお酒と料理のお店知らない?」


笑顔を浮かべて見せる男たちはキョーコを頭からつま先まで値踏みするように見ているのだが、投げかけられた質問にキョーコは思考を巡らせておりそのことに気が付かない。


「ホテル内のバーはかなり評判イイって聞きましたよ?行ってみてはいかがですか?」


ホテルの社食かだるまやの賄で食事を取っているキョーコは、実際にはホテル内の飲食店の味は知らない。しかし海の家だるまやのバイトとはいえホテル所有のビーチで営業している以上、客から見たらホテル側の人間だ。ホテル内の施設について基本的な知識は確認し頭に入っている。把握している情報を引っ張り出して、バイトの延長線上の感覚で男たちの質問に返答した。


「ねね、じゃあさ!おごってあげるから一緒にいかない?」

「へ?」


思ってもみなかった男性の言葉に、キョーコは驚いて目を丸くした。


「こんな時間に一人でホテル周辺をうろついてるなんてさ、暇なんでしょ?食事の後もさ、俺たちと遊ぼうよ」

「そうそう、いいとこ連れてってあげるからさ」


男たちの表情に卑下た色合いを見出したキョーコは、ここに来てやっとただの道案内を頼まれたのではなくナンパだと理解する。


「え!?そう言う事なら、けけけ、結構ですっ!」

「またまたー!俺、君みたいな素朴で健康的な子、好みなんだよねー」

「でもさ、結構遊んでたりするんでしょ?こんなとこに一人でなんてさ」


とっさに周囲に視線を走らせれば、先ほどまでほどほどいた人の往来が切れておりホテルのロビーからもキョーコの居る位置は死角になっているようだった。

状況を理解し、焦りを感じはじめたキョーコの腕を男が強引に掴んできた。

その感触にざわりと不快感がキョーコの背中を駆け抜け、キョーコはその手を振り払おうと身を捩る。


「は、放してくださいっ!」

「いいじゃん。取って食うわけじゃないのに。傷つくな~、その反応」


本気で拒否の色を見せたキョーコに、男たちも引き下がれなくなったのかさらに強引に畳みかけようとした、その時。


「お客様、当ホテル内で強引なナンパはご遠慮ください」


突然降ってきた事務的な声に、男たちの動きが止まった。







「も~~~~!!なんでホテルの前でナンパなんかに引っかかってんのよ!」


キョーコの窮地を救ったのは、ホテルの制服姿の奏江だった。

奏江はだるまやの口利きでキョーコと同じ期間、夏季で混雑するホテルのロビーでの臨時バイトをしている。バイト上がりの時間部屋に戻ろうとしたところでホテル玄関先でナンパされているキョーコを発見しベルボーイをひきつれて助けに来たのだ。


「私が仕事上がりで制服のままで良かったわね!私服で助けに入ったら面倒なことになるとこだったし」

「モー子さん、ありがとう~~~!私、モー子さんのお嫁さんになるぅぅ!!」


あてがわれたツインルームで奏江がキョーコに説教を始めようとすると、キョーコはキョーコで奏江にぎゅーっと抱きついた。

いつもならひらりと躱す奏江なのだか、制服のネクタイを緩めている最中でキョーコのタックルをもろに受け止めるハメになった。


「も~、暑苦しいっ!着替えたいんだから離れてちょうだい!」

「いやよっ!もう男なんて信じられない!大っ嫌い~~~!!モー子さんがいい~~!」

「アンタが男が嫌いでもなんでもいいけど、私はレズビアンの趣味なんてないわ!」


なんとかキョーコを引き離した奏江は、『待て』を言い渡して部屋着に着替えてからキョーコに向き直った。キョーコはキョーコで大学生活で十分躾けられたおかげで、奏江の『待て』がかかると大人し自分のベッドに座って待機している。


「だいたいねぇ、一人でいるとこに男複数が声をかけていたんだからちょっとは警戒心持ちなさい!」

「だってぇ…、こんな地味な女をナンパする男がいるなんて思わなかったんだもん…」


キョーコの言い分に奏江はため息を吐き出す。キョーコは飛び切り美人の類ではないが、それにしても自己評価が低すぎる。それはそれは自分が女だという自覚が全くないのではないかと思うほど。


「敦賀さんといい、あの男たちといい、私をからかって遊ぶのもいい加減にしてほしいわ」


奏江の差し出したお茶のペットボトルを手に取って、キョーコはぶつくさと文句を言いだした。

キョーコの口からこぼれた人名に奏江は眉間の皺を深める。

1週間位前からキョーコから聞かされる愚痴の相手の名前…『敦賀さん』。


キョーコが海で溺れて救助された事は、その日のうちにキョーコのバイト先の女将さんから聞かされていた。

きっと怖い思いをしただろうから部屋でついていてやって欲しいと連絡をもらって、その日奏江は自分の仕事を早く上がらせてもらってキョーコが休んでいる部屋に戻った。

しかし溺れて一時は気を失ったらしいキョーコはすこぶる元気で、なぜだかずっとブツブツと顔を赤くしたり青くしたりして意味不明な文句を並べたてていた。そんなキョーコの様子に奏江は脱力したのだった。


その日からキョーコが並べ立てる愚痴の相手は、次第に特定の男性に向けたモノだと理解していき、最近はその男の名前まで知ることになってしまった。


「んで、ナンパ男はいいとして、今日も今日であのストーカー来たんだ…」


自分を救助したライフセーバーになぜだかモーレツなアプローチを受けているキョーコ。

相手はキョーコに一目惚れしたらしく、それから毎日だるまやに通いつめキョーコにアタックしているらしい。

奏江自身は興味はないが同じフロント業務についているお姉さま方がイケメンライフセーバーがいると騒いでいる人物とキョーコのストーカーが同一人物だと知ったのは、キョーコの口から名前を聞くようになったここ数日の事だ。


最初は状況だけ聞いて、顔のイイ男がちょっとからかったキョーコが自分に落ちなかったことにムキになっているだけかと思っていた。

しかしつい数日前の休みに遊びに行っただるまやで蓮に遭遇した奏江は、キョーコが『からかっているだけ』と思っている蓮がキョーコに本気で堕ちていることを知ることになる。


手にも入れていないのに…むしろ信用すらされていないのに、あの男は親友の来店を満面の笑顔で歓迎するキョーコを見て、自分に対し嫉妬の目を向け胡散臭い笑顔で圧力という名の挨拶をしてきたのだ。


さらさら応援する気も義理もないのだか、自分の親友のその手の迂闊さや鈍さも良く分かっている奏江は、キョーコのフルスイング振りに実らないアプローチを行う蓮を面白おかしく想像し迂闊な自分の親友を叱りつけるが日課になりつつあった。


「聞いてよ!ひどいのよ、他のお客さんのいる前で私とキスしただとかなんだとか!誤解を与えるようなこと言ってきて!あれはキスじゃなくて人工呼吸だって私が言ってるのに屁理屈言って!私はあれがファーストキスだなんて認めないんだから!」

「アンタそれ、店内で同じセリフ叫んだわけ?」

「そしたらひどいのよ!無表情でじっと見てて!きっとこの年でファーストキスとか云々言う私を面倒な女とか思ったんだわ」


と、いうことは。

キョーコはキスと認めなくても、キョーコの唇は今までそういった意味での接触は未経験というわけで…


「……アンタ、過去の愚かな経験から恋愛はしないって言ってたじゃない?だったら別にファーストキスにこだわらなくても…」


きっと固まったのは『面倒』とか『呆れた』とかそういった事柄じゃないわよね、あの男の場合…と奏江は思った。


「こだわるっていうか私はもう二度と恋なんて愚かなことはしないと誓ったんだから!だから私は一生綺麗なままで人生を終える予定なの!穢されてなるもんですか!」


修道女の様な貞操観念のキョーコは、特別な相手に捧げる為ではなく誰にも許さない意味でこだわっているのだ。


「ま、人命救助の人工呼吸なら神様だってキスだとは言わないわよねぇ。アンタがファーストキスと思ったものがファーストキスでいいんじゃない?」


キョーコが救助された日、再度意識を失った原因を知って言う奏江は相手はキョーコのファーストキスを貰ったと思っているかもしれないけど…とも思ったが、面倒なことになるので口にしなかった。


「だーかーらー!私には一生ファーストキスは来ないの!」

「はいはい、分かった分かった」


今日のやり取り思い出しているのか、顔を真っ赤にして怒りながらだんだん声の大きくなるキョーコをなだめつつ、奏江はもともと礼儀正しいキョーコをここまで怒らせる相手に感心してしまう。

どんな相手であれ恩義があればきっちりお礼をするようなタイプなのだ、自分の親友は。そしてどんな相手であれ、バイト中に接する『お客さん』に対してこんな砕けた態度を取る事すらいつものキョーコからはちょっと信じられない。


「それにしてもホントすごいわねあのストーカー。アンタの事だから、最初は敦賀さんにちゃんとお礼を言ったり挨拶したんだろうけど。そんなアンタにここまで言われるようになるなんてさ」


「………え?」


奏江の漏らした感想に、キョーコはそれまでの勢いを失って停止した。


「……?キョーコ?」


当然自分の言葉に同意し蓮に対する罵詈雑言か愚痴が並べ立てられると思っていた奏江は、急にフリーズしたキョーコに怪訝な顔をした。


「モー子さん…今、なんて…?」

「?あんたにここまで言われるようになる敦賀さんってすごいストーカーよねって」

「ちがう、その前」

「…は?」


ここ数日繰り返されていた話題のはずが、奏江はキョーコの意図するところが全く分からない。


じーっと自分を見つめてくる奏江の視線に気まずそうに視線を逸らした後、キョーコは『はぁ~~』と大きくため息を吐き出した。