泉の言葉通り、進化の解けた少年は輝二にしか見えなかった。
アグニモンが拓也に戻って、そのそばに歩み寄る。
「おい輝二、お前なんでこんなこと。ヴォルフモンのスピリットはどうしたんだよ」
「……違う」
その声は倒れた少年の口から出た。
「俺は、輝二じゃない。あいつなんかと、一緒にするな」
吐き捨てると、肘をついて起き上がる。拓也がゆっくりと後ずさった。
少年はふらつく足で立ち、大輔達をにらむ。目が合った瞬間、大輔の背筋が冷えた。
飲みこまれてしまいそうな、黒く暗い目だった。その奥に揺らめいているのは、憎しみ、いや、怒り?
「あなた、渋谷駅にいた……!」
ヒカリが息をのむ。昨日の晩に話してくれた少年のことか。ヒカリが彼を「怖い」と表現した意味を、大輔も理解した。輝二の目が澄んだ湖なら、この少年のは夜の海だ。似ているようで、本質が全く違う。
とにかくヒカリちゃんの前で、ひるんでるわけにはいかない。
大輔は腹の底に気合いを入れて、一歩踏み出した。
「色々聞きたいことはあるけど、まずさっきの話を詳しく教えてくれ。俺が誰かを封印したのが原因だと言ってたよな」
「2002年の冬。お前達の時間で言えば半年後だ」
少年は膝に手をつきながら答えた。
「半年後――ってことは、未来から来たって言うの?」
「そんなところだ」
説明させたければ力ずくでと言った手前、少年は素直に肯定した。
「なるほど。封印される前の時間に干渉して、選ばれし子ども達が弱いうちに倒そうと企んだのか」
テイルモンの指摘に、少年が片頬を上げた。あざけりの笑みだった。
「倒す? 消去するって言った方が正しいな」
「どういう意味だ?」
拓也が疑問をそのまま口に出した。
「倒すだけなら、十闘士の世界まで巻き込む必要はない。世界を融合させることで厄介な存在のいない世界に作り変える。それがデーモン様の目的だ」
「世界が混ざると、俺達がいなくなる?」
マグナモンはわけが分からない、というふうにつぶやいた。もっと詳しく聞き出そうと、大輔は口を開いた。
「ダスクモン、お前が負けた分の対価ならそれくらいで十分じゃねえか?」
新たな声が空から降ってきた。デジモンが一体下りてくる。杖を持った、細い骸骨の姿をしている。見た目も言葉の内容からも、大輔達の味方とは思えない。
大輔達が警戒する中、そのデジモンは少年の横に着地する。少年は自分の二倍近く大きいデジモンを、無表情に見上げた。
「別にいいだろう、スカルサタモン。真実を知ったところで、奴らに俺達を止めるだけの力はない」
「まあ、そりゃそうだけどな」
スカルサタモンはくつくつと笑ってから、話を変えた。
「ここに天使デジモンが近づいてるぜ。俺達にはさすがに分の悪い相手だ。退くぞ」
そう言って杖を掲げると、二人の背後に紫色のもやがにじみでて、ゲートが開いた。その向こうには人間世界らしきビル街が見える。
「逃がすか!」
「ああ!」
大輔の声に答えて、マグナモンが地を蹴った。素早く二人に迫る。
スカルサタモンが振り向き、杖の先を向ける。
「お前はこれでも食らいな! 《ネイルボーン》!」
杖先の宝玉から黄色の光線がほとばしった。命中したマグナモンの体が電撃に包まれる。直後、突然地面に崩れ落ち、苦しみだした。
「ぐ、ああっ!?」
「マグナモン、どうしたんだ!」
パートナーの異変に、大輔が駆け寄る。
マグナモンの体が白く輝き、進化が解けた。奇跡のデジメンタルが大輔の顔面に飛んでくる。
「うわっ!?」
大輔は思わず両腕で顔をかばった。カシャン、という音と共に左手首に微かな重みを覚えた。
目を開けてみると、自分の腕に青い金属製のブレスレットがはまっていた。親指くらいの太さで、金色で奇跡の紋章が刻まれている。
とっさにつかんで外そうとする。
「何だこれ、取れねえっ!」
泉が倒れているブイモンを助け起こした。スカルサタモンに向かって叫ぶ。
「ブイモンに何をしたの!?」
「デジメンタルの力を封印したのさ。これでもう奇跡のデジメンタルは使えない。前に痛い目に遭わされたお礼だ。と、こう言ってもお前らには通じないんだったな」
そう言ってスカルサタモンはゲラゲラと笑った。
「待て! お前らにはまだ聞きたいことがあるんだ!」
ブレスレットをつかんだまま、大輔がなおも詰め寄る。少年が「しつこいな」と舌打ちした。
「そんなに知りたければ、俺達を追って現実世界に来るといい。嫌でも俺の言葉の意味が分かるだろう」
少年とスカルサタモンがゲートの向こうに去る。大輔がそれを追おうとしたが、たどり着く前にゲートは消えた。
「現実世界……」
拓也がぽつりとつぶやいた。
「拓也お兄ちゃん!」
「泉ちゃん!」
懐かしい声が聞こえたのは、それからすぐの事だった。呼ばれた二人が、すぐさまそちらに目をやる。
小柄と大柄の子どもが森から駆け出してきた。
「友樹!」
「純平!」
四人は笑顔で再会を果たした。
更に、友樹と純平の後ろから青い鎧と十枚の翼を持つ天使型デジモンが現れた。ヒカリが目を丸くする。
「テイルモン、あれって確か」
「ああ。前に一度だけパタモンが進化したデジモンだ。名前は、セラフィモン」
大輔も覚えている。ブイモンとグミモンに進化の力を与えてくれたデジモンだ。
拓也は友樹達とセラフィモンを見比べた。
「友樹、俺達が知らない間に何があったんだ? このデジモンは?」
「うーん、話せば長くなるんだけど」
「だったら、セラフィモンの城に戻って話そうぜ。敵もいなくなってるみたいだし。いいだろ?」
純平が聞くと、セラフィモンも頷いた。
「ええ。案内しましょう」
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なんでこんなにマグナモン無双してたって、彼の出番今回で最後だからです(苦笑)さようならマグナモン。君の勇姿は忘れない←
今更ですけど、02とフロンティアって、同じ2002年を舞台にしてるんですよね。02は前作1999年の3年後で、フロは放送が2002年ですから。(フロの作中で2002年とは明言されていませんが、多分放送時と同じ)
※読み返してて気づきました。テリアモンじゃないよグミモンだよ! あれはグミモンなんだよ! ……訂正しておきました。すごくどうでもいいところでミスってる。