2024年は、何と言っても『ベイビーわるきゅーれ』の年だった。
仕事も私生活も慌ただしく、コンテンツに触れる機会が以前より減った中ではあるが、『ベイビーわるきゅーれ』の作品群が2024年に最も楽しんだコンテンツだ。
9月に公開された映画の『ナイスデイズ』、翌月に公開されたドキュメンタリー、それと前後してドラマ放映された『エブリデイ!』。
ドキュメンタリーを観て遅ればせながら知ったことだが、『ベイビーわるきゅーれ』のシリーズは『ある用務員』という映画から派生して生まれたようだ。
他でもなく、筆者が阪元裕吾監督の作品のファンになったきっかけである、2021年の作品だ。
『ある用務員』のパンフレットの中で、坂本監督は以下のように語っていた。
「映画の学校に通っていたころ、プロデュースの授業で『君たちのオリジナル企画はもう映画業界には必要ない』といわれました。
それでもオリジナルの企画を書くことはやめませんでした。」
この矜持を貫き通し、2024年の作品群でも阪元監督をはじめ作り手達が「オリジナル且つ日本ならではのアクション作品を作る」ということに挑み続け、そして長年のチームワークによって着実に進化していること、作品内のキャラクターも年月を経て成長していることを突き付けられ、どれも観ている間中ずっと涙が止まらなかった。
ところで、2021年に『ある用務員』を観た際に思い起こした映画がいくつかある。
そのうちの一つが『カメラを止めるな!』(2017年公開)だ。
いずれも、決して有名ではない作り手がオリジナルの作品を監督・脚本した作品で、社会現象になる兆しを感じさせ、後に実際に社会現象になった。
同じことが2024年にも起こっている。
『侍タイムスリッパー』の大ヒットだ。
同作は制作費2600万円の自主映画で、 8月に池袋シネマ・ロサで単館公開され、口コミで評判が広がり、全国100館以上で公開されることになった。
『カメラを止めるな!』もまた、池袋シネマ・ロサを含む2館で公開され、その後全国に広がった作品だ。
製作費300万で破格の低予算だったが、『侍タイムスリッパー』は時代劇のためセット等で費用がかかっているとはいえ、それにしても映画としては破格の低予算である。
『侍タイムスリッパー』は映画に関する映画である。
ストーリーとしては、主人公である幕末の侍が時代劇撮影所にタイムスリップし、「斬られ役」として活躍するというコメディだ。
主人公は斬られ役としての活躍によって重要な役を任されることになるのだが、それを見て第三者が言うセリフが、本作が体現している哲学を物語る。
「頑張っていれば誰かが見ていてくれる、って言うけど、あれは本当だね」
それはすべてのクリエイター、更にはすべての職業人の背中を押してくれる作品であった。
筆者が2017年に『カメラを止めるな!』を劇場で鑑賞した際は口コミを広める側だったが、『侍タイムスリッパー』については口コミで知った側だった。
それ自体が、筆者の仕事や人生のフェーズの変化を物語っており、寂しいやら嬉しいやら複雑な気持ちになる。
ちなみに、鑑賞者の間でも意見が別れる終盤の展開に関しては、阪元作品を愛する身としては「映画における”リアルな”アクションとは何か」という点で異議を唱えたい気持ちではある。
2024年は、日本のコンテンツに関して様々なニュースがあった。
一例を挙げれば、アカデミー賞では『ゴジラ-1.0』や『君たちはどう生きるか』が受賞し、筆者が敬愛する真田広之氏が主演したドラマ『SHOGUN 将軍』はエミー賞を受賞した。
いずれも華々しいニュースだが、そのような華々しいニュースの陰には『侍タイムスリッパー』の大ヒットのように、影に隠れた沢山のニュースがある。
更に言えば、ニュースにすらならなかった無数のクリエイター達がいる。
そんなクリエイターの存在があればこそ、素晴らしいコンテンツが世に届けられ、私達の人生が豊かになる。
クリエイターに、心からの賛辞と感謝を送りたい。
さて、年が明けて2025年、劇場で最初に鑑賞したのは入江悠監督の『室町無頼』、香港映画の『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』と、いずれもアクション映画だ。
20代の頃のように平日に観ることができなくなったため、週末に連続で鑑賞した。
『室町無頼』では『侍タイムスリッパー』と同じく清家一斗氏が殺陣を監修している。
また『トワイライト・ウォリアーズ!九龍城砦』では直近3年で筆者にとっての「新年一発目映画」である『レイジング・ファイア』(2022年)、『シャクラ』(2024年)と同様に谷垣健治氏がアクション監督を務めている。
いずれもアクション作品としては素晴らしい。
ただ、筆者の好みである「キメ」(歌舞伎等の伝統芸能における「見栄」のようなものだと思っている)という点で、『トワイライト・ウォリアーズ!九龍城砦』が圧倒的に充実していた。
更に、『トワイライト・ウォリアーズ!九龍城砦』では新旧の香港アクション映画スターが勢揃いし、さながらOBも参加する新年会の様相を呈していた。
数多く登場するキャラクターを「戦い方」で差別化してみせる谷垣健治氏の手腕も見事だ。
人間、生きていれば色々なことがある。
それでも、何はともあれ新年くらいはおめでたい気持で迎えたいものである。
おめでたい気持ちになるに当たり、アクション映画は格好の材料を与えてくれる。
2026年もめでたく迎えられたらと思う。