2022年の映画初め(年が明けて最初に映画館で作品を観賞すること)は印象に残っている。

正確な日付は覚えていないが、午前中に『レイジング・ファイア』、午後は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を観賞した日だ。
調べ直してみると前者が2021年の12月24日、後者が2022年の1月7日に劇場公開されているので、1月の上旬のことであるように思う。

『レイジング・ファイア』は、『イップ・マン』シリーズや『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』でお馴染みのドニー・イェン主演の香港アクション映画だ。
ストーリーは、警察の元同僚同士が、運命のいたずらで後に敵対することになって戦うという、筆者にとって大好物のものだった。
「香港アクション映画」と書いたがカンフーアクションではなく、ドニー・イェンの総合格闘技的なアクション、強さを堪能することができた。

 

 

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の方は、要素を挙げていくと切りがないがとにかく最高だった。
サム・ライミ監督・トビー・マグワイア主演の『スパイダー・マン』の1作目が公開されたのは2002年。
10歳前後の時、当時の友達と一緒に地元の映画館で本作を観賞したのが、筆者にとって親抜きでの初めての劇場体験だった。
それ以来映画、特にヒーロー映画が好きで、マーベル映画にしてもすべて映画館で観賞し続けてきたことが、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』によって全肯定された気持ちになった。
2022年の映画初めは非常に縁起がいいものだった。

 

 

2023年は、年明けに体調を崩してしまい外出がままならなかったことや、テンションの上がる大作映画があまりなかったこともあり、家で配信作品を観賞することが多かったが、1月も終わりに差し掛かってようやく映画館に行った。
例によって1日で2本立てである。

1作目は『非常宣言』。
飛行機の中でバイオテロが発生するというパニック映画で、ソン・ガンホとイ・ビョンホンという2大スター共演の韓国映画である。
航空自衛隊の戦闘機が成田の上空で民間機相手に威嚇射撃をするような、所謂「ツッコミどころ」「トンデモ描写」が多かったり、登場人物の行動原理がいずれも「自己犠牲」に寄り過ぎていたりする点は気になるが、年明けに観賞するには打ってつけの娯楽作だった。
しかも、娯楽作であるにも関わらず、昨今世界中で起こっている拡大自殺や、飛行機の受け入れ(着陸)を巡る世論の分断を描く、といったような新しい試みを欠かさない韓国映画の力を見せつけられた。

 

 

続いて観賞したのは『カンフースタントマン』。
香港アクション映画のスタントマン達に関するドキュメンタリー映画である。
前半は、京劇に始まる香港カンフー映画の歴史が描かれる。
第一世代のサモ・ハン、実戦性を持ち込んで変革を起こした(なのに大きな軋轢を起こさなかったのは人格故と思われる)ブルース・リー、第一世代の系譜でコメディと「本当にやる」とうことを極めたジャッキー・チェン。
 

これらのキーパーソンの存在も確かだが、香港映画の成功の裏には、画面に顔も映らない、名も知られない幾多のスタントマン=ヒーロー達の存在があったことがわかる。
親や友達と映画館に行くようになるより前、テレビで『酔拳2』を初めとした香港映画を楽しみに観ていた筆者にとって、感謝してもし切れない。

後半は、香港映画が現在では冬の時代を迎えていることが描かれるのだが、作り手達が後進の育成やワイヤの活用、安全策に取り組んでいるらしいことはなんとなく伝わってくるとはいえ、かつての黄金時代から冬の時代に至る背景と、それによって引き起こされた具体的な変化があまり説明されなかったのは残念なところ。
「もう30分短くてもいい」と思う映画は多々あれど、「もう30分長くしてほしい」と願う映画は稀で、上映時間が1時間32分しかない本作は紛れもなく後者である。

 

それでも、現在の作り手として俳優だけでなく監督も務めるドニー・イェンが登場し、自身の作品に中国武術だけでなく総合格闘技を取り入れたことを語ったのは、我が意を得たりという気持ちになった。
2022年の年明けに観賞した『レイジング・ファイア』を、1年越しで改めて香港映画の系譜の中で捉え直すことができたのである。