本記事は、Netflixの『サンクチュアリ』をきっかけに訪れた個人的な相撲ブームに関する後日譚である。

 

小説、映画、ドラマに漫画と相撲関連のコンテンツを漁ったことは前の記事に書いたが、その後読んだ『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』は想像よりよかった。
様々な競技において最高のパフォーマンスを発揮できる身体を作るための食事について書かれた本で、一章がずばり「相撲とちゃんこ」。
ルポルタージュにしては書かれている内容に既知の事実も多いが、伝統(相撲の稽古=全身を連動させる武術的な鍛錬、ちゃんこ=自然食に連なるもの)とスポーツ科学(筋トレ=筋肉の部位毎の鍛錬、プロテイン・サプリメントに連なるもの)が二項対立でなく相互補完的なものとしてバランスよく且つ平易な文章でまとめられている。
食事、運動、そして休養をしっかり意識して身体をつくりたいと思わせてくれる本だ。
 

というのも、30歳を過ぎてから食事や運動の質量に対して露骨に身体が反応するようになっている。
20代の頃は思うがまま暴飲暴食しても身体への影響はそれほどなかったが、現在では揚げ物を食べると肌が荒れる、仕事が忙しくて運動不足になるとすぐに太る、首や肩が痛む等々、身体を労わることを意識しなければならない年齢に入ったらしいからだ。
実際、『サンクチュアリ』の影響で相撲の稽古を自主トレに取り入れたことに加え、本書を読んだことでちゃんこを意識して鍋料理を多く食べるようにした途端に心身の充実度が変わった。
鍋料理自体は昔からよく食べていたが、改めて相撲部屋の食べ方を真似て白米と一緒に食べてみると、確かになかなかこれが合う。
忙しくても調理に手間がかからないし、翌日は余った汁や野菜にうどん・そばの麺を入れて食べても飽きずにおいしく食べられるので経済的でもある。
今後は更に科学的なトレーニングや栄養摂取についても学び、実践してみたいと思う。

本書は更に、スポーツ界に見られる勝利至上主義や過剰なストイシズム、男性中心主義へのカウンターになっていて、「今読むべき本」である。

 

 

映画『シコふんじゃった。』の周防正行監督による小説版も読んだ。
ノベライズだと思っていたが、あとがきによれば本書はノベライズでもなければ映画の原作でもなく、映画の制作と同時並行的に書かれた作品である。
展開としては基本的には映画と変わらないが、小説の特性として登場人物の心情が直接的に描かれるだけに、映画版以上に女性蔑視や同性愛蔑視が顕著だ。
特に、土俵の外での女性蔑視が酷く、ジジイが若い女性の尻を触るくらいは愛嬌、触られる女性の方もにこやかにやり過ごすのが当然のこととして描かれている。

映画・小説時代には大学院生だった夏子は、このようなセクハラの被害者であり、舞台である教立大学相撲部の”名誉”マネージャーとしてサポート的な振る舞いに徹している。
一方で、小説には夏子が「女だからではなく、同志だから」食事を作る等のサポートをしているのだという名台詞もある。
更にディズニープラスのドラマでは教立大学の教授になった夏子が相撲部復興の上で重要な役割を果たしており、見比べてみると感慨深い。

ちなみに、映画にもあったシーンだが教立相撲部の面々がわんぱく相撲の選手、すなわち子どもと相撲を取らされ、なめてかかったところあっさりと敗れることで自らの弱点に気付かされるというシーンは、漫画『火ノ丸相撲』におけるの桐仁の初登場シーンのモチーフになっていると思われた。

 

 

フィクションのみならず、遅く取った夏休みには家で酒を飲みながら大相撲千秋楽のテレビ中継を観た。
仕事のため平日は観られず、土日の取組である初日、中日、千秋楽のみを観ることになったが、千秋楽にして若元春(関脇)という「推し」をようやく見つけたので、今後は推し活としても楽しみたい。来年の一月場所こそはチケットを取って国技館に行きたいものである。

また、Netflix、映画館でアクション作品を浴びるように観賞し、酒と戦い(観るだけだが)に明け暮れた夏休みだった。

Netflixでは『コンフィデンシャル 共助』(韓国のアクション映画)、『ベイビーわるきゅーれ』(日本のアクション映画)、『ケンガンアシュラ』(格闘技のアニメ)のシーズン2、映画館では、『コンフィデンシャル 国際共助捜査』、『グランツーリスモ』、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を連続観賞した。
 

この並びで観ても、『ベイビーわるきゅーれ』もとい阪元裕吾作品、並びに登場する俳優陣は世界にも引けを取らないと感じた。
引けを取らないどころか、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でドニー・イェンが演じる殺し屋は盲目+得物は仕込み杖という組み合わせからしてモチーフは明らかに座頭市、後で知ったことだが真田広之が演じるキャラクターの名前の由来は本作においてアクション監督も務める川本耕史、真田広之の娘役のスタントダブルは阪元裕吾作品でもお馴染みの伊澤彩織と、これはもう日本のアクション映画と言っても過言ではないだろう。

『シコふんじゃった』シリーズを観た後だから、という訳でもないが『コンフィデンシャル』シリーズのジェンダー描写は気になった。
登場人物のうちミニョンは、演じている少女時代のユナがめちゃめちゃチャーミング且つコミカルなのでなんとなく笑えてしまうものの、本質的には「色仕掛けで男性を誘惑することで幸福になろうとする女性」、「男同士のライバル心や嫉妬心、そしてトロフィーとしての価値によって奪う・奪われるの客体」のように見えてしまい、いかがなものかと思う。
シリーズが続くのであれば、『シコふんじゃった』シリーズの夏子同様、ミニョン自身の活躍を描いてほしいものだ。

『サンクチュアリ』をきっかけに、相撲や相撲関連コンテンツにまみれた熱い夏だったが、朝晩が冷えるようになってきた今、個人的ブームとしての相撲は終わろうとしている。
かといって興味がなくなった訳ではない。
今後も自主トレとして四股踏み・摺り足・テッポウは続けるし、これから訪れる本格的に寒い季節こそ鍋料理の出番である。
相撲への興味はブームを超えて習慣として自分の中にインストールされている。

ちなみに、『ジョン・ウィック』シリーズにも『ケンガンアシュラ』シリーズにも力士は度々登場するが、残念なことにすぐに負けるか殺されており、あまり格好いい描き方がされていないのが残念である。
大相撲を観ていると、本物の力士の実力と迫力はフィクション作品であっけなく敗れ去るキャラクターとはまったく異なることがわかる。
フィクションにおいても、本物のように強い力士が登場することを心待ちにしている。