様々な小説作品が好きな筆者にとって、藤井太洋氏もまた敬愛する作家の一人である。

取り上げられるテーマは作品毎に異なるが、いずれも舞台は現実の日本社会や世界と地続きになっている。

筆者にとっての作品の魅力は大きく分けると二つある。

一つ目は倫理観だ。

作品の舞台となる社会では、現実と地続きなだけあって、様々な差別やヘイト、合理的な根拠のない誤解や偏見で満ち溢れている。

そのような社会において、主人公を主人公たらしめている素質が「倫理的であること」だ。
そして、主人公が「倫理的であること」が読んでいて非常に心地が良く、それ自体がエンターテイメントになっている点が素晴らしい。

主人公だけではない。
悪事を企んでいたかに見えていた人物も、対話をしてみれば邪な動機はまったくなかったり、たとえあったとしても考えを改めたりする。

いずれの作品においても、最終的に情報をオープンにすることや、その上で対話や議論を重ねるという展開に着地する。

登場人物のような人達と現実において仲間になれるのであれば、この先の未来も暗いことばかりではないというほのかな希望を感じることができ、「情報をオープンにして対話や議論を重ねる」というのは本来の民主主義の姿であって、そのような社会を実現しなくては、と叱咤激励される。

 

 

もう一つの魅力はシンプルな見せ場があることだ。

主人公やその仲間達は、パルクールやロードバイクといったようにいずれも特殊な技能やツールを使いこなす。
それによってある地点から別の地点へ「移動すること」が作品上の見せ場になっている。

最新作である『第二開国』でも、二つの魅力が存分に発揮されている。
ちなみに移動手段はシーカヤックと伝統的な手漕ぎの漁船だ。

見せ場があるということは、映画好きでもある筆者にとって重要なポイントだ。
ストーリーの進行だけでなく外見的な見せ場があり、両者がしっかりリンクするということはいい映画の必須条件だからだ。
藤井太洋氏の作品はいずれもその点を押さえているので、いつの日か映像化されることを願ってやまない。