2010年の2月中旬に受験したTQE「金融・経済」英訳の出題は「金融危機とジャパン・プレミアム」と題する内容で東大大学院経済学研究科の教授の論文から出題された。「法務・契約書」とは異なり原稿にトラップは見当たらなかったが、最新の経済事情や金融用語の訳語を知っておくか、または調査する能力が問われる難解なものだった。
金融英語の文体については、法務・契約書の「~するものとする」の shall というわけもいかず以前紹介した参考書の文体を参考としたが結局自分なりの正解を見いだすことができなかった。やはり最新の英字新聞などを読んで文体に慣れておく必要があったように思う。2010年4月に発表された結果は69点。1点に泣く結果となった。
2010年以降、S社からは(公財)北九州国際技術協力協会(KITA)の環境案件が多数入るようになった。これはKITA経由でJICA北九州にて実施される外国人研修生に対する研修テキストの英訳をS社が一手に引き受けていたからで、公害克服都市である北九州の環境対策関連の内容が多かった。
それと前後して日本製鉄㈱関連の案件でCDQと呼ばれる設備関連の論文の英訳が入ってきた。CDQ(Coke Dry Quenching)とは「コークス乾式消火設備」のことで、コークス炉から出てくる赤熱コークスを搬送に適した温度まで冷却する設備をいいその際に赤熱コークスの顕熱を回収して発電や蒸気に利用する省エネルギー設備を指す。こちらも環境に配慮した(environment-friendly)設備であり工業・技術英語も次第に深みにはまっていった。
その当時TQEに「環境」分野も追加されており「環境」科目の英訳の受験も視野に入ってきた。「法務・契約書」⇒「金融・経済」⇒「環境」という英訳専門翻訳者としての道筋が見え始めていた。
一方で、サン・フレアから2010年春、ある案件の募集があった。「京都プロジェクト」というものである。これはWikipediaに掲載されている京都に関連した語句を片っ端から英訳してゆくというもので、単価は安いが次々に案件が入りスピーディな英訳の練習のつもりで応募した。
京都に関連した歴史上の人物や、京都および京都周辺の寺院や施設などに関する記述の英訳を随時こなしていった。英訳の方向性が別の分野にも拡がりつつあった。
そんな2010年の5月中旬、S社のGさんからある依頼があった。「S社にオンサイトで詰めて翻訳をしてくれないか!?」というものだった。業務内容は英訳および英訳のチェックが中心、報酬は出来高ではなく時給だという。
確かに工業・技術英語やコーディネーションを学ぶチャンスではあるが、一方でサン・フレアの法務案件やサイマルの金融案件に対応できなくなる可能性もある。「さて!どうしたものか?」と悩んだ結果、とりあえずS社に詰めてみることにした。
これが私の翻訳者としての一つの分岐点となった。