セリヌンティウスの舟 著:石持浅海
セリヌンティウスの舟
- 石持浅海:著
光文社 ISBN:4-334-07621-1
2005年10月発行 定価800円(税込)
既存のお約束ミステリーから脱却しながらも、良質な本格推理小説をコンスタンスに発表する石持浅海…何冊か作品を読んでいるがどれも面白いものばかりだ。今回は海で遭難しかかった、スキューバーダイビングのダイバー仲間の友情を題材とした物語。
石垣島のダイビングツアーで、九死に一生を得た6人のダイバー仲間。その事故をきかっけに強い絆で結ばれ、その後もダイビングを通じて交流を続けていたのだが…メンバーの一人、米村美月が、あるダイビングの打ち上げの夜、会場になったメバーの一人の自宅マンション、同じ部屋で寝ている仲間の前で、青酸カリを飲んで自殺を図った。警察の捜査では事件性はないと判断されたのだが…残されたメンバーは四十九日の法要で久しぶりに再会し、彼女の死について色々と語り合う中で、ある不審な疑問に直面し…議論を交わし始める。
ちょっと前に話題になった映画で、実際のダイビング事故を扱った「オープン・ウォーター」という、クソつまらない映画があったけど、ああいう極限状況から生還した人たちのその後のお話だよね。普通の人たちの友情なんかとは、比べ物にならない程の結束力。
読んでいるこちらとしては、真っ先に…“本当は殺人事件なんじゃないのか?”という疑問が浮かぶのだが、死ぬか生きるかを一緒に体験した仲間だから、「それはない!」って、殺人の可能性なんか考えないのね。だけど…そこまで信じあえる仲間だったら、もしかしたら自殺幇助はするかもしれないということで…協力者探しが始まる。
昨年の“このミス”で上位に食い込んだ近作「扉は閉ざされたまま」のように、最初から犯人(この作品の場合は協力者)が提示されているわけではないのだが…ぐだぐだと推理の応報…否定、肯定を繰り返しながら地味に物語が進んでいくという感じは、なんか相通ずるものがあるか。
地味ながらも、計算高さが感じられた「扉は閉ざされたまま」に比べると推理小説としてのカタルシスが、あまり味わえず、いつもの石持作品に比べるとインパクトが薄いと思うのだが、最近は映像の方でも「LOST」とかさ、それこそ先に触れた「オープン・ウォーター」や「南極日誌」など、人間の極限状態を描いた物語って流行じゃない?人間の危うい心理状態を描いた物語として、色々と考えさせられる部分はあるかなと。
自殺の協力者を探すという部分ではフェアな伏線もあるが、勘の鋭い人なんかでは、その違和感で、きっとある程度、怪しいヤツのめぼしはつけられるだろう。この辺でもう一ひねりあれば、推理小説としての面白さももっと出ただろうに…。解明される真相、同期にも????がいっぱい残るのが残念。
個人的採点:65点
死人を恋う 著:大石圭
死人を恋う
- 大石圭:著
光文社 ISBN:4-334-73936-9
2005年9月発行 定価580円(税込)
なかなか100円コーナーに落ちてこなかったが、ようやく見つけた、昨年発売された大石圭の光文社文庫での書下ろし。過去に発表した短編をアレンジしたものなのだそうだが、そちら未読。女性の死体しか愛せない男の話。
自殺を決意した僕こと、石原は…車で人里はなれた山の中へ向かったが、目の前で別の集団自殺を図るグループと遭遇。そのグループにいた一人の少女の美しさに魅了されてしまった石原は、彼女たち全員が死んでいるのを確認すると、自分の自殺は取りやめて、その少女の死体を車に乗せて、自宅に舞い戻ってしまった。そして、その女性の死体を裸にし…交わってしまう。生きた女性との経験はない石原は、快楽に溺れていく。しかし、翌日、彼女の死体には異変が…。
何年か前に…洋画で「キスト」っていうのがあったよね。死体好きの女性が、男性の死体とセックスするという衝撃的な映画だったけど、その男性版。いわゆる死体愛、死姦を題材にしたお話。いつものように、物凄くオタクで変態な主人公なんだけど…何故か大石圭が描くと、微妙に共感できたり、親近感を抱いてしまうから不思議。さすがに、ここまでのことはしないけどさ…人間誰しもどこかに隠し持っている、屈折した欲望みたいなものを、チクリと刺激してくるんだよね。高校時代の同級生を思い出して欲情してみたりさ、人には大きい声じゃいえないけど、なんだか理解できる。
小説本編以上に…あとがきで作者が語っている、小説を書く切っ掛けにもなっている同級生の死で感じた正直な思いが、なんだか妙に生々しい。
最初は偶然だったが、次第に死体愛への欲望がエスカレートしていき、計画的な犯行に至ってしまう。何度か、女性の死体・遺体を入手するのだが、その方法がワンパターンになっていないところなんては、さすがで…小説としての面白さがしっかりと味わえる。
主人公の変態的な思考がどんどん変わっていく様、新しい犯罪に手をかけてしまう心理状態なども面白いのだが…それと対になって、社会現象にもなっている自殺サイトの問題も描かれている。最近は、世の中でも変態的な女性監禁事件とかさ、いっぱい報道されているけど…自殺サイトなんてを頼ってしまう弱者につけこんだ犯罪が出てこなければいいなぁと思う次第だ(なんか、そんな事件なかったっけ?)自殺サイトへの警告や批判の意味も含まれているのだろう。
個人的採点:70点
愛と悔恨のカーニバル 著:打海文三
愛と悔恨のカーニバル
打海文三:著
徳間書店 ISBN:4-19-861654-X
2003年3月発行 定価1,785円(税込)
猟奇殺人と倒錯した愛の形を描いたミステリー、打海文三の「愛と悔恨のカーニバル」を読む。実は、この作品に出てきた主要キャラクターの何人かが活躍する、前日談的な物語があるのだそうだが、そちらは未読。事件の主軸としては、別個の物語なので、読んでいなくても支障はなかったが、キャラクターを読み解いていくには、過去の作品も色々と重要そうだ。
予備校に通う戸川姫子は…小学生の時の同級生、田村翼と偶然、再会し…お互いに惹かれ合っていく。両親を早くに亡くしている翼には年の離れた姉、むぎぶえがいるのだが、子供の頃は姫子も姉のように慕っていた。そんな翼が、トラブルに巻き込まれて失踪…。そして姫子と深く関わりのある探偵社アーバン・リサーチが何故か翼を追いかけていた!実は、姫子が再会する前に翼が付き合っていた恋人が謎の失踪を遂げていたのだ。彼の行方を必至になって探す姫子の前に、翼の友人を名乗る男から接触が…。さらに翼が絡んでいるらしい連続猟奇殺人まで発生し、姫子は事件の渦中に巻き込まれていく…。
そんなに沢山の作品を読んだわけではないのだが、この人の描く、どこか倒錯した愛の物語が好きです。猟奇的で、暴力的で、淫靡なお話…なんだけれども、根はやっぱりラブストーリーなんだね。大人と子供、恋人、愛人、親子、仲間、追うものと追われるもの…その他作品に出てくる登場人物たちのどこか屈折した関係。それらがドライに描かれているんだけれども、ふとした瞬間に見せる深い絆だったり、愛情だったりのギャップが、読んでいて心地よい。
その反面、翼が犯罪に走っていく過程などで、やや物足りなさもあり、ミステリーとしての甘さが目立ったりして、他にも気になる点もあるんだけれども、ハードボイルド風の恋愛小説だと思えば、我慢できるレベルかな?文章や雰囲気で、一気に読ませちゃう作者のセンスでしょうね。面白かったです。
個人的採点:75点
裏山の宇宙船 著:笹本祐一
裏山の宇宙船
笹本祐一:著
朝日ソノラマ ISBN:4-257-01072-X
2005年6月発行 定価1,155円(税込)
「エリアル」シリーズの笹本祐一による、ほのぼの系のジュブナイル小説?1994年に前後編で発刊された文庫作品を、加筆訂正後に1冊の本としてノベルズ化したリニューアル版だそうで…オリジナルは未読。
とある田舎にある高山高校の「民俗伝承研究会」の会長・佐貫文は、部の存続をかけて、今度の文化祭で実力を示そうと、一人息巻く。そこで町に伝わる「天人伝説」をテーマに掲げたのだが、たった2人の部員、昇助と晶、そして何故か部室に入り浸っている先輩OBの一郎は真面目に取り合おうとしない。そんな時、台風の影響で文の自宅の裏山の一部が崩れ、その下から怪しげな物体が発見される。物知りの昇助は、宇宙船ではないかと指摘…天女伝説との関わりを指摘する。かくして、夏休みを利用し…宇宙船の発掘&調査がスタートしたのだが…。
確かに難しいSF的な専門用語も飛び出すのだが…キャラクターたちの漫才のような掛け合いが、とにかくおかしく、難しい事はあまり理解しなくてもいい感じ(笑)小説の中でも、事態をしっかり把握しているのは、天才少年な昇助くんだけであり…あとのメンバーはトンチンカンなことばかり言ってるので、読者もこのトンチンカンなメンバーと同じ気持ちで読んでいれば、作品を充分に楽しめるってわけです。
後半では猫型美少女な宇宙人とのファーストコンタクトの様子が描かれていくんだけど…読者を難しい言葉で煙に巻いて、説得する気は毛頭ないらしく、作品の中で物事をしっかり把握している昇助くんの言葉を借りて、なんでもかんでも、こうなんだって言い切っちゃうんだよね。だから、本当に都合よくポンポン話を進めてくれるので…けっこう読みやすかった。
ところどころ、今風の小道具や解釈が出てきたりするので、きっとその辺が、書き直してる部分なんじゃないかと、オリジナル未読の自分としては勝手に解釈したりしているのだが、それでもカセットテープなんかが重要なアイテムとして使われていたりして、ちょっとノスタルジックで、アンバランスさが微妙にいい感じだった。
個人的採点:70点
白昼蟲〈ハーフリース保育園〉推理日誌 著:黒田研二
白昼蟲〈ハーフリース保育園〉推理日誌
黒田研二:著
講談社 ISBN:4-06-182365-5
2004年3月発行 定価1,029円(税込)
黒田研二の〈ハーフリース保育園〉推理日誌、第二弾…一応の主人公で、物語の語り手である、次郎丸諒の過去が大きく事件に関わってくる。前作での、思わせぶりなキャラクター描写は、やはり続編の為だったのね…。
幼児教育出版社の営業マン…次郎丸諒、とある理由から(前作参照)得意先のハーフリース保育園の宿直室に居候中なのだが、大学時代の友人・小菅から、しばらくの間、部屋に泊めてもらえないかと相談を受ける。仕方無しに、知り合いの伝手を頼り、平和荘という格安のボロアパートを紹介するのだが…小菅がアパートに越してきた途端、奇妙な事件が続発。近所の中学生が自殺未遂を起こし、アパートに住んでいたハーフリース保育園の園児が行方不明。さらに小菅本人が、何者かに襲われて大怪我をしてしまった。極めつけは、次郎丸が平和荘で起きた殺人を目撃してしまうのだが…死体が発見されたのは別の場所だった!
こんなに不幸な事があったのかと、次々に明かされる次郎丸の過去。実際に被害者になってみないと分かり辛い、イジメを受ける側の心境なども語りながら、物語やトリックにも上手に反映。前作同様、他の、トリッキーさが売りの黒田研二作品に比べると、やや物足りない面もあるのだが、シリーズものの強みであるキャラクターの魅力や、シリアスとコミカルな要素の見事な按配で、テンポ良く読ませるのはさすが。
犯人は、もしや?と疑っていた人物であり、その犯行の動機なんかもやっぱりって感じでしたが…物語としては、前作よりも面白くなっていた。名探偵ぶりを発揮する、頭脳明晰、美貌の園長先生など…まだまだレギュラーキャラにはミステリアスな部分がいっぱいあるので、また続きを書いて欲しいところだ…。
個人的採点:70点
みすてりあるキャラねっと 著:清涼院流水
みすてりあるキャラねっと
- 清涼院流水:著
角川書店 ISBN:4-04-428501-2
2002年11月発行 定価600円(税込)
昨日まで分厚い、バリバリの本格推理小説をジックリ読んでいたので、次は軽めのものをササっと読みたい気分だったので、コイツをチョイス。清涼院流水も、分厚い小説をいっぱい出してるくせに、これは角川のスニーカー文庫なんで、薄いし、文字も大きめで…1時間ちょっとで読みきれちゃう内容です。ただ、作品の雰囲気を出すために、横書きなのが、ちょっと小説としては読みづらかったか?
学園生活を疑似体験し、13才~19才までしか参加することが出来ないオンラインゲーム“キャラねっと”…その中で、オレの池丸大王は、突然殺されてしまった。一度登録した名前は、二度と使えないというルールがあるので、長い時間をかけて接してきた、自分の分身である愛着のあるキャラクターは、二度と生き返らないのである。普段は、簡単には死なないような設定になっているのだが、いったい何が起きたのか?オレは池丸大王2という名前で、再登録し、自分が殺された原因を追求するのだが、他にも似た事件が頻繁に起こっていた…。
オンラインゲームの中のアイテムを、現実世界で現金で売り買いするために、不正行為でネットの中で泥棒しちゃうなんてニュースが、一時期頻繁に報道されてたよね?この小説が発表されたのは4、5年前だけど…今では、あまり突飛な話でもないかなって思いますね。
オンラインゲームが舞台になっているけど、ネット全体が抱える常識やマナーなんかとも共通している部分があってさ、オンラインゲームなんかやらない自分にも、ネットトラブルの犯人探しをしたくなる気分てのは、けっこう理解できたりする。どこまでネットのコミニケーションというのを信用していいんだろうか?という不安なんかは、ライトでコミカルな文体の中にもよく表現されていた。
ただ前半は、それこそゲームのマニュアルを読んでいるみたいで、ちょっと退屈。ミステリ作家らしく、しっかりとした伏線も用意してあり、ちゃんと推理小説になっている点は評価できるが、事件の結末は想像の範囲内でイマイチ物足りないか?清涼院流水…掟破りな結末だったデビュー作がちょっと懐かしいですね~。
個人的採点:55点
魔術王事件 著:二階堂黎人
魔術王事件
二階堂 黎人:著
講談社 ISBN:4-06-182398-1
2004年10月発行 定価1,890円(税込)
読み終わった時は、思わずため息をついてしまった、全778ページという、とてつもなく分厚いノベルズ…西村京太郎だったら3~4冊分くらいの内容に等しい、非情に濃い推理小説です(笑)ベタベタの本格推理…探偵VS神出鬼没の怪人という、乱歩チックなレトロ感覚でグイグイ読ませるあたり、さすが二階堂黎人って感じの力作!今回ばかりは、こんだけ楽しませてもらって、ブックオフの100円コーナーっていうんじゃ、作家先生に失礼だなぁってちょっと思ったね(笑)
東京のとあるビルで起きた、不可思議な事件…宝石商の男が、突如乱入してきた"魔術王”と名乗る不気味な仮面を被った人物に拘束され、自分のガールフレンドが、向かい側のビルの一室で、もう一人“魔術王”ソックリな容姿の人物に殺されるところの一部始終を見せ付けられるというものだ…。しかも、何らかの奇術により一瞬のうちに、死体も犯人も消えうせ、犯行の形跡すらないという。捜査を行った警察も、お手上げな事件であったが、名探偵の二階堂蘭子はいとも簡単に…トリックを見破る。何者かの通報により、犯行に加担した人物は逮捕されたのだが、残念ながら…被害者の女性は行方不明、魔術王の正体もつかめないままだった…。そして、これは北海道・函館に君臨する、名家・宝生家を舞台にした、とてつもない大事件の幕開けでしかなかったのだ…。
連続殺人、猟奇殺人、誘拐事件…金銀財宝の絡んだ埋蔵金伝説。神出鬼没の怪人が、カラクリ仕掛けまである大きな屋敷を徘徊し、次から次へと事件を巻き起こす。颯爽と登場した名探偵・二階堂蘭子が、犯人と直接対決?華麗な推理で事件の真相を語るあたりは、憑物が落ちた感じの安堵感。
かなりフェアに書かれているので、早い段階から犯人のめぼしはつけられる。犯人の罠に嵌まる登場人物たちに、イライラしながらも…読んでいるこちら側も少しずつ直感から確信へと変わっていくのだが、そのあたりのギリギリのところが、やっぱり上手なんですよね。名探偵が明かす真相に、やっぱりねって思いながらも、さらに色々な秘密が隠されているあたりは感心させられる。あまり突飛すぎたりすると、途中でほっぽり出したくなるのだが、読み出すとなかなか止まらない。さすが本格派のベテラン…長い作品を読ませるだけのテクニックを身につけているって感じだよね。
一応、独立して楽しめる作品にはなっているのだが、同じく二階堂黎人の「悪魔のラビリンス」という作品と密接にリンクしているのだが、もしかしたらそっちを読んでないかもしれないんだよね(笑)小説自体は、うちにあったような気もするんだけどさ…。時々、そっちの真相を知っていると、もっと驚くんだろうなぁっていう展開があるのだが、ちょっと分かり辛かったか?
事件の真相と共に、チャールズ・ディケンズの未完の推理小説「エドウィン・ドールの謎」を、二階堂蘭子が解き明かすというのも、この本の目玉のようなのだが、そのネタになっているディケンズの小説を読んでいないので、知っていれば、本当にもっと感動したんだろうなぁ。
シリーズものというマイナス要素や、推理小説マニア向けのマニアックな仕掛けについていけなくても、充分面白い作品になっていた。久しぶりに、推理小説を読んだという達成感あり!本格推理小説に一番ハマっていた学生時代に、読みまくっていた作家なので、文章なども相変わらず読みやすくて、長かったけど苦にはならなかったなぁ。
個人的採点:85点
香港アクションスター交友録 著:倉田保昭
香港アクションスター交友録
- 倉田保昭:著
洋泉社 ISBN:4-89691-825-8
2004年6月発行 定価1,680円(税込)
今なお、アクションスターとして国際的に活躍する倉田保昭氏が、新人時代からの香港映画裏事情を赤裸々に綴った1冊。倉田保昭本人の破天荒なアクション役者人生と共に、今ではあまりお目にかからなくなってしまったかつてのスター、そして著者同様に今でも活躍する大スターの知られざる素顔を知ることができる。
ブルース・リー、ジャッキー・チェン、ジェット・リー、サモハン・キンポー、ユン・ピョウ、ジミー・ウォング、ジョン・ウー、千葉真一などなど…秘蔵写真と共に!
ブルース・リーにヌンチャクを教えたという話はチラっと聞いて知っていたが、その真相も詳しく本人の言葉で語られている。本当に殴り合っているクンフーシーン、昔はワイヤースタントもCGもなかったので全て生身の人間が演じるホンモノのアクションだったというのを、実際のエピソードを交えて語られる。自分たちの世代なんかだと、ジャッキーをはじめとするクンフースターの映画を、けっこうリアルタイムで見てきているので、確かに今のアクション映画には物足りなさを感じることが多い。あの頃のアクション映画の魅力って何なんだろうなって思うと、やっぱり作り手の送り出す“本気”だったわけですよね。そういうのを裏付ける、ビックリ仰天エピソードが満載なんだ、この本には。
他にもスターたちの豪快な私生活も色々と語られていた。あるスターが来日した時に風俗に連れて行ってあげたとかさ、女遊びのことなんかも、かる~い感じで暴露しまくってるし。ファッションマッサージに行ったユン・ピョウが「この前、ジャッキー・チェンも来たよ」って言われて気分が萎えちゃったとかさ、こんな話を暴露できるのは、やっぱ倉田保昭しかいないよね。他にも、本人の女遊びもチラリと告白しつつ、スターたちのスキャンダルな話題を色々と語っていた。また、黒社会との付き合いも深い香港・台湾映画業界だけに…著者自身がヒットマンから命を狙われたこともあるなんて告白している。2年間、台湾に入れなかったそうだ(笑)
映画の話でも、小説でも何ものでもなく、ホンモノの話っていうのが、やっぱり凄い!香港映画を詳しく知らなくても、こんな凄いオヤジが日本人でいたというのを知れて、楽しいと思う!
個人的採点:75点
ヤングガン・カルナバル 天国で迷子 著:深見真
ヤングガン・カルナバル
天国で迷子
- 深見真:著
徳間書店 ISBN:4-19-850699-X
2006年4月発行 定価860円(税込)
ヤングガン・カルナバルの4巻目を続けて読む。何故かこのシリーズは、出たばかりなのに運良く古本の100円コーナーで見つけられてしまう。
高校生でありながら犯罪組織ハイブリッドの殺し屋である木暮塵八と鉄美弓華。塵八は憧れの由美子とのデートの最中に、宿敵、元ヤングガンで現在は敵対組織に属する那賀風樹を目撃するも、弟子である一登のバックアップのおかげで、漫画研究部の合宿に参加し、つかの間の日常を満喫していた…。弓華は、好意を寄せていた同じ学校に通う少女・伶が謎の女とラブホテルから出てくるところを目撃。さらにその女の正体が刑事であるのを知り、落ち込んでいた…。一方、ハイブリッドと敵対する豊平重工はレインメーカーと呼ばれる黒人兵士が率いる外国人部隊を対ハイブリッドの為に呼び寄せていた。
いよいよ、今まで少しずつ触れられてきた組織との直接対決が始まり、主人公たちの正体もバレはじめ…物語が一気に加速!前半では、今まで以上に日常部分がクローズアップされるも、後半のバトルへの伏線となり、異様な盛り上がりを見せた。
鉄美弓華の他にも、レズキャラが現れ、恋のバトルも複雑化?前巻では控えめだったオタク要素もかなり復活し、ニヤリとさせられる。ただ一点、高校では漫画研究部の部長としてオチャラけキャラでありながら、実は武闘派ヤクザの組長、平等院将一くんが、三池崇史の「フルメタル極道」をDVDで見てるんだけど、そこは「戦国極道志 不動」(高校生ヤクザが主人公の映画)ってチョイスの方が面白かったんじゃないですかね、深見センセ。
さらに敵側の圧倒的な強さに、ハイブリッドのヤングガンたちも後手後手に…。シリーズものなので、初期作品に比べちゃうと、物語の中途半端さが目立つんだけど、面白いから許しちゃうか?(笑)もう5巻目も出てるようなので、早く読みたいですね。
個人的採点:70点
ヤングガン・カルナバル 銃と恋人といま生きている実感 著:深見真
ヤングガン・カルナバル
銃と恋人といま生きている実感
深見真:著
徳間書店 ISBN:4-19-850694-9
2006年2月発行 定価860円(税込)
新刊で買おうかとも思った「ヤングガン・カルナバル」の3冊目をようやく古本でGET!新刊は既に5巻目まで発売されているようで、1年前に始まったばかりのシリーズだというのに、ライトノベル出身の作家さんの筆の速さには驚かされるなぁ。 高校生の殺し屋が活躍する話なんだけど、緻密な銃器描写や格闘描写が相変わらず魅力的で、こういったところが突飛な作品でも、しっかりとしたリアリティをもたらす。アクション小説として、大人が読んでも充分面白いシリーズだ。
高校生でありながら犯罪組織ハイブリッドの殺し屋である木暮塵八と鉄美弓華。塵八は、同じ漫画研究部のマドンナ的存在、由美子に淡い恋心を抱いているのだが、そこへ謎の転校生、豊平琴刃が割ってはいる!そう、豊平といえばハイブリッドの敵として、塵八たちと敵対する組織と同じ名前なのだが…。さらにボスの白猫からは、中学生の弟子を押し付けられ、彼の訓練をするハメになってしまった。一方、弓華は由美子の妹であり、学校の風紀委員である香埜子の存在を疎ましく感じたので、彼女を遠ざけるつもりで、レズビアンを告白したところ…逆効果で、2人は付き合うことになってしまった…。弓華には他に好きな女の子がいるのに。そんなある日、香埜子が何かの事件に巻き込まれ、弓華に助けを求めてきた…。その頃、塵八も弟子と共にある事件に巻き込まれていた…。
2巻目に続き、またまた新キャラ増殖中…その代わり、最初から出ていたあるサブキャラが無残な殺され方をして退場していった(けっこう好きなキャラだったのに)。関西から助っ人としてやってきた女子高生ヤングガンには、もうちょっと活躍して欲しかったが、きっとこれから出番が増えていくのだろうと、今後に期待をする。
シリーズを通して張り巡らされている伏線も少しずつ触れながら、今回はとある陰謀を引っさげた、謎の武装集団が、ヤングガンの2人を襲う。正体を隠した関係者たちが、主人公たちが通う学校にみんな集まってきちゃうという展開は、多少のわざとらしさも感じるが、この辺はお約束だと思って我慢が必要か?前作は事件中心だったが、1巻目のように…学園ラブコメらしさも盛り込み、日常とアクションのバランスが程よく、ギャップ感が復活した感じ。その代わり、マニアックなオタク知識ネタは激減したかな?(笑)
文章のタッチも読みやすく、かといって内容が薄すぎずという、爽快な読後感は今回も健在。2巻よりよくなり、1巻を読んだ時の面白さが戻ってきたかな?この調子で、次巻も楽しませて欲しい。実は4巻目も古本で入手済みなので続けて読もうかと思っているところ。
個人的採点:70点