魔術王事件 著:二階堂黎人
魔術王事件
二階堂 黎人:著
講談社 ISBN:4-06-182398-1
2004年10月発行 定価1,890円(税込)
読み終わった時は、思わずため息をついてしまった、全778ページという、とてつもなく分厚いノベルズ…西村京太郎だったら3~4冊分くらいの内容に等しい、非情に濃い推理小説です(笑)ベタベタの本格推理…探偵VS神出鬼没の怪人という、乱歩チックなレトロ感覚でグイグイ読ませるあたり、さすが二階堂黎人って感じの力作!今回ばかりは、こんだけ楽しませてもらって、ブックオフの100円コーナーっていうんじゃ、作家先生に失礼だなぁってちょっと思ったね(笑)
東京のとあるビルで起きた、不可思議な事件…宝石商の男が、突如乱入してきた"魔術王”と名乗る不気味な仮面を被った人物に拘束され、自分のガールフレンドが、向かい側のビルの一室で、もう一人“魔術王”ソックリな容姿の人物に殺されるところの一部始終を見せ付けられるというものだ…。しかも、何らかの奇術により一瞬のうちに、死体も犯人も消えうせ、犯行の形跡すらないという。捜査を行った警察も、お手上げな事件であったが、名探偵の二階堂蘭子はいとも簡単に…トリックを見破る。何者かの通報により、犯行に加担した人物は逮捕されたのだが、残念ながら…被害者の女性は行方不明、魔術王の正体もつかめないままだった…。そして、これは北海道・函館に君臨する、名家・宝生家を舞台にした、とてつもない大事件の幕開けでしかなかったのだ…。
連続殺人、猟奇殺人、誘拐事件…金銀財宝の絡んだ埋蔵金伝説。神出鬼没の怪人が、カラクリ仕掛けまである大きな屋敷を徘徊し、次から次へと事件を巻き起こす。颯爽と登場した名探偵・二階堂蘭子が、犯人と直接対決?華麗な推理で事件の真相を語るあたりは、憑物が落ちた感じの安堵感。
かなりフェアに書かれているので、早い段階から犯人のめぼしはつけられる。犯人の罠に嵌まる登場人物たちに、イライラしながらも…読んでいるこちら側も少しずつ直感から確信へと変わっていくのだが、そのあたりのギリギリのところが、やっぱり上手なんですよね。名探偵が明かす真相に、やっぱりねって思いながらも、さらに色々な秘密が隠されているあたりは感心させられる。あまり突飛すぎたりすると、途中でほっぽり出したくなるのだが、読み出すとなかなか止まらない。さすが本格派のベテラン…長い作品を読ませるだけのテクニックを身につけているって感じだよね。
一応、独立して楽しめる作品にはなっているのだが、同じく二階堂黎人の「悪魔のラビリンス」という作品と密接にリンクしているのだが、もしかしたらそっちを読んでないかもしれないんだよね(笑)小説自体は、うちにあったような気もするんだけどさ…。時々、そっちの真相を知っていると、もっと驚くんだろうなぁっていう展開があるのだが、ちょっと分かり辛かったか?
事件の真相と共に、チャールズ・ディケンズの未完の推理小説「エドウィン・ドールの謎」を、二階堂蘭子が解き明かすというのも、この本の目玉のようなのだが、そのネタになっているディケンズの小説を読んでいないので、知っていれば、本当にもっと感動したんだろうなぁ。
シリーズものというマイナス要素や、推理小説マニア向けのマニアックな仕掛けについていけなくても、充分面白い作品になっていた。久しぶりに、推理小説を読んだという達成感あり!本格推理小説に一番ハマっていた学生時代に、読みまくっていた作家なので、文章なども相変わらず読みやすくて、長かったけど苦にはならなかったなぁ。
個人的採点:85点