記号を喰う魔女 FOOD CHAIN 著:浦賀和宏
記号を喰う魔女 FOOD CHAIN
浦賀和宏:著
講談社 ISBN:4-06-182128-8
2000年5月発行 定価861円(税込)
前回に引き続き、浦賀和宏を読んでみる。これもシリーズを読んでいる人には色々と楽しい仕掛けになっているらしいのだが…前作よりは独立した物語になっていて、読みやすかった。といっても内容はかなりディープだが。主人公たちの設定が中学生なのは、当時は中学生が殺し合いをする「バトル・ロワイル」が流行っていたのに起因するのではないかなんて考えても見るのだが…せめて高校生、大学生くらいの設定の方が、なんか読んでいて、説得力が増してくるような気もすると自分は思うなぁ。
自殺した同級生・織田の遺書により…彼の生まれ故郷である、とある孤島に招かれた男女5人の中学生、小林、安藤、石井、坂本、山根。そこでは織田の育ての親である叔父夫妻と、見知らぬ大人たちが待っていた。そして彼らを本土から島まで運んでくれた島の人間スギモトが何者かに惨殺されたのを皮切りに…次々と猟奇的な殺人事件が起きる!
絶海の孤島なんてシチュエーションは、ちょっと綾辻の“館”シリーズとか横溝っぽくていいんじゃないなんて読んでいると…「バトル・ロワイヤル」+「殺人鬼」な展開に。オマケに、ハンニバル・レクター顔負けのカニバリズムがテーマで、エヴァンゲリオン的なオチ(笑)当時の流行もんをみんなぶち込んでみましたな感じがするね。正常とは思えない、悪意に満ちた物語に、最後はただただため息しかでてこんかった。
誰が生き残るのかというサバイバルな緊張感…その中で次々に起こる猟奇殺人の真相を看破していき、登場人物たちの思惑や正体もどんどん暴かれていくところはけっこう惹き込まれる。ラスト近くで、ある人物の言葉で、延々とカニバリズムについての演説が入ると、せっかくのテンポの良さが台無しになるが…なんとかゴールまでたどり着いて、「やっぱり、おまえかー!?」という感じでしたね。結局、最後まで読むと、昨日読んだ…「とらわれびと」との共通点というか、ワンパターンな展開も多々、見受けられたり。
やたらと小難しい引用やら言葉で、無理して読者を惑わそうとしているのが、ちょっと計算高すぎないかな??雰囲気的には、「とらわれびと」よりも好みかも。ただ、実際の中学生を馬鹿にしているわけじゃないんだけれども…お前ら本当に中学生か?と、本の中の登場人物に問いたくなる。それとも、今の中学生ってこんな感じなんですかね~。
この作者は新作が出るたびに、どんどんどんどん、鬼畜に、壊れていくらしいので…もう何冊か連続で読んでみようかなと。貶しながらも、ちょっと次を読みたくなるから不思議な魅力があるんだろう。その前に…昔に途中でほっぽり投げちゃった1作目を、探さないとなぁ。部屋の中の本の山の中に、どっかにある筈なんだけど…。
個人的採点:70点
とらわれびと ASTLUM 著:浦賀和宏
とらわれびと ASTLUM
浦賀和宏:著
講談社 ISBN:4-06-182097-4
1999年10月発行 定価987円(税込)
7、8年前に読んだデビュー作「記憶の果て」が、あまり好みじゃなかったので(つまらないので、珍しく途中でほっぽり投げた)、それ以降…この著者の作品とは遠ざかっていたのだが、それでもコツコツと100円コーナーで見つけては貯めこんで、かなり冊数が増えてきたので読んでみることにした(先日、去年出た浦賀作品を100円コーナーで見つけたのが、読んでみようと思った切っ掛け)。推理小説マニアとして、連続猟奇殺人というキーワードはなかなかそそられる…。
“現代に蘇った切り裂きジャック”…肥満気味の男性が大学構内で次々に殺された。そして大学病院に入院中の、森山亜紀子の弟、雄一も同一犯とみられる犯人に無残に殺されてしまった。亜紀子は高校の友人、穂波留美と事件を探り始めるのだが…複数の性同一性障害の男性が“妊娠”し…失踪するという奇妙な事件に遭遇する。
途中でほっぽり投げちゃったし、読んだ途中の部分も忘れちゃったデビュー作の「記憶の果て」が、物語に直接関係してくるので、かなりキツイですね。探せば、「記憶の果て」もどっかにあると思うので、もう一度再トライする必要がありそうだ。他にも、この作品以前に発表された作品が微妙に関わっているみたいで…それらも読んでいないので、けっこうヤバイ。100円コーナーでためこんだのは、これ以降…「松浦純菜の静かな世界」って作品までなんだよなぁ(笑)
で、そのシリーズを読んでいるマニアに向けたリンク部分については、ちょっと楽しめなかったのだが…事件そのものの導入部分は意外と摩訶不思議で、けっこう興味が湧く。
叙述トリックというほどでもないのだが、色々な人物の視点がゴチャゴチャになって、読者をミスリードさせる形で、後半に向けて、二点三転していく物語は、ミステリ要素が強く、そこそこ楽しめるのだが…マッドサイエンティストな狂ったお話が強烈すぎるか?昔、ハリウッドのコメディ映画で似た題材があったが(笑)
真相を知る前の方が物語を楽しめたよなぁ~。せっかくなので…もう少し、浦賀作品に触れてみるか…。
個人的採点:65点
魚釣島奪還作戦 著:大石英司
- 魚釣島奪還作戦
大石英司:著
中央公論新社 ISBN:4-12-500876-0
2004年10月発行 定価945円(税込)
前から読んでみたいと思っていた大石英司の小説を始めて読む。この人の作品はシリーズが長かったりするのが多いのだが、この作品は1巻で完結するものということなので、大石作品の入門編として、自分にはちょうど良かった。
尖閣諸島…無人の魚釣島で不審な人影を発見。海上保安庁がただちに警告をするが、返答は銃撃だった…。中国人の不法侵入だとあたりをつけて、中国大使館員が説得に派遣されるも、その大使館員も瞬く間に殺されてしまった。さらに海上保安部の特殊警備隊も謎の集団と交戦に入り、死傷者を出してしまった。事態を重く見た政府は、非公式に陸上自衛隊の特殊部隊「サイレント・コア」を派遣するのだが…島には200人近い人間が入り込み、大規模な部隊が組織されていた。
他国の戦争について考えるのも大事だけれども、日本だっていつ戦場になるか分からない、非常にデリケートな問題を抱えているんだということを再認識させられる物語。外交や自分の保身しか考えていないお偉いさんたち…戦争に犠牲は付き物だと、どれだけ効率よく戦って、被害を最小限に食い止めるかを考える現場。その食い違いなどを…緻密な描写で、時にユーモアを交えながら語っていくところがなかなか面白い。
戦争アクションとしてもよく描けている…今まで観てきた色々な戦争映画の名シーンが頭に浮かんでくるような、リアルな戦闘シーンに、読んでいて思わず手に汗握ってしまう。サイレント・コアの美人仕官、司馬三佐など…キャラクターも魅力的に描けていて物語りに入り込みやすかった。
これからも、大石英司作品は、100円コーナーでチェックしていこうと思います。機会があれば、長いシリーズにも手を出してみたいのだが、なかなか揃って100円コーナーには出てないからなぁ(笑)
個人的採点:75点
シャルロット・リーグ2 月の夜は蝙蝠と翔べ 著:吉岡平
シャルロット・リーグ2
月の夜は蝙蝠と翔べ
吉岡平:著
エンターブレイン ISBN:4-7577-2437-3
2005年10月発行 定価 651円(税込)
予定通り、吉岡平の「シャルロット・リーグ」の2巻目を読む。案の定、生徒同士の殺し合いが本格的にはじまり、それをお互いに推理しあうという展開になるが、著者のお気に入りキャラだという、高校生プロ棋士の横溝くんが、学園に入学するまでのサイドストーリーに、ページをけっこう割いているので…本筋はあまり進まずといった感じか?巻末には、元ネタの短編シリーズを改訂した「シャルロット・ホームズの冒険」を今回も収録。
名探偵を養成するために、“聖星学園”に集められた一癖も二癖もある生徒たち。その奇妙な学園の中で、立て続けに起きた、2件の殺人事件…。事件のひとつは、生徒たちの推理により犯人を突き止めることに成功したのだが…さらに新たな事件が巻き起こる。
ようやく推理小説らしくはなってきました。ああでもない、こうでもないと…動機やら凶器を推理しながら、犯人を突き止めてく。1巻目のラストで起きた二つの事件のうちのひとつが解明されたと思ったら…新たな殺人が起きる。一応、そっちの事件も推理合戦が繰り広げられ、犯人までたどり着くのだが…まだまだ、不可解な事件はこれからも続くのであろう。
作者のあとがきを読むと…3巻で物語を完結させるらしい。推理小説として評価するには、きっと最後まで読まなきゃななんともいえない状態だけど、1巻の薀蓄満載の導入編に比べ、だいぶ推理の方を重点的にやってます。
続きが読みたくて、さっき近所のブックオフに行ってみたんだけれども、100円コーナーはおろか、値下げ前のライトノベルコーナー探したのだが3巻は見つからなかった。今年の4月くらいに出てるらしいんですよ、3巻目がね…。最後くらい新刊で買えってか?(笑)いや、なんとしても古本で探すぞ!
併録:シャルロット・ホームズの冒険 暗殺者のヒモ
シャーロック・ホームズの曾孫、シャルロット・ホームズは、日本人の金田一敬助を助手に、ベーカー街で事務所を開いた。今回の事件は、日本企業の現地法人、CEO宛てに届いた暗殺予告。シャルロットと敬助は、ターゲットの護衛にあたるのだが…。
シャルロットの勘と知識を総動員した名推理で、犯人の仲間を探りあてるんだけれども…前回同様、案の定、後半はドタバタ活劇風。きっと、このシリーズのパターンなのだろう。本編が、かなり凄惨なお話なので、このくらいコミカルでちょうど良いか?ただ、“タイトルの“暗殺者のヒモ”ってそういう意味だったのね…けっこうお下品(爆)。でも、どこをどう膨らませて、これが“シャルロット・リーグ”になったのだろうか(笑) 自分はそんなに(ホンモノの)ホームズフリークではないので、作中で披露されるホームズに関する薀蓄はなかなか興味深い。
個人的採点:65点
シャルロット・リーグ1 招かれた小鳥 著:吉岡平
シャルロット・リーグ1 招かれた小鳥
吉岡平:著
エンターブレイン ISBN:4-7577-2357-1
2005年8月発行 定価630円(税込)
著者が「そして誰もいなくなった」+「スケバン刑事」+「バトルロワイアル」+「ハリー・ポッター」だという学園ミステリ「シャルロット・リーグ」を読む。この巻では物語は完結せず、3部作になっているらしいのだが…とりあえず2巻まで100円で見つけてあるので、次も続けて読むつもり。巻末に50ページほどの、作品の元ネタになった、短編が収録されている。この趣向は最終巻まで続くそうだ。
両親に先立たれ、中学卒業後、フリーターとして暮らすことを決めた倉崎すみれに届いた、聖星学園の入学許可証。なんだか意味が飲み込めないまま、すみれは何者かに拉致されて、その学園へ放りこまれてしまった。そこには、すみれと同い年の男女が集っていたのだが、それぞれに得意分野があり、一癖も二癖もある、一風変わった生徒ばかりだった。さらに、学園は外界とも隔離 されており、不気味な教師たち、姿が見えない上級生と…すみれには理解できないことばかり。普通の高校ではない、その学園の目的とは…。
ぶっちゃけ、ファミ通文庫なので、ライトノベルです。でも、一応…ジャンル的には、これから推理小説になっていくのではないかと?と、いうことで…自分は推理小説の分類にしておきます。
まぁ、「バトルロワイアル」で言うと、ようやく首輪の説明が終った程度の進行度かな?まだキャラクターや舞台の紹介程度の広がりで、ようやく最後の10ページくらいで、事件が発生!?これから、生徒たちが“殺し合い”をして、その犯人や手口を色々と推理していくんじゃないかなって想像はするんだけれども…どうなることやら。
名探偵養成学校、襲名制の“シャルロット・ホームズ”…その資格を有するものが、一般生徒にもぐりこんで、もう一度、楽しい学園生活(つまり殺し合い)をエンジョイしようというのが…冒頭のプロローグ部分で語られる。まぁ、ストレートに考えると、そのシャルロットの正体はあの人物なのだろう?それとも、読者を欺く何らかの、トリックがあるのか?1巻を読む限りじゃ、まだまだ色々な想像が膨らむだけ。
ハリポタを茶化したり、その他、ミステリに関する薀蓄で進める、キャラクターのテンポの良い会話などけっこう面白い。毒物の講義など、トレビアな雑学知識が色々と盛り込まれている。
併録:シャルロット・ホームズの冒険 T・レックスの瞳
「シャーロック・ホームズ」のパロディ?アプローチ的には「金田一少年の事件簿」みたいに、ホームズの曾孫が、華麗な推理力で事件を解決していくというお話。宮崎駿のアニメ、犬の「名探偵ホームズ」でも見ているような、ドタバタ風なところもけっこうあるか?何故かワトソン役は、かつて父親が探偵だったらしい…金田一敬助。
大学卒業を目前とし、留学という名目で、恐竜の化石発掘の旅に、イギリスにやって来た金田一敬助は、不思議な少女と出会う。シャーロック・ホームズの曾孫だと名乗るシャルロットは、曾祖父のブランドを借りて探偵稼業を始めようとしていたのだが、その助手として、彼女のお眼鏡にかなったのが、敬助だった。資金稼ぎのため、シャルロットはある富豪が所有する「T・レックスの瞳」という100カラットのダイヤを、脅迫状を送りつけてきた悪党から守るという依頼を受けていた…。
敵の名前が、森脇教授…アレ、もしかしてモリアティー教授のパロディ?実は「シャルロット・リーグ」の方にも、同一人物かどうか定かではないが、森脇教授が出てきたんだけれども、その時は、全然気が付かなかったよ。
事件自体はどうってことなかったが、本当に古典の洋物ミステリーを読んでいるような、薀蓄がいっぱいで、やけにもったいぶった文体とか、なかなか雰囲気が出ている。
個人的採点:65点(本編+オマケを両方、ひっくるめて)
ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊[SAT] 著:誉田哲也
- ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊[SAT]
誉田哲也:著
中央公論新社 ISBN:4-12-500935-X
2006年3月発行 定価1,050円(税込)
一ヶ月くらい前に読んだ、「ジウ 警視庁特殊犯捜査係[SIT]」の続編を100円コーナーでGETしたので、早速読む。
二つの誘拐事件の首謀者が、“ジウ”という名の少年であるという見方を強めた捜査本部。先の事件で逮捕した容疑者の取調べを行う門倉美咲と、上司の東は…容疑者の語る危険な思想、彼らの背後に存在する闇の正体に戦慄する。一方、人質の救出劇で同僚の雨宮を失った伊崎基子だが、基子本人の事件解決への功労が認められ、特進。SATを離れ、所轄の交通捜査係に配属されるのだが…怪しげな記者が彼女に付きまとい、いつしか2人は独自に“ジウ”を追うようになる…。
今、一般の本屋では、このシリーズの完結編にあたる「ジウⅢ 新世界秩序[NWO]」が平積みされているが、この2巻目では、完結編へ向けて事件がさらにスケールアップしていく。そして、警察が追う“ジウ”の正体も少しずつ明らかにされていくのだが…流行の三部作映画同様、1~2巻は完結編に向けての壮大な前フリみたいな感じなので、物語的には、投げっぱなしみたいな印象を前作以上に感じてしまうかな?「スター・ウォーズ」の映画の真ん中みたいなもんだね(笑)
最初はただの誘拐事件だったのが…日本を転覆させてやろうと企むテロ集団的なお話になっていく。で、警察の捜査はまだまだそこまで及んでいないって感じなんだ。各章の冒頭で語られる、ある人物の想像を絶するような幼少期のエピソード…誰の視点で語られてるんだろうなって、ずっと気になっていたんだけれども…その正体が分かると、一応、1巻目に、伏線らしき記述があったことを思い出す。
大沢在昌の「新宿鮫」みたいに…かなり警察組織の描写が克明に描かれてるんだけれども(組織図なんかも載っていたりする)、少しずつ、各ピースが埋まっていき、直接は作品の中で語られていないのだけれども、今後の展開がなんとなく見えてきた感じ。最初は同僚として同じ部署にいた、2人の女性警察官。全く正反対な性格で、どんどんと別々の方向へと道を歩んでいくのだが…時たまニアミスをする。ここまで読んでくると…最後はどんな関係になるかは、おのずと想像できてくるんだけれども。
SATのタイトルが付いているわりには、肝心な基子は、一時、SATを離れてしまうので、前作に比べてSATの活躍場面は少ないようにも感じるのだが…最後まで読むと、このタイトルで良いんだと納得できるかな。
捜査の過程や事件解決の為の作戦など警察の活躍なんかを楽しむには前作の方が面白かったが…次に起きるだろう何かを期待させるために、犯人側の思想を前面に押し出してきた感じだ。どんな事態になるのか…続きが気になるところだ。
個人的採点:70点
ベクフットの虜〈クレギオン7〉 著:野尻抱介
ベクフットの虜〈クレギオン7〉
- 野尻抱介:著
早川書房 ISBN:4-15-030771-7
2004年11月発行 定価714円(税込)
ずっと読んできた野尻抱介の「クレギオン」シリーズも、この7巻目で終了となる。今回のあとがきで、著者本人は、シリーズの完結宣言を出したわけではないということで…機会があれば、ハヤカワでの再リリースを機に、この世界観で続編を書いてみたいようなことを匂わせているのだが…今のところは実現していない模様?
ミリガン運送の見習い航法士として働くメイは、家で同然で飛び出してきた手前、故郷の両親には“危ない仕事などなく、元気にやっている”と繰り返し手紙を書いているのだが、実際のところは…危険な仕事も山ほどこなしている。そんなある日、故郷の両親が旅行がてらにメイを訪ねて来ることになってしまった。両親を上手に誤魔化そうと思案するメイたちの次の仕事は…軍からの依頼で戒厳令下の惑星ベクフットへ向かうこと。さらにメイの心配が的中したかのように、またまたトラブルが発生。なんと、ミリガン運送の面々はベクフットで海賊に騙され、拉致されてしまったのだ…。
シリーズの初期に登場した、メイの両親が久しぶりに物語に絡んでくるということで、メインの主人公はメイちゃん。SF的には、艦隊消失事件の謎と、惑星ベクフットに生息する生物の関係を軸に…海賊や軍を巻き込んでの大騒動が勃発。今回は宇宙船ではなく、潜水艦が主舞台となるというのが、なかなか斬新。海賊の一人が、潜水艦を「独立国家にしよう」と発言するところは、ちょっと笑ってしまった(沈黙の艦隊?)
ただのゲストキャラだと思っていたメイちゃんが、ミリガン運送の仲間に加わり…色々な経験を経て、ちょっとずつ成長しているという、その成果を確認するための途中経過ってところでしょうかね?なんとか仕事をやめさせて、実家に連れ戻そうとする母親。最後のオチもいかにもな感じで…シリーズものの一時休止には、よくあるようなパターンでしたね(笑)ぜひ、続編を書いていただきたい。
個人的採点:70点
アフナスの貴石〈クレギオン6〉 著:野尻抱介
アフナスの貴石〈クレギオン6〉
野尻抱介:著
早川書房 ISBN:4-15-030767-9
2004年9月発行 定価714円(税込)
前回に続き、ハヤカワの再リリース版、クレギオンを読む。そろそろシリーズも終盤に近づいてきた6巻目に突入。話は毎回、単発なので…巻数の順番が多少前後しても問題はなさそうだが、やっぱりシリーズものは順番に読みたいよね。
突然、「会社をたたむ」と言い残し、行方をくらましたミリガン運送の社長ロイド…もちろん所有していた宇宙船アルフェッカ号も売り飛ばされてしまった。パイロットのマージと、見習航法士メイの2人は突然の解雇に呆然とし、行き場まで失ってしまった。そんな時、アルフェッカ号をジャンク屋から購入した新たな船主クランとアルチナが現れるのだが、素人にはそう簡単に乗りこなせないのがアルフェッカ号。マージとメイはクランたちに雇われて、古巣のアルフェッカ号になんとか戻ることができた。しかし依然として、ロイド行方不明中。二人の仕事を手伝う傍ら、ロイド探しを継続しようと考えるのだが…。
シリーズの顔ともいえる、ロイドの失踪というミステリアスな幕開け。ロイドの出番が極端に少ないので、いつもと雰囲気がかなり違うか?ただ、ここ数巻は、SFというよりは、ドタバタコメディ色が強かっただけに…後半の、謎の生命体とのファーストコンタクトの様子など、かなりSFらしい仕上がりになっていて読み応えあり。出番は少ないくせに、チャランポランなロイド節は全快で、思わずホッとさせられるオチに思わず爆笑。せっかく主要キャラの不在なんて冒険をしたのだから…その部分で緊張感あるサスペンスが紡ぎだせればもっと面白かっただろうに、そこだけがやや物足りないか?
このシリーズは良くも悪くも、ロイドというお茶目なオヤジキャラに引っ張られているのが、いまさらながらに納得できた。
個人的採点:70点
タリファの子守歌〈クレギオン5〉 著:野尻抱介
タリファの子守歌〈クレギオン5〉
野尻抱介:著
早川書房 ISBN:4-15-030764-4
2004年7月発行 定価672円(税込)
かつて富士見書房で出版されていた野尻抱介の“クレギオン”シリーズが、ハヤカワ文庫で再リリースされている。富士見書房版だったら、100円コーナーでも集めやすいのだが、ちょっと表紙なんかもライトノベル色が強いのがネック。さすがハヤカワの方はしっかりとSF小説らしさが感じられるから、なんかいい。1~4をハヤカワ文庫で集めてしまったので、根気よくハヤカワ文庫版を探していたのだが、ようやく5~7も見つかった。前作を100円コーナーで見つけてから、実に約1年ぶり。ということで、一気にシリーズを読もうと思っている。
稀少宝石のタリファ・オパールが採掘できるという辺境の惑星X1069…通称タリファ。ミリガン運送のロイドは、一攫千金を求めて今度の仕事先をタリファと決めるのだが、パイロットのマージは大反対。しかしタリファという名前を聞いて、昔、商船大時代のパイロットの教官が、その星で働いているとの噂を思い出したマージは遂に、ロイドの意見に折れてしまった。そして、いざタリファまでやって来たのだが…明暗境界線に凄まじい砂嵐が発生し、とても過酷な環境にあるということが判明。離発着も命がけで行わなければならなかった。苦労の末たどり着いたタリファで…マージは、噂通りにそこでかつて教官だった男と再会するのだが…。
美人だけど、がさつで男勝りなパイロット、マージねーさんの意外な過去が判明する。ちょっと甘いロマンスでも展開するのかなって期待していたのだが、 シャトルを使ってのレースがメイン。タイトルが子守歌ってだけに、SF版“スリーメン&ベビー”な展開に…なんとある人物から頼まれた積荷が赤ん坊だったのだ。赤ん坊の世話なんかしたことない、美人パイロットと、子供を作る前に離婚しちゃった中年オヤジが、赤ん坊に右往左往する場面はなかなかおもろい。赤ん坊がとった偶然の行動がピンチを救うなんて展開もいかにもな感じ?
専門的なSF描写も多いのだが、わりと軽めな物語なので…相変わらずスラスラと読みやすく、安定した面白さ。
個人的採点:65点
壊れるもの 著:福澤徹三
壊れるもの
福澤徹三:著
幻冬舎 ISBN:4-344-00653-4
2004年7月発行 定価1,575円(税込)
福澤徹三の「壊れるもの」を読み終わった…ジャンル的には多分、ホラーになるんじゃないかな?直接的なホラー表現、グロテスク描写は控えめなものの、何の気ない日常的な生活の方が怖かったりもするのが現実だ。それだけでは物語は終らずに、幻想的かつ悲しげなオチが待ち構えており、読後はちょっぴり鬱な気分に…。
40歳を過ぎて郊外にマイホームを手に入れた、大手百貨店に勤める西川英雄…妻と娘と普通にささやかな暮らしをしていたのだが…いつの間にやら歯車が狂いだす。年頃の娘には煙たがれ、妻との関係も少しずつギクシャクとなる。会社では人間関係に悩まされ、リストラ候補。なじみの飲み屋で一人、酒を飲むくらいしか生きがいがないのだが…実は自分たちの住んでいる土地がなにやら曰く付きらしいという噂を聞きつけたのだ…。
20年間、会社と家族の為に尽くしてきたのだが、今ではただの邪魔者でしかない中年サラリーマン…娘に嫌われ、妻から疎まれ、会社に行っても不景気で会社の経営状態は芳しくなく、上司に頭を下げ、同僚には足を引っ張られ、オマケにリストラ対象?それは10年後の自分の姿ではないかと、下手なホラー描写よりも、リアルに恐怖が感じられる。作品の中では、もっともっと状況が悪化していき…読んでいるこちらも、人事ではない。夢も希望もあったもんじゃない、現実の怖さに直面するわけだ…。
どこで、選択を間違えたのか?あの時、こうしておけば良かったと…後悔することもあるだろう。もし、分岐点のひとつに戻ることができたら、人生はやり直すことができるのだろうか?という問いかけに…そんな甘い話があるわけないと、絶望的な解答が突きつけられるのが、この小説。
家庭不和とリストラに悩むサラリーマンをリアルに描写しながら、ジリジリと話はきな臭くなっていき…。
初めて読んだ作者だったが、わりと読みやすい感じの文章。ただ、物語の後味はあまりよろしくありません(笑)だから、オヤジ臭がバリバリ臭ってきそうで、メチャクチャリアルなんだって!?サラリーマンの人は、主人公に共感するのか、それとも自分を見ているようで嫌になるか…かなり微妙だと思う。
個人的採点:70点