105円読書 -40ページ目

暗いところで待ち合わせ 著:乙一

暗いところで待ち合わせ

乙一:著
幻冬舎 ISBN:4-344-40214-6
2002年4月発行 定価520円(税込)
 








今度、田中麗奈主演で映画も公開されるらしい乙一の「暗いところで待ち合わせ」を読み終わった。タイトルや表紙の印象から、ホラーっぽい作品を勝手に想像してしまったのだが…読み終わった後は意外と爽やか?一応、殺人の容疑者が視覚障害の女性の家に逃げ込んで、居座ってしまうというサスペンス調なお話ではある。

事故で視覚を失った本間ミチル…母親の記憶はほとんどなく、父親に育てられていたのだが、その父も病気で他界し、一人暮らしをしていた。小学校時代からの幼馴染カズエが色々と世話をやいてくれるのだが…ほとんどは家の中で何もせずに暮らしている。一方、印刷工場に勤める大石アキヒロは、他人とのコミニケーションをとることを苦手とし、人間関係で悩んでいた。ある朝、会社の同僚を駅で突き飛ばしたとして、警察から追われる身となり…ミチルの家に逃げ込む。目が見えない事を知っていたアキヒロは、ミチルに気づかれないように、息を殺しながら隠れ、居座り続けるのだが…。

実は乙一作品は短編集ばかり読んでいたので、長編作品に挑戦するのは初めてだった。内容的には下手なサスペンス映画みたいな内容なんだけれども(洋画とかでもあるじゃん、逃亡者が老人の家に居座っちゃったりするパターン)、相変わらず文章力の上手さで読ませる。文章力の上手さ故に、オチが途中でピーンときちゃうのは、短編作品同様、この著者のパターンではあるが(それだけミステリー、サスペンス的にはフェアってことだよね)、底へ持っていくまでのキャラクターの感情、心情の描き方に魅せられる。

自分もあまり社交的な性格ではなく、けっこう人との付き合いって苦手なほうなので…主人公2人の気持ちに共感しやすかった。ホっといてくれよ~って思っても、何かの拍子に急に寂しくなっちゃったりね…ミチルの気持ちに、思わずうなずきながら読んでいた(笑)

ほとんど会話もないのに、二人の奇妙な連帯感がしっかりと伝わってくるところも、なかなかスリリング。これって、ミチルであり、トモヒロの視点で描いてるからこそ、退屈にならずに緊張感が持続するわけだけど、こんなのを映像でやっても間延びしないかね?まぁ、そこが映像になった時は、演出家の腕の見せ所なんだろうけど…情報によると2時間以上の作品になるらしいので、ちょっと心配。

何はともあれ、小説の方はなかなか面白かった。初めて読んだ乙一の短編作品が、けっこう壮絶なホラー作品だったんだけどさ…それ以降は、こういうせつない系か、爽やか系が多いなぁ。こういう題材も悪くないけど、やっぱりこの著者の文章力でグロテスクな物を読みたい。今度こそ、グログロホラーの作品を探して読んでみよう。






個人的採点:70点







スラムオンライン 著:桜坂洋

スラムオンライン

桜坂洋:著
早川書房 ISBN:4-15-030800-4
2005年6月発行 定価630円(税込)









現実とバーチャル空間の間で揺れ動く若者、オンラインゲームにハマった大学生を題材にした「スラムオンライン」を読み終わった。ハヤカワ文庫なんで、もっとSFっぽい作品を期待していたのだが…前に読んだ清涼院流水の「みすてりあるキャラねっと」にちょっと酷似。じゃあこれはライトノベルになっちゃうの?一応、青春小説っとことなんだけど…早川書房の公式サイトを覗いても、正式には特に決まったジャンルに属していなかった(笑)

大学一年の坂上悦郎は、オンライン対戦格闘ゲーム“バーサス・タウン”に夢中になっていた。彼の選択したキャラはカラテ使い…テツオと名づけられたそのキャラで、最強の格闘家を目指していた。そして“バーサス・タウン”には、強い相手にストリートファイトを仕掛けてくる謎の“辻斬りジャック”が出没し、悦郎もその正体が気になり始めていた。現実世界では、ひょんなことから知り合った大学の同級生、薙原布美子と、新宿周辺に出没するという青い猫を探す羽目に…。彼女とはそれなりに親しくなったものの…性格のズレからなかなか友達以上に昇格できず…。

ゲーム好きの人なんかは、オンラインゲームの描写に共感を覚えて、やたらと評判が良いのだが…パンチだ、キックだ、Aボタンダだ、って同じような描写の繰り返しには正直、飽きがくる。もう少し文章に工夫が欲しいところだ。

その反面…現実世界の話になると…主人公の無気力な感じ、現代の若者が持つ悩みがよく描けていて、けっこう面白いと思った。何の為に俺たちは生きてるんだろうな~って、チャランポランな生活している自分を反芻しながら、所々で共感。

性格は違えど、悦郎も布美子も、とにかく人付き合いは不器用なんだよね。だからまぁ、悦郎くんはオンラインゲームなんかに逃げちゃうんだけど…一応、現実とヴァーチャルの世界で色々な経験を経て、成長していくお話になっている。

女を取るか、ゲームを取るかって選択で、ゲームを選んじゃうんだよ、コイツ。でも、ゲームを選択したことによって、しっかりと何かを悟っていたので…選択は間違っていなかったのかな?ちょっと不思議なカップルが誕生するまでの、ラブストーリーということで、それなりに楽しめたかな。






個人的採点:65点






アサシン 著:新堂冬樹

アサシン

新堂冬樹:著
角川書店 ISBN:4-04-873532-2
2004年8月発行 定価1,470円(税込)










新堂冬樹の「アサシン」を読み終わる。冷徹な殺し屋が一人の少女と出逢ってしまったことからはじまる、逃避行…新堂流の「レオン」+「トゥルー・ロマンス」。

花城涼は幼い頃から、とある組織の暗殺者を養成するスクールで、殺しの術を学び、一流の暗殺者となった。亮が“先生”と崇める、育ての親でもある組織のボスから…暴力団幹部の暗殺の仕事を言い渡され、早速準備に取り掛かる。そして遂に、暗殺を結構しようとしたその瞬間…突如現れた、一人の少女がターゲットをナイフで刺してしまった。彼女の名前はリオ…実は父親がその暴力団の男に騙され、自殺に追い込まれていたのだ。いつもは沈着冷静に対処する亮だが、咄嗟に少女の手を引いて、逃亡を助けてしまった…。

話のテンポはなかなかだが…新堂作品にしては、バイオレンスは控えめか?恋愛小説なども手がける作者だけに、両方のおいしいところを綺麗にそつなくまとめたってところかな。孤児を連れてきて、幼い頃から殺しを教え込むなんてところは、けっこう期待してしまったのだが…人の温かみに触れたことのない殺し屋が、女子高生との交流によって、人間らしくなっていくって…女子高生萌えのライトノベルっぽい部分が強い。

個人的には、もっと鬼畜に、バイオレンスに走ってくれても、良かったのになぁ…。帯の推薦文は女優の平山あやが書いていたし、女性にも読みやすい作品になっているのだろう。話はベタなので…展開に意外性は少ない。アクションやミステリーというよりは、やっぱりラブストリーの方がメインなのかな??






個人的採点:65点







クリスマスローズの殺人 著:柴田よしき

クリスマスローズの殺人

柴田よしき:著
原書房 ISBN:4-562-03717-2
2003年12月発行 定価1,680円(税込)










柴田よしきの「クリスマスローズの殺人」を読み終わった。実は、この作品はシリーズものであり、他社から出ている「Vヴィレッジの殺人」という作品を読んでおくと、面白いのだそうだが…自分は未読。物語自体は独立しているので、コレ単体で読んでも一応OK。

貧乏探偵のメグは…日銭を稼ぐために、同業者・高原咲和子から回してもらった、浮気調査に取り掛かる。夫が出張中に妻が浮気をしていないか確かめるというのが依頼内容だ。張り込み調査の交代要員として、本職は推理作家なのだが、探偵の取材を切っ掛けに探偵業の奥深さに気づき、アルバイトとしてメグを手伝っている太郎も調査に参加することになった。2人は張り込みを続けているうちに、対象者の家の様子の異変を察知し…直接忍び込むことに。そこでなんと、出張中の夫の死体を発見し、家にいるはずの妻が失踪してしまったのだ。さらにこの事件が、警察も手を焼いている“クリスマスローズ事件”という連続殺人に関わってくるのだが…。

実は、推理小説なんだけど…一癖あって、吸血鬼が人間社会に紛れ込んで生活しているというのが大前提で語られるお話だということ(ちょっと倉坂鬼一郎のゴーストハンターシリーズと、アイデアがかぶったりしているようにも感じる)。詳しくは前出の「Vヴィレッジの殺人」を読んでくれというお願いが作者から冒頭で提示されているのだが、この設定を否定しちゃうと、作品が成立しないので、この手のキワモノが苦手な推理小説ファンにはお薦めできない作品だ。

奇抜な事件が発生し、推理合戦、証拠固めと…意外とフェアにミステリー、犯人探しをしてくれるのだが、やはりオチは、かなり特種なものとなる。軽い感じで物語を楽しむならいいけど、ミステリーとして期待するとやや拍子抜けか?個性的な吸血鬼たちのやり取りが、やたらとコミカルなのは、やはり倉坂作品の物真似に感じてしまう。

昔は、「女刑事RIKO」シリーズなど、柴田よしきの作品はけっこう好きだったので、もうちょっとハードな内容を読みたかった。これだったら、もっとホラームードを出して、血なまぐさく展開してくれても良かったのでは?






個人的採点:60点







ギミー・ヘブン 著:松浦徹 脚本:坂元裕二

ギミー・ヘブン 

松浦徹:著 坂元裕二:脚本
竹書房 ISBN:4-8124-2523-9
2006年1月発行 定価620円(税込)









同名タイトルの映画を監督自身がノベライズ化したもの。まだ、この作品は見ていないのだが、最近DVDにもなった。この前、レンタルショップに行った時に借りたかったんだけど、レンタル中だったのだが、ちょうど小説版が105円で手に入ったので、先に小説から読んでみることに。

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など…本来なら別個であるはずの感覚が同時に伴なってしまう“共感覚 ”という、特殊な感覚を持つ葉山新介。一般の人にはなかなか理解してもらえない症例の為、それを隠して日常生活をしている。そんな新介は、数年前に転がり込んできた野原貴史とデザイン事務所を経営しているのだが、実際は知り合いのヤクザの下請けで、盗撮アダルトサイトの運営というのがメインの仕事だ。ある日、サイト内でトラブルが発生。盗撮するのを条件に報酬を払って契約している一人の女が無断で失踪した。その女を捜索している時に、偶然、遭遇してしまった女子高生。なんとなく事務所に連れ込んでしまったのだが…実は、その女子高生の麻里は数日前に養父が殺されており、彼女もまた失踪扱いで警察が探していたのだ…。

著者自身もあとがきで認めているのだが、“脚本みたい”…試行錯誤で手直しはしたんだろうけど、それが払拭できていないのは確かである。

最初の方で、名前も書かずに意味深に登場させた、洋館に住む女子高生…主人公の新介たちの視点でファーストコンタクトした時にさ、直ぐに“洋館の~(中略)、あの少女である”って文章で説明しちゃうのね。せっかく小説という形で描いてるんだから、読み手の想像力が膨らむように、もう少しひっぱるくらいの努力をせんかとツッコミを入れたくなる!

テーマになっている“共感覚”に関しても…普通の人と異なった感覚の為に、孤独感を味わっているんだよって分からせる程度の扱いであり、テーマに全然深く突っ込んでないのね。映画のサイトに載っている解説以上のことは期待しないように。文章で見てもパっとせんので…これが映像になった時にはどうなんだろうか?“共感覚”というものを、観客に体感させるようなビジュアルが用意されているのだろうか??

キャラクターに関しては、配役の写真が載っているので、描きこみが不充分でみも随分、助けられていますね。というか、自分で俳優さんの姿を当てはめるくらいしか、楽しみようがない(笑)

オチもはぁ?って感じで…ミステリーとしてはありきたり。そのありきたりを、文章力でもっとカバーして欲しかったぞ。難しいテーマを扱っているようで、中身は薄いので、文章量も意外と少なく、1時間程度で、あっという間に読み終わってしまう。ノベライズなんで、やっぱり映画を見た後の補完的に用いる程度の役割にしかならないのかな?機会があったら、映画も見てみます。






個人的採点:55点







ファビュラス・バーカー・ボーイズの映画欠席裁判 著:町山智浩&柳下毅一郎

ファビュラス・バーカー・ボーイズの
映画欠席裁判

町山 智浩&柳下 毅一郎:著
洋泉社 (SBN:4-89691-629-8
2002年5月発行 定価1,575円(税込)









映画雑誌「映画秘宝」等の連載コーナーでお馴染みの2人による、毒舌満載(というか、だらけ)の映画エッセイ。映画秘宝の方は、雑誌をほとんど持っているので読んだことがあるものもあるのだが、それ以前にSFオンラインなど、他の媒体に掲載されたものは、初めて読むものも多かった。知っている内容も、あらためてまとめて読み直すと…この二人の凄さがわかる(笑)

1997年の「フィフス・エレメント」から始まって、2001年の「千と千尋の神隠し」まで、約100本の映画をメッタ斬り!

自分が見た映画で、つまらないと思っても、世間での評判が良かったりする映画ってあるじゃない?アレ、おれってどこかズレてるのかなって思うんだけど…実はズレてるのはお馬鹿な世間の奴らだったっていうことが理解できるんですよ、この本で(笑)

映画を中心とした、エンタメの雑学知識の多さには、とにかく驚かされる。いかに、世間の映画評論家と語っている人種の人々がろくなもんじゃないかっていうのを改めて知ることもできるよね。結局、あの人たちは映画会社の回し者ってことですよ。

それでも映画秘宝や、この2人の影響なのか…やたらと毒舌映画評みたいなのが巷に溢れてきたけど、本当に知識がある2人だからこそ、毒舌が生きてくる。素人がただコキおろすだけのAmazonレビューと違って、ボケ・ツッコミ&オチも綺麗に決まり、読み物として、そんなに不快感を感じない。ネットで映画評を検索すると必ず出てくる、某映画評論家(2ちゃんねるでよく叩かれている人)とは比べ物にならない。あの人のレビューも、素人ブログだったら、そこそこ面白い読み物になるんだろうけど…それで飯を食ってるプロだというのだから、パクリ意見や間違いだらけの知識の多さに辟易してしまうのだ。

既に単行本の第二弾も発売されているようだが…また100円で見つけたら買います。最近の映画秘宝の連載は、ほとんどうちにあるけどね(笑)






個人的採点:75点







となり町戦争 著:三崎亜記

となり町戦争

三崎亜記:著
集英社 ISBN:4-08-774740-9
2005年1月発行 定価1,470円(税込)










すばる新人賞受賞作品だそうで…帯には五木寛之、井上ひさしなど、錚々たるメンバーの推薦コメントが掲載されていた。タイトルのインパクトと表紙カバーの綺麗さに惹かれて、手に取ってみた。15日の終戦記念日にあわせて、“戦争”をテーマにした作品を読んでみるのもいいかなって。

舞坂町に暮らす、ごく普通の営業サラリーマン、僕…その僕の住んでいる町が、隣町と戦争することに。さらに、役所から“戦時特別偵察業務従事者”に選ばれたことから、敵地の偵察をする羽目に…。突然、戦争の真っ只中に放り込まれてしまったのだが…日常が大きく変化することがなく、戦争の実感がなかなか得られないのだが…。

タイトルと概要から、街中を戦車が走り、その上を爆撃機やミサイルが飛び交う…そして人びとが血みどろの殺し合いが延々と繰り返す、“バトルロワイアル”的なグロテスク・バイオレンス・アクションなんかも想像したのだが…それにしちゃ、カバーの表紙がホノボノしすぎているなぁと。結局、ほとんど銃も出てこない「ジャーヘッド」状態なお話でしたね。

実際の戦争らしい表現をほとんど用いないで、戦争を知らない我々の世代に、戦争を身近のものとして実感させようというアイデアは面白い。書類上の数字だけで、こちらの期待していた戦争ものの表現を描いちゃうんだもんね。

行政のいかにもお役所的な本音と建前、そして理不尽さを描きながら…戦争も、日常茶飯事に行われている道路工事と、同程度のような扱いで描いてしまうというブラックかつシニカルなユーモア。ラブストーリーな部分がちょっと中途半端な感じに思えるのだが、誰でも一度くらいは経験のある、恋愛の苦しさ、痛さなどで読者に、少しでも戦争で味わう苦しみを体感させようってことなんだろうなぁと考える。

現代の日本に似てもいるけど、似て非なるパラレルな世界なんだろう、この世界は。さりげなく時代設定は“成和”(昭和でも平成でもないのね)になっている。自分はシュールというよりも、SFっぽさを感じたかな。






個人的採点:65点







蠅の女 著:牧野修

蠅の女

牧野修:著
光文社 ISBN:4-334-73808-7
2004年12月発行 定価500円(税込)










短めの作品をと思い、牧野修のアクションホラー「蠅の女」を読む。文庫用に書下ろしされたものなので、程よいボリューム。

オカルトサイトのオフ会で、廃墟探検に参加した城島洋介は、参加したほかのメンバーと共にカルト教団らしき怪しげな集団が執り行う儀式を目撃してしまった。慌てて逃げ出す参加者たち…メンバーの一人を置いてきぼりにしてしまったのに気づき、戻ってみるのだが、その仲間はそのまま行方不明になってしまった。そして数日後、城島の周辺でも異変がおき始め、同じ参加者の一人が不審な自殺を遂げたという。生き残った仲間で、悪魔を召喚して、この怪異に立ち向かおうと考え付くのだが…。

非常に牧野作品らしいヒロイン(?)とでもいうか、召喚した悪魔、蠅女。一度死んだ、ゾンビ状態の敵の化け物どもを容赦なくグチャグチャ、ドロドロと血祭りに上げていく。

物語の内容よりもテンポで読ませる、映画で言えば、B級ホラー的な作品ですよね。蠅が召喚(正しくは召喚じゃなくて喚起だと本文に説明があったなぁ)されるまでは、主人公たちを襲う恐怖みたいのがよく描かれているのだが、後半はバトルシーンの血みどろ描写だけを楽しむような感じだったかな。物足りないというよりは、相変わらずの牧野節ってところでしょうか?何も考えないで楽しむのにちょうど良かった。






個人的採点:65点







撓田村事件 iの遠近法的倒錯 著:小川勝己

撓田村事件 iの遠近法的倒錯

小川 勝己:著
新潮社 ISBN:4-10-126451-1
2006年2月発行 サイズ 定価900円(税込)










小川勝己の「撓田村事件」を読了…帯や表紙裏の説明文(または巻末の解説)に、横溝正史へのオマージュという言葉が掲げられているので、バリバリの本格推理を期待して読み始めたのだが…。

岡山県の山間にある集落、撓田。東京からの転校生が、足を切断され、赤松の木にくくりつけられた状態で発見された。さらに、この土地の権力者、朝霧家の行方不明になっていた老婆が惨殺死体で発見される。住民たちは、大昔に起きたある事件と結びつけるのだが…?最初の被害者と同じ中学に通う阿久津智明と友人たちは、事件の渦中に巻き込まれていく…。

文庫で700ページ以上ある本なんだけど、最初の200ページくらいは事件が起きません。田舎の中学校に通う主人公の視点を中心に、いかにその土地が、外界から遮断された、閉鎖的な土地柄なのか…そして恋に悩む中学生の心境をダラダラと語っています。方言による独特の言葉も多く…最初こそとっつきにくさもあるのですが、まぁ、700ページもあれば、次第に慣れてきて、後半では方言も苦にならなくなってくる。いかにも中学生らしい、ボンクラな発想に笑わせられながらも…三十路過ぎて“彼女募集中”の身である自分には、ちょっぴりリアルに共感できてしまう部分があるから、悲しいかな?

半分青春小説のような味わいなんだけれども…ようやく第一の事件が起きると、そこから先は、テンポよく色々な事件、謎が提示されていきます。猟奇殺人、見立て殺人、忌まわしい過去の惨劇…。事件の真相も二転三転し、ミステリーとして充分な読み応え。凄く陰惨で、猥雑な事件が起きているのだが…田舎のホノボノとした空気感と、センスの良いユーモアで緩和され、いい感じにミスリードされていくかな(笑)

探偵役となる某キャラクターに、もう少し名探偵らしいキャラ萌え要素が欲しかったかなと…。






個人的採点:70点







ST 警視庁科学特捜班 黄の調査ファイル 著:今野敏

ST 警視庁科学特捜班 
黄の調査ファイル

今野敏:著
講談社 ISBN:4-06-182350-7
2004年1月発行 定価777円(税込)









前にも何冊か読んでいる、今野敏のSTシリーズ…「黒いモスクワ」をすっ飛ばした以外は、1作目から順番に、この作品の前作「赤の調査ファイル」まで読んでいるのだが、ようやくその後のシリーズも読み始めてみる。

古びたマンションの一室で、宗教団体の若い信者4人が、練炭で集団自殺を行った。検死官も自殺と断定するのだが…現場の状況に不自然さを感じたSTメンバーは、調査続行を懇願。所轄の捜査員と、若者が属していた宗教団体「苦楽苑」の捜査に乗り出す…。すると教団内部で幹部の対立が起こっていたり、自殺したメンバーとよく行動を共にしていたメンバーが現れたりと、次々に容疑者が浮上。STメンバーは、検死官の下した自殺を覆し、真犯人を突きとめることができるのか?

前にも宗教団体を題材にした事件を描いていたが…前ほどオカルティックな内容ではない。ただ、STメンバーで、僧侶の山吹が、いつも以上に活躍。葬式や法事で足を痺れさせながら聞く、坊さんの説法のごとく…仏法用語満載の説教くさい会話がやたらと多く、今までとはまた違った作品になっていた。

せわしない日常で物事を見つめ直して、本質を見抜くことの大切さ…そういうのがなんとなく感じられる。

それにしても、ここ最近は…自殺を題材にしたミステリー小説をよく読むなぁ。まぁ、コレは…ぶっちゃけ、偽装だったわけだけど。






個人的採点:65点