となり町戦争 著:三崎亜記
- となり町戦争
三崎亜記:著
集英社 ISBN:4-08-774740-9
2005年1月発行 定価1,470円(税込)
すばる新人賞受賞作品だそうで…帯には五木寛之、井上ひさしなど、錚々たるメンバーの推薦コメントが掲載されていた。タイトルのインパクトと表紙カバーの綺麗さに惹かれて、手に取ってみた。15日の終戦記念日にあわせて、“戦争”をテーマにした作品を読んでみるのもいいかなって。
舞坂町に暮らす、ごく普通の営業サラリーマン、僕…その僕の住んでいる町が、隣町と戦争することに。さらに、役所から“戦時特別偵察業務従事者”に選ばれたことから、敵地の偵察をする羽目に…。突然、戦争の真っ只中に放り込まれてしまったのだが…日常が大きく変化することがなく、戦争の実感がなかなか得られないのだが…。
タイトルと概要から、街中を戦車が走り、その上を爆撃機やミサイルが飛び交う…そして人びとが血みどろの殺し合いが延々と繰り返す、“バトルロワイアル”的なグロテスク・バイオレンス・アクションなんかも想像したのだが…それにしちゃ、カバーの表紙がホノボノしすぎているなぁと。結局、ほとんど銃も出てこない「ジャーヘッド」状態なお話でしたね。
実際の戦争らしい表現をほとんど用いないで、戦争を知らない我々の世代に、戦争を身近のものとして実感させようというアイデアは面白い。書類上の数字だけで、こちらの期待していた戦争ものの表現を描いちゃうんだもんね。
行政のいかにもお役所的な本音と建前、そして理不尽さを描きながら…戦争も、日常茶飯事に行われている道路工事と、同程度のような扱いで描いてしまうというブラックかつシニカルなユーモア。ラブストーリーな部分がちょっと中途半端な感じに思えるのだが、誰でも一度くらいは経験のある、恋愛の苦しさ、痛さなどで読者に、少しでも戦争で味わう苦しみを体感させようってことなんだろうなぁと考える。
現代の日本に似てもいるけど、似て非なるパラレルな世界なんだろう、この世界は。さりげなく時代設定は“成和”(昭和でも平成でもないのね)になっている。自分はシュールというよりも、SFっぽさを感じたかな。
個人的採点:65点