暗いところで待ち合わせ 著:乙一
暗いところで待ち合わせ
乙一:著
幻冬舎 ISBN:4-344-40214-6
2002年4月発行 定価520円(税込)
今度、田中麗奈主演で映画も公開されるらしい乙一の「暗いところで待ち合わせ」を読み終わった。タイトルや表紙の印象から、ホラーっぽい作品を勝手に想像してしまったのだが…読み終わった後は意外と爽やか?一応、殺人の容疑者が視覚障害の女性の家に逃げ込んで、居座ってしまうというサスペンス調なお話ではある。
事故で視覚を失った本間ミチル…母親の記憶はほとんどなく、父親に育てられていたのだが、その父も病気で他界し、一人暮らしをしていた。小学校時代からの幼馴染カズエが色々と世話をやいてくれるのだが…ほとんどは家の中で何もせずに暮らしている。一方、印刷工場に勤める大石アキヒロは、他人とのコミニケーションをとることを苦手とし、人間関係で悩んでいた。ある朝、会社の同僚を駅で突き飛ばしたとして、警察から追われる身となり…ミチルの家に逃げ込む。目が見えない事を知っていたアキヒロは、ミチルに気づかれないように、息を殺しながら隠れ、居座り続けるのだが…。
実は乙一作品は短編集ばかり読んでいたので、長編作品に挑戦するのは初めてだった。内容的には下手なサスペンス映画みたいな内容なんだけれども(洋画とかでもあるじゃん、逃亡者が老人の家に居座っちゃったりするパターン)、相変わらず文章力の上手さで読ませる。文章力の上手さ故に、オチが途中でピーンときちゃうのは、短編作品同様、この著者のパターンではあるが(それだけミステリー、サスペンス的にはフェアってことだよね)、底へ持っていくまでのキャラクターの感情、心情の描き方に魅せられる。
自分もあまり社交的な性格ではなく、けっこう人との付き合いって苦手なほうなので…主人公2人の気持ちに共感しやすかった。ホっといてくれよ~って思っても、何かの拍子に急に寂しくなっちゃったりね…ミチルの気持ちに、思わずうなずきながら読んでいた(笑)
ほとんど会話もないのに、二人の奇妙な連帯感がしっかりと伝わってくるところも、なかなかスリリング。これって、ミチルであり、トモヒロの視点で描いてるからこそ、退屈にならずに緊張感が持続するわけだけど、こんなのを映像でやっても間延びしないかね?まぁ、そこが映像になった時は、演出家の腕の見せ所なんだろうけど…情報によると2時間以上の作品になるらしいので、ちょっと心配。
何はともあれ、小説の方はなかなか面白かった。初めて読んだ乙一の短編作品が、けっこう壮絶なホラー作品だったんだけどさ…それ以降は、こういうせつない系か、爽やか系が多いなぁ。こういう題材も悪くないけど、やっぱりこの著者の文章力でグロテスクな物を読みたい。今度こそ、グログロホラーの作品を探して読んでみよう。
個人的採点:70点