セリヌンティウスの舟 著:石持浅海 | 105円読書

セリヌンティウスの舟 著:石持浅海

セリヌンティウスの舟

石持浅海:著
光文社 ISBN:4-334-07621-1
2005年10月発行 定価800円(税込)










既存のお約束ミステリーから脱却しながらも、良質な本格推理小説をコンスタンスに発表する石持浅海…何冊か作品を読んでいるがどれも面白いものばかりだ。今回は海で遭難しかかった、スキューバーダイビングのダイバー仲間の友情を題材とした物語。

石垣島のダイビングツアーで、九死に一生を得た6人のダイバー仲間。その事故をきかっけに強い絆で結ばれ、その後もダイビングを通じて交流を続けていたのだが…メンバーの一人、米村美月が、あるダイビングの打ち上げの夜、会場になったメバーの一人の自宅マンション、同じ部屋で寝ている仲間の前で、青酸カリを飲んで自殺を図った。警察の捜査では事件性はないと判断されたのだが…残されたメンバーは四十九日の法要で久しぶりに再会し、彼女の死について色々と語り合う中で、ある不審な疑問に直面し…議論を交わし始める。

ちょっと前に話題になった映画で、実際のダイビング事故を扱った「オープン・ウォーター」という、クソつまらない映画があったけど、ああいう極限状況から生還した人たちのその後のお話だよね。普通の人たちの友情なんかとは、比べ物にならない程の結束力。

読んでいるこちらとしては、真っ先に…“本当は殺人事件なんじゃないのか?”という疑問が浮かぶのだが、死ぬか生きるかを一緒に体験した仲間だから、「それはない!」って、殺人の可能性なんか考えないのね。だけど…そこまで信じあえる仲間だったら、もしかしたら自殺幇助はするかもしれないということで…協力者探しが始まる。

昨年の“このミス”で上位に食い込んだ近作「扉は閉ざされたまま」のように、最初から犯人(この作品の場合は協力者)が提示されているわけではないのだが…ぐだぐだと推理の応報…否定、肯定を繰り返しながら地味に物語が進んでいくという感じは、なんか相通ずるものがあるか。

地味ながらも、計算高さが感じられた「扉は閉ざされたまま」に比べると推理小説としてのカタルシスが、あまり味わえず、いつもの石持作品に比べるとインパクトが薄いと思うのだが、最近は映像の方でも「LOST」とかさ、それこそ先に触れた「オープン・ウォーター」や「南極日誌」など、人間の極限状態を描いた物語って流行じゃない?人間の危うい心理状態を描いた物語として、色々と考えさせられる部分はあるかなと。

自殺の協力者を探すという部分ではフェアな伏線もあるが、勘の鋭い人なんかでは、その違和感で、きっとある程度、怪しいヤツのめぼしはつけられるだろう。この辺でもう一ひねりあれば、推理小説としての面白さももっと出ただろうに…。解明される真相、同期にも????がいっぱい残るのが残念。






個人的採点:65点