1年ほど前になるでしょうか。

ボクが友人(仮に「A」さんとします)の新婚家庭に招かれて奥さんの手料理をご馳走になっている時、Aさんは1枚のソロ・ピアノ・アルバムを聴かせてくれました。

かれの人生に大きな勇気を与えてくれたアルバムなのだそうです。

キース・ジャレットの『The Melody At Night, With You』

キースが長い心の病の旅からようやく立ち返ってきたときに、妻への感謝を込めて録音したソロ・アルバムです。


♪blowin’ in the music キース・ジャレットのアルバムジャケット

カードのトビラに、
"For Rose Anne,
Who heard the music,
Then gave it back to me."とあります。

心の闇から音楽を取り戻すことができたキースの喜びが、このメッセージに込められているように思えます。

1曲目に収録されているのが、ガーシュウィン作曲の「アイ・ラヴズ・ユー、ポーギー」です。
これがAさんに勇気を与えてくれた理由とは、この演奏を聴いて、Aさんは彼女に結婚の申込みをしようと
決意したからだそうです。これをキミと一緒に聴きたいんだ、と。



(⇒リンク)

キースはこの名曲を気持ちの入った素晴らしい演奏で聴かせてくれます。

「アイ・ラヴズ・ユー、ポーギー」は、ジョージ・ガーシュウィンが兄のアイラたちと共作したオペラ手法のミュージカル『ポーギーとベス』のための曲です。

私たちが中学で習ったように、主語が“アイ(私)”なら、動詞には-sがつかない決まりなのに、このミュージカルには他にもこんな常識破りがあります。

「Bess, You Is My Woman Now」、Youなのに、Is ってヘンですよね。

これは、黒人たちを蔑んだ気持ちでそうしたのではなく、教育の機会を与えられなかった黒人たちの日常会話をリアリティをもって再現したためだといわれています。

キースを聴いていたら、ビル・エヴァンスの「I Loves You Porgy」を思い出しました。


(⇒リンク)

この曲「I Loves You Porgy」はビルの名盤のひとつ『ライブ・アット・モントルー』に
収録されていたヴァージョンをお聴きのかたも多いはずですが、最近では別のライブトラックでアルバム『ワルツ・フォー・デビー』にボーナス・トラックとしても収録されています。


♪blowin’ in the music ビル・エヴァンスのモントルー

も『ワルツ・フォー・デビー』のボーナストラックのヴァージョンはヴィレッジ・ヴァンガードでライブ収録されているのですが、とりわけ客のざわざわした会話がうるさいくらい聞こえてしまいます。ヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ本編に入らなかったのも無理ありません。

かつてロンドンのロニー・スコッツというジャズ・クラブでビル・エヴァンスを聴いたことも思い出します。すくなくとも突然ビルのライブに遭遇した興奮と感激でボクは固唾を呑んで演奏に聴き入っていたことだけは確かです。

演奏の最中に飲んだり食べたりするのは、目の前にいる、あの極端な猫背でピアノの鍵盤しか視界にないであろうビルに失礼極まりない行為のように思えたのでした。

以来ボクは、ジャズ・クラブの演奏中は食べることができないのです。

【この曲/他のオススメ演奏】
マイルス・デヴィス『ポーギーとベス』にも、押さえきった名演奏が聴けます。アレンジは、ギル・エヴァンス(ビルではないですよ~)。


♪blowin’ in the music マイルスの「ポーギーとベス」
後にアランフェス協奏曲をクールにアレンジしたマイルスのアルバム『スケッチ・オブ・スペイン』もギルの評価を高めました。

しばらくお休みしていましたが、こんな形でぼちぼち再開しようと思います。よかったら、またおこしください。