第25回横溝正史ミステリ大賞受賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
- 伊岡 瞬
- いつか、虹の向こうへ
【NEW WAVE】
2005年6月19日 掲載
第25回横溝正史ミステリ大賞受賞 伊岡瞬氏に聞く「人生を投げ出さないでよかったという気分が味わえる物語です」
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《作品概要》知人の別れ話に巻き込まれ、殺人を犯しクビになった元刑事・尾木。今は妻にも逃げられ、警備会社に勤め、同僚のバイト青年・ジュンペイ、翻訳家の石渡、心の病を抱える恭子と奇妙な同居生活を続ける。
だが居候に転がり込んできた女・早希の彼氏が殺され事情が一変する。早希は殺された男・久保の美人局の相棒だった。
悪いことに久保は暴力団連合会長の甥っ子で、尾木は会長の配下に拉致された揚げ句、犯人捜しを命じられる。
暴力団の内部抗争、警察腐敗の中、事件は意外な展開に……。
――殺しと暴力団、それに絡む女と元刑事。その点ではオーソドックスなハードボイルドだが、元刑事と同居人物たちの関連が明らかになるにつれ、人間ドラマとしての新味が色濃く漂いだす。
「当初は主人公の元刑事と美人局(つつもたせ)の若い女との逃避行を、と考えていたんですが、どうも作品世界が寂しすぎる。そこで今までにない、主人公とわけありの同居人たちを描いてみたらうまくハマった、という感じです。そこから自分が面白いものを、とことん好きなように書いてみようという気にさせられました」
――主人公が暴力でボロボロにされ、事件の解明に近づくほど傷ついていく。真犯人が明らかになるラストがまた秀逸だ。
「格好をつけるようですが、人生、誰もがきれいごとでは生きられない、ということですね。皆、泥のぬかるみに足を取られドロドロになりながら生きざるを得ないし、傷つきもする。その当然のことをどう肯定し、どう表現できるか、まさにそこを描きたかったんです」
――完全に中年のオヤジ族向けの物語のような気もするが?
「(笑い)確かに日刊ゲンダイの読者層を含め、オヤジ族の読み手を想定しています。だって生きてればいいことばかりじゃない、悪いことの方が多い、でも生きてればちょっとは生きててよかったな、と思えることもあるじゃないか、と。そういうことがわかる層じゃないですか。私としては、人生、投げないでよかった、という気分を味わっていただける物語にしたつもりなんです」
血液型O型の山羊座。趣味は、「サニーの新車1台分ぐらいはカメラ代に投資した」と語る、歴20年超になる写真撮影。
今後は「文章は正直、書き手のスタンスはダイレクトに読者に伝わると思うので、いつになっても初々しさを失わないで、エンターテインメントを描き続けたい」とも語る。
いおか・しゅん 1960年、武蔵野市生まれ。日本大学法学部卒後、大手広告会社入社、現在も勤務する。本作品で第25回横溝正史ミステリ大賞、及びテレビ東京賞をダブル受賞し、作家デビュー。本作品はTVドラマ化が決定している。
第47回群像新人文学賞優秀賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
【NEW WAVE】 2005年6月5日 掲載
群像新人文学賞優秀賞受賞
「ロックンローラーのソウルと哲学の底にあるソウルには相通じるものがある…」
目前で飛び降り自殺を目撃した男が、時空を超えた狂気のギャンブルツアーに突入するアナーキーな衝撃作だ。 《作品概要》ある日、華田(はなだ)の鼻先をかすめて男が飛び降り自殺した。以降、華田の頭の中には奇妙な数字がすみ着き、友人に連れて行かれた闇カジノで連戦連勝しだす。 華田は頭蓋の中で炎を上げる数字の命ずるままギャンブルにふけり、そして勝ち続ける。左手薬指にサージウス(紅玉髄)を埋め込み、酒、クスリも絡み、やがて幻想と狂気の狭間で生きるようになる。最後には謎めいた裏カジノのオーナーに誘われ、死を賭したゲームにも挑戦するが……。生と死の意味を問う、狂気のギャンブル小説。 ――イカレ頭のギャンブラーや、死を賭した究極のゲーム、ニーチェやアインシュタインなどが相当過激に、アナーキーに登場するギャンブル小説だが、こういう物語はどこから? 「ニーチェやベンヤミンなんかがけっこう好きで、彼らの哲学のやばさ、強度、破壊力を、フィクションに焼き直して表現してみたかったんです。人が生きていく上で、やっぱり哲学者の仕事ははずせないじゃないですか。それと父親の下でペンキ職人の見習をやっていた時期があって、僕はあらゆる職人の仕事、技術を尊敬してる。だから僕の書くものは小説というよりクラフトワークでありたい。そういうところからこの小説は出てきています」 ――ギャンブル絡みで死んでいく男が3人。“偶然と死、それがギャンブル(人生)の本質”という言葉も出てくるが、一番書きたかったことは? 「ロックンローラーのソウルと、哲学の底にあるソウルって相通ずるものがあると思うんですが、右翼左翼じゃなく、国家とか資本主義から狼のように逃れていこうとすると、こういうセンスの物語になるんじゃないか。アートとかカルチャーって本来そういうものだったと思うんですよ」 ――人生とはギャンブル? ブッ飛んだ表現も多いが? 「死というディーラーが皆のチップをかき集めていく、人にとって一瞬先は闇、という意味ではそう。書いていて、今、邪魔されたら誰でも殺せる、と実感する瞬間もあった。そういう意味ではブッ飛んでましたね(笑い)」 血液型B型の乙女座、独身。仮面レスラーのマスカラスが活躍した頃からの格闘技ファンで、最近のお気に入りはヒョードルやミルコップ。 今後は、「人間の叫びを描いたフランシス・ベーコン(1909~1992)という画家がいるんですが、彼の描いたような純粋な人のシャウト、精神を貫く叫びをとらえるような作品を書いてみたい」とも語る。 人の魂を高度なテクニックで殴りつける、そんな予感を持たせる大型新人の登場だ。 さとう・のりかず 1977年、福岡市生まれ。福岡大学付属大濠高校卒後、実家の内装職手伝いやJRのアルバイト、広告デザインの仕事などに就く。処女作の本作品で第47回群像新人文学賞優秀賞を受賞、作家デビューする。 |
第58回日本推理作家協会賞受賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
【NEW WAVE】 2005年7月3日 掲載
第58回日本推理作家協会賞受賞 戸松淳矩氏に聞く「“文明の衝突”を背景にした本格的歴史推理小説です」
《作品概要》侍遣米使節団がニューヨーク入りする直前、殺し屋と株式仲買店経営者の2人が殺される。殺し屋は高所から突き落とされた後、再び建物の最上階に担ぎ上げられ、経営者は溺死後、わざわざ燃やされていた。 現場には日本使節団歓迎準備委員会の記章と、スタンリー社発行の「聖書物語」の切れ端が残され、さらに謎の誘拐事件も起きて……。 ――1860年当時のニューヨーク、アメリカを二分する内戦前夜の状況、侍使節団歓迎の実態など、まるで見てきたような臨場感ですね。 「当初準備していた本格推理のアイデアをどうするか模索していたとき、たまたま知人が1860年の侍使節団の一員として渡米した人物の子孫だとわかったんです。その人物が残した記録類では、使節団はニューヨークで街頭パレードなど大歓迎を受けている。ところが当時のアメリカは南北戦争直前、奴隷問題や宗教、政治、経済問題で大揺れの時代。そんな中でなぜ東洋の島国から訪れた侍たちが大受けしたのか。その疑問がこの物語の出発点になりました」 ――主人公は意外にも日本人ではなく、ニューヨークの新聞記者ダロウとワトソン役の挿絵画家。そして米国市民で元漂流民の日本人ジューゾが2人を助ける。 「探偵役は、やはり当時の米国側の複雑怪奇な事情に通じた人物、ということで自然に生まれました。書きたかったことは、歴史的な文明の衝突を背景にした本格推理、ですね。アメリカはたかだか建国250年、この物語当時なら建国100年の移民の国、というイメージですが、彼ら自身はギリシャ以降の正統な西洋文明の継承者というプライドがある。その彼らが、侍たちの着物や工芸品、刀、礼や義の思想などに接して、日本人の評価を良い方へ変えていった。そういう経過も書きたかったし、結局、南北戦争当時と現代のアメリカ人はちっとも変わっていない、ということも書きたかったし(笑い)」 ――内容もさることながら構想15年、受賞に17年という本物の大作だ。 「評価されたことは素直にうれしいですね。100枚書いては潰しての連続で、書きながら作家として作品に育てられた、とも思います。とにかく読者の方には歴史本格ミステリーの面白さを十分に堪能していただけるよう仕上げたつもりです」 ●とまつ・あつのり 1952年、京都生まれ、東京・杉並育ち。学習院大学文学部哲学科卒後、家業の印刷業を手伝いながら執筆。71年小説サンデー毎日新人賞最終候補。79年、ヤングアダルト(中高生)向けの「名探偵は千秋楽に謎を解く」でデビューし、同シリーズで計3作を発表。87年、本作に着手し、東京創元社社長・会長を歴任した同社相談役・戸川安宣氏の尽力もあり本年、著者初の一般向け歴史本格ものとして刊行。第58回日本推理作家協会賞を受賞。 |
中国の歴史小説作者コメント
- 小前 亮
- 李世民
【NEW WAVE】
2005年7月23日 掲載
話題作「李世民」の作者 小前亮氏に聞く「好みの人物を探し出すのも中国歴史小説の楽しみ方です」
作家・田中芳樹氏が、「これが処女作? 冗談だろう」と驚愕の嘆息をもらす、驚異の新人の一大歴史ロマン「李世民」(講談社 2200円)が登場した。著者は小前亮氏、弱冠29歳。確かな筆力で隋末、唐建国の騒乱の時代を鮮やかに描き出した話題作である。
――若手の中国歴史小説の書き手としては、非常に高い評価を浴びてのデビューだが、とくに唐を創建した李世民を主人公に選んだ理由は?
「隋末・唐初は群雄割拠の時代で、さまざまな英雄・知将がそれこそ縦横無尽に暴れまわり、魅力的な人物も多いんです。でも、意外に日本では知られていない部分も多く、まずぜひこの時代を紹介したいという気持ちがありました。中でも李世民は、兄殺しで太祖になった人物として有名ですが、李世民は兄殺しをせざるを得ない状況に追い込まれた人物とみることも可能で、そこに物語として魅力を感じました」
――忠義、義侠、そして裏切りなど満載の物語だが、一番書きたかったことは?
「いわゆる歴史書はあくまで勝者側が後に残した記録なんですね。李世民の場合も、中国の正史や演義ものでは兄が弟の功をねたんで暗殺しようとしたため、李世民が反撃したことになっている。つまり兄は悪者というわけです。しかし悪者とされる敗者の側にも、価値ある死にざまを見せた人物はたくさんいるんですね。まさにそこを描きたかったわけです」
――中国歴史小説の書き手には、いわゆる大御所、大物作家も多いが?
「偉大な先輩が多いですから厳しい批判は覚悟の上です(笑い)。僕としては基本には忠実に、一方では歴史に詳しい人はもちろん、あまり中国史をご存じない方にも楽しめる物語を書いていきたいですね。主従の関係にもいろんなパターンがあります。お好みの人物を探していただくのも中国歴史小説の楽しみ方の一つだと思います」
血液型A型の水瓶座、独身。これまで作家のマネジメントプロダクションの社員として、歴史資料の翻訳や歴史コラムの執筆を手がけ、その実力を見込まれ一気に大作でのデビューとなった。今後は「中国の歴史だけでなく、本来の専門の中央アジアやイスラム史の世界も作品化してみたい」とも語る。
●こまえ・りょう 1976年、島根県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修了(中央アジア、イスラム史専攻)。在学中から歴史コラムの発表を始め、大学院修了後、作家のマネジメントを主にする編プロに入社。担当する田中芳樹氏らの勧めで小説執筆に取り掛かり、本作でデビューする。
公式ウェブサイトwww.wrightstaff.co
第2回幻冬舎アウトロー大賞特別賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
- 藤沢 さとみ
- ハーフラバーズ
- 藤沢 さとみ
- たったひとつのプレゼント
【NEW WAVE】 2005年6月12日 掲載
第2回幻冬舎アウトロー大賞特別賞受賞 藤沢さとみ氏に聞く「自分たちとは違う“個性”をもつ人たちの言葉に耳を傾けてほしい」 《作品概要》麻衣は32歳のOL。だが彼女は幼少時から性同一性障害に悩む男性だった。唯一の理解者だった母を亡くし、孤独に苦しむ麻衣はようやく同僚の恵子と、麻衣を慕う青年ノリという理解者を得る。だが麻衣は普通の恋愛を望み、出会い系で知り合った男との性行為に及ぶが、「気味悪い」と罵倒され深く傷つく。 失意の中、麻衣は博多の男性とメールでの交際を始め、やがて彼は障害を理解した上で麻衣を愛し始める。そして性転換手術。麻衣は彼との新しい人生を夢見るが……。 ――幼少時から思春期、大人になっても、周囲の人々への告白と逡巡(しゅんじゅん)の中で揺れ動く。最後は本当の女として男を愛したいと手術を受ける。切ない物語だが、一番書きたかったことは? 「社会には常識的な性の枠に当てはまらない人たちが存在します。彼女、彼たちが結婚したいと思っても、世の中にはそれを阻む大きな壁がある。私もそういう一人ですが、やはり普通に愛したいし、愛されたい。そういうごく普通の気持ち、思いを、皆さんに知ってほしかったんです」 ――自伝的恋愛小説とうたってありますが、自分のプライバシーをさらすことに抵抗はなかった? 「半分ノンフィクション、後はフィクションという感覚ですけど、やっぱりかなり書きにくいシーンもありました。例えばオペのシーンです。思い出しながら文章にすることに、どうしても抵抗があって、担当編集の方に励まされながら書きました。でも読んだ方がどう感じて下さるか、どう咀嚼(そしゃく)してくれるんだろうかと想像しながら書くことは、ある意味、楽しかったですね」 ――昨今、性同一性障害を抱える人の存在はよく知られるようになったが、やはり自分の身の周りに存在すると、拒否する人も多いようだが? 「たぶん普通の会社の中ではそう多く見かけないと思います。でも既成概念の社会の中では、独りで苦しみ、救いを求めている人は大勢います。私もそうでしたが、中には障害を隠し会社の中で黙々と仕事に励んでいる人もいます。この本を手にした方には、自分たちと違うこういう“個性”をもつ人たちの存在、言葉に耳を傾けていただけたら、と思っています」 血液型B型の牡羊座。趣味のゴルフは歴6年、ハーフ40~50。料理教室修了でパン作り講師の資格も持ち、和洋中とこなす料理上手でもある。 ちなみに現在の彼とは「付き合って半年」とか。今後は「死を前提とした生を貫くことの意味、つらさ、悲しさ、喜びすべてを書いてみたい。できれば世界平和や、人類が一つになれるのでは、といった作品も」とも語る。 日本国内のマイノリティーとして、果敢に世間の常識の枠に挑む新人の登場である。 ふじさわ・さとみ 1959年、福岡県生まれ。山口大学経済学部卒後、福岡県内の貿易会社勤務を経て、フリーのコンピュータープログラマーに。 25歳で通常の結婚をし子をもうけたが、幼少時からの性同一性障害に悩み抜き、00年秋、離婚。女性として生きるため翌01年、性転換手術を受けた。著書に日記エッセー「ハーフラバーズ」。本作品で第2回幻冬舎アウトロー大賞特別賞を受賞。 |
第10回創元推理短編賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
- 加藤 実秋
- インディゴの夜
かなり面白かった。ホストが主人公であるところが、今風で、新鮮だった。
- 加藤 実秋
- トゥモロウトゥデイ
- ウォン カーウァイ, 加藤 実秋
- 天使の涙
【NEW WAVE】 2005年5月15日 掲載
第10回創元推理短編賞受賞 加藤実秋氏に聞く「リズム感を大事に。書いている最中、常に自分でリズムをとり続けてました」 「ありそうでなさそうな、でもギリギリのところでリアリティーのある物語を目指しました」と語る加藤実秋氏。最新刊「インディゴの夜」(東京創元社 1500円)は、選者の綾辻行人・有栖川有栖・加納朋子氏らが絶賛した創元推理短編賞受賞作を含む連作集。渋谷のホストクラブを舞台に、今時の若者文化、性、ドラッグにまつわる難事件が次々に展開する。 <作品概要>「クラブみたいなハコで、DJやダンサーのような男の子が接客してくれるホストクラブ」――女性ライター・高原晶のこの発案に、大手出版編集者の塩谷が乗り、美形の元ホスト・憂夜をマネジャーに渋谷にオープンしたのが「club indigo」だ。 ホスト役の男の子たちのユニークさも手伝って店は繁盛するが、VIP客の成り金女性が殺されたり、歌舞伎町の王道系ホストクラブとの確執で裏世界の犯罪に巻き込まれたり。表題作をはじめ、今時の若者文化を背景にした3編の事件を収録する。 ――登場人物に若手人気タレント連を配せば、まるで明日にも人気TVドラマになりそうな、完成度の高いシティー系ミステリーだ。 「以前、友人とテレビ番組『マネーの虎』の話をしていて、私だったらこういうオシャレなホストクラブの企画を出すな、と話していたら、友人は、あっ、いいじゃない、なんて。でも私としたら、これは小説の舞台設定としての方が使えるな、と(笑い)。主人公の晶も私と同世代、同業、私の経験してきたことも書けたし、執筆中は楽しいことも多かったですね」 ――表題作は「club indigo」の紹介とともに、性同一性障害の絡む謎のストーカー殺人が発生する。渋谷の夜を生きる若者たちの生態も相まって、不思議に読む快感を味わえる。 「こういう面白いお店がホントにあったら楽しいだろうな、と。私なら1番でなくても、2番手、3番手ぐらいの客になってもいい(笑い)。それと、ありそうでなさそうな、直接自分でなくても友人がこういう事件に巻き込まれてもおかしくない、もしかしたら、というギリギリのリアリティーのある物語を書きたかったんですね」 ――逆にいえば、こういう物語はこれまでありそうで、実はそうそうなかった。とくに留意した点は? 「リズム感ですね。文体、物語の展開、それとキャラクターの設定も。書いている最中は常に自分の中でリズムをとり続けていて、そこに同調すると読み手の方が快感を覚えるのかも」 血液型O型の天秤座、独身。物心ついたときから怪談話が大好きで、今では同好の士と某居酒屋に集い、心霊スポット探訪も楽しむとか。今後は「今はアップテンポでコミカルな作風ですが、40代、50代でも、なさそうでありそうなミステリーを書き続けたい。それとシリアスな物語も」と語る。愛すべきホスト探偵団をひっさげ、新感覚の都会派ミステリーの大型新人が登場した。 ●かとう・みあき 1966年、東京都国立市生まれ。大学在学中からフリーランスのライターを始め、週刊誌・月刊誌他、医療本ライターなどを務める。03年「インディゴの夜」で第10回創元推理短編賞を受賞。その後、同作品はシリーズ化され、本書で本格的に作家デビューする。 |
このミス大賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
- 深町 秋生
- 果てしなき渇き
【NEW WAVE】
2005年5月8日 掲載
「このミステリーがすごい!」大賞受賞 深町秋生氏に聞く「癒やしという言葉に吐き気を覚える人向きの小説」
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<作品概要>
失踪した17歳の娘・加奈子を追う元刑事の藤島の物語と、中学時代に自殺に追い込まれるほどの手ひどいイジメに遭った尚人の物語が交錯しながら、事件は進捗する。
藤島は消えた加奈子の部屋から大量の覚醒剤を発見。その交友関係から、彼女が暗闇の世界を抱えていたことに気付かされ、藤島は徐々に父性が崩壊し始める。
一方、同級生だった加奈子に救われた尚人は、彼女に恋していた……。少女・加奈子とは何者なのか? ありとあらゆる悪に復讐する衝撃の結末が読みどころ。
――主人公の元刑事の藤島、娘の加奈子、そして尚人も心の中に闇を抱えたとがった人物たちだ。こういう物語はどこから?
「自分は純粋に不正をただす小説が好きというか。ヘミングウェーとかジョー・R・ランズデイルなんかも好きなんですが、やっぱり世の中腹の立つことが多いじゃないですか。不正、犯罪が跋扈(ばっこ)してる。そこから逆説的にこういう物語が出てきたというか。実際のところ、ミステリーを書いたという意識はあまりない。いじめられる少年のパートは、かつて自分の身に起きたことを書いただけで。ただ作中のようにケツまで掘られはしなかったけど」
――娘の本当の姿が明らかになるにつれ、元刑事・藤島が壊れていく。また加奈子が仕組むあらゆる悪に対する復讐の仕掛けも衝撃だ。一番書きたかったことは?
「ある意味単純に、仕事でも日常でも、何でもそうですが、自分が持っている不満、憎しみ、苦しみ、それをさらけ出したかったんですね。ただしあくまでビジュアルなエンターテインメントとして、読者に届けられる作品に昇華できたかな、とは思っています」
――この作品に関して、エルロイ的暗黒を選者が言及しているが、その評価はどうとらえている?
「癒やしという言葉が昨今はやっていますが、そういうのに吐き気を覚える人向きの小説です。真に共感を覚える癒やしは、むしろこの物語にこそある、そう思っています。もっとも暗い癒やしかもしれませんが(笑い)」
血液型AB型の蠍座。大学時代までパンクロック・バンドに血道をあげるが、「ミュージシャンとして才能なし」と小説に転じた異才。性格の自己分析も「パンク、あるいはアナキスト」ととがっている。
今後は「皆で仲良くはありえない性分ですから、常に深町秋生にしか書けないものを目指したい。ちょっとナルシシズムが入って気持ち悪いですけど、ただのエンターテインメントじゃない何か、それが書きたいですね」とも。
本格ノワール(暗黒小説)の書き手を予感させる大型新人の登場だ。
●ふかまち・あきお 1975年、山形県南陽市生まれ。専修大学経済学部卒後、大手薬品メーカー入社、現在に至る。小説は大卒後に書き始め、本作品で第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、本格デビュー。
第35回新潮新人賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
【NEW WAVE】 2005年4月24日 掲載
第35回新潮新人賞受賞作家 青木淳悟氏に聞く「作家として生き残って文学賞を総なめしたい」 〈作品概要〉 ピンチョン級と評される表題作と、ボルヘスを彷彿させるSFタッチの「クレーターのほとりで」の2編を収録。表題作の主人公・わたし(30代女性)はチラシ配りで生計を立て、文芸創作教室に通う。ストーリーは特になく、わたしの日常(スーパーでの買い物、配りきれずため込んだ大量のチラシの話等)と、創作教室の講師の作品の話、わたしがチラシの裏に書き出すメルヘン(少女クロエに恋する印刷工クロードの物語)の話が交錯する。衒学的な暗喩・隠喩、シンボリズムが読み手の脳を空にする!? ――失礼な言い方だが、久々に見た純文学らしい純文作品。日本にもこういう作品が登場するんだ、という感動もあった。しかし難解。一番書きたかったことをわかりやすく語ってもらうと? 「自分の日常を基に書いています。ただ主人公の言動が現代の若者らしくない。そこで主人公を30代の女性に設定し直して書き進めました。もくろんだのは、主人公の身体感覚を喪失させて、透明な幽霊みたいな人物を描こうと。それには本来あるかもしれない中心的なテーマを書かないようにして、空白の、小説っぽくない物語を描いてみました」 ――やはりわかりにくい(笑い)。でもなぜ今、空虚な主人公、中心のない空虚な小説なのか? 「主人公をリアルに、また物語を小説的に書こうとすると、自分を基に書いていますから、何か嫌悪感が出てくるんです(笑い)。自分に対する関心が低いというか、自分への興味を失って、何か幽霊のような存在になりたい自分がいるというか。現代の生きにくさを表象しているというか、そういう感覚ですね」 ――メルヘン、日付、日記、作中作、読み方次第でとてつもなく衒学(げんがく)的。ただある意味、現実を拒否しているようにも見えるが? 「現実に関わりたくないんじゃなく、やっぱり完全な創作には興味がないし、あくまで僕の体験、見聞、感じたものをベースに書いています。社会批評めいたものをやる気も毛頭ないんですけど、やっぱりこの現実を作品に取りこんでいきたい。現実があるからこういう物語が発動したと思っています」 血液型O型の牡牛座。今回のデビュー作刊行後、「家族に“もっとシンプルで面白い小説は書かないの?”と毎日のように聞かれてます」とも語る。 今後は「直近では家族をテーマにした作品を。将来的にはまず作家として生き残って、できれば文学賞を総なめしてみたい(笑い)」とも。日本の純文学の新たな地平を切り開く、驚異の新人の登場だ。 ◆あおき・じゅんご 1979年、埼玉県狭山市生まれ。早稲田大学文学部(表現芸術系専攻)卒。在学中の03年、「四十日と四十夜のメルヘン」で第35回新潮新人賞を受賞し、以降作家活動に専念する。 |
第3回このミス受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
第3回「このミス」大賞受賞作家 「野球は、日本社会の旧弊を引きずっているところがありますね」
- 水原 秀策
- サウスポー・キラー
氏に聞く
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〈作品概要〉
人気球団オリオールズの2年目左腕・沢村は、ある日、自宅マンション前で“約束を守れ”という男に暴行を受ける。何の事か身に覚えのない沢村だったが、やがて球団・マスコミに沢村が暴力団と癒着しているという告発文書が送りつけられる。
一気に八百長疑惑にさらされる沢村。味方は監督の葛城と、ベテラン記者の下平、そしてパーティーで知り合った女優の美鈴だけだった。だがさらに2度目の脅迫、暴行を受け、沢村は自ら疑惑解明に乗り出すことを決意する……。
――選者の間では英国ミステリーの大御所ディック・フランシスをほうふつとさせるスポーツミステリーとして評価が高かった。そこは意識した?またこういう物語はどこから?
「ディック・フランシスは大いに楽しんで読んだ作家の一人です。でも似ているとしたら偶然ですね。物語の方は、私自身、もともとスポーツ観戦が大好きで、野球を選んだのは集団競技なのにピッチャーの占める要素が多いためです。野球って日本社会の旧弊な体質を引きずってるようなところがあるじゃないですか。そこにクレバーな、日本社会では浮きがちな主人公がピッタリ、というか」
――マウンドでの沢村の心理、バッターとの駆け引きも読み応え十分。女優・美鈴の存在も好感がもて、事件解明の展開も小気味いい。書きたかったことは?
「やはり沢村という左腕の存在ですね。先ほど日本社会、野球界の旧弊な体質に言及しましたが、むやみな和の精神とか、今風に言えば既得権益を死守する風潮とか、そういう日本的な精神風土の中で苦闘する主人公を描きたかった。苦しい状況の中でもヘラヘラというかニッコリ笑っていられるような人物を、ですね。内面的に主人公とよく似た先輩がいて、彼らを書きたかったとも言えます」
――奇をてらわない本格的ミステリーでもあるが、ゲンダイの読者に一言。
「言葉はよくないんですが、例えば会社という組織で下支えする方たち、歯車役を務める方たち、そういう人たちにとってこの物語が一服の清涼剤になれれば、と思っています」
血液型O型の水瓶座。趣味は小学生時代から始めた囲碁、歴三十数年。腕前は「弱いアマチュア4段ぐらい」とか。今後は「子供の頃、読書に目覚めたのがシュリーマンの伝記だったので、将来的には人物評伝・伝記物なども書いてみたい」とも語る。スポーツミステリーに限らない可能性を感じさせる大型新人の登場だ。
◆みずはら・しゅうさく 1966年、北九州市生まれ。早稲田大学法学部卒後、不動産会社営業を経て、一時、現職の鮫島宗明衆議院議員の公設第2秘書。その後、塾講師に転じ現在に至る。本作品で第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞、作家デビュー。
三上義一氏の経済小説:日刊ゲンダイ引用
- 三上 義一
- ダブルプレイ
この人の翻訳した「ソロス」を読んだことがある。
クルーグマンは、クリントン大統領の御用学者で、今のブッシュ大統領にとっては、天敵だろう。
私個人としては、クルーグマンに好感を持っていない。何しろ、ジョン・グレイ教授の「FALSE DAWN」を散々にこきおろしてくれたからだ。
だが、今のブッシュ政権で、クルーグマンがどのように吼えているか、見ものである。
- ロバート スレイター, Robert Slater, 三上 義一
- ソロス―世界経済を動かす謎の投機家
- ポール クルーグマン, Paul Krugman, 三上 義一
- グローバル経済を動かす愚かな人々
- 三上 義一
- ヨコハマ・イエスタデーズ
- ポール・クルーグマン, 三上 義一
- 嘘つき大統領のデタラメ経済
- ポール クルーグマン, Paul Krugman, 三上 義一
- 世界大不況への警告
【NEW WAVE】
2005年4月10日 掲載
ハードボイルド経済小説でデビュー 三上義一氏に聞く「金融メディアの内幕をリアルに描きました」
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【作品概要】 事件は元日銀幹部で横浜中央銀行顧問の村井自殺の一報から始まった。外資系電子メディアの記者・堀田は自殺に疑問を抱き、村井の妻や周辺から自殺はありえない、という証言を得る。
さらに堀田は、村井が心中であり、堀田の高校時代の同級生・さやかの母が相手だったことも知る。だが香港で再会したさやかは、心中ではなく殺人だと告げ、調査・報道を依頼する。背後には、次期総理の椅子をめぐる横浜市長と現総理派の暗闘、さやかの復讐が複雑に絡み合う……。
――次期総理の椅子を狙う横浜市長が公金をヘッジファンドで運用? と、まさかの話が物語の重要な要素になっている。こういう物語はどこから?
「これまで一瞬の間に何千億円も動く金融の世界や、彼らの動きを速報する電子メディアの内幕をリアルにとらえた物語があまりにも少ないんです。そこで主人公同様、しばらく外資系の金融電子メディアで記者だった自分が書いてみようと。横浜や香港といった物語の舞台は、私が育ったり、アジア金融の中心地だったりで愛着のある街、そこも描いてみたかったわけです」
――次期総裁選へのさまざまな勢力の思惑と野望、横浜市のメーンバンクに巨額のカラ売りが仕掛けられたりと、話題のフジVS.ライブドアをほうふつとさせる金融戦争もメーンテーマ。一番書きたかったことは?
「本当は優秀で正義感もある記者が、批判されながらもなぜスクープを狙い、誤報めいた記事を飛ばすのか。ジャーナリストが倫理的に迷いながら、なぜ一線を越えてしまうのか。現場の記者の、わかっていてもやっちゃうギリギリの選択の瞬間をとらえてみたかったんです」
――やたら硬い経済小説のようだが、事件の背後には女、殺しとエンターテインメントの要素もタップリだ。
「私としてはとにかく今、今の金融世界の内幕を書いて、できるだけリアルにエンターテインメント小説として成立させたかった。実際、金融の世界には、まだ書かれたこともないとんでもないドラマが、いくつも埋もれていると思っています」
血液型A型の蟹座。趣味はジャズの鑑賞で、ユーロジャズやマイルス・デイビスのCDはもちろん、生ライブにも出かける。今後は「基本は常に現代、今を書きたい。将来的には恋愛小説やミステリーなど、経済小説の枠も超えてみたい」とも語る。ハードな金融と情報の世界をビギナーにとっても分かり易く書ける、経済小説の大型新人の登場だ。
◆みかみ・よしかず 1956年生まれ、横浜市出身。上智大学外国語学部仏語科卒、筑波大学大学院国際関係学修了後、AFP通信(仏系)記者。90年から2年間の米コロンビア大学特別研究員を経て、米タイム誌、ロイター通信のスタッフライターを務め、その後、フリーとして活躍。著書に「アウン・サン・スー・チー囚われの孔雀」、青春小説「ヨコハマ・イエスタデーズ」、訳書に「ソロス」「知識資本主義」等。本書が作家としての本格デビュー作。









