なんでも日記 -20ページ目

第1回新潮エンターテインメント新人賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

チョ・ソヘ, 吉野 万理子
初恋 vol.1
チョ・ソヘ, 吉野 万理子
初恋 vol.2
チョ・ソヘ, 吉野 万理子
初恋 Vol.3
吉野 万理子
秋の大三角

【NEW WAVE】

2006年1月28日 掲載
第1回新潮エンターテインメント新人賞受賞 吉野万理子さんに聞く

「好きな人には来世でも会いたいですね」

 旬の作家が1人だけで選者を務める〈新潮エンターテインメント新人賞〉の、記念すべき第1回受賞作となったのが吉野万理子氏の「秋の大三角」(新潮社 1300円)。選者の石田衣良氏は「さくさくとクリスピーでリズムよく読ませる文章力が決め手」と絶賛。横浜を舞台に繰り広げられる、女子中高生を主人公にしたファンタスティックな学園青春物語だ。

――わし座のアルタイル、琴座のベガ、白鳥座のデネブが夜空に形作る“大三角”に、主人公の少女・里沙が愛と死をめぐる願いを寄せる物語。幽体の絡む、里沙を探偵役にしたファンタジーミステリーでもあるが、こういう物語が生まれてきた背景は?
「作中登場する根岸線のキス魔や、みなとみらいの大観覧車で記憶喪失になった男性の話など、アイデアのパーツは私自身が体験したものがけっこう多いんです。私自身も、舞台になる学園とよく似た学校に通っていましたし、果たして神様は存在するのか、人は死んだらどうなるのか、ということもよく考えていました。結論を言うと、当時のそういう疑問に結論が出たので、今回作品化した、そういう物語なんです」
――キス魔のすでに死んでいる男がなぜ、元恋人とその妹、また主人公の里沙にアプローチするのか、その謎解きがテーマでもある。一番書きたかったことは?
「ひと言でいえば、私自身女性として、人として、永遠を信じたい、これを書きたかったんですね。以前、利根川進先生の『精神と物質』という本を読んで、魂など存在しないんだと打ちのめされた記憶があるんですが、精神的なものには永続性があってほしいんです。例えば好きな人には来世でも会いたいし、当人にも“来世って信じる?”と聞いてみたいし(笑い)」
――女子学園内の女生徒同士の恋愛がまた作品の大きな要素になっている。それもやはり実体験に基づいたもの?
「秘密の花園……ですか?(笑い) ラブレターを出したり出されたりはありましたけど、あくまで“憧れの世界”ですね。夏から秋にかけて半年間で成長する少女の物語としての部分をより楽しんでほしいですね。恋人同士向けの横浜ガイドうんちく本の部分もあるし(笑い)」
 テレビドラマ脚本家としてすでにデビュー済みとあって筆力は折り紙つき。女性の恋愛小説の、新たな地平を切り開く書き手が登場したようだ。

【作品概要】
 横浜・元町にあるキリスト教系の女子中高学園。里沙はその学園の中学2年生だ。ある日、里沙は、憧れの先輩で高2の真央が、電車の中で若い男とキスしている現場を目撃してしまう。しかも相手の男は、生徒たちの間で“根岸線のキス魔”と噂されていた謎の人物だった。やがてひょんなことから真央と親しくなった里沙は、キスした男は真央の姉・詩央の元恋人で交通事故で死亡しており、巻き込まれた詩央も意識不明のままであることを知る。何が起こっているのか!?

◆よしの・まりこ 1970年、神奈川県逗子市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒後、新聞社、出版社、WEB制作会社で編集業務に携わる。02年秋「葬式新聞」で「日本テレビシナリオ登竜門2002」優秀賞受賞。03年からフリーになり、04年春、連ドラ「仔犬のワルツ」(日テレ、安倍なつみ主演)の脚本を執筆。著書に「初恋」(韓国ドラマのノベライズ3巻)など。



第42回文藝賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

文藝 11月号 [雑誌]
青山 七恵
窓の灯

【NEW WAVE】

2006年1月14日 掲載
第42回文藝賞受賞 青山七恵さんに聞く

「あえて知りたいと思わなくても自然と知っちゃうこともあるし(笑)」

「夏のしっとり湿った空気のような、若い女の子が年上の女性に抱く恋心、それを書きたかった」と語る青山七恵氏。「窓の灯」(河出書房新社 1000円)は、若い女の子のピーピング・トム(覗き見常習者)を題材にして、選者の角田光代、斎藤美奈子、高橋源一郎、田中康夫氏らが大絶賛した文藝賞受賞作だ。さて主人公が覗き見るものとは!?

【作品概要】
 大学を中退したばかりの私(まりも)は、ミカド姉さんに拾われ、喫茶店の2階に住み込み働き出していた。ある日、隣のアパート2階に大学生の男の子が越してきて、私は揺れるカーテン越しに窓の中を覗き見するようになる。
 1階の喫茶店では、さまざまな男たちがミカド姉さん目当てに日参する。姉さんは彼らを巧みにあしらい、時にはベッドを共にする。
 だがある日、姉さんが本当にうれしそうに迎える「先生」が現れ、まりもの心象に微妙な陰りのさす季節が訪れる……。

――本邦初、覗きを主題にした純文学、という評価もあるが、なぜこういう小説を書いた?
「舞台のモデルは大学時代に住んだ筑波の繁華街、アルバイトした喫茶店なんですけど、結局、主人公の女の子の世界との向き合い方を書きたかったんですね。知りたい、見たい、だから覗いてしまう、というような形というか。ですから私としては読みどころは、主人公の女の子がたばこをくゆらせながら向かいの部屋の窓を見ているところです。こんな世界との向き合い方があってもいいと思うんです」
――主人公を拾って、喫茶店で住み込みで働かせるミカド姉さんがまた艶っぽい。モデルは?
「ミカド姉さんのモデルの女性はいます。でも外見も中身もまったくちがう(笑い)。私としては大人の官能を備えた女の人、また作中登場する40代男性の先生のような人、そういう人たちに興味とか、憧れに近いものを抱いたり、あの人たちが本当は何を考えているのか知りたいな、という気持ちがありますよね。結局、何もわからないと思うんですが、女の人への嫉妬心とか、その人の幸福をぶち壊したい気持ちとかも抱く。そういう割り切れない気持ちを書きたかったんです」
――ミカド姉さんと常連の男たちの情景、カーテン越しに覗く向かいの部屋の情景など、主人公の目線の鮮やかな筆致も印象的。そこにかぶさってくる若い女性の官能がまた読みどころだ。
「あまり表立って言えませんが、若い男性、若い女性に対しても、官能というか知りたい気持ち、欲求は自然と出てきますよね。でも知りたいけれど、それはなかなか知り得ないことでもある。あえて知りたいと思わなくても自然と知っちゃうこともあるし(笑い)。若い女の子が抱くそういう思い、欲求も読み手の方には知っておいてほしいな、と思います」
 清廉な文体と映像美、にじみ出る若い女性の官能性が微妙に絡み合う、実力派新人のデビュー作だ。

◆青山七恵(あおやま・ななえ) 1983年、埼玉県生まれ。05年、図書館情報大学図書情報学部卒後、旅行会社に入社、現在も勤務する。大学4年のとき書き上げた本作品で第42回文藝賞を受賞、作家デビューする。


第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

西條 奈加
金春屋ゴメス
西條 奈加
金春屋ゴメス

【NEW WAVE】

2006年1月7日 掲載
第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞 西條奈加氏に聞く

「深川江戸資料館の、江戸の長屋のレプリカにハマってます」

 科学も医学も現代日本もすべて拒否、究極のエコワールド“江戸国”が近未来日本で独立! 西條奈加著「金春屋ゴメス」(新潮社 1400円)は、SFと時代劇のコラボで選者の荒俣宏、鈴木光司氏らをうならせた日本ファンタジーノベル大賞受賞作。しかも未知の感染症の謎解きがテーマと、なんともぜいたくな設定で、波瀾万丈、痛快な異色の時代小説だ。

【作品概要】
 21世紀半ば、自然との調和をうたい、19世紀初頭の江戸を模した独立国“江戸”が日本に誕生して30年が経ようとしていた。
 だがその江戸国で謎の鬼赤痢が流行し1000人以上が死亡する。幕府は15年前、この流行病から唯一助かった、今は日本国の大学生・辰次郎を呼び戻し、解決策を見いだそうとする。
 辰次郎の江戸での身請け人は、容貌魁偉、冷酷無比で知られる“金春屋ゴメス”こと長崎奉行馬込播磨守。趣向、手際も相まって、なんとも痛快な探索行が展開される。

――基本は徹底的に時代劇、実態は近未来日本の中の独立国・江戸の事件簿。ファンタジー好き、時代劇マニアにとってはたまらない設定だが、この突拍子もない構想の出どころは?
「そもそも時代物が好きで、清澄白河駅(江東区)近くの深川江戸資料館の、実物大の江戸の長屋のレプリカなどは大好きです。実際に江戸の町に行きたいぐらいハマってます。でも、時間を戻せない以上、原稿用紙の上で再現してみたい、という気持ちですね。会社での営業事務職が長いんですが、バブル以降の効率化、リストラ一辺倒の考え方にも違和感があり、よく行く東南アジアの若いバックパッカーたちが非効率、苦労をむしろ楽しんでいることにも共感を覚えていました。その辺りを取りまとめて、エコワールド・江戸をつくっちゃえ、と(笑い)」
――その江戸で発生する謎の“鬼赤痢”は一種の生物兵器テロだった。その犯人捜し、勧善懲悪ぶりはまさに時代劇だ。
「江戸国の強みは自給自足、自然によって立つところ。でもそれがゆえに科学・化学によって立つ医療の問題が出てくる。現代科学を拒否するエコロジストの最大の弱点で、江戸国内でもそこから開国論、反幕府派が出てくる。今の世の中は画一的に、便利で楽しい社会を目指して走っている感じがしますが、それでもいいでしょうけど、この先、多様な個別の価値観、文化の方向があって欲しい、そういう思いも書き込みました」
――登場人物たちの日常の営み、江戸弁、市中の町並み、近郊農村の暮らしなど時代考証が難しかったのでは?
「時代物はやっぱり考証力がないと読みにくい。ですから初心者の方でもすんなり入れるよう、ちょっと解説めいたくだりを挟んで工夫したり、何しろ近未来ですから。マニアの方には怒られかねない手管も使ったかも(笑い)」
 驚きの手法で描く、まったく斬新な江戸の時代物ファンタジーの世界。奉行・金春屋ゴメスの悪辣ぶり、正義漢ぶりも読みどころだ。

◆西條奈加(さいじょう・なか) 1964年、北海道池田町生まれ。東京英語専門学校卒後、輸入販売会社、貿易会社などで営業事務職。20代にミステリーを中心に小説を書き始め、初めて書いたSF調時代物の本作品で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。


第26回小説推理新人賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

蒼井 上鷹
九杯目には早すぎる

【NEW WAVE】

2005年12月24日 掲載
第26回小説推理新人賞受賞 蒼井上鷹氏に聞く

「酒と酒場は人間ドラマの宝庫です」

 殺すならおしゃれに殺す、それとも酔った勢いで思い切り!? 蒼井上鷹氏のデビュー作「九杯目には早すぎる」(双葉社 800円)は、酒と酒場にまつわる男たちの悲劇を描いた話題作だ。選者の森村誠一、乃南アサ、花村萬月各氏が絶賛した小説推理新人賞受賞作「キリング・タイム」をはじめ、ちょいと粋で、かつひねりの利いた酒場の物語9編を収録する。

――収録された9編すべてが酒と酒場がらみ。表題作「九杯目には早すぎる」ではギムレットが、賞を取った「キリング・タイム」ではビールが使われる。この酒と酒場へのこだわりはなぜ?
「もともと私自身酒好きなこともあるし、人と酒と酒場がそろえば、いやが応でもドラマが起きる(笑い)、それが一番の理由ですね。作中、登場するお酒はもちろん全部飲んでいますし、飲まないお酒のことは書きません。やはり酒場ごとに雰囲気も、酒も、集まる人も違えば、起きるドラマも特色がある。まさに人間ドラマの宝庫、という思いがありますね」
――表題作はショートショートで、ギムレットの切れ味鋭い飲み口そのまま。一方、「キリング・タイム」はビール三昧で、ひねりにひねった殺人の物語。著者としてどこをどう読んで欲しい?
「『九杯目には早すぎる』は、この作品集を表象する作品という意味で、ミステリーの名作を伏線に使いました。後でグラッとくるギムレットの酔い心地に通じる、意外な展開を楽しんでいただければ。『キリング・タイム』の方は、酒がらみで理不尽な目に遭うサラリーマンの悲喜劇。酒場は飲めば飲むほど、自分が理解していなかった自分が出てくる場でもあるし、突き詰めると重い話にもなるんですが、そこをなんとか笑いのめしていただければいいかな、と」
――他に色恋、音楽、非運、憧れ、そして小心者の、あざとい殺しもある。
「この作品集には酒に飲まれて転落する男、バカな輩(やから)が次々登場します。会社で嫌なことがあったら、お酒を飲むよりぜひこの本を読んで、気分転換して欲しいですね。おまけに二日酔いもありませんし(笑い)」
 酒に合わせて趣向を凝らした物語が、暗いユーモアを漂わせ、読み手を酔わせる。グラス片手に孤独に楽しむ、そんな読み方が似合いそうな一冊だ。

【作品概要】
 表題作は、あるバーで、バーテンと客らの間でケメルマンとチャンドラーの作中のセリフが符丁のように交わされる謎がテーマ。その真の意味を解くのは刑事。結末は意外や意外……!? 「キリング・タイム」は、休日に嫌われ者の上司の酒に付き合わされた部下のとんでもない悲喜劇の物語。何者かに命を狙われていると疑心暗鬼の上司は、意地汚くビールを痛飲。若い部下はその上司に言えない恋を抱えて酒に付き合うが、突如、思惑違いのちぐはぐな殺人事件に巻き込まれる……。

◆あおい・うえたか 1968年、千葉県生まれ。大学(文学部英文学専攻)卒業後、会社勤務を経て、インターネット上の月刊文芸誌「文華」で執筆活動を開始。2004年「キリング・タイム」で第26回小説推理新人賞を受賞し、作家デビュー。05年、初の作品集となる本作を発表する。


第72回小説現代新人賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

朝倉 かすみ
肝、焼ける

【NEW WAVE】

2005年12月17日 掲載
第72回小説現代新人賞を受賞 朝倉かすみ氏に聞く

「私なりのお勧めの人間関係の手口です」

 山田詠美氏をはじめ、一味ちがう大人の作家、逢坂剛、北方謙三、椎名誠氏の面々がこぞって大絶賛。小説現代新人賞を受賞した朝倉かすみ氏の受賞作「肝、焼ける」(講談社 1500円)は、30代独身女性と年下の恋人とのじれったいやりとりを、軽妙かつ鮮烈に描く。ベッドシーンはなくとも妙にエロっぽい、男が恋をしたくなる恋愛小説だ。

――7歳年下の男に会いに東京から稚内にすっ飛んでいく独身女性の物語。当初は勝ち気でとっつきにくいイメージの主人公だが、稚内の銭湯や寿司屋での地元の人たちとのやりとりを読んでいくと、読者が男ならつい惚れそうないい女に見えてくる。
「昨年まで夫の転勤で私も稚内にいまして、夫は6歳年下ですし(笑い)、それに稚内という町が行ってみてすごく好きになった、という点では一部実体験ですね。稚内は、見た目ちょっと武骨なところがあって、でもよそ者には本当に優しい町。そこに北海道を知らない東京の女性を放り込む発想は自然に出ました。都会では一人前の女もこういう町に行くとまるで何も知らない小娘、それが見知らぬ地元の人たちの優しさに触れ、何事か決心する、そこを書くのに最適の町が稚内でした」
――タイトルでもあり、作中挿入される“肝、焼ける”という言葉は造語、それとも方言か?
「稚内でももうお年寄りしか使わないような方言ですね。本当にじれったい、触りたいのに触れない、ジリジリするような感覚のとき使う言葉です。でもこの2人の恋愛には本当にぴったりの言葉だと思っています」
――銭湯での地元のオバチャンたちとの女体を巡る問答、寿司屋で知ったかぶりの男たちにタンカを切るシーン。そして彼女が彼の部屋のドアを叩く決心を固める、固め方がなんとも愛らしい。
「31歳の年のわりには、ですか(笑い)。要は行動を起こす、そこを書きたかったんですね。人の心を変えるのは無理としても、ちょっと小さな勇気を奮えば自分の方が変われる。そして自分の思いをちゃんと相手に伝えよう、ということですね。人間関係が必ずしも上手でない方への恋愛の極意、というか、私なりのお勧めの手口です(笑い)」
 本書に収録される他4編にも、いずれ劣らぬ魅力的な女たちが登場する。男では描けぬ、おおらかな、女たちの恋愛賛歌ともいえる作品集だ。

●作品概要
 主人公は31歳のOL。職場ではそれなりの責任、権限をもたされ、世間の、また男の、酸いも甘いも知り尽くしていたりもする。
 そんな彼女の目下の恋人が7歳年下の御堂君だ。逢瀬は月平均2回、年の差を意識させず、妙になれなれしくならず深追いしない、微妙な均衡関係の2人だが、その御堂君が急に稚内に赴任してしまう。
 そしてある晩、いつもの2人の電話でのやりとりの後、彼女は猛烈なじれったさを覚え、翌日、稚内に飛んでいく……。この表題作の他4編を収録する。

●あさくら・かすみ 1960年、小樽市生まれ。北海道武蔵女子短期大学卒後、03年、「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞を受賞。04年、「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞を受賞し、本格デビュー。本書が初の単行本となる。



元ヤン爆笑エッセイスト小説出版コメント:日刊ゲンダイ引用

ゲッツ板谷
ワルボロ
ゲッツ板谷, 西原 理恵子
情熱チャンジャリータ
松尾 スズキ, 根本 敬, 直崎 人士, 唐沢 俊一, ゲッツ板谷
「ステキな自分」を見失う本
ゲッツ板谷, 西原 理恵子
板谷バカ三代
ゲッツ板谷
超出禁上等!
ゲッツ 板谷
出禁上等!
ゲッツ板谷
わらしべ偉人伝
ゲッツ板谷
妄想シャーマンタンク

【NEW WAVE】

2005年10月22日 掲載
初の小説を上梓 ゲッツ板谷氏に聞く

今の若者に“突っ込まれてもいいじゃないか”と言いたいね

 元ヤンキーの爆笑エッセイストとして人気のゲッツ板谷氏が、初の小説「ワルボロ」(幻冬舎 1600円)を上梓した。中学生同士で抗争に明け暮れた青春の日々を描いた自伝的長編小説で、よしもとばなな氏が「どうしたらこういう文が書けるんだろう……と悔しくさえ思った」と絶賛。注目の作家デビュー作だ。

――今回、初の小説に挑戦した理由は?
「自分の昔の話をちゃかさないで一度マジメに書いてみよう、と思ったのがきっかけです。そんな軽い気持ちで書き始めたんですが、月刊誌の連載が終わって全部読み返したとき、頭を抱えた。このままじゃ、そのへんのヤンキー漫画に負けてる! と(笑い)。担当編集者に“同じ内容なら小説はマンガにも映画にも負けますよ”と繰り返し言われていましたからね。そこから目の色を変えて、一人ひとりの心情を掘り下げつつ全面的に書き直したんです」
――立川全域の中学生同士が抗争する迫真のドラマ。車を運転する中学生など、とんでもないエピソードの連続ですが、どこまで実話?
「6人の主人公は呼び名も当時のまま書いたし、エピソードはほとんど実際にあったことです。ただ、本当のケンカはもっと地味でグロテスク。それをリアルに書いても気分が悪くなるだけだから、スカッと派手に書きました。実は、これは4部作シリーズの1作目。2作目で高校時代前半を、3作目で高校時代の後半とヤクザ見習時代を、4作目でヤクザ見習を脱するまでを書く予定なんです。最初はこれだけのつもりだったけど、書くうちに“まだまだこんなもんじゃないぜ!”と、書きたいことがどんどん出てきた。これからますます面白くなりますよ」

●作品概要
 米軍基地が返還されたばかりの東京・立川市が舞台。主人公はコーちゃん(板谷)、兄弟分のヤッコ、父親と2人暮らしのビデちゃん、巨漢のくせにケンカではバックレる小佐野、舌足らずのカッチン、めっぽう口が立つキャームという〈錦組〉6人。彼らは隣町の同じ立川3中の〈羽衣組〉と勢力争いを繰り広げる。卒業式当日には、最強の立川2中軍団と決戦の日を迎えるのだった――。


第48回群像新人文学賞優秀作受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

望月 あんね
グルメな女と優しい男

【NEW WAVE】

2005年9月3日 掲載
第48回群像新人文学賞優秀作受賞 望月あんね氏に聞く

「都会に憧れ、グルメにはまった田舎娘の恋物語です」

 受賞作「グルメな女と優しい男」(講談社 1200円)の主人公りん子は、絶対に部下にしたくない女性である。
 グルメ命のりん子は、仕事中に会社のパソコンでお取り寄せに励み、グルメのために会社を抜け出すことも度々の問題社員。小言を言えば、無視されるか、毒舌でやり返されるのは目に見えている。
 田舎の小さな町を舞台に、そんな今時の女性の実態を冗舌な文体で描き出した問題作だ。

【作品概要】
 田舎の小さな会社で事務員をするりん子は自他共に認めるグルメ女。地元の豆腐屋が上客だけに提供する隠れた逸品から、会社のパソコンを駆使してお取り寄せした名品まで、評判のものを手に入れるための努力は惜しまない。そんなりん子の密かな願いは、一度でいいから「人間」の味を確かめてみることだ。ある日、会社をサボってお取り寄せした高級米を農協の裏の精米機で精米していたりん子は、草食動物のように雑草を食べている男・一郎と知り合う……。

――この作品が生まれた背景は?
「宮城県に住んでいるんですが、田舎には何もないですよね。テレビとか、パソコンを持っていればインターネットとか、そういうのに夢中になるしかない。で、自分なりに何か夢中になれるものを探している平凡な女性が、どんな人に憧れて恋をするのかなとか考えて書きました」
――主人公のりん子は仕事そっちのけで「お取り寄せ」に励む。なぜ?
「田舎では、手に入らないものに対する憧れがあるんです。高級店のケーキであったり、ブランドだったり。その延長線上に一郎という男性が現れるんです。一郎は、同じ田舎に住んでいるのに自分にないものを持っている。都会への憧れと一緒で、見たことない所に行ってみたいんだけど、ちょっと怖いからどうしようかなと考えている感じ」
――誰にでも優しい一郎、部下に不器用に接する課長、そして一郎が見いだすりん子の優しさと、作品は一貫して人間の持つ優しさを見つめる。
「りん子は、仕事とかも適当で、言いたいことを言う毒舌家なんですが、実はどうやって人に優しく接していいのか分からない。それをストレートに表現する一郎に教えられるんです。課長にも馬鹿にする態度をとりながら、実は彼らの優しさは身に染みている。くだらないギャグばかり言っているりん子は、読んでいてもイライラすると思うんですよ。でも、それはわざとで。こういう人でも心ではいろいろなことを思っているんだよ、ということを書きたかったんです」
――今後、書きたい作品は?
「自分が読んでいる本でも、まどろっこしい比喩とか、文学文学しているものがどうしてもつまらなく感じてしまうので、文学として読んでもらうより、共感というか、あるな~こういうの、とか思ってもらえるようなものを書いていきたいですね」
 銀行での待ち時間に手に取った文芸誌で小説の面白さに目覚めたという著者。友達同士の会話をそのまま小説に仕立てたようなその作品は、おじさん世代には若い女性たちの本音を知る格好のテキストになってくれそうだ。

●もちづき・あんね 1977年宮城県生まれ。本作で第48回群像新人文学賞優秀作を受賞し、作家デビュー。現在も毎日執筆中。



超自虐的人生告白ノンフィクション作者コメント:日刊ゲンダイ引用

叶 てつこ
くるくるキレキレ人生

【NEW WAVE】

2005年7月16日 掲載
超自虐的人生告白ノンフィクションで人気 叶てつこ氏に聞く

「こんなダメ女でも暮らしていけるんだと笑い飛ばしてほしい」

 叶てつこ氏の最新刊「くるくるキレキレ人生」(新潮社 1200円)は、引きこもりをきっかけに鬱(うつ)、境界性人格障害、アルコール依存症にリタリン中毒と、ヘレン・ケラーもまっ青の四重苦に陥った著者の超自爆的人生を告白するノンフィクション。笑うか、呆れかえって逃げ出すか、二者択一を迫る衝撃作だ。

《作品概要》まずは医学書の解説文と共に、ゴミまみれの部屋でアルコール、リタリン(心療内科臨床で唯一使われる覚醒剤)だけを頼りに生きた境界性人格障害の日々を回想する。
 病は11歳時の極端なオナラ恐怖症に始まり、親戚のお兄ちゃんのレイプ未遂、家族の無理解、愛した男性の逃亡などを経て本格的に進行。アルコール、リタリンにおぼれ、手首カットに顔面カット、小指切断、そして入院に脱走、再入院まで。爆走機関車さながらの自暴・自虐人生をハイテンションな笑いでつづる。

――それにしてもすさまじい闘病告白記。というか、もうとことん自虐記。自暴自棄・破滅型を通り越して狂気の笑いを感じさせる。今は病状はどうですか?
「境界性人格障害はまだチョボチョボあるんですが、この本も無事に出せたし、かなり精神的には良い状態です(笑い)。年が年なので、今、私を支えてくれている男性の子どもを産みたいこともあって(彼のご家族には結婚を反対されてしまったんですが)、2週に1度の通院と、薬も軽い抗鬱剤と安定剤、睡眠導入剤で済ませてます」
――精神病院ではたばこは支給制。皆、最後まで吸う癖がつく、といったくだりがまたリアル。自爆人生をとことん笑いのめす迫力もものすごいが、一番書きたかったことは?
「こんなダメ女でも生きて、何とか暮らしていけてるんだよ、ということですね。サクサクッと読める本ですから寝っ転がって笑い飛ばしていただければ。ただ1度病院を脱走して、2度目の入院のときは、本当につらくて物を書くどころじゃなかった。そこを除けば、自分でも無理なく笑っちゃえる人生なんですよね」
――告白しづらかったことは? また体験的な鬱攻略法は?
「書きにくかったのは私の放火のこととか(笑い)、レイプ未遂事件。一番はお医者さんから私の心の病の大本である親御さんを責めなさい、と言われ、母親を責めてしまったことですね。母は責められる原因を覚えてすらいなくて……。攻略法は、何といっても普段から笑えるビデオを見たり、本を読むこと。笑う日々が鬱を防ぐ。その意味でも私は皆さんが笑える本を書きたかった」
 血液型AB型の獅子座。現在の彼氏がオタクなので、趣味はオタク好みのアニメ・ホラーなどのビデオ観賞。また体調のいい時は国内外のリゾートダイビング(歴10年)も楽しむ。
 今後は「やっぱり病気がらみの書き手とみられるでしょうけど(笑い)、とにかくノンフィクションでもフィクションでも、元気の出る本を書き続けることが目標」と語る。

●かのう・てつこ 1968年、千葉県生まれ。県立船橋高校定時制中退。ビデオ店店員、ビル清掃員を経て20代はホステス業を続け、格闘技雑誌やダイビング雑誌でリポーター兼ライターとして活動する。だが、その間も精神の病に苦しみ、入院時に書き出した本書が初の単行本となる。



第36回大宅壮一ノンフィクション賞受賞者コメント;日刊ゲンダイ引用

稲泉 連
僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由
稲泉 連
僕の高校中退マニュアル
稲泉 連
ぼくもいくさに征くのだけれど―竹内浩三の詩と死

神奈川県の高校中退の20代の若者が、大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞するなんて!!!


神奈川県の教育事情については、私も個人的にいろいろ疑問に思っている。

本当に才能のある生徒でも、ドロップアウトしてしまうのではないかと懸念している。


【NEW WAVE】

2005年5月22日 掲載
第36回大宅壮一ノンフィクション賞受賞 稲泉連氏に聞く

「人から人へ、言葉が伝えられていくことのすごさを知りました」

大宅壮一賞
「僕だって、戦争へ行けば忠義をつくすだろう/僕の心臓は強くないし、神経も細い方だから」(「人生」から)と歌い、太平洋戦争中に23歳で戦死した詩人・竹内浩三。その短い生涯を追った作品「ぼくもいくさに征くのだけれど」(中央公論新社 2200円)で、稲泉連氏は今年度の大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。最年少記録を5歳塗り替えた26歳で、90年に受賞した母親の久田恵氏との、初の親子受賞でも話題を呼んだ。

<作品概要>
 お姉さんっ子で、音楽を愛し、映画監督に憧れつつ太平洋戦争に従軍、23歳にしてフィリピンで戦死した若者、竹内浩三。彼の残した詩が時代を超え、同年配の著者の心に響く。なぜ浩三の詩にこれほど共感を覚えるのか? しかし戦争を知らない自分が「共感」などしていいのか? とまどいつつ浩三に引かれる著者は、肉親や彼の詩を伝えてきた人々と次々に会い、最期の地・フィリピンにも赴く。竹内浩三と彼を取り巻く人々の内奥に迫り、戦争で死ぬことの意味を見つめたノンフィクション。

――取材を始めたのが、竹内浩三が戦死した年と同じ23歳だったとか。この平成の時代に竹内浩三に注目したのはなぜ?
「きっかけは01年末に出版された作品集を書評欄で知ったこと。タイトルにもなっている“日本よ/オレの国よ/オレにはお前が見えない”という言葉に驚かされました。なぜ戦争中にそんな言葉を記したのかと。実際に詩集を読むと、彼はあの時代に思い悩み、自分の弱さをそのまま素直に詩や手紙で表現していた。かと思えば“日本”や“戦死”といった大きな状況を描く詩もあり、出征をひかえ、死ぬまでひたすら戦うというようなことも書いている。そんな彼の揺らぎも含めて、どんどん引かれていったんです」
――姉、友人、編集者、詩人と、多くの人々が竹内浩三に自分の人生や思いを投影し、作品集や評伝にまとめていて、詩集だけでなく、浩三を取り巻く人間群像や関連図書の多さも印象的ですね。
「彼は職業詩人ではなく、映画監督を志す一人の若者にすぎなかった。同人誌以外は、手紙や手帳、教科書の余白に書かれたような文章しか残っていません。こうした文章が実の姉をはじめ、彼の詩に心打たれた人たちによって受け継がれ、受け渡され、やがて詩人として評価されるようになっていったんです」
――一人の青年の言葉が戦後60年間脈々と伝えられ、01年に全作品集として結実。あの時代を生身で生きた人の素直な言葉が、どんな反戦の主張より深く人々の共感を呼んだ結果でしょうね。
「彼の詩が時代を超えてここまで届くのは、その作品に多くの人たちの思いが託されてきたからでしょう。言葉が伝えられていくことのすごさを知ったという気がします。だから浩三の作品世界はもちろんのこと、それがどのような人たちの熱い思いによって伝えられてきたかを書きたかった。この本を読んで浩三の詩集を買ってくれる人がいたら、自分も伝え手の一人になれたということで、うれしいですね」
「戦争の雰囲気を、かすかに覚えている我々さえ知らない実態を伝えている。現場を訪れ、会うべき人に会うノンフィクションの王道を行く作品」と、選考委員の西木正明さんは選評で絶賛している。

●いないずみ・れん 1979年、東京都生まれ。95年、神奈川県の公立高校を1年で中退。大学入学資格検定を経て、97年、早稲田大学第二文学部に入学。同年、その体験を書いた手記「僕が学校を辞めると言った日」で第59回文藝春秋読者賞を受賞。02年に同大学を卒業。著書に「僕の高校中退マニュアル」「僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由」がある。


第6回日本SF新人賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

照下 土竜
ゴーディーサンディー

【NEW WAVE】

2005年6月26日 掲載
第6回日本SF新人賞受賞 照下土竜氏に聞く

「日本でも女テロリストが準備されている予感がします」

6回SF新人賞
「今、僕ら若い世代だけでなく日本人全体が、何が起こってもおかしくないという不安を抱えていると思う。その延長線上の物語です」と語る照下土竜氏。最新刊「ゴーディーサンディー」(徳間書店 1900円)は、近未来日本で頻発する擬態内臓爆弾での自爆テロを描いた日本SF新人賞受賞作。不気味で、始末に負えないテロの時代の到来を予感させる衝撃作だ。

《作品概要》千手観音と呼ばれる高度治安監視システムが張り巡らされた近未来日本で、新型の爆弾テロが頻発する。それは生きた人体に仕込んだ擬態内臓爆弾による自爆攻撃だった。
 巧妙に仕掛けられた爆弾の除去方法は生体解剖以外にない。それは仕掛けられた人間の死をも意味した。警察機動隊爆発物対策班所属の心経(しんぎよう)は、この擬態爆弾除去を任務とするが、新手の民族系テロリスト集団の仕掛けた罠に見事にはめられてしまう。それは愛する女性の生体爆弾化だった……。

――警備側の青年とテロリスト側の女性を主人公にしたSFハードボイルド。硬質でシンプルな手触りと、不思議に人間の情愛が交錯するSFだ。
「海外の民族系のテロリズムでは、自分たちの土地、文化、国家を守ろうと女性でも参加します。女テロリストはそこから発想しました。一方で、日本でもバブル崩壊や凶悪な宗教事件などを経験して、ある種のテロがこの国でも準備されている予感がありますね」
――自分の愛する女の体内には、生きては回収できない爆弾。しかも主人公の任務はその除去。究極の選択の物語でもあるが、一番書きたかったことは?
「実はスタンダードな恋愛小説なんです。SFにはなかなか本格的な恋愛ものが少ないので書いてみたかったんですね。ただ恋愛するキャラクターがやりすぎると、逆にやわな、人間らしさのない物語になってしまう。そこで出来るだけ2人には硬質感を持ってもらうことにしましたが」
――爆弾除去の開腹、開胸、開頭の手術シーンも見事。爆弾工作をはじめ、ナイフなど武器類にもこだわりを感じるが?
「体を開き、処置し、縫い合わせるシーンは当然勉強しました。苦手な会話のシーンよりはるかに楽しく書けましたね。武器に関しては特化した興味ではなく、広く銃器、爆弾、ミサイル、何にでも興味はあります。武器は本来殺傷目的で作られていますが、特に日本刀の類には、美しさを感じています」
 著者はまた読者に「主人公・心経の視点とシンクロして読んでいただければ」という。クールで自我を滅却した視点が、ストイックな美意識の世界に導く仕掛けを楽しんでほしいからだ。
 今後は「特定の人たちに強烈に受け入れられる作品より、さまざまなタイプの読者に受け入れられるものを書いていきたい」と抱負を語る。
 ハリウッド映画にも通じるハードSFの力作だ。

ひのした・もぐら 1982年、高知県南国市生まれ。県立高知小津高校卒業後、大阪で小説創作専門学校を修了、書店員のバイトをしながら執筆活動に励む。本作で第6回日本SF新人賞を受賞、作家デビューする。