第42回文藝賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
【NEW WAVE】 2006年1月14日 掲載
第42回文藝賞受賞 青山七恵さんに聞く「あえて知りたいと思わなくても自然と知っちゃうこともあるし(笑)」 【作品概要】 大学を中退したばかりの私(まりも)は、ミカド姉さんに拾われ、喫茶店の2階に住み込み働き出していた。ある日、隣のアパート2階に大学生の男の子が越してきて、私は揺れるカーテン越しに窓の中を覗き見するようになる。 1階の喫茶店では、さまざまな男たちがミカド姉さん目当てに日参する。姉さんは彼らを巧みにあしらい、時にはベッドを共にする。 だがある日、姉さんが本当にうれしそうに迎える「先生」が現れ、まりもの心象に微妙な陰りのさす季節が訪れる……。 ――本邦初、覗きを主題にした純文学、という評価もあるが、なぜこういう小説を書いた? 「舞台のモデルは大学時代に住んだ筑波の繁華街、アルバイトした喫茶店なんですけど、結局、主人公の女の子の世界との向き合い方を書きたかったんですね。知りたい、見たい、だから覗いてしまう、というような形というか。ですから私としては読みどころは、主人公の女の子がたばこをくゆらせながら向かいの部屋の窓を見ているところです。こんな世界との向き合い方があってもいいと思うんです」 ――主人公を拾って、喫茶店で住み込みで働かせるミカド姉さんがまた艶っぽい。モデルは? 「ミカド姉さんのモデルの女性はいます。でも外見も中身もまったくちがう(笑い)。私としては大人の官能を備えた女の人、また作中登場する40代男性の先生のような人、そういう人たちに興味とか、憧れに近いものを抱いたり、あの人たちが本当は何を考えているのか知りたいな、という気持ちがありますよね。結局、何もわからないと思うんですが、女の人への嫉妬心とか、その人の幸福をぶち壊したい気持ちとかも抱く。そういう割り切れない気持ちを書きたかったんです」 ――ミカド姉さんと常連の男たちの情景、カーテン越しに覗く向かいの部屋の情景など、主人公の目線の鮮やかな筆致も印象的。そこにかぶさってくる若い女性の官能がまた読みどころだ。 「あまり表立って言えませんが、若い男性、若い女性に対しても、官能というか知りたい気持ち、欲求は自然と出てきますよね。でも知りたいけれど、それはなかなか知り得ないことでもある。あえて知りたいと思わなくても自然と知っちゃうこともあるし(笑い)。若い女の子が抱くそういう思い、欲求も読み手の方には知っておいてほしいな、と思います」 清廉な文体と映像美、にじみ出る若い女性の官能性が微妙に絡み合う、実力派新人のデビュー作だ。 ◆青山七恵(あおやま・ななえ) 1983年、埼玉県生まれ。05年、図書館情報大学図書情報学部卒後、旅行会社に入社、現在も勤務する。大学4年のとき書き上げた本作品で第42回文藝賞を受賞、作家デビューする。 |

