第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用 | なんでも日記

第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

西條 奈加
金春屋ゴメス
西條 奈加
金春屋ゴメス

【NEW WAVE】

2006年1月7日 掲載
第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞 西條奈加氏に聞く

「深川江戸資料館の、江戸の長屋のレプリカにハマってます」

 科学も医学も現代日本もすべて拒否、究極のエコワールド“江戸国”が近未来日本で独立! 西條奈加著「金春屋ゴメス」(新潮社 1400円)は、SFと時代劇のコラボで選者の荒俣宏、鈴木光司氏らをうならせた日本ファンタジーノベル大賞受賞作。しかも未知の感染症の謎解きがテーマと、なんともぜいたくな設定で、波瀾万丈、痛快な異色の時代小説だ。

【作品概要】
 21世紀半ば、自然との調和をうたい、19世紀初頭の江戸を模した独立国“江戸”が日本に誕生して30年が経ようとしていた。
 だがその江戸国で謎の鬼赤痢が流行し1000人以上が死亡する。幕府は15年前、この流行病から唯一助かった、今は日本国の大学生・辰次郎を呼び戻し、解決策を見いだそうとする。
 辰次郎の江戸での身請け人は、容貌魁偉、冷酷無比で知られる“金春屋ゴメス”こと長崎奉行馬込播磨守。趣向、手際も相まって、なんとも痛快な探索行が展開される。

――基本は徹底的に時代劇、実態は近未来日本の中の独立国・江戸の事件簿。ファンタジー好き、時代劇マニアにとってはたまらない設定だが、この突拍子もない構想の出どころは?
「そもそも時代物が好きで、清澄白河駅(江東区)近くの深川江戸資料館の、実物大の江戸の長屋のレプリカなどは大好きです。実際に江戸の町に行きたいぐらいハマってます。でも、時間を戻せない以上、原稿用紙の上で再現してみたい、という気持ちですね。会社での営業事務職が長いんですが、バブル以降の効率化、リストラ一辺倒の考え方にも違和感があり、よく行く東南アジアの若いバックパッカーたちが非効率、苦労をむしろ楽しんでいることにも共感を覚えていました。その辺りを取りまとめて、エコワールド・江戸をつくっちゃえ、と(笑い)」
――その江戸で発生する謎の“鬼赤痢”は一種の生物兵器テロだった。その犯人捜し、勧善懲悪ぶりはまさに時代劇だ。
「江戸国の強みは自給自足、自然によって立つところ。でもそれがゆえに科学・化学によって立つ医療の問題が出てくる。現代科学を拒否するエコロジストの最大の弱点で、江戸国内でもそこから開国論、反幕府派が出てくる。今の世の中は画一的に、便利で楽しい社会を目指して走っている感じがしますが、それでもいいでしょうけど、この先、多様な個別の価値観、文化の方向があって欲しい、そういう思いも書き込みました」
――登場人物たちの日常の営み、江戸弁、市中の町並み、近郊農村の暮らしなど時代考証が難しかったのでは?
「時代物はやっぱり考証力がないと読みにくい。ですから初心者の方でもすんなり入れるよう、ちょっと解説めいたくだりを挟んで工夫したり、何しろ近未来ですから。マニアの方には怒られかねない手管も使ったかも(笑い)」
 驚きの手法で描く、まったく斬新な江戸の時代物ファンタジーの世界。奉行・金春屋ゴメスの悪辣ぶり、正義漢ぶりも読みどころだ。

◆西條奈加(さいじょう・なか) 1964年、北海道池田町生まれ。東京英語専門学校卒後、輸入販売会社、貿易会社などで営業事務職。20代にミステリーを中心に小説を書き始め、初めて書いたSF調時代物の本作品で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。