第26回小説推理新人賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
- 蒼井 上鷹
- 九杯目には早すぎる
【NEW WAVE】
2005年12月24日 掲載
第26回小説推理新人賞受賞 蒼井上鷹氏に聞く「酒と酒場は人間ドラマの宝庫です」
――収録された9編すべてが酒と酒場がらみ。表題作「九杯目には早すぎる」ではギムレットが、賞を取った「キリング・タイム」ではビールが使われる。この酒と酒場へのこだわりはなぜ?
「もともと私自身酒好きなこともあるし、人と酒と酒場がそろえば、いやが応でもドラマが起きる(笑い)、それが一番の理由ですね。作中、登場するお酒はもちろん全部飲んでいますし、飲まないお酒のことは書きません。やはり酒場ごとに雰囲気も、酒も、集まる人も違えば、起きるドラマも特色がある。まさに人間ドラマの宝庫、という思いがありますね」
――表題作はショートショートで、ギムレットの切れ味鋭い飲み口そのまま。一方、「キリング・タイム」はビール三昧で、ひねりにひねった殺人の物語。著者としてどこをどう読んで欲しい?
「『九杯目には早すぎる』は、この作品集を表象する作品という意味で、ミステリーの名作を伏線に使いました。後でグラッとくるギムレットの酔い心地に通じる、意外な展開を楽しんでいただければ。『キリング・タイム』の方は、酒がらみで理不尽な目に遭うサラリーマンの悲喜劇。酒場は飲めば飲むほど、自分が理解していなかった自分が出てくる場でもあるし、突き詰めると重い話にもなるんですが、そこをなんとか笑いのめしていただければいいかな、と」
――他に色恋、音楽、非運、憧れ、そして小心者の、あざとい殺しもある。
「この作品集には酒に飲まれて転落する男、バカな輩(やから)が次々登場します。会社で嫌なことがあったら、お酒を飲むよりぜひこの本を読んで、気分転換して欲しいですね。おまけに二日酔いもありませんし(笑い)」
酒に合わせて趣向を凝らした物語が、暗いユーモアを漂わせ、読み手を酔わせる。グラス片手に孤独に楽しむ、そんな読み方が似合いそうな一冊だ。
【作品概要】
表題作は、あるバーで、バーテンと客らの間でケメルマンとチャンドラーの作中のセリフが符丁のように交わされる謎がテーマ。その真の意味を解くのは刑事。結末は意外や意外……!? 「キリング・タイム」は、休日に嫌われ者の上司の酒に付き合わされた部下のとんでもない悲喜劇の物語。何者かに命を狙われていると疑心暗鬼の上司は、意地汚くビールを痛飲。若い部下はその上司に言えない恋を抱えて酒に付き合うが、突如、思惑違いのちぐはぐな殺人事件に巻き込まれる……。
◆あおい・うえたか 1968年、千葉県生まれ。大学(文学部英文学専攻)卒業後、会社勤務を経て、インターネット上の月刊文芸誌「文華」で執筆活動を開始。2004年「キリング・タイム」で第26回小説推理新人賞を受賞し、作家デビュー。05年、初の作品集となる本作を発表する。