第48回群像新人文学賞優秀作受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
- 望月 あんね
- グルメな女と優しい男
【NEW WAVE】
2005年9月3日 掲載
第48回群像新人文学賞優秀作受賞 望月あんね氏に聞く「都会に憧れ、グルメにはまった田舎娘の恋物語です」
グルメ命のりん子は、仕事中に会社のパソコンでお取り寄せに励み、グルメのために会社を抜け出すことも度々の問題社員。小言を言えば、無視されるか、毒舌でやり返されるのは目に見えている。
田舎の小さな町を舞台に、そんな今時の女性の実態を冗舌な文体で描き出した問題作だ。
【作品概要】
田舎の小さな会社で事務員をするりん子は自他共に認めるグルメ女。地元の豆腐屋が上客だけに提供する隠れた逸品から、会社のパソコンを駆使してお取り寄せした名品まで、評判のものを手に入れるための努力は惜しまない。そんなりん子の密かな願いは、一度でいいから「人間」の味を確かめてみることだ。ある日、会社をサボってお取り寄せした高級米を農協の裏の精米機で精米していたりん子は、草食動物のように雑草を食べている男・一郎と知り合う……。
――この作品が生まれた背景は?
「宮城県に住んでいるんですが、田舎には何もないですよね。テレビとか、パソコンを持っていればインターネットとか、そういうのに夢中になるしかない。で、自分なりに何か夢中になれるものを探している平凡な女性が、どんな人に憧れて恋をするのかなとか考えて書きました」
――主人公のりん子は仕事そっちのけで「お取り寄せ」に励む。なぜ?
「田舎では、手に入らないものに対する憧れがあるんです。高級店のケーキであったり、ブランドだったり。その延長線上に一郎という男性が現れるんです。一郎は、同じ田舎に住んでいるのに自分にないものを持っている。都会への憧れと一緒で、見たことない所に行ってみたいんだけど、ちょっと怖いからどうしようかなと考えている感じ」
――誰にでも優しい一郎、部下に不器用に接する課長、そして一郎が見いだすりん子の優しさと、作品は一貫して人間の持つ優しさを見つめる。
「りん子は、仕事とかも適当で、言いたいことを言う毒舌家なんですが、実はどうやって人に優しく接していいのか分からない。それをストレートに表現する一郎に教えられるんです。課長にも馬鹿にする態度をとりながら、実は彼らの優しさは身に染みている。くだらないギャグばかり言っているりん子は、読んでいてもイライラすると思うんですよ。でも、それはわざとで。こういう人でも心ではいろいろなことを思っているんだよ、ということを書きたかったんです」
――今後、書きたい作品は?
「自分が読んでいる本でも、まどろっこしい比喩とか、文学文学しているものがどうしてもつまらなく感じてしまうので、文学として読んでもらうより、共感というか、あるな~こういうの、とか思ってもらえるようなものを書いていきたいですね」
銀行での待ち時間に手に取った文芸誌で小説の面白さに目覚めたという著者。友達同士の会話をそのまま小説に仕立てたようなその作品は、おじさん世代には若い女性たちの本音を知る格好のテキストになってくれそうだ。
●もちづき・あんね 1977年宮城県生まれ。本作で第48回群像新人文学賞優秀作を受賞し、作家デビュー。現在も毎日執筆中。