第6回日本SF新人賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用 | なんでも日記

第6回日本SF新人賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

照下 土竜
ゴーディーサンディー

【NEW WAVE】

2005年6月26日 掲載
第6回日本SF新人賞受賞 照下土竜氏に聞く

「日本でも女テロリストが準備されている予感がします」

6回SF新人賞
「今、僕ら若い世代だけでなく日本人全体が、何が起こってもおかしくないという不安を抱えていると思う。その延長線上の物語です」と語る照下土竜氏。最新刊「ゴーディーサンディー」(徳間書店 1900円)は、近未来日本で頻発する擬態内臓爆弾での自爆テロを描いた日本SF新人賞受賞作。不気味で、始末に負えないテロの時代の到来を予感させる衝撃作だ。

《作品概要》千手観音と呼ばれる高度治安監視システムが張り巡らされた近未来日本で、新型の爆弾テロが頻発する。それは生きた人体に仕込んだ擬態内臓爆弾による自爆攻撃だった。
 巧妙に仕掛けられた爆弾の除去方法は生体解剖以外にない。それは仕掛けられた人間の死をも意味した。警察機動隊爆発物対策班所属の心経(しんぎよう)は、この擬態爆弾除去を任務とするが、新手の民族系テロリスト集団の仕掛けた罠に見事にはめられてしまう。それは愛する女性の生体爆弾化だった……。

――警備側の青年とテロリスト側の女性を主人公にしたSFハードボイルド。硬質でシンプルな手触りと、不思議に人間の情愛が交錯するSFだ。
「海外の民族系のテロリズムでは、自分たちの土地、文化、国家を守ろうと女性でも参加します。女テロリストはそこから発想しました。一方で、日本でもバブル崩壊や凶悪な宗教事件などを経験して、ある種のテロがこの国でも準備されている予感がありますね」
――自分の愛する女の体内には、生きては回収できない爆弾。しかも主人公の任務はその除去。究極の選択の物語でもあるが、一番書きたかったことは?
「実はスタンダードな恋愛小説なんです。SFにはなかなか本格的な恋愛ものが少ないので書いてみたかったんですね。ただ恋愛するキャラクターがやりすぎると、逆にやわな、人間らしさのない物語になってしまう。そこで出来るだけ2人には硬質感を持ってもらうことにしましたが」
――爆弾除去の開腹、開胸、開頭の手術シーンも見事。爆弾工作をはじめ、ナイフなど武器類にもこだわりを感じるが?
「体を開き、処置し、縫い合わせるシーンは当然勉強しました。苦手な会話のシーンよりはるかに楽しく書けましたね。武器に関しては特化した興味ではなく、広く銃器、爆弾、ミサイル、何にでも興味はあります。武器は本来殺傷目的で作られていますが、特に日本刀の類には、美しさを感じています」
 著者はまた読者に「主人公・心経の視点とシンクロして読んでいただければ」という。クールで自我を滅却した視点が、ストイックな美意識の世界に導く仕掛けを楽しんでほしいからだ。
 今後は「特定の人たちに強烈に受け入れられる作品より、さまざまなタイプの読者に受け入れられるものを書いていきたい」と抱負を語る。
 ハリウッド映画にも通じるハードSFの力作だ。

ひのした・もぐら 1982年、高知県南国市生まれ。県立高知小津高校卒業後、大阪で小説創作専門学校を修了、書店員のバイトをしながら執筆活動に励む。本作で第6回日本SF新人賞を受賞、作家デビューする。