中国の歴史小説作者コメント | なんでも日記

中国の歴史小説作者コメント

小前 亮
李世民

【NEW WAVE】

2005年7月23日 掲載
話題作「李世民」の作者 小前亮氏に聞く

「好みの人物を探し出すのも中国歴史小説の楽しみ方です」

 作家・田中芳樹氏が、「これが処女作? 冗談だろう」と驚愕の嘆息をもらす、驚異の新人の一大歴史ロマン「李世民」(講談社 2200円)が登場した。著者は小前亮氏、弱冠29歳。確かな筆力で隋末、唐建国の騒乱の時代を鮮やかに描き出した話題作である。

――若手の中国歴史小説の書き手としては、非常に高い評価を浴びてのデビューだが、とくに唐を創建した李世民を主人公に選んだ理由は?
「隋末・唐初は群雄割拠の時代で、さまざまな英雄・知将がそれこそ縦横無尽に暴れまわり、魅力的な人物も多いんです。でも、意外に日本では知られていない部分も多く、まずぜひこの時代を紹介したいという気持ちがありました。中でも李世民は、兄殺しで太祖になった人物として有名ですが、李世民は兄殺しをせざるを得ない状況に追い込まれた人物とみることも可能で、そこに物語として魅力を感じました」
――忠義、義侠、そして裏切りなど満載の物語だが、一番書きたかったことは?
「いわゆる歴史書はあくまで勝者側が後に残した記録なんですね。李世民の場合も、中国の正史や演義ものでは兄が弟の功をねたんで暗殺しようとしたため、李世民が反撃したことになっている。つまり兄は悪者というわけです。しかし悪者とされる敗者の側にも、価値ある死にざまを見せた人物はたくさんいるんですね。まさにそこを描きたかったわけです」
――中国歴史小説の書き手には、いわゆる大御所、大物作家も多いが?
「偉大な先輩が多いですから厳しい批判は覚悟の上です(笑い)。僕としては基本には忠実に、一方では歴史に詳しい人はもちろん、あまり中国史をご存じない方にも楽しめる物語を書いていきたいですね。主従の関係にもいろんなパターンがあります。お好みの人物を探していただくのも中国歴史小説の楽しみ方の一つだと思います」
 血液型A型の水瓶座、独身。これまで作家のマネジメントプロダクションの社員として、歴史資料の翻訳や歴史コラムの執筆を手がけ、その実力を見込まれ一気に大作でのデビューとなった。今後は「中国の歴史だけでなく、本来の専門の中央アジアやイスラム史の世界も作品化してみたい」とも語る。

●こまえ・りょう 1976年、島根県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修了(中央アジア、イスラム史専攻)。在学中から歴史コラムの発表を始め、大学院修了後、作家のマネジメントを主にする編プロに入社。担当する田中芳樹氏らの勧めで小説執筆に取り掛かり、本作でデビューする。
公式ウェブサイトwww.wrightstaff.co