第58回日本推理作家協会賞受賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
【NEW WAVE】 2005年7月3日 掲載
第58回日本推理作家協会賞受賞 戸松淳矩氏に聞く「“文明の衝突”を背景にした本格的歴史推理小説です」
《作品概要》侍遣米使節団がニューヨーク入りする直前、殺し屋と株式仲買店経営者の2人が殺される。殺し屋は高所から突き落とされた後、再び建物の最上階に担ぎ上げられ、経営者は溺死後、わざわざ燃やされていた。 現場には日本使節団歓迎準備委員会の記章と、スタンリー社発行の「聖書物語」の切れ端が残され、さらに謎の誘拐事件も起きて……。 ――1860年当時のニューヨーク、アメリカを二分する内戦前夜の状況、侍使節団歓迎の実態など、まるで見てきたような臨場感ですね。 「当初準備していた本格推理のアイデアをどうするか模索していたとき、たまたま知人が1860年の侍使節団の一員として渡米した人物の子孫だとわかったんです。その人物が残した記録類では、使節団はニューヨークで街頭パレードなど大歓迎を受けている。ところが当時のアメリカは南北戦争直前、奴隷問題や宗教、政治、経済問題で大揺れの時代。そんな中でなぜ東洋の島国から訪れた侍たちが大受けしたのか。その疑問がこの物語の出発点になりました」 ――主人公は意外にも日本人ではなく、ニューヨークの新聞記者ダロウとワトソン役の挿絵画家。そして米国市民で元漂流民の日本人ジューゾが2人を助ける。 「探偵役は、やはり当時の米国側の複雑怪奇な事情に通じた人物、ということで自然に生まれました。書きたかったことは、歴史的な文明の衝突を背景にした本格推理、ですね。アメリカはたかだか建国250年、この物語当時なら建国100年の移民の国、というイメージですが、彼ら自身はギリシャ以降の正統な西洋文明の継承者というプライドがある。その彼らが、侍たちの着物や工芸品、刀、礼や義の思想などに接して、日本人の評価を良い方へ変えていった。そういう経過も書きたかったし、結局、南北戦争当時と現代のアメリカ人はちっとも変わっていない、ということも書きたかったし(笑い)」 ――内容もさることながら構想15年、受賞に17年という本物の大作だ。 「評価されたことは素直にうれしいですね。100枚書いては潰しての連続で、書きながら作家として作品に育てられた、とも思います。とにかく読者の方には歴史本格ミステリーの面白さを十分に堪能していただけるよう仕上げたつもりです」 ●とまつ・あつのり 1952年、京都生まれ、東京・杉並育ち。学習院大学文学部哲学科卒後、家業の印刷業を手伝いながら執筆。71年小説サンデー毎日新人賞最終候補。79年、ヤングアダルト(中高生)向けの「名探偵は千秋楽に謎を解く」でデビューし、同シリーズで計3作を発表。87年、本作に着手し、東京創元社社長・会長を歴任した同社相談役・戸川安宣氏の尽力もあり本年、著者初の一般向け歴史本格ものとして刊行。第58回日本推理作家協会賞を受賞。 |


