第47回群像新人文学賞優秀賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用 | なんでも日記

第47回群像新人文学賞優秀賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

【NEW WAVE】

2005年6月5日 掲載
群像新人文学賞優秀賞受賞 
佐藤 憲胤
サージウスの死神
氏に聞く


「ロックンローラーのソウルと哲学の底にあるソウルには相通じるものがある…」

47回群像新人賞
「哲学とロックンローラーのソウルを合体させて、この資本主義の現実から逃れる術を描きたかった」と語る佐藤憲胤氏。最新刊「サージウスの死神」(講談社 1400円)は、その評価をめぐって、選者らをちょっとした混乱に陥れた群像新人文学賞優秀賞受賞作。
 目前で飛び降り自殺を目撃した男が、時空を超えた狂気のギャンブルツアーに突入するアナーキーな衝撃作だ。

《作品概要》ある日、華田(はなだ)の鼻先をかすめて男が飛び降り自殺した。以降、華田の頭の中には奇妙な数字がすみ着き、友人に連れて行かれた闇カジノで連戦連勝しだす。
 華田は頭蓋の中で炎を上げる数字の命ずるままギャンブルにふけり、そして勝ち続ける。左手薬指にサージウス(紅玉髄)を埋め込み、酒、クスリも絡み、やがて幻想と狂気の狭間で生きるようになる。最後には謎めいた裏カジノのオーナーに誘われ、死を賭したゲームにも挑戦するが……。生と死の意味を問う、狂気のギャンブル小説。

――イカレ頭のギャンブラーや、死を賭した究極のゲーム、ニーチェやアインシュタインなどが相当過激に、アナーキーに登場するギャンブル小説だが、こういう物語はどこから?
「ニーチェやベンヤミンなんかがけっこう好きで、彼らの哲学のやばさ、強度、破壊力を、フィクションに焼き直して表現してみたかったんです。人が生きていく上で、やっぱり哲学者の仕事ははずせないじゃないですか。それと父親の下でペンキ職人の見習をやっていた時期があって、僕はあらゆる職人の仕事、技術を尊敬してる。だから僕の書くものは小説というよりクラフトワークでありたい。そういうところからこの小説は出てきています」
――ギャンブル絡みで死んでいく男が3人。“偶然と死、それがギャンブル(人生)の本質”という言葉も出てくるが、一番書きたかったことは?
「ロックンローラーのソウルと、哲学の底にあるソウルって相通ずるものがあると思うんですが、右翼左翼じゃなく、国家とか資本主義から狼のように逃れていこうとすると、こういうセンスの物語になるんじゃないか。アートとかカルチャーって本来そういうものだったと思うんですよ」
――人生とはギャンブル? ブッ飛んだ表現も多いが?
「死というディーラーが皆のチップをかき集めていく、人にとって一瞬先は闇、という意味ではそう。書いていて、今、邪魔されたら誰でも殺せる、と実感する瞬間もあった。そういう意味ではブッ飛んでましたね(笑い)」
 血液型B型の乙女座、独身。仮面レスラーのマスカラスが活躍した頃からの格闘技ファンで、最近のお気に入りはヒョードルやミルコップ。
 今後は、「人間の叫びを描いたフランシス・ベーコン(1909~1992)という画家がいるんですが、彼の描いたような純粋な人のシャウト、精神を貫く叫びをとらえるような作品を書いてみたい」とも語る。
 人の魂を高度なテクニックで殴りつける、そんな予感を持たせる大型新人の登場だ。

さとう・のりかず 1977年、福岡市生まれ。福岡大学付属大濠高校卒後、実家の内装職手伝いやJRのアルバイト、広告デザインの仕事などに就く。処女作の本作品で第47回群像新人文学賞優秀賞を受賞、作家デビューする。