第35回新潮新人賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
【NEW WAVE】 2005年4月24日 掲載
第35回新潮新人賞受賞作家 青木淳悟氏に聞く「作家として生き残って文学賞を総なめしたい」 〈作品概要〉 ピンチョン級と評される表題作と、ボルヘスを彷彿させるSFタッチの「クレーターのほとりで」の2編を収録。表題作の主人公・わたし(30代女性)はチラシ配りで生計を立て、文芸創作教室に通う。ストーリーは特になく、わたしの日常(スーパーでの買い物、配りきれずため込んだ大量のチラシの話等)と、創作教室の講師の作品の話、わたしがチラシの裏に書き出すメルヘン(少女クロエに恋する印刷工クロードの物語)の話が交錯する。衒学的な暗喩・隠喩、シンボリズムが読み手の脳を空にする!? ――失礼な言い方だが、久々に見た純文学らしい純文作品。日本にもこういう作品が登場するんだ、という感動もあった。しかし難解。一番書きたかったことをわかりやすく語ってもらうと? 「自分の日常を基に書いています。ただ主人公の言動が現代の若者らしくない。そこで主人公を30代の女性に設定し直して書き進めました。もくろんだのは、主人公の身体感覚を喪失させて、透明な幽霊みたいな人物を描こうと。それには本来あるかもしれない中心的なテーマを書かないようにして、空白の、小説っぽくない物語を描いてみました」 ――やはりわかりにくい(笑い)。でもなぜ今、空虚な主人公、中心のない空虚な小説なのか? 「主人公をリアルに、また物語を小説的に書こうとすると、自分を基に書いていますから、何か嫌悪感が出てくるんです(笑い)。自分に対する関心が低いというか、自分への興味を失って、何か幽霊のような存在になりたい自分がいるというか。現代の生きにくさを表象しているというか、そういう感覚ですね」 ――メルヘン、日付、日記、作中作、読み方次第でとてつもなく衒学(げんがく)的。ただある意味、現実を拒否しているようにも見えるが? 「現実に関わりたくないんじゃなく、やっぱり完全な創作には興味がないし、あくまで僕の体験、見聞、感じたものをベースに書いています。社会批評めいたものをやる気も毛頭ないんですけど、やっぱりこの現実を作品に取りこんでいきたい。現実があるからこういう物語が発動したと思っています」 血液型O型の牡牛座。今回のデビュー作刊行後、「家族に“もっとシンプルで面白い小説は書かないの?”と毎日のように聞かれてます」とも語る。 今後は「直近では家族をテーマにした作品を。将来的にはまず作家として生き残って、できれば文学賞を総なめしてみたい(笑い)」とも。日本の純文学の新たな地平を切り開く、驚異の新人の登場だ。 ◆あおき・じゅんご 1979年、埼玉県狭山市生まれ。早稲田大学文学部(表現芸術系専攻)卒。在学中の03年、「四十日と四十夜のメルヘン」で第35回新潮新人賞を受賞し、以降作家活動に専念する。 |
