第25回横溝正史ミステリ大賞受賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
- 伊岡 瞬
- いつか、虹の向こうへ
【NEW WAVE】
2005年6月19日 掲載
第25回横溝正史ミステリ大賞受賞 伊岡瞬氏に聞く「人生を投げ出さないでよかったという気分が味わえる物語です」
|
《作品概要》知人の別れ話に巻き込まれ、殺人を犯しクビになった元刑事・尾木。今は妻にも逃げられ、警備会社に勤め、同僚のバイト青年・ジュンペイ、翻訳家の石渡、心の病を抱える恭子と奇妙な同居生活を続ける。
だが居候に転がり込んできた女・早希の彼氏が殺され事情が一変する。早希は殺された男・久保の美人局の相棒だった。
悪いことに久保は暴力団連合会長の甥っ子で、尾木は会長の配下に拉致された揚げ句、犯人捜しを命じられる。
暴力団の内部抗争、警察腐敗の中、事件は意外な展開に……。
――殺しと暴力団、それに絡む女と元刑事。その点ではオーソドックスなハードボイルドだが、元刑事と同居人物たちの関連が明らかになるにつれ、人間ドラマとしての新味が色濃く漂いだす。
「当初は主人公の元刑事と美人局(つつもたせ)の若い女との逃避行を、と考えていたんですが、どうも作品世界が寂しすぎる。そこで今までにない、主人公とわけありの同居人たちを描いてみたらうまくハマった、という感じです。そこから自分が面白いものを、とことん好きなように書いてみようという気にさせられました」
――主人公が暴力でボロボロにされ、事件の解明に近づくほど傷ついていく。真犯人が明らかになるラストがまた秀逸だ。
「格好をつけるようですが、人生、誰もがきれいごとでは生きられない、ということですね。皆、泥のぬかるみに足を取られドロドロになりながら生きざるを得ないし、傷つきもする。その当然のことをどう肯定し、どう表現できるか、まさにそこを描きたかったんです」
――完全に中年のオヤジ族向けの物語のような気もするが?
「(笑い)確かに日刊ゲンダイの読者層を含め、オヤジ族の読み手を想定しています。だって生きてればいいことばかりじゃない、悪いことの方が多い、でも生きてればちょっとは生きててよかったな、と思えることもあるじゃないか、と。そういうことがわかる層じゃないですか。私としては、人生、投げないでよかった、という気分を味わっていただける物語にしたつもりなんです」
血液型O型の山羊座。趣味は、「サニーの新車1台分ぐらいはカメラ代に投資した」と語る、歴20年超になる写真撮影。
今後は「文章は正直、書き手のスタンスはダイレクトに読者に伝わると思うので、いつになっても初々しさを失わないで、エンターテインメントを描き続けたい」とも語る。
いおか・しゅん 1960年、武蔵野市生まれ。日本大学法学部卒後、大手広告会社入社、現在も勤務する。本作品で第25回横溝正史ミステリ大賞、及びテレビ東京賞をダブル受賞し、作家デビュー。本作品はTVドラマ化が決定している。
