このミス大賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
- 深町 秋生
- 果てしなき渇き
【NEW WAVE】
2005年5月8日 掲載
「このミステリーがすごい!」大賞受賞 深町秋生氏に聞く「癒やしという言葉に吐き気を覚える人向きの小説」
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<作品概要>
失踪した17歳の娘・加奈子を追う元刑事の藤島の物語と、中学時代に自殺に追い込まれるほどの手ひどいイジメに遭った尚人の物語が交錯しながら、事件は進捗する。
藤島は消えた加奈子の部屋から大量の覚醒剤を発見。その交友関係から、彼女が暗闇の世界を抱えていたことに気付かされ、藤島は徐々に父性が崩壊し始める。
一方、同級生だった加奈子に救われた尚人は、彼女に恋していた……。少女・加奈子とは何者なのか? ありとあらゆる悪に復讐する衝撃の結末が読みどころ。
――主人公の元刑事の藤島、娘の加奈子、そして尚人も心の中に闇を抱えたとがった人物たちだ。こういう物語はどこから?
「自分は純粋に不正をただす小説が好きというか。ヘミングウェーとかジョー・R・ランズデイルなんかも好きなんですが、やっぱり世の中腹の立つことが多いじゃないですか。不正、犯罪が跋扈(ばっこ)してる。そこから逆説的にこういう物語が出てきたというか。実際のところ、ミステリーを書いたという意識はあまりない。いじめられる少年のパートは、かつて自分の身に起きたことを書いただけで。ただ作中のようにケツまで掘られはしなかったけど」
――娘の本当の姿が明らかになるにつれ、元刑事・藤島が壊れていく。また加奈子が仕組むあらゆる悪に対する復讐の仕掛けも衝撃だ。一番書きたかったことは?
「ある意味単純に、仕事でも日常でも、何でもそうですが、自分が持っている不満、憎しみ、苦しみ、それをさらけ出したかったんですね。ただしあくまでビジュアルなエンターテインメントとして、読者に届けられる作品に昇華できたかな、とは思っています」
――この作品に関して、エルロイ的暗黒を選者が言及しているが、その評価はどうとらえている?
「癒やしという言葉が昨今はやっていますが、そういうのに吐き気を覚える人向きの小説です。真に共感を覚える癒やしは、むしろこの物語にこそある、そう思っています。もっとも暗い癒やしかもしれませんが(笑い)」
血液型AB型の蠍座。大学時代までパンクロック・バンドに血道をあげるが、「ミュージシャンとして才能なし」と小説に転じた異才。性格の自己分析も「パンク、あるいはアナキスト」ととがっている。
今後は「皆で仲良くはありえない性分ですから、常に深町秋生にしか書けないものを目指したい。ちょっとナルシシズムが入って気持ち悪いですけど、ただのエンターテインメントじゃない何か、それが書きたいですね」とも。
本格ノワール(暗黒小説)の書き手を予感させる大型新人の登場だ。
●ふかまち・あきお 1975年、山形県南陽市生まれ。専修大学経済学部卒後、大手薬品メーカー入社、現在に至る。小説は大卒後に書き始め、本作品で第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、本格デビュー。
