第3回このミス受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用 | なんでも日記

第3回このミス受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用

第3回「このミス」大賞受賞作家 「野球は、日本社会の旧弊を引きずっているところがありますね」

水原 秀策
サウスポー・キラー

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第3回このミス大賞
「組織の歯車的な仕事を務める人たちにとって、一服の清涼剤になれば」と語る水原秀策氏。最新刊「サウスポー・キラー」(宝島社 1600円)は、選者の評論家・大森望、香山二三郎氏らが“ディック・フランシス級”と絶賛した「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。旧弊なプロ野球界に現れたクレバーな新人左腕が、自ら巻き込まれた八百長事件の謎に挑む。

〈作品概要〉
 人気球団オリオールズの2年目左腕・沢村は、ある日、自宅マンション前で“約束を守れ”という男に暴行を受ける。何の事か身に覚えのない沢村だったが、やがて球団・マスコミに沢村が暴力団と癒着しているという告発文書が送りつけられる。
 一気に八百長疑惑にさらされる沢村。味方は監督の葛城と、ベテラン記者の下平、そしてパーティーで知り合った女優の美鈴だけだった。だがさらに2度目の脅迫、暴行を受け、沢村は自ら疑惑解明に乗り出すことを決意する……。

――選者の間では英国ミステリーの大御所ディック・フランシスをほうふつとさせるスポーツミステリーとして評価が高かった。そこは意識した?またこういう物語はどこから?
「ディック・フランシスは大いに楽しんで読んだ作家の一人です。でも似ているとしたら偶然ですね。物語の方は、私自身、もともとスポーツ観戦が大好きで、野球を選んだのは集団競技なのにピッチャーの占める要素が多いためです。野球って日本社会の旧弊な体質を引きずってるようなところがあるじゃないですか。そこにクレバーな、日本社会では浮きがちな主人公がピッタリ、というか」
――マウンドでの沢村の心理、バッターとの駆け引きも読み応え十分。女優・美鈴の存在も好感がもて、事件解明の展開も小気味いい。書きたかったことは?
「やはり沢村という左腕の存在ですね。先ほど日本社会、野球界の旧弊な体質に言及しましたが、むやみな和の精神とか、今風に言えば既得権益を死守する風潮とか、そういう日本的な精神風土の中で苦闘する主人公を描きたかった。苦しい状況の中でもヘラヘラというかニッコリ笑っていられるような人物を、ですね。内面的に主人公とよく似た先輩がいて、彼らを書きたかったとも言えます」
――奇をてらわない本格的ミステリーでもあるが、ゲンダイの読者に一言。
「言葉はよくないんですが、例えば会社という組織で下支えする方たち、歯車役を務める方たち、そういう人たちにとってこの物語が一服の清涼剤になれれば、と思っています」
 血液型O型の水瓶座。趣味は小学生時代から始めた囲碁、歴三十数年。腕前は「弱いアマチュア4段ぐらい」とか。今後は「子供の頃、読書に目覚めたのがシュリーマンの伝記だったので、将来的には人物評伝・伝記物なども書いてみたい」とも語る。スポーツミステリーに限らない可能性を感じさせる大型新人の登場だ。

◆みずはら・しゅうさく 1966年、北九州市生まれ。早稲田大学法学部卒後、不動産会社営業を経て、一時、現職の鮫島宗明衆議院議員の公設第2秘書。その後、塾講師に転じ現在に至る。本作品で第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞、作家デビュー。