筆者は主にアメリカのハンバーガー・エッセイ(トピック・センテンス、パラグラフ・ライティングなどの用語は高校時代の英語の授業で知ってはいたが、こういうことだったんだな。英語が母語話者でない人がアメリカの大学に増えることで、彼らにも読み書きしやすい(そして評価がしやすい)書き方が主流になった)を念頭に、日本では論文の書き方を体形だって学ぶ機会がない、だから大学生はディシプリンを全く守れていない卒論を書きがちだ、でも彼らにちょっとアカデミック・ライティングを教えれば驚くほど成長する、という問題意識のもと、未だ存在しなかった「決定版」の「論文の書き方」の教科書を書いた。

 

 これは本当に決定版だと同意する。大学一年生に初めてのレポートの前に読ませるのでもいいし、当然卒論準備中の四年生には一番役に立つ。それどころか、研究を始めたばかりの修士学生、他大学に移るために研究計画書を準備する修士学生、さらには学振の申請書、そして博士論文の校正段階の人にまで、対象はかなり幅広い。というか、本書が一番役に立つのは、どうやって学生を指導しようかと悩んでいる大学教員だろう。

 いや本当に、アカデミック・ライティングの教科書や、論文の書き方の本ってたくさんありそうで、この種の本はなかった。英作文の延長みたいなのや、あるいは筆者の専門とする分野においては常識であるものを当然しするものは多いのだが、文系・理系を問わず、あらゆる分野での「論文」とはそもそもどういう形式で書かれているべきであるのか、という「基礎」から説明するものはなかなかない。

 

 一昔前だったら、卒論を書く前になって、急に「え?論文ってどうやって書くんだろう」となり、先輩に「ウンベルト・エーコの論文作法」を読みなさいと言われ、図書館活用法とワープロの使用法の説明に困惑し、本筋を見通せない、という感じだった。2022年に日本の学生むけにこの本が書かれたことは計り知れない意味がある。

 

 例えば、僕が個人的に役に立つと思うのは「主題(リサーチクエスチョン)と対象の違い」という初歩的なところだ。これはもちろん初歩なのだが、大学生のほとんどは卒論でこれを混同してしまっているだろう(そして口頭試問の時に、それを指摘されるけど、あまり問題を理解しないまま卒業していく)。これが大事だと思うのは「リサーチクエスチョン」についての詳しく説明してくれるから。

 多くの分野ではこのカナカナ語は常識で、もしこれが分からない人がいたら人間扱いされないだろうが、僕の分野では誰一人口にしない。でも、そのせいで某Jassoの面接に行った時になぜか怒られた。「あなたのリサーチクエスチョンを言いなさい」「? はい?」「あなた博士課程の学生でしょ!そんなことも分からないんですか!!!?」あのおじさんにとっては、僕がフォークを見たこともない原始人に見えたに違いない。でもそういう、他の分野の研究を鼻からバカにするような人に出会った時に、自分の研究を適切に説明するためにも、こういう多くの分野で一般的に使われている論文の構成方法を知っておくことは本当に有益だ。

 だから、学振とかJassoとかの面接を控えている人こそ(分野が違うおじさんに怒られないように)、この本を読もう!