人から勧められて、自分では絶対に手に取らないであろう本を読んだ。
これは自己啓発本や速読本のような雰囲気を醸し出している、ただし800ページくらいあって、無駄に長い。そこにこそ本書の狙いがある。
学び方とか図書館の使い方っていうのは、普通は大学生(特に卒論準備中の四年生?)や大学院生を対象にしている。ところが、本書はもっと非アカデミックな読書を想定している。ひろゆきやホリエモンの本を読んで感銘を受けたり、受験系自己啓発本の流れからビジネス系自己啓発本へと移行するような、大学一年生とか、20代の社会人だ。
本書は、ページがスカスカで、紙が分厚いので、1日で「鈍器本」を読んでしまったぞ! という達成感を味わいたい人には向いている。読書術のところであるように、つまみ食いや、ペラペラめくりによる情報収集としての読書の形なども示しており、本を読めない(かつての著者を含む)人に対して、読書へのハードルを下げるという意識が強い。
ただ、そのような見かけに反して、図書館のレファレンスサービス、書誌情報の重要性などに関する項目は、かなり高度だし、大量の論文を、相互の関連を浮き上がらせる形で整理する方法(エクセルを使ったマトリクス、めんどくさそう)などはすごいものだ。
この本が主張する読書術というのは、言ってみれば国立大学文学部一年生が抱きがちな原典至上主義(あんちょこ本なんて読まずに、原典を原語で読めよ)へのアンチテーゼである。古典なんて、自分に向けて書かれた訳ではないのだから分かるわけがない。そんなものを読むよりも、その後の批判、発展を含めた研究史全体を抑えられるような「教科書」を読んだ上で、その「古典」から始まった研究の網の全体像を把握することが先決だ。巨人の肩に乗る、とよく言うが、その巨人というのは、実は網目状をしており、50年前の偉人の上に乗ればいいというものではないのだ、ということ。
今、調べてみたら、読書猿さんは大学の哲学科で勉強したものの、細分化された人文学に幻滅して、ありとあらゆることについて勉強したい(つまり論文を書きたい訳ではない)と思って、読書猿というブロガーになったのだと。なるほどなるほど。一般には本書はビジネス本として通っているが、その実、「人文学の方法論(資料調査、書誌整理)を使えば、これだけのことができるのですよ」と一般社会に対してアピールしているのである。