働いていないとなぜ本が読めなくなるのか 2~既訳新訳
『あの本読みました?』というBSテレ東の番組を毎週見ているが、日本語しか読まない人は幸せだなと羨ましくなる。ストーリーが知りたければ、無理せず翻訳だけを読めばいいのだが、英語とフランス語の文学作品は原典で読むことにしているのだ。で、無理を重ねてそういう読書を続けているとどうなるかというと、岩波版は段落ひとつすっ飛ばしている、ということを発見してしまった。フォリオ版439頁3行目Je crus d'abordから10行目saison, ne m'avancerait à rien.までの訳がすっぽり抜けている。A L'Ombre Des Jeunes Filles En Fleurs (Folio Series: No.1946)Amazon(アマゾン)岩波文庫『失われたときを求めて4 花咲く乙女たちのかげに Ⅱ』501頁で、1字下がっている「シモネ嬢は」から始まる5行の段落が終わって、次の行「それからほどなく」で新しい段落に入る。失われた時を求めて4 花咲く乙女たちのかげに II 岩波文庫 マルセルプルースト,吉川Amazon(アマゾン) Amazon(アマゾン)で詳細を見る 楽天市場で詳細を見る これはそれぞれ、J'avais beau êtreとPeu de temps aprèsで始まる段落に相当し、その間にJe crus d'abordで始まる段落が挟まる。岩波文庫版の底本はプレイアードなので確かめてみる。プレイアード『失われた時を求めて』第2巻の231頁に確かにJe crus d'abordで始まる段落は印刷されている。ちなみにフォリオもプレイアードも同じガリマール社で頁の組み方は同じだ。高価なプレイアードを買っておいて初めて役に立った。しかし、ショックなことがあった。久々に箱から出してみると、頁が折れた落丁本だったのだ。1頁だけだが。鉛筆書きの11800という金額があるところを見ると、フランス図書あたりで買ったのか。新本をパラパラめくって見るという初歩的な確認を怠ったせいだ。どんなに権威のあるプレイアード叢書でも洋書はやはり信用できないと思う。ちなみに集英社文庫ヘリテージシリーズ『失われたときを求めて4 第二篇 花咲く乙女たちのかげに Ⅱ』386頁3行目「はじめは、それもうまく行きそうにない気がした」から7行のパラグラフが岩波文庫で抜けていた部分に相当する。こちらは2006年第1刷なので、岩波文庫より古い。失われた時を求めて(4(第2篇)) 花咲く乙女たちのかげに 2 (集英社文庫) [ マルセル・プルースト ]楽天市場ことわっておくが、岩波文庫の翻訳者吉川一義氏と私ではプルーストの理解は雲泥の差だ。例えて言えば、教師の作成した試験問題の欠陥に生徒が気がついたようなものである。プルーストも文庫だけでも3種類あって迷われるかもしれないが、なかでも岩波文庫は図版が多いのが特徴である。例を挙げると、アルベルチーヌの姿を見て、「紐の先に奇妙なシンボルを高くかかげているのがジョットの「偶像崇拝」とそっくりだと思った。シンボルといっても「ディアボロ」という空中独楽であった」という文を読んでもたいていの人はぴんとこないだろう。ページをめくると偶像崇拝も独楽も図版が出ていて一目瞭然である。それにしても、不思議なのは古典新訳などといって既訳のある作品に新訳が出ることがよくあるのだが、新訳に誤りが散見されるということだ。まさに講談社古典新訳文庫の『赤と黒』に誤訳が多いと問題になったのは2007年のことだった。赤と黒(上) (光文社古典新訳文庫) [ スタンダール ]楽天市場絶版にすべきだと主張したのはわが先輩で、批判された方は高名な後輩であった。誤訳が多いと主張するからには先輩は原文と訳文と照らし合わせながら読まれたのであろう。それほどの労力をかけた読書をされたのは、『赤と黒』という古典とスタンダールを生涯の研究対象とされたこの先生あってのものだ。私の翻訳をそんな読み方をする人はいないだろうから、今のところ誤訳批判を受けていないだけかもしれない、と思う。見直しはいつも3回行ったが。光文社の編集者からは、文句があるならご自分で訳したらいかが、という開き直りともとれる返事が批判者に届いたそうである。既訳と新訳と読み比べれば、フランス語が読めなくてもここが違う、くらいは分かると思うのだが、この編集者氏はそういった地道な努力はしなかったようだ。私は新曜社から『禁じられたベストセラー』という翻訳を出したことがあったのだが、担当のU氏は誤訳で叩かれたことがあったそうで、かなり慎重な姿勢だった。訳文にももちろあちこち訂正が入り、結局本が出るまで10年くらいかかったような記憶がある。<最大10万Pt当たる!エントリー&注文5千円以上 10/20~31限定>禁じられたベストセラー 革命前のフランス人は何を読んでいたか/ロバート・ダーントン/近藤朱蔵楽天市場編集者というのはそういうものかと思っていたが、毎月新しい本を出し続ける大手の文庫編集者ともなると、忙しくて丁寧な仕事はしちゃいれられない、というところか。だから、ポカ、オーケーとはいえないが。「朝飯前のドイツ語」シリーズで「アルプスの少女ハイジ」を読んだときは最初、竹山道雄の翻訳(岩波少年文庫 1952年)を参照していたが、途中から角川文庫(2021年)を購入した。ハイジ 上 (岩波少年文庫 2003)Amazon(アマゾン)アルプスの少女ハイジ (角川文庫) [ ヨハンナ・シュピリ ]楽天市場角川版の翻訳者はEテレの「100分で名著」にも出演されていたようで、「ハイジ」研究の最先端という印象を持っていた。シュピリ『アルプスの少女ハイジ』 2019年6月 (NHK100分de名著)Amazon(アマゾン)会話の文など竹山訳のハイジは丁寧すぎる言葉遣いで、そのあたりはやはり新訳の方がいいと思った。しかし、新訳はときどきポカがあって、竹山訳の方が正確だという印象だった。網羅的に調べたわけではないので、断言はできないが。こんなことをあれこれ書いていると、AIに誤訳を調べさせればいいじゃんという声が聞こえてきそうである。いや、最初から翻訳はAIに任せれば速いし、タダで働くし。実はそんな風なAI出版社じゃないかと疑っているエディションがあるのだが、長くなるので、その件はまたいつか。私の『花咲く乙女』岩波文庫は2012年6月15日発行の第1刷である。もう訂正されているかもしれない。今度本屋へ行ったら確かめてみよう。https://blog.ameba.jp/ucs/entry/srventryupdateinput.do?id=12982577716出演者5名のコンサートで