さて、「科学」について、もう一度考えてみよう。
この領域の似た本としては、村上陽一郎「科学の現在を問う」があるが、これよりも少し前、1996年に書かれたのが、佐々木力「科学論入門」である。
本書を読むと、さらに「科学」について学校で学ぶ、ということが一体どういうことなのかを考えさせられる。
「科学論」とは一体何か。
佐々木は「近代自然科学に関する総合的理解」(iページ)とまとめている。
世の中にはいろいろな「大事なこと」があると思うが、「科学論」が自分にとって「大事なこと」となるのは、どのような場合だろうか。
将来、「科学者」になるつもりのある学生にとって基礎的な知識として、というのは、もちろんわかる。たとえば、理学部の教養科目的なもの、である。
だが、それ以外の人たちにとって「科学論」とは何か?
考えられるのは、直接的ではないが、科学を応用した「技術」にかかわる人たち(将来かかわろうとしている人たち)に、最低限考えておいてほしいことを伝えるというもの。
また、自然科学にかぎらず、人文科学、社会科学もまた「科学」であることの意味を考えるという見方をすれば、むしろ、自然科学以外の学問や知識、技術にかかわる人たちの、考え方の根本にあるもの、求められているもの、方法論、認識の仕方、説明の仕方などを学んでおくこと、とも言える。
ただ、これでは、あくまでも、間接的な必要性であるように思われる。別にこの専門性を貶めたいわけではないが、普通に暮らしている中で「科学」の「論」に向かい合う契機はそれほど多いとは思われないのだ。
つまり、その「入門」の望む人が求めているものがよくわからないのだ。
そう考えると、先に村上の「科学の現在を問う」を読んで、科学論に関心を持ち、その入門書を読んでみよう、ということでこの佐々木の「科学論入門」を手にとる、ということであろうか?
いまひとつ、よくわからない。
ただし、ここに「哲学」を加えると、もっと大きなテーマが見えてくる。
自分たちが生きている世界、社会、時代、人びとが何に依っているのかを知ること、の入門、である。
言うなれば、近代自然科学が展開してゆくための出発点であり、かつ、その後の機動力となったものを、しっかりと理解しておくことの重要性である。
それは、具体的には、デカルトやベーコンの思想である。または、ニュートンやガリレオの思想である。場合によっては、ドルトンやラボアジエの思想である。大事なのは、「思想」だということである。
要するに、科学論が多くの人に役に立つとすれば、それは、どのようにして今の社会が成立しているのか、何を目指しているのか、共通の了解事項が何であるのか、などを確かめることであり、同時に、その了解事項を批判的に受け止めて、これからの社会のために修正を加えてゆくこと、場合によっては根本的に改変してゆくこと、ではないだろうか。
つまり「科学」とは、単なる学問の一部を指すのではない。「学問」もっと言えば私たちの「英知」の総体を問うための入り口なのである。
さらには、学問のみならず「社会」「人間」「世界」「現実」「歴史」等々を問うための入り口にして最大の「核」であり、出口でもあると言える。
ただ厄介なのは、それを今では単純に「科学」という言葉で収めきれなくなっていることである。とりわけ「技術」とのつながり、そして「生命」や「情報」とのつながりに焦点をあてざるをえなくなっている。
例えば、かつての科学論的課題は、環境工学、もしくは、技術論に置き換えて展開されることが求められている。
しかも、特に、生命や情報というキーワードで言われるものは、非常に重要な論点となる。
生命倫理として問われる脳死や臓器移植の問題を筆頭に、情報技術が生活や文化、地域社会にもたらす影響は、大きなテーマであろう。
概念として言えば、「科学」とは、あえて「科学」や「学問」「知識」という言葉を使わずに表現する試みを行えば、人類が近代に形成した一つの「文化技術」であった、と言い換えることができる。
「文化技術」とは、一般的な技術とは異なり、可視的な「モノ」の制作ではなく、不可視な「コト」の制作を意味する造語である。
「コトの制作」であるから、必ずしも形があるともかぎらないし、しかし、かといって「フォーム」がないわけでもない。
言葉であったり、イメージであったり、非常につかみどころのないものであっても、「コトの制作」と言えるものがこの世には多々あるのである。
歴史的に見れば、もちろんこれは、あくまでも断片ではあるが、たとえば古代は「神話」が、中世は「宗教」が、そして近代は「科学」が、その時代の「文化技術」の「核」であった、という言い方ができる。
その意味では現在は「生命」と「情報」との交錯が「文化技術」ということになり、大きな転換が起こりつつあると言える。
それでは本書は、そうした思考のための「入門書」となっているのであろうか。
















