小説「TOUBEE-3」
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第六章 「その名はエデン」
第五話 「美由紀の時間」
美由紀を追い詰めようとする扇ガ谷は、手に持った装置のレバーを動かし、発光体を操っているようだ。
暫くすると、何処かの壁の内部で鈍い音がした。
「見付けたようだな。」
扇ガ谷は装置のダイヤルを回した。
すると、壁伝いの音が大きさを増し、かつ激しくなってきた。
眼をギラつかせて笑う扇ガ谷。
「フハハハッ、このゲル状生命体は、地球上のものではない。隕石に含まれていた僅かな細胞を、我々の科学力で奇跡的に培養に成功し、手懐けたのだ。未知の生物が相手では、いくらオルフェノクといえど戦いづらかろう。」
音のする位置が、次第に分散しはじめた。
それは、壁といわず、天井といわず、床といわず、断続的に聞こえる。
そして、はっきりと身体で感じ取れるほどの振動を伴い、扇ガ谷たちのいるエレベーターホールは、不気味な音響に包まれた。
それから数分後、ピタリと音が止んだ。
「どうやら終わったようだな…。回収準備。」
扇ガ谷は、号令と同時に装置のダイヤルを戻し、スイッチを切り替えた。
手下たちもカプセルの準備をする。
換気口から、ゲル状生命体が現れた。
だが。
「ん?」
扇ガ谷がスイッチを操作しても、一向にカプセルには戻ろうとしない。
「どうしたんだ?」
命令を聞かないゲル状生命体は、緑の蛍光色を弱めたかと思うと、換気口からズルズルと下へ垂れ下がり、エレベーターの無いエレベーター室を、最下階の更に下の床まで落ちていった。
「なんということだ…。」
すると、ホールに面した壁の一部が盛り上がり、その辺り周辺のタイルが剥がれ落ちはじめた。
身構える扇ガ谷と手下たちは、獣人へと変身する。
壁の中からは、半身が粘菌体のスワンオルフェノク、生越美由紀が現れた。
その手には、ゲル状生命体の一部を掴んでいる。
「あんな狭い所で急に潜り込んで来るなんて、ずいぶん無粋な宇宙人ね。」
そう言って、掴んでいた生命体の一部を床に投げ捨てた。
捨てられた生命体は発光を止め、溶けて流れて行った。
「うぬっ…、キサマどうやって…。」
「さぁ、どうしてかしらね。」
「くっ…。だがしかし、これだけの武装した獣人を前に、何の装備も持たずに良い度胸だな。」
そう言いながら美由紀の眼前に迫る扇ガ谷。
「なに言ってるの。あの姿でコレ運ぶの大変だったんだから。」
と言うが速いか、美由紀は右正拳突きを出して牽制。
咄嗟に身を退く扇ガ谷。
美由紀は素早く右拳を引き寄せ、入れ替わりに突き出された左手には、スマートフォンが握られていた。
それを、反時計回りに円を描く美由紀。
その遠心力により、スマートフォンのオートジャイロ機能が働き、自動的にタッチパネルの数字が反応。
『7』
『3』
『9』
『Enter』
『Standingby』
左手のスマートフォンを左腰のポーチへセット。同時に右腕を左斜め上に伸ばした。
「変身!」
『Complete 』
ポーチのジェネレータが作動し、美由紀の全身にフォトンビームが走る。
次の瞬間、スパイ衛星ホークアイからナスカギアが転送され、美由紀は仮面ライダーナスカへと変身した。
「おのれ、撃ち殺せ!」
扇ガ谷の指令で、手下たちは一斉射撃。
それを、天井すれすれまでジャンプしてかわした美由紀は、扇ガ谷の頭上を飛び越えざまに、その後頭部を一蹴り。
そのまま飛行モードで反対側の通路に姿を消した。
一瞬の不意を突かれた扇ガ谷は、よろめきながら壁の非常警報ボタンを押した。
鳴り響くサイレン。
通路を警戒中の手下の無線機に、誰かから通信が入る。
『どうしました?』
妙に、言葉が丁寧だ。
「侵入者、GブロックからFブロックに移動。」
『逃がしたのですか…?』
「は、はい、予想以上の速さで…。」
『扇ガ谷さんは?』
「侵入者の反撃に遭い、負傷。」
『分かりました。あなた達のうち一名を扇ガ谷さんの補助として研究室へ。残った者は侵入者を追跡。こちらの増援と合流してください。以上。』
「了解。」
司令室で無線機を置いた男が、振り向くこともなく後ろの二人に言う。
「今の扇ガ谷さんでは手に余るようですね。また貴方たちにお願いすることになりました。」
「お任せを。統率者様。」
そう返事をしたのは、パズズとラマシュトゥの二人だった。
第六話へつづく。