『九州の地質的景観』第4回 屋久島 | 奈良の鹿たち

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『九州の地質的景観』 

第4回

<屋久島>

 

屋久島は鹿鹿児島県の大隅半島佐多岬南南西約60㎞に位置する島です。面積504.29 km2、周囲130km、東西28㎞、南北24㎞のほぼ円形の島です。屋久島はほぼ全域が山地であり、九州最高峰である標高1935mの宮之浦岳をはじめ、標高1000mを超える峰々が続き「洋上アルプス」とも呼ばれています。

また、7300年前の鬼界カルデラの大噴火の際、屋久島はその幸屋(こうや)火砕流によって島の大部分が覆われたことがあるとみられています。

島の約9割が森林に覆われ、樹齢1000年以上にもなる屋久杉の巨木が見られます。

また、海岸近くの亜熱帯の植生から、冬は降雪もある高山の植生までが、ひとつの島に存在していることも特徴です。そのため、独特で多様な生態系が見られる貴重なエリアになっています。

 

地質

屋久島は、海洋プレートの沈み込み帯に位置しています。屋久島の基盤をなす地層は,西南日本外帯の四万十帯に属し、今から約4,000万年前 ,海溝に堆積した砂や泥などが、フィリピン海プレートの沈み込み によって陸側へ押し付けられてできた付加体堆積物です。日向層群といい、接触変成岩であるホルンフェルスや粘板岩(ねんばんがん)などの堆積岩です。この地層は引きちぎられたり,押しつけられたりして,複雑な地質構造になっています。屋久島の付加体の地層では、海底火山から噴出した枕状溶岩や、海洋生物の生痕化石が見られます。

 

One point「ホルンフェルス(hornfels)

泥岩または砂岩が接触変成作用(マグマ貫入による熱で起こる変成作用)で形成される変成岩。特に花崗岩類などの深成岩の貫入によって元からあった泥岩や砂岩が変成されることで生じる。

 

約1600万〜1500万年前に、海洋プレートの沈み込みによって、その付加体である堆積岩に花崗岩(かこうがん)が貫入しました。島の母岩は花崗岩で形成されています。プレートの沈み込み帯の深部で生成されたマグマが、付加体の堆積岩中に貫入してマグマ溜まりをつくり、それがゆっくりと冷えて固まってできたのが花崗岩です。これが隆起して、日向層群を押し上げて,2000mの山岳を持つ屋久島の原形ができたのです。 花崗岩をおおっていた日向層群は、屋久島特有の大量の雨による侵食の結果,花崗岩が地表に現れました。中央の山塊は、直径約25kmの巨大な花崗岩の塊で、この花崗岩体が屋久島を特徴づける山岳を形成しています。花崗岩の上昇が侵食よりも速いスピードであったため,高い山々ができました。また残された花崗岩塊が点在し、永田岳の山頂付近に見られるロウソク岩のような岩塔が林立しています。

屋久島の花崗岩は、大きな正長石結晶を含んでいるのが特徴です。また、花崗岩と粘板岩の接触した部分では、マグマの熱によって菫靑石(きんせいせき)という鉱物が再結晶し、接触変成岩のホルンフェルスになっています。このホルンフェルスは非常に硬いため、大川の滝をはじめ、多くの滝を形成しています。またこの変成帯に沿ってタングステンの鉱脈が走り、島内には鉱山跡が点在しています。

 

One point「タングステン鉱」

電気抵抗が大きく高温強度が強いため、フィラメントや電極素材として使われる。

 

一方、春田浜や栗生の塚崎には5千年前の隆起珊瑚礁の海岸が広がっています。春田浜では堆積岩と隆起珊瑚礁が交錯する岩場が見られます。春田浜には、リュウキュウコケリンドウ、テッポウユリなどが自生し、世界的にも貴重な場所です。

 

 

 

河川・滝

屋久島を流れる河川は放射状に広がり、その数は140にも及ぶ。主な河川は安房川、宮之浦川、永田川、栗生川の4つである。また急峻な山々と日本一を誇る雨量のため深い渓谷が刻まれ、河床は急勾配で滝が発達している。大川の滝、千尋の滝などが良く知られ、宮之浦川には、屋久島最大の竜王滝(3段110m)があります。

近海を流れる暖流の黒潮が、雲を発生させ、屋久島の高い山にぶつかって多量の雨を降らせます。このため、この雨のことは「天空のダム」といわれています。花崗岩は水の吸収性が悪く、降った雨は、海への短い距離を激しく流れ落ちます。このため、川の浸食作用が激しくおこります。千尋の滝のある谷は、元は花崗岩の大岩だったのですが、長い年月の間に現在のようなえぐれた谷になりました。

 

 

 

「屋久島」周辺地域の地質図

刊行 産業技術総合研究所 地質調査総合センター

屋久島の中心部に赤く塗られている部分は屋久島花崗岩と呼ばれる花崗岩で、1600~1500万年前に地下深くにあったマグマだまりの化石です。大きな正長石を含むのが特徴です。 屋久島の中央部にそびえる山々は、すべてこの花崗岩でできています。

この周囲にある青色や黄色でぬられた帯状の地層は4000万年ほど前にできた付加体と呼ばれる地層で、黄色は砂岩,青色は泥岩です。 東部の田代海岸には、その頃、海底火山で噴出した枕状溶岩も見られます。 屋久島花崗岩の熱で焼かれ硬くなっています(赤点部分)。このため屋久島の周囲は海に切れ落ちる断崖が多いのです。

屋久島花崗岩の上の直線の地形のところ(黄色の部分)には、約7300年前に北側の海中にある鬼界カルデラが爆発し、噴出した大規模火砕流堆積物が覆っています。この火砕流は、2000mの山岳まで駆け上り、島の植生は全滅しました。(第9回「鬼界カルデラ」参照)

 

長寿の屋久杉

前述したように、7300年前の鬼界カルデラの大爆発による火砕流で、島の樹木は全滅したため、樹齢数千年と考えられている屋久杉はこれ以降のものになります。

屋久島の花崗岩地質は、屋久杉が長寿であることにも関係しています。

そもそも、花崗岩が風化してできる土は栄養が乏しく、その上、年間雨量8000㎜を超える雨がその花崗岩の急斜面を洗い流してしまうため、栄養豊富な土壌が堆積しにくいのです。このような貧栄養の環境は杉の生長が遅く、年輪の幅が狭くなり、丈夫で折れにくい木質になります。そのため、台風銀座に位置しながらも倒れることなく、何千年という時を生きて巨木の屋久杉に育ったのです。

 

 

 

 

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次回は 第5回「雲仙」

 

 

(担当 G)

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