ハローワークの相談窓口で、面接が苦手である、緊張して言いたいことがうまく言えず困っているという人の相談を数多く受けてきた。

 そもそも非日常的行為である面接が得意な人などいない。面接がうまくなるには、模擬面接などで多少は練習できるのでハローワークでも何度か実施してきたが、実際は場数をこなすのが一番効果的な方法である。ただ、場数をこなすというのはそれだけ不採用になっているということなので、いかんともしがたいところだ。

 面接は、応募する側は少しでも自分を盛ろうとするし、採用する側はその中で本質を見抜こうとする。まさに、30分1本勝負「きつねとタヌキのお見合い合戦」である。

 

 面接時の服装や立ち居振る舞い等の対処法についてはマニュアル本が数多く販売されているし、ネットでいろいろ掲載されているし、最近ではチャットGPTでもアドバイスしてもらえるのでそちらを参考にしてもらうとして、ここでは私の経験から、別の角度から面接対策についてアドバイスをしてみたい。

 

●面接で聞かれることは決まっている

 面接のスタイルは、大企業か、中小企業か、正社員か、パート・アルバイトか等でだいぶ違ってくる。

 大企業の正社員の場合などは、広い会議室に役員や人事担当者を交えた面接官が3~5名いて、応募者1人で対座してする面接もあれば、中小企業のパートやアルバイトなどの場合は、オープンな部屋で店長か現場責任者の席の横に丸椅子に座らされてする面接まで、いろいろある。

 正直、後者の場合はあまり固くならず自然体で臨んでも特に問題はない。想定された年齢層で、実務経験があったり、人柄がよければそれで採用されることが多い。

 ただ、正社員となると、採用する側も慎重にならざるをえないことから、応募する側も面接に臨むまでに十分な準備が必要なのだが、苦手とする人の多くは、ほとんどが準備不足が原因であることが多い。

 

新卒採用と異なり、キャリア採用の面接で聞かれることは概ね決まっている。

想定される質問としては・・・

①    簡単な自己紹介とこれまでやってきたことを簡単に説明してください

②    前職を退職した理由をおしえてください

③    当社の志望動機を教えてください

④    (長い空白の離職期間がある場合)この期間は何をされていたのですか

⑤    これまでに経験したことが、当社の仕事にどのように活かされると思いますか

⑥    あなたの長所と短所を教えてください

⑦    仕事をする上で大切にしていることはありますか?(ルール厳守、法令遵守、顧客重視、協調性・・・)

⑧    勤務する上で会社に配慮してほしいことはありますか?

⑨    最後に質問や言い残したことはありませんか?

 

 だいたいこんなことを聞かれることがあらかじめわかっているのに、面接が苦手という人は、明確な答えを用意しないまま面接に臨む人が多い。

 

●シナリオライターになれ

 なんとなくこんな風に答えようと思っているだけで、実際にその場になると、緊張でうまく言えないのである。

 こういう場合は、面倒だがドラマのシナリオのように、回答をすべて文字にして紙に書くことをお勧めしたい。

 

 もちろん、想定されたとおりの質問をされない場合もあり、シナリオ通り発言することはないかもしれないが、大切なのは実際に紙に書くことにより、自分で話したい内容が整理でき、紙にかいてあるので内容を随時ブラッシュアップすることもできるのが強みである。

 例として、第46話 圧迫面接の対応方法は? で実際に回答例をシナリオ形成で記載しているので参考にしてほしい。この回答例も、実は何度も校正して作成したものである。

 

 

 面接が苦手な人は、「履歴書」、「職務経歴書」に追加して「面接シナリオ」就活の三種の神器と思って面倒くさがらず準備してほしいところだ。

 

※次回 面接対策 後編「面接官の印象を良くするちょっとした話し方」 につづく

 

 

 ハローワークの求人票は、長年の職業あっせんのノウハウが蓄積され、何度か更新されてきておりわかりやすく、コンパクトにまとめられていて他の求人票より見やすいのではないか。

 雇用条件も労働基準法や雇用保険法などに基づいて記載されているし、ハローワークやハローワークインターネットサービスで公開・紹介している求人の内容が実際と違っていた場合には、「ハローワーク求人ホットライン」という通報窓口があり、担当のハローワークにおいて事実を確認の上、会社に対して是正指導を行ってくれるなど一定の安心感はあると思う。(とはいえ第26話 法律を知らない・守らない経営者たち(応募編)のようなこともあるので、全く安心ということはないが・・・。)

 

 

●求人票には必ず裏(求人者の本音)がある

 ただし、求職者は求人者側の本音を知るために、求人票に記載されている内容以外にも「裏」を読むことが求められる。

 職業紹介の経験から、求人票に記載されている内容で、気をつけるべきいくつかの「裏」をまとめてみた。
(なお、例外もたくさんあるので、あくまで参考程度と認識してください。いずれにせよ気になる求人があったら職業相談員を通じて応募先に確認することをお勧めします。)

 

〇「年齢不問」

⇒ 雇用対策法に則り、とりあえず記載しているが、採用担当者の頭の中には想定する年齢層があるので、応募する前に必ず職業相談員を通じて事業所に電話で確認してください という意味。

 なお、応募する側もだれもこの言葉を信用していないことから、ある意味、求人票における不文律ともいえる。

ただ、「年齢不問 60歳以上応募可」と書かれてあれば、さすがに概ね70歳未満なら応募はできるはずなのでシニア世代は積極的に応募して欲しい。

 

〇資格・経験 あれば尚よし

⇒ 20歳代、30歳代前半なら、経験や資格はなくてもいいが、30歳代後半から40歳以上は即戦力として働いてほしいので「必須」と考えてほしい という意味。ただし、賃金が若手社員くらい下がってもいいなら、未経験・無資格の40歳以上でも、応募の際にその熱意を申し入れると可能性あり。

 

〇週休2日

⇒ 毎週2日休めるわけではない。1ヶ月で一度でも週に2日休日があれば一応表記可能なので注意が必要。この場合、年間休日数を確認する事をお勧めする。

 120日以上あれば完全週休2日で間違いがない。サービス業では105日程度が多い。これなら一応週休2日は確保されていると考えてよい。

 

〇軽作業

⇒ 単純作業で責任が軽い仕事という意味であって、決して身体的に楽な仕事という意味ではない。重量物を取り扱う軽作業というものもあるので注意が必要。例えば、野菜のカット作業だが、ドンゴロス(大袋)に入った20~30kgのジャガイモの持ち運びがあったり、軽自動車での配送業務だが、物が箱詰めにされた自動車のバッテリーだったりすることがある。

 

〇採用人数が5名以上

⇒ なかなか応募がない、あるいは離職率が高く定着しない仕事 という意味。応募すると採用される確率が高く、とりあえず早く稼ぎたいという人には向いている。

 

〇一般事務職 受付、電話応対を含む

 ⇒ズバリ、女性を希望しています。男性は応募しないでください という意味。年齢はパート・非正規なら40歳代でも可能性はあるが、正社員は厳しいところ。

 

〇20代~40代の方が活躍されています

 ⇒50歳以上の人は応募してもらっても採用は難しいですよ という意味。履歴書を送っても、年齢欄だけ見て不採用にされる可能性がある。

 

〇明るくて風通しのいい職場です

 ⇒仕事内容欄や求人に関する特記事項欄の最後によく書かれてあるが、求人受付窓口の担当者から「なにかアピールポイントはありませんか」と聞かれ、なにも思い浮かばなかったのでとりあえず書きました という意味。文末によく書かれてある「以上」とか以下余白」と同じ意味と解釈してよい。

 

〇採用人数が1名で比較的条件のいい求人で長期間募集している

 ⇒今すぐ急いで採用したいわけではない。いい人材がいれば採用したいので、キャリアや能力に自信のある人だけ応募して欲しい という意味。気になる求人があれば、窓口でいつから募集が始まり何回更新を繰り返しているかを確認することができるので相談員に確認してみてほしい。

 

  以上 中には怒りを感じるものも含まれているかもしれないが、これが現実であり、受け入れて探すしかない。求職活動の一助になれば幸いである。

 42歳、男性。小規模の印刷会社の正社員のオペレータの求人票をもって応募したいと来窓。応募先の事業所の了解を得て面接日を調整し紹介状を発行した。

 その後、事業所から電話があり、面接をして人柄がよかったので採用しようと思うのだが、正社員で募集したが、一旦契約社員で採用し、3~6カ月後に正社員にしたいので問題はないかとの問合せがあった。

 求人票と異なる条件でも、当事者同士で合意すれば特に問題はないことを説明し、併せて必ずその旨を記載した雇用契約書を文書で締結するよう申し入れた。

 ところが、その後、その事業所の顧問社労士から直接電話があり、(このままだと助成金がおりないので)、契約社員としての紹介状を再発行してほしいとの依頼があった。

 この事業所からは正社員としての求人しか出ていないため、どうしても契約社員で採用したというエビデンスがほしいのなら、この人を一旦不採用にして、契約社員の求人を新たに起こし、改めてその求人に応募してもらい紹介状を発行するしかないのだが、ただ、ハローワークの決まりで、面接を受けた後に紹介状を発行することは認めていないことを説明したところ、憮然とした声で「検討する」と言って電話が切れた。

 

●助成金が欲しい  

 少し補足すると、今回の助成金はキャリアアップ助成金といって、有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した事業主に対して助成されるもので、条件によっては1人あたり42万円~72万円ほど支給されるものである。

 この他にも、第36話でも触れたが、高年齢者や生活困窮者、シングルマザーを採用したり、生産性向上のための設備投資(情報化投資)をしたり、社員のスキルアップの訓練をしたりすると支給される助成金など、いろいろある。

 

 

 ただ、こうした助成金はあくまで、企業が成長するために、「雇用の安定、人材育成、生産性の向上、社員満足度向上」などの経営理念や経営方針がまずあり、その具体的な施策に合致したときに活用するのが望ましく、はじめから助成金目当てで、こうした姑息な手段を講じることは好ましいことではない。

 

●「人」を大切にする経営を  

 上記の場合は、正社員として雇用しても試用期間が設定できるので、技量不足と判断すれば試用期間後に解雇できる。わざわざ初めから、助成金目当てで正社員の求人をだしておきながら、契約社員として雇用し、一定期間後に正社員に切り替えることは応募者が同意しても道義的に許されることではない。

 

 社労士としても、助成金を活用することを事業主に勧める前にまず、その助成金がその経営者が目指す経営目標を実現するものかどうか、経営課題を解決できるものかどうか、しっかり見極めてから活用を勧め、その手続きを支援することが本当の役割だと思う。

 

 最近ニュースで、コロナ禍での雇用調整助成金の不正受給をめぐり、事業主と共謀したとして社労士が逮捕されていたが、決して許されることではない。

 

 「人」を資産でなくコストと考えて、助成金ばかりに目をとられ、目先の利益を得ることしか考えない企業は、絶対に成長しない。

「企業は人なり」という言葉があるが、まさに企業はそこで働く「人」によって発展し、企業価値を高めることができるといえる。

 少子化にともない、これから労動力不足が予想される。経営者(特に中小企業)には「人」を大切にする経営を目指さないと、社員が集まらず、人手不足で倒産に追い込まれるかもしれない危機感をもってほしいところだ。

 育児休業制度について第51話で雇用保険法に基づき社労士の立場で、いろいろ述べさせてもらったが、書いた後も正直、給付金を支給したり休業を付与する程度の目の前に「ニンジン」をぶら下げるような法改正を繰り返すだけでは、少子化対策の決め手にはならないような気がしていた。別に制度自体を批判しているのではないのだが、キャリコンとしての立場でいうと、もう少しマインドで子育てと仕事の両立に悩む女性に寄り添えるものが欲しいと感じていた。

 

●子育ては「キャリア」である

 そんな折、3人の子供を育てたベテランの女性キャリアコンサルタントの知り合いから、当時の岸田総理が国会で育児休業中のリスキリングを支援するような答弁があり、子育て期間を単なる休業期間と考えていることに失望したと手厳しい意見を聞かされた。

子育てはキャリアである

 このことを忘れないでほしい。確かに、子育てにより失うものもあるが、得るものもたくさんあるはずである。これを理解してもらえないのが残念でしかたがないとのことである。

 

 

 そういえば、昨年、東京都の小池都知事が「育業」いう考え方を提唱していた。この考え方には多くのところで共感できる。少子化の抜本的な解決策が秘められているような気がした。

 

●「休業」という言葉はやめよう

 そこで、自分なりに考えてみたのだが・・・

 子育て期間を育児休業期間ではなく各家庭に期間限定で在籍出向するイメージとして捉えることはできないだろうか。(あるいは育児業務を国が母親に委託するという考え方でもいいと思う)

 この期間、給付するものも、育児休業給付金ではなく、育業出向分担金または育児業務分担金という考え方で、一定期間雇用保険に加入しておれば、在職・離職に関わらず国が出向先または委託先(この場合は各家庭:通常は母親)にこの分担金を支払うという考え方である。児童手当もこれに含めればよい。

 

 子育てによって技術的な育児ノウハウや保育・乳幼児の医療の基本的な知識、さらには、社会や関係者・協力者とのかかわり方やコミュニケーション能力、忍耐力、調整力、不測の事態の対応能力などが培われるはずである。

 

 本来の仕事は一時期離れることになるが、それに代わる「育業」というキャリアが得られる。

子育て=キャリアという考え方が社会に認知されるようになり、女性も一時期、別の仕事に就くだけと考えられるようになれば、出産して子育てしてみようという気持ちが少しでも広まるかもしれない。

 当然ながら、一定の子育て(出向)期間が終われば、希望者は全員出向元へ帰任(復職)できる仕組みである。

 もちろん、帰任後の働き方など、この方法には課題も多々あるが、国民みんなでこういう考え方を醸成していくのはどうだろうか。

 

 もし、事情により出産・育児のために退職して、育業を終えて就職活動を始める場合にも、履歴書の職歴欄に

〇〇年〇月  国からの委託をうけ、育業に従事。2人の子供を育て上げる

〇〇年〇月  育業を終了(予定) あるいは育業とWワークする予定

 さらに、「自己PR欄」に

「子育て中に培った、コミュニケーション能力、忍耐力、調整力、不測の事態の対応能力などが貴社の業務に活かされると思います。」

 など、堂々と記述することが認められそれが採用基準として評価される。そんな時代が来れば、少しでも少子化問題の解決につながるかもしれない。

 30歳代男性、機械部品の卸業の営業職の求人票を持参し応募したいと来窓。

 若くて営業職を希望するくらい人は、元来、積極的で行動的な人が多く、第49話で述べたように、自分で民間の職業紹介会社や求人サイトを利用する人の方が多いため、ハローワークに来て探す人は少数である。思わず経緯や動機を知りたいと思い、いろいろ聞いてみた。

 

●営業職は「数字」がつきまといます

 前職は、携帯ショップで副店長をしていたが、勤務時間が不規則で残業も多く転勤もあり、結婚をして子供もできるので、家庭も大切にしたいことから土日が休める仕事をしたい。元来、人と話すのが好きなので、これまでの経験を活かしたいということで、地元で転勤のない法人営業職に転職しようと思い、応募しに来たとのこと。

 

 

 通常、営業職は「ノルマ」や事務所内に掲示される「棒グラフ」のイメージが強く、ハローワークでは、そのプレッシャーがいやで応募する人は極端に少なかった。賃金は他の職種よりやや高めで、会社によってはインセンティブもあり、成果が直接給与や賞与に反映されやすいというメリットがあって、やる気のある人には向いている職種だが、今の若い人は、報酬よりストレスをあまり感じないところで働くことを希望する場合が多い。

 

 企業側も、求人票に「ノルマ」という表現をつかうと応募者が少なくなるので、例えば「(目標数字はあるが)ノルマはありません」とか「チーム目標はありますが、個人ノルマはありません」とか、少しでもプレッシャーを緩和する表現に変えるなどして募集に工夫をこらしている。

 

●営業職に求められるもの

 営業職に求められる資質として、コミュニケーション能力が長けていないとできない、自分は人見知りで人と話すのが苦手なので無理と思っている人が多いようだが、少し勘違いをしているように思う。

 よく「コミュニケーション能力」とよく言われるが、単に話題が豊富、会話がうまい、プレゼンが上手というのではなく、営業職に求められるのはむしろ、「インタビュー能力」即ち、いかに顧客にしゃべらせるか、聞き上手な人が適していると言える。

 どの会社もいろいろな悩みや問題点を抱えている。顧客の担当者にもいろいろ仕事上で愚痴りたいことも多々あるはずである。そんな時、無理に売り込もうとせずに、うまく話しを引き出し、解決策を提示しなくても「苦労されているんですね、大変ですね」とうなずくだけで、顧客との信頼関係が得られ仕事に結びつくことがある。

 人と話すのが苦手という人も、人の話をじっくり聞くことができる聞き上手なら、そんなにストレスを感じずにできるのではないか。

 

 もう一つ、営業職が嫌がられる理由に「断られることがいや!」というのがある。顧客から断られると、自己否定されたような気持になり、自信喪失・自己嫌悪に陥ってしまうのがいやなのである。

しかし、トップセールスと言われる人は、売上もトップだが、断られる件数もトップである。

 この言葉を忘れてはいけない。氷山の一角と同じで、水面から上の成約した件数ばかりに目が行き、その水面下にはその何倍もの断られた件数があることを見過ごしてはいけない。

 なんなら、「今期は、断られる件数で1番を目指します」と周りに宣言するのも、おもしろいかもしれない。断られる件数なので、気が楽だし、自分のやる気と努力だけで実現できる数字である。

母数(顧客とのコンタクト件数)を増やせば、自ずと結果はついてくる。

 

 私が知る成果を残している営業マンは、ベラベラしゃべる人よりは「こんな寡黙な人が、いい営業成績を残しているのか・・・」と思う人のほうが圧倒的に多い。

やってみると以外とハマることもある。コミュニケーションが苦手というだけで、営業職を避けるのはもったいない気がする。

 

●誰にとっても不幸なこと 

 60歳 男性、大手鉄鋼メーカーを60歳で定年退職。受給資格者証(第28話参照)に求職活動印をもらうため来窓。

 「65歳までの再雇用(雇用延長)は希望しなかったのですか?」と尋ねると、「会社からはもちろん雇用延長を勧められたが、母一人・子一人で、高齢の母親を介護するのが自分しかいなくて、ちょうど定年を機に介護に専念しようと思い、再雇用(雇用延長)を辞退した。基本手当の受給があるので、受給終了まで4週間に2回求職活動はするが・・・(就職するつもりはない)」とのこと。

 

 おそらく退職金と年金の繰り上げ支給等で、一応生活はなんとかなると見通しがついた上での判断だったと思われる。

とはいえ、介護離職は、介護する側・される側双方にとって、ともに不幸なことである。

 国も、介護離職を防ぐために様々な施策を講じているが、いまいち目立った成果が見えてこない。

 

●もっと介護休業制度を知って欲しい

 育児休業制度については、第51話でも触れたが、育児休業給付は子供が原則1歳(最長2歳)になるまで受給できるし、少子化対策として、出生時に夫も育児休業を取得できるようになったり、随時改正されマスコミにも取り上げられたりして、徐々に浸透されるようになってきたが、この介護休業制度については、あまりマスコミ等もとりあげられないせいか、理解度も認知度も低いのが実情である。

 

 介護休業給付は、給付条件は育児休業給付とほぼ同じだが、支給期間は最大3か月、分割なら93日までという短期間しかない。

 介護は長期戦である。こんな短期間で介護が終了するわけがない、国は何を考えているんだ!と一人怒っていたら、実は大きな勘違いをしていたことがわかった。

 

 この「3か月」というのは、自分が介護するための期間ではなく、この3か月の間に、介護する側の雇用を継続できるための介護体制や環境を整備する期間という位置づけである。

 例えば、手すりやスロープを付けるなど介護しやすいように家を改築する、地元の地域包括支援センターにいるケアマネージャーと相談しながらケアプランを策定する作業などのための休業補償期間であって、自らが介護する期間ではないのである。

 これを知らずに、介護休業給付が3か月しかないなんて!と怒っていた自分を恥じ入るばかりであったが、一般の人はほとんど、この3か月の意味を知らないのではないだろうか?

 考えてみれば、介護する期間は予想できず、死亡するまでの無期限にすることもできないので、こうした期間を設定することくらいしかできないのかもしれない。

 

 介護は自分ひとりで抱え込まず、遠慮なく地元の公的な相談窓口にいって相談してほしいとよく言われている。冒頭の相談者も、もう少し公的な相談機関も含め、周りとよく相談しておけば介護離職は防げたではないかと考えると、惜しまれるところだ。

 国も、介護休業制度を、育児休業制度なみとは言わないが、制度の利用を促進するだけでなく周りの理解が得やすい環境づくりを企業に求めるような施策を講じてほしい。

 

●介護は「する人」を優先

 実は個人的に、90歳代の義父母2人を隣家で介護していたことがある(現在は介護施設に入居中)。耳も遠く認知症を患っており、介護する側にとっては身体的な負担よりも精神的な負担の方がつらい。正直何度も投げ出したくなることがあったが、地元の地域包括支援センターと相談し、デイサービスや訪問介護・看護サービスを利用し、関係者の支援を受けながら、なんとか踏みとどまっていたことがある。

 

 何年か前、認知症の親の介護で苦しんでいた知り合いが、親が亡くなったとき、ポツンと「ホッとしたわ」とつぶやいていたことは今でも心に残っている。当時はすごいことを言うなと思ったが、今では介護当事者として誰も責めることはできない重い言葉と感じるようになった。

 介護は 介護する人:51%、介護される人:49% で考えないと共倒れになってしまうと思っている。

 

 24歳 女性、事務職に応募したいと自選した求人票を持参。前職を確認すると、最近まで保育士として働いていたが退職していた。

 退職理由を聞くと、言いにくそうに、ぼそぼそと話してくれた。

 小さいころから、子供に関わる仕事にあこがれ、保育士をめざすようになり、学校にいって資格をとり、私立の保育園に勤めたのだが、保育士のする仕事が、入る前に想像していたイメージと、現実とはかなり乖離していることがわかって、子供と接する以外の仕事や人間関係で疲れてしまい、自分は保育士に向いていないということがわかった。せっかく保育士の学校に通い資格まで取得したが、別の職種に転職したいと思い来窓したとのこと。

 

(これ以外にも、若い男性保育士が、先輩の給与の額を知り、あまりに安く昇給も見込めないことがわかり、これでは結婚できないとショックをうけて転職したいと来窓したこともあった。保育士に男性が少ないのは、単に業務の性格からだけではないことがわかったような気がした。)

 

●なりたい仕事に就いたのに・・・ 

 子供のころからあこがれていた職業に就きたいと資格まで取り、希望通りその仕事に就いたのだが、思っていた内容と現実とのギャップに戸惑い、そのまま離職してしまう。

 よくある話である。保育士以外にも、理美容関係、動物を取り扱う仕事、介護・看護、教職などの職種の人がたまに来られていた。

 

 どんな仕事にも陽の当たる部分と陰の部分がある。

通常は、あこがれていた仕事に就くと、陰の部分に戸惑いながらも、陽の当たる部分にやりがいを見出し、陰の部分とうまく折り合いをつけながら仕事をこなしていくものだが、陰の部分がどうしても我慢できないレベルに達すると離職することになってしまうのである。

 

 こういう場合、この仕事が自分に向いていない仕事であるとわかっただけでもよかった、と前向きに考えるようにアドバイスしていた。そして、この経験は必ず、これからの人生に役立つことは間違いないと励ましていた。

 エジソンの言葉に「私はこれまで一度も失敗をしたことがない。ただ何万回もの、うまくいかない方法を見つけただけだ」というのがある。

 

 若いのでやり直しはきくし、引きずることなく新たな職種に挑戦してほしいところだ。

この相談者には、事務職に求められる資質や能力を説明し、パソコンのスキルアップの職業訓練も検討するよう勧めておいた。

 

●長期スパンで考えよう

 余談だが、保育士の場合は、歳を重ねて40代・50代になると、精神的にたくましくなり「大阪のおばちゃん化」して、人間関係等で若い頃なら耐えられなかったことも、平気になってくることが多い。

 歳を重ねて子離れする頃には、精神的にたくましくなって、地方の公共団体から学童保育など仕事は随時あるので、この保育士の資格を活かせる時がくるかもしれない。 

 資格を保有していると、キャリアを一旦休眠させて、機会をうかがいながら活用できるチャンスを待つこともできるのが強みである。10~20年スパンくらいで考えてみるといいかもしれない。無駄にはならないとはこういうことも含まれる。

 

 

●怖いお局様 ◇48歳女性 他多数◇

 調理補助パートの求人票を応募したいと持参。気になったのは前職も調理の仕事をしていたが、3か月で退職していた。理由を聞くと・・・

 

 社員食堂の調理現場に就職したが、お局様がいて、同じことを聞くと、「前も言ったでしょ、何度同じことを聞くの!」と言われ、その後も仕事の手順を教えてもらえなかった。それ以外にも、事あるごとに嫌みやいじめをうけ、精神的に疲れたのでやめたとのこと。まさに、パワハラ退職と言える。

 

 

 こういうお局様は日頃のストレスをこうした立場の弱い人間にぶつけることにより、精神的なバランスをとっているのかもしれないが、その対象者になった者にとっては堪ったものではない。

 

●パワハラ辞職

 たまたまその会社の採用担当者に面識があったので、電話で事情を伝えると、「そのことは承知しており、それとなく本人(お局様)に注意はしているが、その人は仕事ができるので辞められると困る。その人とうまく付き合える人に当たるまで辛抱して採用するしかない」とのこと。

 なんともやりきれない回答だが、人手不足で苦労している中小企業にとってはやむをえないのかもしれない。

 

 国も、改正労働施策総合推進法(別称:パワハラ防止法)を施行したが、中小企業やそこに勤める社員に浸透するには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 

●退職理由は人間関係が一番多い

 職業紹介の窓口で転職したいという人が頻繁にこられるが、転職理由は、自己都合の場合(結婚・出産・病気を除く)、肌感覚だが7割以上(女性の場合はそれ以上)人間関係が原因である。

 職業適性も仕事に対するモチベーションも、すべて人間関係が円滑であることが土台になる。いくらやる気があっても人間関係が悪ければ、仕事は長続きしない。

 極論すれば、いい仕事に就けるということは、いい上司や同僚がいて、人間関係が円滑な職場で働けるということになる。

 しかし、これは働いてみないとわからないというガチャ的宿命があり、就職は結婚と同じでギャンブルと言われる所以でもある。

 

 とくに女性の職場の場合は、女性は群れる習性があり、お局様に目をつけられたり、派閥問題などで撥ねピンにされると、選択肢は、辞めるか辛抱して働き続けるかしかなくなる。 

 辛抱するか、辞めるかは迷うところであるが、辞めるのであればハローワークなどで次の仕事を探せばいいのだが、すぐ辞めるのはくやしいと思ったら、自ら精神力を高めるか自分の考え方を変えるかしてお局様とうまくつきあうしかない。

 

●心理カウンセラーに相談しよう

 窓口でどうすればいいか相談をうけることがあるが、残念ながらこの対処方法は、専門外なのでよくわからない。ここは臨床心理士等の資格をもつ心理カウンセラーに相談してもらえればいいかと思う。

 YouTubeで心理カウンセラーの講座がいくつかある。私も精神的に落ち込んでいた時、利用していたサイトがあるので、よければ参考にしてもらえればと思う。

 

■心理カウンセラー やさお  https://www.youtube.com/watch?v=C0wB13gzdo0

■心理カウンセラー るろうに https://www.youtube.com/@rurouni15967

 

<補足>

なお、退職する場合、次の応募先で退職理由を聞かれたときの対応方法については

を参考にして欲しい。

●妊婦さんが就活?  

 20歳代後半女性、体に負担のかからないパートの仕事はないかと来窓。理由を聞くと妊娠しているとのこと。

少し驚いたが、さすがに妊婦さんを新規で雇ってくれるところはないと説明し、本人も「まあ、そうでしょうね」とわかっている様子。

 受給資格者証に(第28話参照)日付印と職業相談印を捺印し帰っていった。

 

 本来、妊娠して退職した場合は、出産を終えて求職活動ができる状況になるまで受給期間の延長(最長4年)手続きをするのだが、どうも経済的な理由から基本手当の受給を急ぐ理由があったのか、就職は難しいことは承知でそのまま求職活動をする意思を示したみたいである。

 いろいろ事情はあるかもしれないが、妊婦さんが就職活動しなければならない状況には、やるせない気持ちで一杯になった。

 

●育児休業制度の格差

 他方、妊娠して退職し、出産を終えて、子供を保育所に預けるまでに働かないといけないので早く仕事を探したいという就職と保育所の確保のタイミングで苦労している若いお母さんもよく来られた。

 いずれも、育児休業制度が利用されて雇用が継続されていれば、こんな苦労はしなくて済んだ話である。

 

 

 大企業の場合は、育児休業制度が整備されており、さらに復職後もフレックスタイム制や短時間勤務制度、子供の看護休業制度など、育児を支援する就業規則が整備されているところが多く、雇用の継続が確保され、安心して出産・育児できる環境がある。

 

 ところが、少なくなっているとはいえ、一部の中小企業では(特に小企業の場合)、もともと育児休業を取得することに理解のない社長や企業風土の会社だったり、児休業が取れたとしても、育児休業終了後には、硬直した勤務体系で、周囲の理解が得られないため、育児との両立ができずあきらめの気持ちで辞めざるを得ないことが多い

 

 妊娠して退職してしまうと、当然、育児休業給付金は受給できなくなるし、さらに、出産・育児が一段落しても、新たに仕事を探さなくてはならない。賃金が伸び悩み、女性も働かなければならない家庭が増えている中、ただでさえで大変な出産後の女性に、さらに育児や託児所の確保を強いられ多大な労力とストレスがかかることになる。

 

 育児休業制度の実績がある会社とない会社、出産後の復職受け入れ体制の整っている会社とそうでない会社、どちらに勤めるかで、大きな格差が生まれているのが現実である。

 

●育児休業制度で雇用の継続を

 育児休業制度がこの4月から随時改正され、男性でも出生時に育児休業がとれるようになったり、分割して柔軟に取得できるようになった。国もこうして、少子化対策のため、育児休業法を適宜改正しており、育児休業の取得率が、令和3年度、女性の場合85%、男性も13%を超えた。喜ばしいことだが、それだけではまだまだ物足りない気がする。それプラス、復職後の柔軟な勤務体系と子の看護休暇や学校行事を上司や周りの社員が容認できる環境の整備をもっと中小企業に奨励すべきである。

 

 育児休業制度の実績のない経営者も、規模が小さいからという言い訳はそろそろ考え直してほしいところだ。例えば、育児休業中の代替要員として期間限定の求人を出すことは法律上可能である。時間を持て余しているシニア世代を、育児休業中の期間限定で採用するのも一案である。

 

「妊娠・出産しても(希望者の)100%の雇用は継続される」そんな社会が来れば、少子化問題も少しは改善されるかもしれない。

 

●就活・転職名言(おもしろ川柳付き)

 今回で記念すべき50話となりました。

 これまで、ハローワークの職業相談窓口で体験した喜怒哀楽を中心にいろいろ掲載させていただきましたが、今回は、私が相談窓口で相談者を元気づけたり、気づきを与えるときによく使っていた歴史上の人物や著名人が発した「就活・転職名言」をご紹介したいと思います。

 既に聞かれたこともあるかもしれませんが、就職活動をされる方以外にもさまざまなビジネスシーンでも使えるものもあります。参考にしてもらえれば幸いです。

 

 

【名言1】

この世には、卑しい人間はたくさんいるが、卑しい仕事はない。

<解説>以前、ネット上で仕事にランク付けをして、バッシングを受けていた記事を読んだが当然である。仕事をランク付けする人が、人として下位にランクされるべき人である。

 

【名言2】

天職と適職は違う。仕事は「やりたいか」で選ぶよりも「できるか、あるいはできそうか」で選べ。

<解説> やりたい仕事は探しても見つかるものではない。たとえ見つかったとしても、やりたい仕事をできる仕事にする(就職する)には、やりたい仕事に就くための「資質・能力」と「運」を必要とする。ところが、できる仕事をやりたい仕事に変えることは、自分の考え方ひとつですぐ実現できる。できる仕事の中で「やりがい」を見つけ出せばやりたい仕事になる。

 

【名言3】

悲観は「情念」であり、楽観は「意思」である。

<解説> ちょっと難しい言葉になるが・・・ 物事にとらわれて悲観的にしか考えられなくなっている人が、楽観的に考える人に、よく「お前は楽観的でいいよな~」と妬むようなことを言うことがあるが、こんな情けないことはない。この世の中、成功者の多くは楽観主義者である。この人たちは、ネイティブな性格からではなく、楽観的に考え行動した方がうまくいくことを知っており、意思をもって楽観的に考えるようにしているのである。仕事探しや転職も、とらわれる気持ちを捨てて、「なんとかなるだろう」という気持ちで臨んだ方が結果的にうまくいくことが多い。

 

【名言4】

転職成功者の多くは、単に「仕事ができる」だけでなく、環境順応性も優れている。

<解説> 転職は、仕事ができても成功するわけではなく、成否はその人の環境順応性が大きく影響する。常にバランス感覚をもって、過去の自分の実績にとらわれず、他人の意見に素直に耳を傾けられる人が成功者に多い。

 

【名言5】

人は「幸福」を求めて、もがき苦しむのであるが、「不幸」になるには簡単である。

なぜなら、ただ何もせず、じっとしていればいいだけだから。

<解説> 不要

 

 

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