●誰にとっても不幸なこと
60歳 男性、大手鉄鋼メーカーを60歳で定年退職。受給資格者証(第28話参照)に求職活動印をもらうため来窓。
「65歳までの再雇用(雇用延長)は希望しなかったのですか?」と尋ねると、「会社からはもちろん雇用延長を勧められたが、母一人・子一人で、高齢の母親を介護するのが自分しかいなくて、ちょうど定年を機に介護に専念しようと思い、再雇用(雇用延長)を辞退した。基本手当の受給があるので、受給終了まで4週間に2回求職活動はするが・・・(就職するつもりはない)」とのこと。
おそらく退職金と年金の繰り上げ支給等で、一応生活はなんとかなると見通しがついた上での判断だったと思われる。
とはいえ、介護離職は、介護する側・される側双方にとって、ともに不幸なことである。
国も、介護離職を防ぐために様々な施策を講じているが、いまいち目立った成果が見えてこない。
●もっと介護休業制度を知って欲しい
育児休業制度については、第51話でも触れたが、育児休業給付は子供が原則1歳(最長2歳)になるまで受給できるし、少子化対策として、出生時に夫も育児休業を取得できるようになったり、随時改正されマスコミにも取り上げられたりして、徐々に浸透されるようになってきたが、この介護休業制度については、あまりマスコミ等もとりあげられないせいか、理解度も認知度も低いのが実情である。
介護休業給付は、給付条件は育児休業給付とほぼ同じだが、支給期間は最大3か月、分割なら93日までという短期間しかない。
介護は長期戦である。こんな短期間で介護が終了するわけがない、国は何を考えているんだ!と一人怒っていたら、実は大きな勘違いをしていたことがわかった。
この「3か月」というのは、自分が介護するための期間ではなく、この3か月の間に、介護する側の雇用を継続できるための介護体制や環境を整備する期間という位置づけである。
例えば、手すりやスロープを付けるなど介護しやすいように家を改築する、地元の地域包括支援センターにいるケアマネージャーと相談しながらケアプランを策定する作業などのための休業補償期間であって、自らが介護する期間ではないのである。
これを知らずに、介護休業給付が3か月しかないなんて!と怒っていた自分を恥じ入るばかりであったが、一般の人はほとんど、この3か月の意味を知らないのではないだろうか?
考えてみれば、介護する期間は予想できず、死亡するまでの無期限にすることもできないので、こうした期間を設定することくらいしかできないのかもしれない。
介護は自分ひとりで抱え込まず、遠慮なく地元の公的な相談窓口にいって相談してほしいとよく言われている。冒頭の相談者も、もう少し公的な相談機関も含め、周りとよく相談しておけば介護離職は防げたではないかと考えると、惜しまれるところだ。
国も、介護休業制度を、育児休業制度なみとは言わないが、制度の利用を促進するだけでなく周りの理解が得やすい環境づくりを企業に求めるような施策を講じてほしい。
●介護は「する人」を優先
実は個人的に、90歳代の義父母2人を隣家で介護していたことがある(現在は介護施設に入居中)。耳も遠く認知症を患っており、介護する側にとっては身体的な負担よりも精神的な負担の方がつらい。正直何度も投げ出したくなることがあったが、地元の地域包括支援センターと相談し、デイサービスや訪問介護・看護サービスを利用し、関係者の支援を受けながら、なんとか踏みとどまっていたことがある。
何年か前、認知症の親の介護で苦しんでいた知り合いが、親が亡くなったとき、ポツンと「ホッとしたわ」とつぶやいていたことは今でも心に残っている。当時はすごいことを言うなと思ったが、今では介護当事者として誰も責めることはできない重い言葉と感じるようになった。
介護は 介護する人:51%、介護される人:49% で考えないと共倒れになってしまうと思っている。