42歳、男性。小規模の印刷会社の正社員のオペレータの求人票をもって応募したいと来窓。応募先の事業所の了解を得て面接日を調整し紹介状を発行した。
その後、事業所から電話があり、面接をして人柄がよかったので採用しようと思うのだが、正社員で募集したが、一旦契約社員で採用し、3~6カ月後に正社員にしたいので問題はないかとの問合せがあった。
求人票と異なる条件でも、当事者同士で合意すれば特に問題はないことを説明し、併せて必ずその旨を記載した雇用契約書を文書で締結するよう申し入れた。
ところが、その後、その事業所の顧問社労士から直接電話があり、(このままだと助成金がおりないので)、契約社員としての紹介状を再発行してほしいとの依頼があった。
この事業所からは正社員としての求人しか出ていないため、どうしても契約社員で採用したというエビデンスがほしいのなら、この人を一旦不採用にして、契約社員の求人を新たに起こし、改めてその求人に応募してもらい紹介状を発行するしかないのだが、ただ、ハローワークの決まりで、面接を受けた後に紹介状を発行することは認めていないことを説明したところ、憮然とした声で「検討する」と言って電話が切れた。
●助成金が欲しい
少し補足すると、今回の助成金はキャリアアップ助成金といって、有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した事業主に対して助成されるもので、条件によっては1人あたり42万円~72万円ほど支給されるものである。
この他にも、第36話でも触れたが、高年齢者や生活困窮者、シングルマザーを採用したり、生産性向上のための設備投資(情報化投資)をしたり、社員のスキルアップの訓練をしたりすると支給される助成金など、いろいろある。
ただ、こうした助成金はあくまで、企業が成長するために、「雇用の安定、人材育成、生産性の向上、社員満足度向上」などの経営理念や経営方針がまずあり、その具体的な施策に合致したときに活用するのが望ましく、はじめから助成金目当てで、こうした姑息な手段を講じることは好ましいことではない。
●「人」を大切にする経営を
上記の場合は、正社員として雇用しても試用期間が設定できるので、技量不足と判断すれば試用期間後に解雇できる。わざわざ初めから、助成金目当てで正社員の求人をだしておきながら、契約社員として雇用し、一定期間後に正社員に切り替えることは応募者が同意しても道義的に許されることではない。
社労士としても、助成金を活用することを事業主に勧める前にまず、その助成金がその経営者が目指す経営目標を実現するものかどうか、経営課題を解決できるものかどうか、しっかり見極めてから活用を勧め、その手続きを支援することが本当の役割だと思う。
最近ニュースで、コロナ禍での雇用調整助成金の不正受給をめぐり、事業主と共謀したとして社労士が逮捕されていたが、決して許されることではない。
「人」を資産でなくコストと考えて、助成金ばかりに目をとられ、目先の利益を得ることしか考えない企業は、絶対に成長しない。
「企業は人なり」という言葉があるが、まさに企業はそこで働く「人」によって発展し、企業価値を高めることができるといえる。
少子化にともない、これから労動力不足が予想される。経営者(特に中小企業)には「人」を大切にする経営を目指さないと、社員が集まらず、人手不足で倒産に追い込まれるかもしれない危機感をもってほしいところだ。