今回は、改正された雇用保険法について少し話してみたい。
●給付制限期間が短縮されました
自己都合退職した場合の失業等給付の基本手当(※)の給付制限期間が、この令和7年4月1日から、2ヶ月が1ヶ月に短縮された。
(※) (第28話) したふり求職活動 律儀な人たち 参照
令和2年10月1日から3ヶ月が2ヶ月に短縮されて、4年半でさらに短縮されたわけである。(ただし、退職日から遡って5年間のうちに2回以上正当な理由なく自己都合により退職し、受給資格決定を受けた場合の給付制限期間は3ヶ月となる。)
これは近年、労働市場の流動性が高まり、転職が一般的になってきており、従来の2ヶ月の給付制限期間は、自己都合退職者の再就職活動を妨げる要因とされていたため、より迅速な再就職を促すために短縮されたようだ。
退職後の収入が途絶える期間を短縮することで、失業者の経済的な不安を軽減し、安心して次の職を探せる環境を整えることができるようになった。
なお、以前から教育訓練を受ける場合には給付制限が解除されるなど、リスキリングを促し、再就職支援策が強化されているところは変わりない。
●やむをえず自己都合で退職する人には朗報
この改正により、自己都合退職者がよりスムーズに次の職を見つけられるようになり、労働市場の活性化にもつながると期待されている。
ブラック企業などでパワハラやいじめ、サービス残業で苦しんで、自己都合退職で辞めざるをえない人たちにとっては、転職を決意しやすくなり朗報といえる。
●なぜ差をつけるのか?
ただ私見だが、この1か月の差をつける理由がいまいちよくわからない。
自己都合か会社都合かは明確にするべきだが、自己都合でも会社都合でも退職理由によらず、給付制限期間を設けずに求職申込後(待機期間1週間後)、公平に支給すべきではないかと考えている。
そもそも、失業給付(基本手当)受給の条件として、一度離職して失業給付(基本手当)を受給すると、その後、再就職して、再び離職しても原則被保険者期間が12か月以上(会社都合:6か月以上)ないと受給できないという条件があり、転職を繰り返す人には一定の制限をかけている。
もちろん、離職者の著しい不法行為(業務上横領、暴力行為、刑事事件など)で懲戒解雇された場合などは一定の給付制限を設けてもいいと思うが・・。
差がなくなれば、会社都合か自己都合かで揉めることも減り、離職者も求職活動に専念できるし、ハローワーク(HW)の相談員にとっても、窓口で離職者から不満や怒りを聞かされることも減り、三方(求職者、事業所、HW)丸く収まることになるような気がするのだが・・。
この問題は引き続き、政府(厚労省)で検討して、いずれこの差を無くしてほしいところだ。
ここからは、「これ余談なんですけど・・」
●基本手当と育児休業給付金の支給総額が逆転
原則、週20時間以上働いている労働者が支払っている雇用保険料は、事業所負担割合がやや多い。(厚生年金保険料は労使折半)
とはいっても労働者側が負担する割合は、(令和七年度は)0.55~0.65%と厚生年金保険料(9.15%)に比べたら少額なので、あまり負担と感じる人は少ないようだ。
実は、雇用保険の財政上において、失業等給付の基本手当と育児休業給付金の支給総額が逆転したのをご存知だろうか?
「それがなにか?」と思われそうなので少し解説すると・・
基本手当は、16~65歳までの幅広い年齢層の雇用保険加入者が離職した場合に支給されるのに対して、育児休業給付金は概ね20~40歳くらいで子供を産める年代の女性とその配偶者に限定して支給されることを考えると、数年前までは当然ながら支給総額でみると基本手当の方が多かったのだが、近年の少子化対策や育休取得促進の流れを受けて、育児休業の取得率が(男性も含めて)徐々に増加している事がわかる。(ちなみに2022年度において育児休業給付金の支給総額は約6千9百億円、基本手当は約6千2百億円となっている。)
当然ながら、育児休業給付金は、支給率の高さ(育休開始から180日までは賃金の67%、それ以降は50%が支給される)と受給期間が長期になるため給付額が大きくなるので、今後も益々育児関連給付の比重が高まっていくことは間違いない。
●雇用保険料が少子化に貢献?
一般的に労働者(週20時間以上勤務)が支払っている雇用保険料は、自分自身が失業した時の生活保障のための保険という意味合いでとらえている人が多いと思うが、間接的には、少子化対策にも貢献していることになる。(ただし国庫負担(税金)もあるので全額ではないが・・)
我々の気づかないところで政府もいろいろ少子化対策を実施している。まだまだ不十分かもしれないが、非難ばかりせず一定の評価はしてあげて欲しいところだ。