よく窓口で、相談者から希望する就労条件を聞いて、紹介できる求人情報(求人票)を検索して提供するのだが、その場合、苦労するのは一般的には、高齢者や生活困窮者、定着困難者、メンタルなどの長期離職者などと思われがちだが、実は求人情報の提供で意外と苦労したのは50歳代で正社員を希望する人たちだった。

 一度、50歳代後半の男性で、会社といろいろ揉めて辞めてきたという人が来窓したことがあった。大手企業の部長職を経験しており、話し方も理路整然としており落ち着きのある人だった。詳しいことは話してもらえなかったのだが、役職定年となり、待遇面で不満を抱え、やる気をなくして辞めたようだ。

 ただ、希望条件がそれなりに高いレベルになるので該当する求人はハローワークでは見つからず、50歳代の転職は難しいことを説明すると、少しショックを受けていたようだが、本人からは、「それならいろいろ知り合いのコネを活用して探してみる」と言って帰っていった。
 

●50歳代はミスマッチ度がピーク

 50歳代からの転職は、求職者にとっては、経験を活かしたい、あるいは即戦力としての期待に応えたいということで、希望する条件がこれまでの経験が活かされる職種に限られる上に、ある程度の職位も用意してほしいところだ。

 さらに、ローンや子どもにも一番お金がかかる頃で、まだまだ正社員で働きたい。給料も年齢相応の金額は欲しいと思うし、逆に雇う側は、定年まで残り少ない、年上なので使いにくいのではないか、年齢相応の賃金を払うだけの技量を持ち合わせているかどうかわからないのでリスクを負いたくない・・・など、ミスマッチ度が一番顕著になる年齢層と言える。(逆に60歳代になると、子供も独立するので、賃金面での希望条件が緩和され、求職者側のハードルが下がり、意識も変わるため求人情報も提供しやすくなることが多かった)

 

 契約社員や派遣なら見つかることもあるのだが、正社員となると年齢不問と書いてあっても、警備やタクシー運転手、歩合制の高い仕事などの特定職種を除くと、応募段階で断られることも多く、応募を受け付けてくれても書類選考だけで不採用になる事も多かった。

 本人が応募したいと求人票を持参することもあったのだが、正社員と書かれてあると、本人に言うと機嫌をそこねる恐れがあるので何も言わず紹介状を発行していたが、応募はできても正直、採用は難しいだろうなといつも感じていた。

 

●セカンドキャリアにむけての準備・助走期間

 役職定年になり、給料が減って重要な会議にも呼ばれなくなり仕事がおもしろくなくなった。俺はこんなところでくすぶりたくないというようなプライドや感情論だけで転職をしようとする人がたまにいるが、今一度考え直した方が良い。自分自身のエンプロイアビリティ(※)は自分が思うほど高くないかもしれない。 

(※)第76話 不採用の真実 自分のエンプロイアビリティを知れ を参照

 ネットで50歳代からの転職サイトの様なものはあるが、転職できる人はごく少数であまり期待しない方が無難だ。

(ただし、前述の相談者のように知り合いや取引先から具体的な「お誘い」が期待できるのであれば別の話だが・・・)

 むしろ50歳代は多少待遇面で不満を感じても、すぐ転職を志向する期間ではなく、60歳代以降のセカンドキャリアにむけての準備期間・助走期間と考える方が良い。

 

●セカンドキャリアは自分らしく働く

 自分の本当にやりたいことは何か、これまでのキャリアの延長上だけで考えるのではなく、根底から自分を見つめ直す期間と捉えるのである。

 幸い50歳代は起業や副業を開始するにはまだ間に合う年代だし、資格を取得するにもまだまだ挑戦できる年代である。

三十にして立ち、

四十にして惑わず、

五十にして天命を知る

 結局 自己理解を深め、子育てやローンも終わった時、これから「自分らしく」働けることはなにかを模索することができるのが50歳代ともいえる。

 キャリア人生において、柵(しがらみ)から逃れられ、自分らしく働けるのがセカンドキャリアと考えると、50歳代は、漫然と不満や不安で過ごすのではなく、セカンドキャリアに向けてもっとワクワク感をもってすごしてほしいところだ。