●知らない職業

 唐突だが、『代書屋』という落語の演目をご存じだろうか?

 字が書けないというとぼけた男が就職することになり、代書屋に出向き、履歴書を書いてもらうのだが、そこの主人とのやり取りをおもしろおかしく演じたものである。(演:桂春団治がお勧め)

 そのやり取りの中で、職務経歴を聞く段で『へり留め売り』『河太郎(ガタロ)』という仕事が出てくる。

 そのまま書いてもどんな仕事かわからないので、代書屋の主人がそのとぼけた男から詳しい仕事内容を聞いて苦労しながら履歴書にまとめる場面がある。(今では聞くことのない仕事なので、詳しい仕事の内容を知りたければネットで調べてもらいたい)

 そういえば昔、有名な女優と結婚した実業家(すでに離婚)の職業が『ハイパー・メディア・クリエイター』と紹介されたことがあったが、私もいまだに、どんな仕事かよくわかっていない。

 世の中には、(後述するが)一般の人にはまだまだ知られていない職業がいっぱいある。

●言えない職業

 相談窓口では、履歴書の職歴欄に他人には言いにくい職業をどう書けばいいか相談を受けたことがあった。

 60歳代の男性でソー○ランドで受付と待合室での接待業務を10年以上経験して、定年(?)退職しており、まさかそのまま書けないので、店舗の屋号は書かずにそこを経営していた企業(法人)名と『遊興施設での受付・接客業務』などと書くのはどうですか?とアドバイスしておいた。

 また、50歳後半の男性で、夜の飲食業を経営後、デリヘ○の元締めとして派遣する女性の手配や送迎を10年近く自営していたが、当局の取り締まりが厳しくなったり、みかじめ料を要求されたりで嫌になり廃業したとのことで、かなりきわどい職歴をどう書けばいいかとの相談も受けたこともあった。これもそのまま書けないので、いろいろ迷った末に『接客コンパニオンの人材派遣業を自営、諸般の事情により廃業』ぐらいでどうですか?と提案しておいた。ただし、履歴書には書けなくても、面接で具体的な仕事内容や経緯を聞かれたら、別に犯罪を犯したわけではないので正直に話すよう併せてアドバイスしておいた。

 いずれも他人には言いにくい仕事を経験してきたが、本人たちは見た目や態度もいたって普通で、こんな職歴でも応募できる仕事はどんなものがあるのかという相談も受けたので、施設管理、配送、送迎、(犯歴がなければ)警備、2種免許を取得してタクシー運転手などを勧めておいた。

 

●レアな職業

 一方、めずらしい職業の人として、発破技士(40歳代男性)、潜水士(40歳代男性)、イルカのトレーナー(29歳女性)の職歴のある人たちが来窓してきたことがあった。

 発破技士潜水士となると全国規模で仕事を探しており、仕事があるところならどこへでも行くという覚悟があり、仕事は自分で見つけるという人たちだったので、全国の求人票から何件か検索して提供するだけでさっさと離窓していった。

 イルカのトレーナーの女性は関東のある有名なマリンリゾート施設でイルカと一緒に泳いでいたらしいのだが、年齢的なこともあり、セカンドキャリアとしてスポーツに関わらない別の仕事をじっくり考えていきたいとのことだった。

 

●運も大事

 この世の中の職業の数は18000種類以上あるといわれている。(分類の方法によってはそれ以上とも言われている。)

 人は、その中から(副業する場合やWワークを除き)1つだけ選択して働くのである。

 そう考えると、自分にあった職業に巡り合うことは「砂漠に落としたイヤリングを見つける」くらい難しいのかもしれない。

 おそらく世の中の成功者と呼ばれる人は、自分にあった職業に巡り合え、自己実現度がほぼ100%の人たちで、もちろん本人の努力もあっただろうが、(その職業に巡り合う)運も味方したのかもしれない。(例えば、もしイチローのパパがサッカー選手だったら・・、もし藤井聡太の祖父が囲碁好きだったら・・)

 多くの人は、才能はあっても、それを活かせる職業に巡り会うことができずに、自己努力によって今の仕事の中で自己実現度を少しでも高められるように頑張っている人といえるもちろん、そうした働き方も立派な働き方であることは間違いない。

 

●きっかけを見つける選択肢を広げよう

 第80話では、「もしやりたい仕事が見つからない場合、きっかけはなんでもいい」と書かせてもらったが

とどのつまり、自分にあう仕事に出会うためには、そのきっかけに恵まれるかどうかが大きなカギになる。

 そして、そのきっかけとして、「レアな職業」も選択肢にいれても面白いかもしれない。

 前述の発破技士や潜水士の人たちに、この仕事を始めるきかっけを聞かなかったのだが、おそらく、そういう職業の人たちがたまたま周り(家族、親戚、友人等)にいたり、偶然働いている現場を目の当たりにして、その職業にあこがれたのがきっかけではないか思われる。

 

 レアな職業を調べたければ、ネットで『あまり知られていない日本の職業』で検索してみて欲しい。いろいろなサイトがあり、この中にはよく知られた職業もあるが、見たことも聞いたこともない職業がいくつかある。

(例:・テクニカルライター・フォーチュンクッキーライター・ホワイトハッカー・特殊清掃員・治験・占い師・錠前技師・臭気判定士・動画クリエイター・気球操縦士・ゴルフボールダイバー・ひよこ鑑別士・遺品整理士・酪農ヘルパー・食品のテスター・探偵・並び屋・便利屋・ドレスコーディネーター・ドローン操縦士・アウトドアガイド・ゲームデバッガー・・・ などなど )

 

 レアな職業なのでイメージがわきにくいと思ったら、今はネットで簡単に調べることができるし、生成AIを利用すれば、どうすればその仕事に就くことができるか、さらには就労上の課題や問題点も知ることができる。

 もちろん、求人サイトにはあまり載っていない上に、資格取得が必要な職業もあるため、すぐに就くことはできないかもしれないが、いろいろ調べて選択肢を広げることにより、やりたい仕事にめぐりあうかもしれない。

 (また、これらは副業として検討する場合に選択肢にいれてもおもしろいかと思う。)

 やりたい仕事が見つからないという人にとって、きっかけの一つとして検討してほしいところだ。