ユニオンとは「一人でも入れる会社外部の労働組合」のことである。

 ユニオンの主な目的は、労働者の権利を守り労働条件の改善を図ることで、労働組合法に基づき、団体交渉権が認められており、企業に対して交渉を行うことができる。

 例えば、社員が不当解雇や賃金の未払い、職場でのハラスメントなどの仕打ちを受けた時、解雇撤回や未払い賃金の請求、職場でのハラスメント対策など、団体交渉を行ってくれる。利用する場合のメリット、デメリットはネット上で、生成AIでもわかりやすく教えてくれる。気になる方は確認してほしい。

 もし、個人的に加入したければ、地元で検索すると何社か検索できる。(中小企業の)労働者にとっては会社から不当な仕打ち(解雇、減給、パワハラ等)を受けた時の駆け込み寺の意味合いもある。

 ただ、モンスター社員を解雇した場合に、駆け込まれるとややこしいことになる。

 人事部のころの苦い思い出を話してみたい。

●モンスター社員 -就労現場の実態-

 経理担当の女性が急に退職することになり、急ぎハローワークを通じて補充要員(正社員)を募集したところ何名かの応募があった。

 面接をして、経験もあり仕事もできそうだった30代前半の女性を採用したのだが、これが悪夢のはじまりだった。

 最初の頃はおとなしく働いていたのだが、そのうち社内でいかがわしいカルト宗教の布教活動をはじめたのである。私にも入信を勧めるようになった。最初は無視していたのだが、他の社員にも声をかけるようになり、注意したのだがいっこうにやめようとしない。

 さらに、仕事上のミスも目立つようになり、周りとも相談せずに勝手にルールを無視して仕事を進めるなど、いくら注意しても直そうとせず、あげくのはてに、注意した人間に「あなたの子どもにカルマがとりついて不幸になる」などの暴言を吐くようになった。会議でも暴言を繰り返し、興奮すると文具を投げつけることもあった。

 

●モンスター社員 -解雇通告日の修羅場-

 さすがにこれでは雇用継続不可能と判断し、すぐに解雇したかったのだが、上場企業の子会社のため、コンプライアンス上、訴訟リスクを考慮し法的根拠を確保する必要があったため、問題社員の過去2ヶ月の業務中の非違行為と発生した日時、場所、同席者等の詳細な記録を残してから解雇することにした。

 解雇通告(Xデー)の日、本人出社後、応接室に呼び出して誰もいないところで伝えたかったのだが、本人が薄々なにか感じたのか、その呼び出しを拒否したので、やむをえず自席に出向き、周りの社員の前で解雇通知を読み上げて、私物だけをまとめて会社から退去するように通告した。本人は初めは暴言を吐きながら抵抗をしたものの、パソコンをロックしていたため、あきらめてそのまま退社していった。

 

●ユニオンとの交渉 意外な決着-

 解雇予告手当も支給して法的な問題はクリアしており、ホッとしていたところ、その後1か月後に某ユニオンから解雇について交渉したいとの連絡があった。

 早速、解雇理由や過去の非違行為の記録を用意し、解雇の正当性を主張できる準備をして、当日は万全を期すためグループ会社の顧問弁護士にも同席してもらい、経営企画室、人事、内部監査室 計4名で対応することにした。

 当日は、解雇した本人は同席せず、3名のユニオンの担当者が来社して協議となった。

 どんな要求をされるのか、解雇無効と損害賠償を請求されるのかと身構えていたところ、冒頭から拍子抜けする発言があった。

 「この女性、ちょっと頭がおかしいですわ。天からカルマがおりてきた、みたいなことを言っている。単刀直入に言わせていただくと、本人にはこちらで説得して復職はあきらめさせ、訴訟も起こさないと誓約させるので、金で解決しませんか? 復職を希望されても困るでしょ。」

 「なんや、それ!」心の中で叫びながら、こちらからも本人の業務中の非違行為を説明し、解雇は正当で法的に問題なく、当方に処分(解雇)に対する瑕疵はないことを主張したものの、「(それはよくわかっているという表情で)要は今後、本人と揉めないためにも解決金を出してくれるかどうかの返事が欲しい」とのこと。

 そこで、一旦持ち帰ることとし、後は電話とメールで交渉することとなった。

 

 その後、社内協議と先方との交渉の結果、結局、基本給の3ヶ月分(雇用保険の自己都合退職による支給制限期間(当時90日))で決着した。

 おそらく推測だが、この解決金の30%ほどがユニオンの取り分となるはずである。

 

 解雇予告手当を支払っており、さらに上澄みで3ヶ月分の解決金を支払うことに抵抗はあったが、これ以上こじらせて訴訟問題となり、ネット上でグループ会社の悪口を言いふらされることになるのは避けたいという経営判断があり、さらに当時、会社の業績も悪くなかったこともあり、渋々了承して一件落着となった。

 

●ユニオンの利用は退職が前提?

 実際ユニオンに駆け込んでしまう時は、不当解雇された場合でも復職を希望しておらず、パワハラを受けた場合でも退職を覚悟していることが多く、そのまま雇用継続は難しいのが現状である。

 ユニオンでは、組合費以外にも、解雇された場合、復職させるのではなく今回のように「解決金(示談金?)」で解決して、その一部を手数料とするビジネスモデルで成り立っているところがある。

 ユニオン側も、この会社は、支払い能力がある、法令遵守の意識が高い、世間体を気にするなど、相手企業を見透かして交渉してくるのかもしれない。

 

●モンスター社員vsブラック企業

 善良な労働者がブラック企業から不当な扱いを受けたら、証拠(音声データ・メモ・勤怠記録等)を確保しておいて、ユニオンを利用してそのブラック企業と交渉することは、正当な権利として行使してもらってもいいと思うが、今回のようにモンスター社員がホワイト企業に対してユニオンを利用されると、本当にいい迷惑になるので勘弁してほしいところだ。

 モンスター社員なのだから、「キングコングvsゴジラ」ではないが、「モンスター社員vsブラック企業」で、どこか違うフィールドで戦ってもらうことを願うばかりだ。

 

 当時、IT企業としてシステムエンジニアや営業職の採用は就職エージェント会社を利用して採用することが多かったのだが、事務職だったのでお金をかけずにハローワーク(HW)から採用することにしたのだが、この時、自分自身が採用した責任は棚に上げて、「HWの紹介で採用すると、ろくなことにならない」とかなり愚痴っていた記憶がある。ただ、その後、そのHWで職業相談員になって職業紹介することになったのはなんとも皮肉なめぐりあわせである。