前話では、退職理由が人間関係の場合はそれを前面に押し出すことは避けた方がいいことについて触れてみた。これ以外にも会社を辞める理由は人それぞれあると思うが、最近、想定外の理由で辞めることもあることを知った。
●霊に取り憑かれています
法事で親戚が集まり、私がハローワークで職業相談員をしていたことを話したら、雑談の中で、親しくしている親戚からボヤキと相談があった。
仏壇・仏具の販売店に勤めている30歳前半の独身の娘がいるのだが、近々に辞めることになった。次はどんな仕事がいいか? なにかいい情報かアドバイスがあれば聞かせて欲しいとのこと。
そこで、辞める理由を聞くと・・・
「娘が言うには、最近なんとなく体調が悪い日が続いており、付き合っていた彼氏とも別れ、新しい出会いにも恵まれず、正直いい事が何もない。そのことを友人に相談すると、有名な占い師(霊媒師?)を紹介され、そこに出向くと部屋に入るなり、何も聞かれずいきなり「あなたの周りに悪い霊がいっぱい見えるわ、なにか心当たりは?」と言われ、『ロックオン~~♪(※)』されたみたいで、仏壇・仏具の販売店に勤めていると言うと、「そこに来る客から悪い霊をもらっている、一刻もはやく仕事を変えなさい」と言われたので辞めることにしたとのこと。
(※)「突然ですが占ってもいいですか?」フジテレビ系列 参照
他の店員にはなぜ取り憑かないのか聞いたところ、霊は取り憑き易い人を狙って取り憑くからと言われ、おとなしめの本人(娘さん)は信用してしまったようだ。
思わず「占い師1人に言われたからと言って、すぐそれを信じて会社を辞めるのはいかがなものかと、本人(娘さん)に言ってみたら」とアドバイスすると、本人(娘さん)もその辺はわかっており、別の占い師にも見てもらい、ほぼ同じような事を言われたらしい。
占い師のセカンドオピニオンも聞いて判断しているので、そういう面では一時の思い込みや変な洗脳をされたのではなく、自分なりにいろいろ検討して決断したみたいだ。
そこまで言われると、確かにこのまま仕事は続けづらいとは思う。
職業相談を受けても、正直こういう理由で辞める人にどうアドバイスしていいかよくわからなかった。
この場合、一般的なキャリア理論や自己理解を深めるカウンセリングスキルなどは役に立たず、信条や価値観・信仰の世界になるので、理屈で説得しようとしても無理がある。
理由はともあれ熟慮の上、決断したのであれば辞めたらいいと思うのだが、辞める時や次の応募先に、まさか本当のことはいえないと思うので退職理由をどう説明するのか、なにか別の理由を用意しておくように助言しておいた。
なお、次の応募先として、引き続き販売の仕事を希望しているがスーパーやドラッグストアのような来客人数や品数が多いところは苦手で、落ち着いて接客できる環境を希望しているのでどこがいいかと聞かれたので、眼鏡店、宝石店、キャンプ用品、日用雑貨品などの販売店で探してみては?とアドバイスをしておいた。
(後日談だが、その後、大手のめがねチェーン店に転職し、問題なく働いているらしいのだが、体調が回復したかや恋愛運が向上したかは確認していない)
●占い師もキャリアコンサルタント?
そう言えば一度だけだが、相談窓口で何枚か求人票を持参して相談に来た人がいて、職種がバラバラだったので理由をきくと、方位学からみて自宅から北東の場所にある企業を選んで応募したいという人がいたことを思い出した。
その時は、占いや方位学をあまり信じない自分にとっては、はて?と思いながらすんとした態度で、そっけない対応をしたような記憶があるが、本人にとっては真剣だったのかもしれない。
信じる者は救われる
いろいろ不幸な出来事が続くと、それがたとえ仕事以外の事でも、その解決方法に「転職」という選択肢があることを知った次第である。
こうした相談者にとっては、本業のキャリアコンサルトのアドバイスは聞かない人でも、占い師の言うことは素直に聞いてくれそうな気がする。
そういう意味では、占い師の方も広い意味でのキャリアコンサルタントや産業カウンセラーといえるかもしれない。
●人には言えない退職理由
就職活動において、こうした理由で転職する人は、どうせ言っても信じてもらえず馬鹿にされるだけだと思われることを恐れて、通常は相談員には言わないので実態はわからないのだが、意外と多いのかもしれない。
私自身、「受け入れる事」はできないが、「受け止める事」はできたと思う。もう少し相談者に寄り添うべきだったと反省しているところである。