今回は採用に関する『不適切にもほどがあるエピソード』を紹介してみたい。昭和から平成にかけての話が中心なのでご了承ください。
●Epsode-1 美人は得か?
30歳代前半の容姿端麗の女性が来窓してきた事があった。(勤務していた6年間の来窓者の中で一番の美人といってもいいくらい)服装も洗練されており、周りの男性来所者もチラチラ見ていたくらい目立っていた。
ハローワークのような空気がよどんでいる(?)所ではあまり見かけないタイプである。まさに『掃き溜めに鶴』状態といえる。
正直、番号を呼び出して自分の窓口にあたった時は内心ラッキーと思ってしまった。
話し方や物腰も柔らかく、大手企業の秘書室で勤務していたがワケ合って都市部からこちら(地方)に転居してきたみたいである。普通ならそれとなく離職した経緯や事情を聞くのだが、下心があると思われたら・・と変に意識してしまい聴取できなかった。
就職(転職)活動は初めてみたいで「たいした事はできないと思うのですが、私でもできる仕事はこちらの方でもあるのでしょうか?」と心配そうに相談を受けた。
思わず≪あなたならどこに応募してもすぐ内定をもらえますよ!≫と心の中でさけびながら、秘書求人と比較的規模の大きい企業の事務職の求人票を何枚か提供しておいた。
ほどなく来所しなくなったので、どこかにすんなり決まったと思われる。
「美人は得か?」人事部の採用経験者なら、(表立っては言わないが)10人中10人がYesと回答する質問である。
もちろん、「誰でも」というわけではないが、キャリアや職歴で多少の採用基準に満たしていなくても、それを上回る容姿をもった方は女性に限らず、採用になる事が多かったのは間違いない。
●Epsode-2 若い男は単純
以前、大手IT企業の子会社の人事部で勤務していた頃の話だが・・・
ある日、いきなり社長室に呼ばれて出向くと20代後半のきれいな女性がソファーに座っていた。
社長から、「この人を採用するから入社の手続きを頼む。配属先は営業部で事務をしてもらうから」と一方的に言われた。
一般の採用手続き(応募→書類審査→一次面接→役員面接)を踏まずに採用するということは、ひょっとしたら社長の愛人ではないかと変に疑っていたら、全く違っていて、親会社からのコネで頼まれて採用することになったらしい。
さらに、「なぜ配属先が営業部なのですか?」と聞くと、「営業部の若手の男性社員は、きれいな女性が職場にいるとカッコいいところを見せようと頑張るので、ちょうど美人を採用しようと思っていた」とのこと。
確かにその後、外目からみてても営業部が少し活性化されたことは間違いなかった。
こうした理由で美人を優先して採用することも、業績を向上させるための高度な(?)経営判断として許されるのだと悟った次第である。
●Epsode-3 美人は採るな!
私が昭和50年代に新卒で大手のIT企業に入社した頃、同期社員で女性が10数名ほどいたのだが、女性の多くはプログラマーとして採用されていた。
当時、女性は結婚すると多くは退職するのが当たり前の時代だったので、せっかくプログラミングスキルを身につけても、すぐに結婚されて辞められると困るため「美人は採るな!」ということを当時の社長から人事の採用担当者に指示していたことを、入社して1年ほど経って人事担当者から酒の席で「こそっと」聞かされた事があった。
これで採用された女子社員たちには本当に失礼な話だが、外見の逆の理由で、採否を判断されることもあることを知らされた。
表向きは「その人の資質や能力に期待して採用した」などときれい事を言っていても、裏では現実的な採用基準で選考しているんだな~~と知った次第である。
● Epsode-4 「若い女性営業を積極的に採用しろ!」
これは平成の初めの頃、プロ野球の球団を持つくらいの大手のリース会社の社長が人事の採用担当者に命じた言葉である。問題はその理由である。
当時、その会社の男性営業担当者から直接聞いた話だと・・
リース事業を拡大する上で、町の中小企業をターゲットにして新規顧客開拓を図ろうとしており、そのために社長に営業訪問するとき、若い女性の方が社長は会って話を聞いてくれる確率が高いと判断したことかららしい。
『英雄、色を好む』
社長まで成り上がった人はそれなりに仕事ができる人で「好色タイプ」、下世話な言い方をすれば「スケベ心がある人」が多いはずなので、若い女の子が営業に来ると、会って話を聞いてくれる機会が増えると思ったようだ。
全くもって中小企業の社長さんには失礼な話だが、内心では、理にかなった採用戦術だと感じたのは私だけではなかったと思う。
これらのエピソードは、若い頃の私にとっては、世の中はきれいごとでは済まない世界だと知るきっかけとなった。この頃から徐々に純粋さ(?)が失われ、物事の裏を見る習慣がついていったような気がする。(もともと心がゆがんでいたかもしれないが・・・)
●本音のところは変わりません
以上、こんな昔の不適切な話を今、知ったところでなんの役にもたたないのだが・・・
当時はSNSもなかったためこうしたことは密かに伝聞されていたものだが、今は働き方や採用基準についてはコンプライアンスやジェンダーフリーを求められ、うっかり、これに反する不用意な発言や発信をしてしまいSNSで拡散されようものなら、現在のような監視社会ではまちがいなく炎上してしまう。
ただ、公になるか、言うか言わないかの違いだけで、表向きは公平公正で今の時代に合わせた社会通念に沿って「求める人材像」を提示して人を採用しているふうを装っているが、実態は、あまり人には言えない(不適切な)基準や、人間がもつ本能(美しいものを見たい?)に合わせて採用している企業も多いはずだ。
昔の「不適切にもほどがある」ことも、本音では、今でも「適切である」ことも多い。
と訂正して欲しいところだ。