30歳代女性、正社員で、できれば販売促進や商品企画のような仕事をしたいと来窓。
旦那さんの転勤のため、やむをえず勤めていた会社を退職して転居、子どもも生まれ、出産後1年経ったので、そろそろ働きたい。前職は都市部の中堅企業で正社員として販売促進の仕事をしており、希望職種は販売促進・商品企画だが、地方なのでそんな仕事は難しいと思うので、製造・サービス・人材系で営業事務のような仕事で、正社員でさがしたいとのこと。
ただ、子供がまだ1歳で近所に子供の面倒をみてくれる親とか頼れる親戚はいないため、こどもは保育所に預けるが、こどもが熱を出せば休まざるを得ないとのこと。
近年、育児に理解のある会社はかなり増えてはいるものの、応募してもそのあたりをつかれるといい返事(採用)がもらえないことがまだまだ多い。特に新規で正社員となると採用する側も慎重になってしまう。ましてや事務職系は応募も多く、採用するのに困らないことから厳しいことが予想された。
時間の融通がききやすい事務補助的なパートなら見つかるかもしれないので、「パートでもさがしてみてはどうか? 例えばフリーワード『学校行事』『急な休み』で検索するといくつか見つかりますよ」と勧めるものの、パートだと、補佐的な仕事になりキャリアが途絶えるような気がしている。できれば、仕事を任せてもらえるように正社員で早くバリバリ仕事をしたいとのこと。キャリア志向の高い女性と言える。
本当は在職のまま育児休業を利用しながらキャリアの継続したかったのだが、こうした事情で退職してしまうと不安になる気持ちは理解できる。
本来なら、該当する求人情報を数件提供するくらいで終わるのだが、『老婆心ながら・・』と断って、少し話してみた。
「あせる気持ちはわかるが、あなたは人生のよきパートナーと巡り合い、結婚して子供も生まれ、経済的にも旦那さんの稼ぎで一応暮らしていける。たくさんのかけがえのないものを得ている。その上にさらに正社員として自分のキャリアアップをしたいと言われるが少し欲張りすぎないか? 生きていれば得るものがあれば失うものもある。ひとつくらい失うものがあってもいいのでは? 全てを得ようとすると結局多くを失うことになるかもしれない。
また、失うといってもこどもの手が離れるまでの期間だけ辛抱すればいい話で、まずパートで働き、子離れしたら働きぶりがよければ正社員にしてもらえる可能性もある。今、正社員で働くことだけがあなたのキャリアを維持する手段ではないのでは・・・」などと話してみた。
「う~ん、ちょっと検討します」と言ってあまり納得しない様子で帰っていった。
●割を食うのは女性
男性の育児休業制度が充実してきたとはいえ、子どもが出来ると『キャリア』という面ではまだまだ女性の方が『割を食う』ことには変わりはない。
ただ、第56話でも
触れたように育児中はいろいろ就労制限を受けるかもしれないが、その間「子育て」というキャリアを得ることができる。
育児に関する知識や経験だけでなく、忍耐力、マルチタスク処理力、緊急時の対応力、関係者との連携力などは間違いなく培われるはずである。
就職して第一線でバリバリ働くだけではなく、育児中は一時的なキャリアチェンジ期間と考えることはできないだろうか。
花を咲かせるときは必ず来る。今は根をしっかり張るときと捉えて将来の再就職や副業をめざして資格取得にチャレンジしたり、リスキリングとして職業訓練でテクニカルスキルを高めるという手もある。
現在は人材不足を背景に40歳代女性の転職、再就職は徐々に広がりつつある。
以前のように女性で育児で離職してしまうと40歳をすぎたら正社員への転職は無理ということは少なくなってきている。
一般事務や事務系専門職以外にもITエンジニアやwebデザイナーの求人も多いと聞く。何かしら積み上げてきたスキルや資格等があれば、年齢が高くなっても正社員としての再就職は可能で、人材不足が解消されない状況の中、この傾向は続く可能性が高い。
むしろ、その際、家事や育児の経験が採用時のアピールポイントにつながるケースもある。職歴が乏しい、あるいは中断したという人でも、こうした経験が評価され、採用に至った事例も出てきている。そのあたりをブランクがあってもしっかりアピールしてほしい。
●国の支援制度に期待
また、国の施策としてこうした人の雇用を促進する意味でも、現在はシングルマザーを採用すれば企業側に助成金(特開金(※))が支給される制度はあるが、出産と育児で長期間離職していた人を正社員で採用すれば同じように助成金が支給されるような制度を厚労省も考えてほしいところだ。
(参考)
※特定求職者雇用開発助成金(抜粋)中小企業の場合
・母子家庭、60歳以上、生活保護受給者 90万円
・就職氷河期世代不安定雇用者 90万円
・身体・知的障害者、発達障害者 等 180万円