よく窓口で、「面接にいったら、求人票とは異なる条件を提示された」あるいは「採用になって働いてみたが、求人票や雇用契約書と異なる条件で働かされた、または働かされそうになったので、すぐ辞めてきた」という相談や苦情があった。

 「ハローワーク(HW)の求人もええ加減やなあ~、この事業所を注意しておいて!」ときつい口調で言われたこともあった。

 HWに限らず民間の無料の求人サイトに載っている求人でも、残念ながらそういう企業 (求人)は一定数存在する。

●辞めたら次採用すればよい?

 求人票と異なる条件が面接時や入社前に提示された場合は、腹立たしいが事前に辞退できるのだが、働き始めてわかると「せっかく入社して頑張ろうと思っていたのに・・・」 と本人の精神的負担も大きいものがある。

 

 ブラック企業の一般的な定義は(第74話)ブラック企業は永遠に不滅です

 

で書かせてもらったように、入社後に法律違反の下でパワハラなどでマインドコントロールしながら社員を働かそうとすることが多いのだが、それとはちょっと違い、こうした企業は求人票や面接で『いい話』をして、入社したら異なる就労条件で『なし崩し的』に働かせて、辞められるか辛抱してそのまま働くかは『賭け』と割り切って、辞められても別にかまわないと思っており、反省もせず「この人はハズレだったので次、採用しよう」くらいで考えていることも多い。

 

 職業安定法の改正により令和6年4月から、求人を申し込む場合、従事すべき業務変更の範囲や就業場所が変わる可能性を提示する義務が生じたが、本人の同意なしに初めから求人票と異なる条件で働かせるのは、明らかに法律違反となる。

●通報窓口はありますが・・

 求人票に書かれてある雇用条件が就労実態と異なっていて、その事実を拡散したければ、民間の求人サイトならばロコミに入力するという手があるが、HWIS (ハローワークインターネットサービス)には、民間の求人サイトのようなロコミを入力するところがない。

 こうした場合、HWISのホームページに専用の通報窓口「ハローワーク求人ホットライン」が掲載されているので、そこに通報すれば事実関係を確認して事業所への行政指導や悪質な場合は求人不受理も可能なので、できれば通報してほしいのだが、そういう目にあった人はすでに辞めていることが多いので、面倒くさいのか今更苦情を言っても仕方がないことから、いわゆる『被害届』が提出されないことも多い。そのためそのまま求人が継続して掲載されることになる。

 実は、こうした苦情は上記のホットライン以外にも相談窓口でも受け付けているが、苦情の申請をしようとすると、「確認のため関係部署から電話がかかってくることがあります」と言わなければならないのだが、そうすると「それならもういいです」と言われることが多かった。

 

●グレー企業として記憶します

 我々相談員も窓口で、応募した人や短期で辞めてくる人などからの苦情を聞くと、すべて信じているわけではないものの、複数人から聞くことがあると、かなり信憑性は増してくることになる。

 ただ、面談記録には事実関係だけを入力し、相談員の個人的な感情や感想は入力してはいけないことになっており、 こうした場合、応募者や退職者からそういうコメントがあったと記録することはできるが、「ここは要注意企業」とは書けないのである。

 結局、プラックと言い切ることはできないものの、グレー企業として頭の中に記憶することになる。

 実は、ベテラン相談員になるとこうしたグレー企業の情報は、相談者からいろいろ聞くことが多いので、けっこう裏情報として記憶に残っている事が多いのだが、立場上直接的に相談者に話すことはできない。

 

●相談員も困っています

 窓口で困るのは、求職者が自選したグレー企業の求人票を持参して応募したいので紹介状を発行してくれと言われることがある。

 当然ながら、「ここはプラックの匂いがするから応募はやめておきなさい」とはロが裂けても言えない。(相談者が自分の親戚なら絶対やめておけと言うのだが・・・)

 「この求人について、これまでなにか気になる面談記録やコメントはありますか?」とか相談者から訊いてもらえれば、真偽不明を強調しながら、 これまでの応募者からこういうコメントがあったことをそのまま伝えることはしていたが・・・。

 そうした質問なしに、いきなり応募しますと言われると、こちらも粛々と紹介状を発行するしかなくなる。

 私の場合、こういう時は、

「この求人の応募はこれでいいとして、ほかにもいろいろ応募されてはいかかですか。よかったら他に似たような求人を探しましようか?」

と最大限の『持って回った』言い方をしたのだが真意が伝わらないことが多かった。

 もし相談員が、応募しようとして本人が希望もしないのに、他の求人情報を提供しようとしたら、少し考え直した方がいいかもしれない。

 

●S N Sが抑止効果

 ただ、こうした苦情は私がこの仕事を始めたころは多かったのだが、S N Sが普及してくるにつれて徐々に少なくなったような気がしていた。

 各企業もS N Sの普及により口コミで悪いうわさがネット上で広まると、応募が減ると困るので、自制するようになったのかもしれない。(ただし、無くなったわけではない)

 最近、新卒の大量辞退者がでてネットで叩かれているペットフードの会社は、そんなS N Sを軽視した「報い」を受けているような気がする。

 S N Sの普及は、運用面で様々な問題点を指摘されるが、こうしたブラックorグレー企業の誇大求人広告の抑止効果につながったことは、求職者にとってはメリットだったのかもしれない。