●「ブラック」はタブー語

 この仕事(ハローワークでの職業相談員)を始めたころ、窓口で辞めた会社の悪口を言う人がたまにいた。

「あの会社はブラックやで。あんな会社に応募する人がいたら教えたって」

 理由は、いろいろ挙げていたが、その場ではとりあえず「大変でしたね」と同情的なことを言うが、真偽は定かではないし、こういう話は双方から話を聞かないと公平ではないことが相談員にはわかっているため、せいぜい話半分くらいで聞いていた

 うかつに、確かにそれが事実だとしても「その会社は確かにブラックですね」みたいなことを言うと、どこでどう聞いたのかわからないのだが、後でハローワークに会社から 

「お宅の職員がうちの会社のことをブラックと言うたらしいけどほんまか?」という抗議の電話がかかってくることがあったらしい。

 私も、すでに退職したからこうして「ブラック」と言えるのであって、在職中は相談窓口で相談者の口調に合わせて「ブラック」という言葉は使わないように発言には気を付けていた。

 相談員が「ブラック」と言っていいのはコーヒーを注文するときくらいで、相談窓口ではタブー語とされていた。

 

●「ブラック企業」の要件

 そもそも、世の中の企業はほとんどがなんらかのブラック的要素を内在しているし、第22話でもふれたが、ブラック企業の定義は個人によって変わるし、現にそこで働いている人がいることを忘れてはいけない。 

一般的には・・・

・長時間労働・過重労働が常態化

・休日が少ない、年次有給休暇が取れない

・サービス残業を強いる(残業代が出ない)

・雇用契約書がないか、あっても必要事項が不記載か曖昧

・ワンマン社長・上司の言うことは絶対という社風

・パワハラの横行・黙認、精神論を振りかざす  などなど

 

 法的には、労働基準法、労働安全衛生法等の労働関連法規の遵守意識が低く、違反していても是正しようとしない、あるいは是正に消極的な企業ということになる。

 結果として離職率が高くなるのだが、通常、離職率の高い会社は離職率を公表してくれないので歯がゆいところではある。

 

●「ブラック企業」対策の法整備

 国も「ブラック企業対策」とは言わないが、「働き方改革」の一環として、労働者の生活、安全と健康を守るため様々な対策を講じてきている。

 時間外労働の規制強化や違反した場合の罰則強化(違反した場合、法人だけでなく経営者個人が懲罰の対象になる可能性あり)、同一労働同一賃金制度の導入、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)など、順次、法整備を実施している。

 わかりやすい例として、過重労働をなくすため、賛否はあるが、来年4月以降は運送業の時間外の上限が設定された。

 

 さらに、改正職業安定法(求人不受理)が令和2年3月に施行されてから、以前は、無料・有料にかかわらず職業紹介事業者は、すべての求人を受理しないといけなかったが、これ以降は、直近で労働関係法令に違反があった企業からの求人は受理しなくてもよいこととなった。

 もし今後、職業紹介事業者が、これらを厳格に運用してもらうようになると、その会社が法令違反したり、行政処分を受けたとなれば、その会社からの求人は一定期間求人受付を拒否できるので、会社も社員募集ができなくなるため困ることになる。職業紹介事業者の厳格な運用を期待したいところだ。

 

●「ブラック企業」はなくならない

 最近は「ブラック企業」という言葉は、以前ほど聞かなくなったような気がする。

 今のご時世、SNSですぐにうわさが拡がるし、民間の求人サイトにも口コミ欄があり、真偽不明でも悪いうわさが広まると、応募が減り人手不足になることが企業側もわかってきたので、前述のような法整備が進んだこともあり、企業側もこうした法令遵守意識が高まり、その効果が少しずつだが現れているのかもしれない。ただし、この世から無くなったわけではない。

 

 ブラック企業といえば圧倒的に中小企業が多いと思っていたら、今、巷をにぎわしている大手中古車販売会社も充分ブラック企業の要件は満たしている。ネットでもブラック企業一覧と検索すると (真偽は定かではないが)大手企業もでてくる。

 また、以前から、学校や大手の病院は究極のブラック企業と言われ、そこで働く教員や研修医・勤務医などの労働時間も問題になっている。

 

 この世からブラック企業をなくすことは交通事故をなくすことと同じくらい実現不可能なことで、残念ながら、法律なんて守っていたら会社がつぶれると平気で考えている企業の経営者がまだまだいるのが現実だ。こんな経営者はもともと会社を経営する能力も資格もないのだから、早く日本の市場から退場してほしいところだ。

 

 労働者にとっては、ブラック企業に入社しないことが一番なのだが、次回は、応募先が自分にとってブラック企業かどうか、応募や入社を迷ったときの対応策について述べてみたい。