有効求人倍率が厚労省から定期的に公表される。最近は1 . 0 ~ 1 . 3倍くらいで推移しており、景気の指標として大きな目安となっている。

 ただ、これはあくまで平均値であって業種・職種ごとでかなり差がある。例えば、人気がある一般事務職の場合はおおむね0 . 6倍くらいで、不人気職種と言われる建築・土木警備運送介護看護保育などは2 ~ 6倍くらいで推移している。

 不人気職種といえども、いずれも日本の社会や日本人の生活を支える大切な仕事ばかりである。

 一部のハローワークではこうした不人気職種専門の相談窓口を設けたり、個別面接会をまめに実施して何とか就職に結び付けようと努力している。

●介護職で働きたい?

 そんな折、介護職に応募したいと、一見コミュ障ぎみの20歳の男性がデイサービスの求人票をもって来窓してきた。介護は全くの未経験で職歴をみると高校卒業後、アルバイトを転々として定職についたことがない。製造系で応募はするのだが、なかなか正社員で採用されないので、介護職に応募したいという。介護職を希望した理由を聞くと、採用されやすいと人に聞いたからとのこと。

怒髪天を衝きそうになったが、ぐっとこらえて、

「介護という仕事がどんな仕事かわかっているの? そんな気持ちで介護職に就いても長く続かないと思うよ。せめて介護職員初任者研修を受けてから応募しては?」とやさしく諭すように言ったのだが、とりあえず応募したいというので、(しかたなく)事業所に了解をえて、紹介状を発行してお引き取りいただいた。

 後日確認すると当然ながら不採用となっていた。いくら人手不足職種といっても、こんな人間は採用したくないのは当然である。

 一方で、私自身も介護施設に高齢の義父母を預けており、介護施設に面会訪問した際、仕事柄、ここで働く若い人や学校の研修で就労体験している人たちになぜこの職を希望したのかそれとなく尋ねると「親が祖父母の介護で苦労している姿を見て」とか「祖父母が認知症になったが施設で楽しそうに過ごしているのを見て高齢者の役に立ちないと思って」などの理由をあげてこの仕事に就いた、あるいは志したと聞かされたことがあった。

 介護職で社会貢献したいという使命感や熱い思いを聞かされ、今の若者も捨てたものじゃないと頭が下がる思いがした。

 

 実は、やりたい仕事が見つからない、特にやりたい仕事はないという人に、介護職への挑戦を時々打診するのだが「私には無理!」という回答が多かった。

 

●「私には無理!」の意味

 介護現場で働いている人に対して時々「すごいわね~、私には絶対できない仕事だわ」と言う人がいる。

 一見リスペクトしているような発言だが、言われる立場からいうとあまりうれしくないと聞いたことがある。

 純粋に自分自身の資質や能力ではできないことから発言しているのであればいいのだが、「安い給料であんなつらい仕事よくやるよね」といった意味合いが込められているような気がしてあまりいい気持にはならないとのことである。

 

 若い求職者の中には、ろくに職業研究や就労の実態を調べることもせず、マスコミやS N Sから知った情報から思い描いたイメージや固定観念に基づいて判断している人が多いような気がしてならない。(もちろん、これは介護職以外の不人気職種にも通じていえることだが・・・)

 マスコミ報道で「介護職員がストレスから入居高齢者を虐待した」とかSNSでは「介護業界の」みたいなテーマの動画やX等での投稿が後をたたない。

 もちろん厳しい現実は知っておいて欲しいが、こういうことはどの職種でもいえることであって、それ以上のやりがいを感じることもあるはずである。そこもぜひ併せて強調してほしいところだ。

 

●待遇改善も進んでいます

 まだまだ少ないとはいえ、以前に比べれば処遇改善加算など国からの助成金も増額されてきたし、施設によってはD X化を進めて、べッドや部屋の入口にセンサーを取り付けて夜勤の見回り件数を減らしたり口ポットや筋力スーツなどで介助の身体的負担を軽減したり、介護者にとって待遇改善や就労環境の改善は徐々に進んでいる。

 人はいずれ歳をとると自分の身の回りのことができなくなる。ごくわずかのPPK(ピンピンコロリ)で亡くなる人を除き、介護職は死ぬまでにほぼ全員がお世話になる仕事である。

 2026年には25万人が不足するとも言われ、あと数年で団塊の世代が介護適齢期になると、介護施設や介護職員が不足し、特に都市部では『介護難民』がでてくるともいわれている。

 介護福祉士や社会福祉士などの国家資格もあり、キャリアアップも可能で「つぶしが利く」ことから高齢になっても続けられる仕事と言えるし、今後AIが普及しても、まずなくならない職業とも言われている。

 

●SNSの功罪

 第83話:求人票と違います ではS N Sの普及はプラック企業の抑止につながったメリットがあると書かせてもらったが、デメリットとして、介護に限らず、不人気職種に関して偏った先入観を醸成してしまう危険性をはらんでいる。

 そういう意味でSNSは求職者にとって諸刃の剣ともいえる。使い方を間違えないようにしてほしいものだ。