58歳 男性、「あと1,2年で 情報通信系のインフラの運用会社を定年退職する。雇用延長(再雇用)をするかどうか迷っている。できれば定年までに、なにか資格をとって再就職に活かしたいと考えており、以前から興味のあった宅建士(宅地建物取引士)の資格を取ろうと思うのだがどう思う?」との相談を受けた。

 

●資格取得は慎重に

 定年後に備え早めに準備しようと、ハローワークにきて相談することは高く評価したいところだが、果たして宅建士の資格が再就職にすぐに結びつくかというとなるとかなり疑問符がつく。

 まず、不動産業界は競争が激しくノルマも厳しいことから、60歳をすぎた人間にとってきびしいノルマや目標数字に追われる仕事はできれば避けたいはずである。

 さらに資格はあっても60歳をすぎた未経験者を雇用してくれる会社があるのかの確認も必要になってくる。

もちろん、実務未経験でもOKの職種はいろいろあるが、一般的に40歳代や50歳代前半ならまだしも、60歳を過ぎると資格を取ればすぐ就職できると短絡的には考えない方がいい。

 60歳をすぎてのセカンドキャリアとしてふさわしいかどうか、起業する場合を除き、もう一度検討するようアドバイスをした。

 

 

●資格取得のための支援制度

 政府も、リカレント教育やリスキリングで資格取得や技術習得を推奨することで、労働力の流動化やキャリアの複線化を図り、失業や定年後の円滑な再就職や起業を促している。

 

 離職している場合は、資格取得やスキルアップ、未経験職種への就職を推し進めるため、「職業訓練制度」がある。雇用保険に加入していたら基本手当の支給日数の延長もしてもらえる。興味がある人は、ハローワークインターネットサービス(HWIS)のサイトでどんなコースがあるか確認してみてほしい。

 在職中の場合は、雇用保険に加入していると「教育訓練給付金」というのがあり(離職していた場合は別途条件あり)、認定をうけた教育・訓練に受講した後に、受講料の20~70%が支給される。

様々な資格や講座があり 詳細は

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000518251.pdf  を参考してほしい。

(※この他にも、60歳以降の就職に有利な、施設管理(マンション管理士、管理業務主任者 他)、設備管理(電気工事士、危険物取扱者 他)、警備(警備員業務検定 他)などがある。)

 

 もし、取得したい資格や受講したいコースがあったら、主催する団体・企業(資格の学校や通信教育会社が多い)をネットで調べ、教育訓練給付金の対象かどうか問い合わせればよい。

 ただし、「教育訓練給付金」は一旦受講費用を自分で立て替えて、受講終了後に申請することになるので、長期コースの場合、高額な費用になることが多いので注意が必要だ。

 

●資格取得に迷った時の選び方

 いっぱいありすぎてどの資格をとれば、あるいはどんな技術を身につければ再就職に有利か迷うところではあるが、そういう場合はハローワークインターネットサービス(HWIS)でその資格や技術が活かせる求人があるか、自分の通勤圏内のエリア(特に地方の場合はこれが重要)で、フリーワード検索で、資格名や職種名を入力するか「詳細検索条件―必要な免許・資格」で保有資格を指定して求人を検索することをお勧めする。

 どれくらいの求人があり、雇用条件、雇用形態、賃金・休日などの情報が確認できる。たくさんあれば有利だし、なければ資格をとっても仕事にありつけないことになる。

 すぐ転職することはなくても、将来を見据えた資格をめざすのなら、こういう観点で探すのも一案である。

 

 冒頭の相談の件でも、60歳の未経験の人が宅建士の資格をとっても、都市部では仕事があるかもしれないが、私が勤務していたハローワークの管轄エリアでは、小規模の不動産会社で完全歩合制の会社くらいしか応募できるところがないことを経験的にわかっており、採用になっても長く勤められない危険性があった。

 

●45歳定年説は、ある意味「正論」

 数年前に45歳定年説を唱えてネットで大バッシングをうけた大手飲料メーカーの社長さんがいたが、これからの働き方を考えると、ある意味「正論」ともいえる。

 若い頃は転職も視野に入れた働き方ができるのだが、40歳後半から50歳くらいになると、終身雇用制にどっぷりつかり定年まで自分のキャリア形成は会社任せになる人が多くなる。家族をかかえ収入面での不安や転職リスクを考えれば当然の心理ではあるが、なにも45歳になったら一旦クビにするというのではなく、そろそろ自分のセカンドキャリアについて真剣に考えてほしいという意味にとらえればいいと思う。

 将来、勤務先が業績不芳でいつ倒産・リストラ・早期退職募集があるかもしれない。そんな時、慌てないで新しい働き先を容易に見つけるための保険と思って、リカレント教育を通して学びなおすことをぜひお勧めしたい。もちろん、これをもとに退職を待たず、今すぐ副業としてはじめるのもいいかもしれない。

 

 実は私も、定年後に就労支援に関わる仕事がしたいと思うようになり、思い切って自己投資をして、在職中の50歳代後半にキャリアコンサルタント資格取得のため半年間、日曜日をつぶして学校に通ったが、その期間一度もつらいと思ったことはなかった。

 むしろ、いろいろな環境で働いている異業種の人たちと交流ができ、楽しく充実した半年間を過ごすことができた。試験勉強するのも大学時代以来で苦労はしたがとても新鮮だった。

 

リカレント教育 失業したときの保険、定年準備 

 

と考えれば頑張れるかもしれない。

 

※   なお、リスキリング(会社主導)とリカレント教育(個人主導)の違いはネットで調べてほしいが、ここでは個人主導型のリカレント教育を勧めたかったのでリスキリングという表現は使わなかったが、会社がリスキリングで新たなスキルを身に着けることを推奨してくれたら、それに乗っかるのもいいと思う。(例えば会社のDX化を推進するために、会社の負担で研修を受けさせてもらってICT技術を身に着け、副業でネットビジネスを始めるとか・・・)