スタッドボルトの作成
錆びたり痛んでいるボルトナットの類は、できれば新品にしたいものです。
ところがそういうわけにもいかず、大半のボルトナットは錆び取りをした後に再メッキをして再使用したり、スペア部品としてストックしておくことは良くあることです。
特に、1960年代中期の日産車においては、「インチ規格」と「メートル規格」が入り乱れており、国内仕様のみならず、対米輸出仕様においては、同時期の国内仕様では「メートルねじ」となっているものについても、「インチねじ」の採用なので、苦労してようやく入手した部品がそのままでは使いづらいことも珍しくないためこうしたストックはとっても大事なことなんです。
我が淑女においても、オリジナルの鉄ヘッドエンジンでは、すべて「インチねじ」であるのに対し、新たに入手した後期のエンジン部品では「メートルねじに」変更されています。その為に、部品の融通がしづらい面が多々ありました。
また、今回再生しているシリンダーヘッドは、米国仕様のものでしたので、後期であっても「インチ仕様」でした。
本来なら「インチ規格」のまま再生するのが良いのですが、今後のメンテナンスのことや、既にそろえていたマニホールド用のスタッドボルト(メートル規格)を使用するに当たり、あまり良くないことではありますが「メートル規格」のタップをかけてしまいました。
さて今回、エンジン独自のサイズのスタッドボルトの入手ができなかったので、作ってみることにしました。
作成したのは、シリンダーヘッドへウォーターアウトレットを取り付けるためのスタッドボルトです。
シリンダーヘッド側の規格は、M10、P1.5、反対側が、M10、P1.25となっています。
このボルトは、日産では既に製廃となっていました。
(もちろん前期と米国仕様ではインチ規格になっています。)
全ねじで代用するというのもありますが、上下のねじピッチが違うのとオリジナル形状にこだわりたいこともあり作ることにしました。
まずは、これをごらんください。
元の状態がひどく、錆び取り後の再メッキをしても、錆びた証拠の「あばた」は隠せません。
錆びの再発もしやすいと考えられます。 せっかく綺麗にしているのにこれではとっても残念な仕上がりになってしまうことでしょう。


そこで、新たに作成する為に、ストックしている中古のねじの中から2本抽出しました。
ピッチは1.25です。
長さもオリジナルと比べても十分な長さです。

それを、切り詰めて同寸にしました。

この次に、ねじをダイスで切っていくわけですが、切断したままでは切り込みづらい場合があるので少々角を落としておきます。ボール盤にくわえて回しながら、グラインダーで擦りました。

万力に固定するために、穴開きアングル材(帯金に穴を開けて曲げたもの)M10、P1.25のナット等を用意します。

万力に固定し、ダイスでねじを切っていきます。M10-P1.5

予定の深さまでネジが切れました。

ダイスを外すと、ネジが切れています。
マスキングテープは、切る前に切り込みの目安として巻いています。

バリはヤスリで処理しておきます。
2本ともダイスをかけ終わり、シリンダーヘッドに差し込んでみます。
良い感じに出来上がりました。

このままでも元のメッキが生きているので使えますが、他の部品と一緒に再メッキに出す予定です。
このボルトのオリジナルは、ユニクロメートメッキだと思うのですがどうなんでしょうね~
スタッドボルトの比較をしてみました。
上段は、インチ規格のオリジナルボルト。(前期と米国仕様)
錆だけではなく、ねじ山が完全につぶれていて再生不能です。
中段は、メートル規格のオリジナルボルト。
ユニクロメートメッキを再メッキしたもので、当初はこれを使用するつもりでしたが、見た目が悪くて、不満が残ります。錆の再発も懸念されます。
下段は、今回作成したものです。
もちろん新品ボルトからの作成なら、もっときれいなものが出来上がったことでしょう。

今回のダイスによるねじ作成はすんなりとは行きませんでした。
それは、使用したダイスの問題で、
結局は3つ目に用意したダイスで作業をしたことですんなりと終了しました。
3つのダイスはこれです。

ダイスは切削油を使って切り込んでねじを切ります。
2つ目に使ったのは、左の六角形のものです。モノタロウにて購入。21ミリのレンチでも回せます。今回はダイスハンドルに隙間調整のためのステンレス版をはさんで使用しました。
ねじの食いつきはしたものの、切り込むたびに力が必要となり、行きつ戻りつを繰り返しても、2周程度でボルトが共回りしてしまい最後まで切り込むことができませんでした。
3つ目はアジャスター付のものをヤフオクにて入手しました。
下の写真のように精密ドライバーで幅調整が可能で、締め込む事でややサイズが大きくなり、材に対しての余裕ができるため最初から切込みが楽々でき、一気にグルグルと切り込んで予定地点まで切り込めました。
一度目が終わったら、外してアジャスターを緩めてあげましょう。この状態でもう一度切り込んでいきます。正規のサイズに切り直すわけです。2度通して完成です。
つまり、既存のねじ山修正には、「1または2」を、材から新規にねじ山を作るには「3」をチョイスするのが理想であると実感しました。

ちなみに、ダイスのセット方法は文字が見えるようにセットし、こちらを下側にして切っていきます。
食い込みやすいように切れ角がついているからです。

今回の作業では、アジャスト付のダイスが有るのと無いのとでは作業効率が雲泥の差であることに驚きました。
道具は矢張り良いものがあると、楽に正確に作業が行えるものだと改めて気づかされました。
ただ、ダイスのねじ切りは、正確に垂直に下ろさないと曲がったねじができてしまうので、注意が必要です。
タップに比べて出番の少ないダイスですが、マスターすると良いですね。